1話「不条理な世界」
あなたなら、この変化をどう思うだろうか?
真っ黒というより、少し緑がかっている黒板に、白いチョークで書かれた教科と時間、主席者人数の31人と今日の日付だ。
10/8 テスト1日目
9:00 〜9:50 数学Ⅰ.A 生徒31人
10:05〜10:55 コミュニケーション英語 出席31人
11:10〜12:00 英語表現 欠席0人
そう、学生なら誰もが体験するテストというやつである。
俺はこの英語が二つあると言うところにイライラが溜まる。
俺は英語が嫌いだからだ。
まぁ、どうでもいいことだが。
黒板と一緒に教卓にいる先生みると、教卓にパソコンを置き、何かをずっと打ったり、見たりしている。
よくあそこまであの箱に対して熱心に戦えるものだ。
それを見て、首を回すように周りを一周見渡す。
テスト中で全ての人が静まり返っている。
誰もがペンを走らせ続けている。
もし、漫画ならシーンと効果音をつけるべきだろう。
時折、鉛筆のカタカタカタと音が聞こえ、紙を折る音や、入れ替えたりするサッやスッっていう音が聞こえる。
隣との距離は約70センチというところか。
前とは手を伸ばせば肩を叩けるほどの距離。
天井はコンクリートで出来ているが、教室のほとんどは木で出来ていた。
少し窓の空いた隙間から風がヒューっと吹き、冬の寒さを感じさせる。
数学は得意分野でもう解き終わっており、初めは寝ようとしたのだが、全然眠りにつくことができなかった。
なので、代わりに迷路を書くことに決めた。
中央から丸をどんどん外へと広げていき、右回り、左回りと書き続けると、外から中央へと向かう迷路ができる。
そうしているときペンが折れ、丸が重なった。
これでは迷路にならない。
机の右端の方に置いていた消しゴムを取ろうとした。
その手を伸ばしたその瞬間に、目の前の消しゴムが消えた。
多分落ちたのだろうと思うが、音一つたたずに落ちるわけがない。
机の全体を見る。
2.3度ほど左右を確認するがどこにもない。
テスト中のため、あまりキョロキョロしているところを見られてはいけないので、姿勢を元に戻す。
まぁ、普通に先生を呼べばいいと言うことに気づき、先生を呼ぶことにした。
落書きしていた問題用紙を裏から表に戻し、手を上げる。
先生は教卓の上で、こくこくと頷いている。
これは呼ぶしかないなと思う。
実際は解き終わっているから呼ぶ必要は一切ないのだが、あの迷路を完成させたいという変な願望があるのでしょうがない。
「先生!」
と声を出すと、周りが少しこちらを見る(まぁ、先生にあまり気づかれない程度にだが)。
「消しゴム落としたのですが」
というと、周りの視線が消え、何故か少し安心する。
すると、先生は
「これか?」
といって消しゴムを拾った。
しかし、これはおかしいと思った。
そこは先ほど自分が見たばかりで、消しゴムが落ちているはずがないのだ。
何度も確認したはずなのに......。
もしかしたら、誰かが動かしたのかもしれない。
とりあえず、
「ありがとうございます」
といい、先生は教卓の方へ戻っていく。
小さい声で
「消しゴムくらい自分で拾えよ」
という先生の言葉が聞こえた。
心の中で
「そうですよねぇ」
と呟いて、顔を上げ教卓の方を見ると、先生が消えていた。
俺は大きな声で「えっ?」と声を出してしまった。
なんやこいつ、という感じで周りがこちらを睨んできた。
俺でも今のは少し睨むかもなぁと思ったが、今はそういうタイミングではない。
一瞬にして先生が消えたのだ。
その周りからも「あれ?」や、「先生今そこにいなかった?」などという声が出ていた。
テスト中なので、ボソッというレベルなのだが。
少しざわついている中で学級委員長が抑え目の声で
「まだ、テスト中です。先生なら外にでも行かれたのでしょう。
静かにテストを続けましょう」
といった。
先生がいるなら聞こえてるだろうなぁと思う。
そして、またシーンと効果音をつけるかのような静かさが訪れた。
まぁ、そうかもしれないなと問題用紙へと目を戻す。
そして、表にしていた問題用紙を裏返し、迷路を描こうとしていると迷路が消え、
〔声ヲ発シタラ殺ス〕
という文が書かれていた。
これはなんなのだろうと思っていると、
その下に焦げるように少しずつ文字が浮かび上がり初め、
〔自分ノ教室ノ後ロヲ見ルトイイ〕
〔モシ声ヲ出シタナラ、オ前モソウナル〕
と書いてあった。
そして、後ろを振り向くと(俺の位置は席の一番後ろだったので、誰も気づかないのだが)そこには、手と足がバックなどを置く棚の上に落ち、体は後ろの黒板へと貼り付けられている先生がいた。
一瞬叫び泣きそうになるが、机の上の
〔声ヲ発シタラ殺ス〕
という文章が頭の上に流れる。
急いで両手を口へと動かし、溢れ出してきた声や吐き気を抑える。
心臓の鳴る音がどんどん加速していく。
ドックンドックンとなっていた心臓がドクンドクン、ドクドク!ドクドク!!と強くなっていく。
見るのを抑えられなくなり、前を向く。
顔を伏せ落ち着こうとすると、問題用紙が目に入った。
その問題用紙に書いてあった言葉の内容がいつの間にか変わっていた。
〔今スグニ教室ヲ出ロ〕
と書いてあり、
〔お前は誰だ?〕
と、書こうとすると、机の上の道具全てが突然と消えた。
問題用紙のみを残して......。
解答用紙までなんで消したのか?と思った。
すると、心を読まれたように
〔質問ニ答エルツモリハナイ〕
〔解答用紙ヲ破ッテ文字ヲ書ク事モデキル〕
と書かれていた。
そこまでしねぇよと思った。
いや、気になってする可能性はないことはないが。
まぁ、解答用紙がなくなろうが俺はどうでもいい。
周りが気になり見渡すが、誰も気付いていない。
少しくらい周りに緊張感が走ってもいいと思うが。
まぁ、未だ周りが公式を使ったりして解いている姿を見ると、多分俺だけに出ているのだろう。
てか、隣のヤツは俺の机の上から筆箱とかが消えてることくらい気づけよと思う。
そうやって目を戻すとまた変わっていた。
そして、
〔今スグニ教室ヲデロ〕
〔急ガナイト巻キ込マレル〕
と書いてあった。
巻き込まれるとは何になのだろうか?
急がないとと書いてある文を読み、危ないと判断した。
椅子から立ち上がる。
慌てたため、椅子が後ろへと倒れる。
そして、地面につくかと思われた瞬間に、椅子が元の位置にもどる。
そういえば、立ち上がった時の椅子の音すらならなかった。
なぜ音はならなかったのだろうか?
いやまず、俺はなぜこんなことをされているのだろうか?
わからない、わからない、わからない......。
とりあえず、教室を出ようと急ぐ。
すると、クラスの1人の女の子が話しかけてくる。
学級委員長だ。
「何をしてるの?まだテスト中だよ?」
と話しかけられたその瞬間......。
その女の人の首が飛んだ。
そして、教室の地面へと落ちた。
何が起きたのかは分からなかった。
周りから声にならない声が響く。
人が本当に恐ろしさを感じた時は声が出ないものだと思い知った。
そのおかげで、二次災害はなさそうだ。
しかし、そんなことを気にする暇などない。
それに、ここにいては俺が責められるだろう。
俺はとりあえず、問題用紙に書かれた文字のとおり教室を出ることにした。
出る瞬間、中にいた親友と目が合う。
心配そうに俺を見ている。
俺は、心配すんなと視線を返す。
出たと同時にドアが勝手に閉まる。
そして、唐突に教室が光り出した。
俺は後ろを振り返る。
なにが?!
中から叫び声が聞こえる。
泣きわめく声、怯える声、震える声、どれも聞いたことのないような声ばかりだった。
教室の中から
「なんなんだよこれ?!?!??!?!!」
「痛い、痛い痛い、痛い痛い痛い痛い!!!!!!」
と響く。
ほかの教室からも聞こえ始める。
俺には何も起きていない。
何が起きているのかもわからない。
俺は教室のドアを開けようとする。
しかし鍵がかかってるかのように開かない。
ドアを思いっきりけった。
しかし、ドアが開くことは無い。
まるで壁のような硬さで自分の方が痛かったほどだ。
まぁ、運動不足って言うこともあるのだろう。
だが、たった1枚の板ごときにこんなに強い力があるわけがない。
何度も何度も蹴る。
しかし、開かない。
中からも、
「出して!出してよぉ!!」
と声が聞こえる。
ドアが叩かれ、蹴る音や、椅子を当てる音が聞こえる。
しかし、その力も少しずつ弱くなる。
ついには、叫び声すらなくなる。
その中、親友の新井の声が聞こえた。
「おい!キラ!これはどういうことだ!!
お前がしたのか?
なんでこんなことするんだよ!」
「俺がそんなことするわけないだろ!」
その時、
〔声ヲ発シタラ殺ス〕
という文字を思い出し脅えたが、何も起きない。
あれは、教室の中ではってことだったのか?!
少し安心するが、そんな場合ではない。
「なら、なんでお前だけ外にいるんだよ!」
「わからねぇよ!」
そう叫んだ瞬間、頭に声が流れた。
『話すことは許した覚えはない』
そう言って、体が後方へと飛ぶ、壁にぶつかる、上へと飛ばされ天井にあたり、力が抜けたように地面へと落ちる。
「罰あるじゃんかよ」
と心で呟く。
新井からの声が聞こえる。
「キラ!!
もしお前がしたことなら俺はお前を許さない!!」
しかし、話すことは出来ない。
今ので話す力すらも奪われたみたいだ。
てか、俺がどうやってするんだよそんなことするんだっての。
「おい!なんか言えよ!
お前がしたんじゃないだよな!!
なぁ、話してくれよ!!
なんなんだよ!!
お前は親友じゃなかったのかよぉぉぉォォォ!!!」
そして、その言葉が消えた。
光もそれと同時に消えてゆく。
30分ほど経った頃だったか。
体が少し動くようになり、教室へと向かう。
すると開けることが出来た。
中に入ると、机も何もかもなくなった教室に、一つの今まで見たことのないような赤い、赤い宝石が落ちていた。
すこし、暗く人の血液に似ているように見えた。
しかし、そこから発される光はこの上なく輝いている。
まるで太陽のように。
頭の中では触れてはいけないと思う。
しかし、体が勝手に動く。
それを止めることが出来ない。
そして、拾ってしまう。
それと同時に頭が、意識が飛ぶように吸い込まれていく。
意識が消えていく中、目の前にあったのは、その宝石が自分の掌から自分の中へと入っていき、それを見ている一人の青年が立っている姿だった。
少し日が落ち、午後5時を迎える頃。
外から教室へと赤い光が入り込んでいた。
目の前には新井がいる。
なんでこんな状況になったのか俺は覚えていない。
「なぜ、なぜ俺を、俺たちをこんな目に遭わせる」
と、新井が話しかけてくる。
「何かあったのか?」
と聞く。
「お前が俺たちを殺した」
しかし、俺には覚えがない。
「殺すはずがないだろう」
と答えると。
「お前が殺したんだよ、俺の体を見ろ!」
そう言うと、今見ていた世界が一瞬で変わった。
綺麗な夕焼けは黒く赤い世界へと変わり、
新井は、十字架のように貼り付けられていて、
体の穴という穴から血が溢れ出していた。
俺は、瞬間的に目を手で覆った。
皮膚のすべてからどくどくと流れ出す血は、俺に恐怖を植え付けるには十分すぎるものだった。
「助けてくれよ!
なんで俺らがこんな目に合わなきゃいけないんだよ!」
そういうと、新井の後ろにクラスのみんなが山のように重なっていた。
1人1人が身体中から血が出て、まるで地獄というような姿だった。
「俺が?俺がやったというのか?」
「そうだキラ!お前がやったんだよ」
「なんで俺が?そんな訳ないだろ!!」
「お前は逃げた、お前は誰も助けなかった、お前は俺らを見捨てた」
「そんな訳......」
「俺ハオ前ヲ許サナイ」
心に棘が刺さったように。
何か、確信を突かれた時のように。
俺の心がギュッと縮まるのがわかる。
そして、
「俺は......」
その後の言葉をどう繋げばいいのかわからなかった。
すると、黒く赤かった世界は少しずつ黒さを増し、最後には全てを黒く染め、何も見えなくなった。
ここまで読んでくださりありがとうございます
自分なりには頑張って書いたので、呼んでもらってすごく嬉しいです
1週間の間くらいに続きも出す予定ですので期待して待っていてください!
読んだ方は出来るだけコメントをお願いします
辛口でもしっかり受け止めますので、よろしくお願いします