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とある暗殺者の思い

そこからは、ただただ主様に付き従う暮らしが待っていた。


私たちはヴァンパイアだ。何年も、何年も、生きた。


人知れず愛した人もいた。でも、あっという間に死んでいった。永遠に近い命を持つ私には人の寿命は短すぎた。


もう、人を愛さないと決めた。人間であることを捨てた…。感情も捨てた…。


主様が一国の王に戯れになってから、数百年。人々の記憶を変え、主様がずっと治めてきた国の中で『勇者』と呼ばれるものが生まれた。


教会に保護させていた。勇者など、人々に向かって笑い続け、希望というちっぽけな光を見せるだけで十分だ。


だから、敢えて汚く腐りきった教会に預けた。少しは現実を見ろと言いたい。


チヤホヤされればあんなやつ、いうことを聞く政治の道具にでもなるかと思っていたが…。


どうやら勇者とやらは、精神がしっかりしているらしい。教会に向かって真っ向から喧嘩を売り続けているようだ。


まあ、あれだけ腐りきっていれば、バレるに決まっている。


私の考えでは『朱に交われば赤くなる』というように、勇者も愚図になるかと思っていたが、あてが外れてしまった。まあ、いい。私にとっては全てがどうでもいいことなのだから。


しばらくたった後、隣国で勇者召喚が行われたらしい。魔王なんて、すぐ殺せるというのに…、バカなことを。しかも異世界かららしい。誘拐だな。国が犯罪を犯してどうする。なんて、犯罪に手を染めまくっていた『俺』にはいう権利なんてないけどな。


勇者同士で顔合わせをするらしい。まあ、そういう面目でこっちの宗教を認めさせようって魂胆だ。


創造神しかいねえなんて考えてるのはこの教会くらいだ。バカだな。本当にバカだ。


俺は神なんざどうでもいいと思っているが、主様は違うらしい。神というものが好きなようだ。


どうせ会えないのに…、なぜ信じられるのか不思議だ。


そんな主様も今の教会の現状に嘆いているようだ。最近主様の教会の上層部を見る目がヤバい。


まあ、私的にも目障りになってきたし、そろそろ潰すか…。


いや、まだ早いか。もう少し泳いでもらわないと…。こちらの信用を勝ち取るためにも…ね。


そしてなんと、勇者の付添人が私になった。面倒だ。


そう思っていた……あの人に会うまでは…。


美しいと思った。流れるような金髪も、エメラルドのような瞳も、形の良い柳眉も、スッと通った高い鼻も、ほのかに色づいた頬も、赤いしっとりとしている唇も、滑らかな肌も、ほっとりとした手足も、そのすべてが美しいと思った。


「カルテ」という言葉が聞こえた。それがあの人の名前だろうか。どこかで聞いたことのあるような名前だと思った。


頭をひねって思い出した。「カルテ」それはこの国の最も強い者の名前。規格外の強さと賢さを誇る、キメラの名前。奇しくも私は、願わずして最強に会ってしまっていたようだ。それも、一目惚れという最悪の形で。


この思いが芽生えた時、私は懐かしく感じたと同時に、恐怖も感じた。もし、またこの愛する人を失ってしまったらと…。だから、この思いは伝えないことにした。伝えてしまったら、開き直るしかないから…。


私は、逃げ道を残した。この人が死んでも目をそむくことができるように…。


話してみると気さくで面白い人だった。何百年ぶりだろうか?笑うなんてことをしたのは…。


このひと時の時間が長く生きてきた中で、一番の宝物となった。そのことは、私だけの秘密である。


そして、カルテ以外でも笑い合える友達というものができた。見守ってくれる年上ができた。


黒ずんで見えていた世界が、色鮮やかになった瞬間を忘れることなどできやしない。


それほど劇的な変化だった。主様には少し気味悪がられた。それでも、気にならなかった。


実際に彼女はすごく強かった。水晶で皇女たちの決闘を覗いていた。


まるで赤子の手をひねるように軽く闘っていた。


艶やかに、華が舞う。踊るように、金が揺れる。弾むように、裾が翻った。


一種の剣舞を見ているようだった。ただただ、美しかった。私の殺すことに特化した醜い剣技と違い、とても優美だった。


愛しいと思った。守りたいと思った。素敵だと思った。手に入れたいと思った。


でも、それと同時に、


憎らしかった。殺したかった。壊してやりたかった。この手でぐちゃぐちゃにしたいと思った。


どうして神はこの人にたくさんのものを与えたんだと、神を憎んだ。


少しくらい分けてくれたっていいじゃないかと、こいつを妬んだ。


俺はどうしてあんなにも不幸だったんだと、世の中の理不尽さに怒りを覚えた。


あの人を好きで好きでたまらなく愛しいと思う『私』と、こいつが憎くて憎くて仕方なくて殺してやりたいと思う『俺』が毎日心の中で鬩ぎ合っていた。


もう、頭の中はぐちゃぐちゃだった。幸せと温かさを知った『私』は、もう、冷徹で愛情もぬくもりも知らない『俺』には戻れなかった。


逆も、無理だった。冷徹で愛情も人情も何もかもを知らない『俺』が、幸せとぬくもりと光と希望を知った『私』になることなんて無理だった。


もう、どちらが自分という存在なのかよくわからなくなっていた。


そんなある時、主様がカルテを見て「見つけた…。やっと……やっと見つけた!!!うふふ、やあっと見つけられたよ…。すぐに迎えに行くからね?マリア。だからいい子で待っていてね。」と光のない幽鬼のような目で、わけのわからないことを口走っていた。


マリア?誰だろう。聞こうにも、主様はまだトリップしていて聞けそうにない。


でも、主様は確かにカルテを見て「マリア」と言っていた。どうも、そのことが引っかかった。


それから、主様は使い物にならなくなった。たとえお遊びでもしっかりと政務をこなしていたのに…、急にできなくなったのだ。


いや、この言い方では語弊があるな。


急にできなくなったというよりも、政務のことが頭になく、いつも上の空といえばいいだろうか。


ボーッとしているのだ。ずうっと。一日中。たまにボーッとしなくなったと思えば、不気味に笑い出す。


主様は本当に幽鬼のようになっていった。ずっとブツブツブツブツと独り言を漏らしていては、そう思っても仕方ないだろう。


この頃からだろうか?主様という絶対の存在が、絶対の王が、自分の中で揺らぎだしたのは…。


苦手になっていった。主様という存在自体が…。でも、救ってくれた恩が、一生をかけたとしても返しきれない恩が山ほど残っていた。


だから、素直に従い続けた。主様から下される命令を忠実にこなしていった。


主様は日に日におかしくなっていった。まるで別人のようだった。今までは自分勝手でも、子供の無邪気さのようなどこか憎めない方だった。


でも、今は誰かにそそのかされているとしか思えないほど、我儘で傲慢な王となった。


それでも、恩は恩だと命令をこなしていった。歯を食いしばりながら、眉をひそめながら、頭の中で恨み言をつらつらと愚痴りながら。こなしていった。


主様からの命令で暗殺命令が出た。私は、もう愛想をつかしていたが、いつか元の主様に戻ってくれるとどこかで信じていた。


私は、「またか…。」とため息をつきながらその命令書を見た。そして見た瞬間、私は怒りで我を忘れそうになった。


…………怒りが爆発しそうだった。この時ばかりは主様を殺そうと思った。


私の見た暗殺命令書。そこには私の大切な友達と見守ってくれる年上の名前………………そう、


























カルテ以外のカルテの仲間全員の名前が載っていた…。

………終わらせようと思ったのに…、無理だった。

次も暗殺者の話です。

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