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第六話 コンバットオープン!! 全兵装解除!! 全戦術使用許可!! コマンドー出撃!!

 結局、スピカとシャウラが王都から早馬で帰ってきたのは五日後だった。

 その五日間、性欲と言う名の本能の暴走のためにSAN値が振り切れたお貴族様の暴虐は著しく、女と見れば襲い掛かり、腰をふり、そして貴族の御当主様であるが故に誰も手が出せなかった。

 魔法か呪いの一種ではないかと聖職者や薬剤師達が治癒の努力を試みてみるが一向に回復の気配は無い。

 魔法でもなければ呪いでもなく、毒に分類されるものでもないのだから、何の魔法を用いれば良いものやら。

 お貴族さまにワンダバダバした俺自身にも、この性ホルモンの解除法は解らな……いや、称号の『男色家』があったな。

 『ゲイ』ボルグ仲間になれば、その女性に対する異常な生殖的飢餓感からも解放されるぞ?

 幸い、治療にあたって居るのは男性聖職者。

 なぁに、その手の治療は手馴れたものだろう。はっはっは。

 ワンコとニャンコがお姫様から何らかの書状を携えてきたようだが、すでにその紙切れに意味は無い。

 なにせ、助けるべき当人はとっくの昔に逃げ出してお貴族様の乱痴気騒ぎの高見の見物と決め込んでいたからだ。

 そもそも、貴族の御当主様の精神状態はそれを文字として読める状態に無い。

 俺が無事に逃げ出したことにホッとして安心した姿を見ると少々心が痛むので、意図的に良心を消した。


 この国の姫が……国家元首に程近き者が俺に呪いを掛けてきた。

 俺は正当な報酬を要求し、セレスティアル姫は呪いの品を報酬に混ぜて俺の自由を毒殺にきた。見事な手腕だ。

 だが、たかだか精神の自由を奪われて、たかだかブラックドラゴンにぶつけられそうになって、たかだか殺されそうになった。

 その程度と考えてやるほど俺は甘くは無いぞ?

 セレスティアル姫よ、君は確実に俺への死刑執行書にサインをしたのだ。

 それはつまり俺に対する宣戦布告、いや、宣戦布告なき先制攻撃だ。

 姫様の気持ちは知らないが、既に戦端は開かれた。

 俺を殺しに来た、それだけが事実だ。


 コマンドーであるワンマンアーミーの俺とプロヴィデン王国の正規アーミー、どちらが勝つかな?

 軍曹殿に襲わった様々な技の数々、えげつなきものから筆舌し難きえげつなきものまで、全てが解禁だ! サー!!


 コンバットオープン!! 全兵装解除!! 全戦術使用許可!! コマンドー出撃!!


 ◆  ◆  ◆


 ワンマンアーミー、単身と言う幸せ。

 孤独感という名の開放感。

 軍曹殿との訓練の際はたとえ身を潜めていても、常に恐怖と隣りあわせで孤独感など一切感じませんでしたなぁ! サー!

 ワンコとニャンコという足枷を取り除かれた俺の行軍は早かった。

 ギルドカードが荷物の中に残されていたのは幸いだった。


 まずは残ったボッタクリバー『サキュバスの園』に対して慈悲深き即死攻撃によるハーベストタイム。

 フェミニストな俺には無意味に女性を苦しめる趣味は無い。

 有意義に辱める趣味は……あるっ!!

 俺は心優しき首狩り族……などと冗談めかして考えていたら『首狩り族』の副業が増えていた。

 ステータスよ、それは職業か? 本当に職業なのか?

 性ホルモンを採取。

 性ホルモンを採取。

 性ホルモンを採取。

 性ホルモンを採取。

 性ホルモンを採取。

 性ホルモンを採取。

 性ホルモンを採取x823

 もう、この国からボッタクリバー『サキュバスの園』は消滅したんじゃないかな?


 いやぁ、しかし……人助けって良いことだわぁ。

 依頼を終えるごとに毎回、夢から冷めて青ざめる男性諸君の絶望的な顔が実に良いわぁ。

 生き残るのに必要なだけの金銭さえ貢ぎ切った男性諸君の絶望的な顔が素晴らしいわぁ。

 下半身に支配された男性達に向けられる女性達の氷点下な侮蔑の眼差しも素晴らしいわぁ。

 この先どうやって生きて行くつもりなのかと問い詰める力なき弱者達の姿も素晴らしいわぁ。

 まさに正しき戦場の悲劇的惨状だ。

 そして残念なことに俺は『守銭奴』の称号持ち。

 正当な対価無く俺の正当な取り分を放棄する気はない。

 人の生き死にに関しては俺の存在を聞きつけて追いかけてきた御気楽極楽なシャウラあたりが何とかするのだろう。

 スピカは興味が無いものに関してはかなりドライなので、簡単に見捨てるだろう。

 ちなみに王都のロイヤルスイートに残してきた『俺』の軍資金に手を出した場合、横領罪に対する懲罰を期待しておけよ?

 いや、もはや部下ではないから女虜囚に対する非人道的措置には期待しておけよ?


 ◆  ◆  ◆


 『ポイズンビー』それは毒をもつ蜂……ん? あれ? 蜂って普通、毒を持ってないか?


『鑑定対象:ポイズンビー

 全長1m前後の肉食性の巨大蜂。

 下級の解毒の魔法が及ばない猛毒を持った毒針を持つ。

 自身は毒に対する抗体を持ち、自らの毒によって死ぬことは無い。

 産卵を主な仕事とする女王蜂を中心としてコロニーを形成し、他は全て雌の働き蜂と少数の雄蜂であり、肉食性の捕食者でもある。

 獲物を見つけるとマーキングフェロモンを散布して仲間を呼ぶ。

 また、毒液中には警戒フェロモンが含まれるため、毒針攻撃を受ける度にその獲物に対する警戒度は上昇する』


 虫は動物と違って脳破壊=即死ではないから厄介だ。

 テイクバックからのサイレントキルが難しい上に、複眼だから死角が少ない無い。

 おのれ、梯子状神経め。

 ふふふ、隠れ篭った洞窟の中に大雀蜂の巣を投げ込まれて閉じ込められたあの恐怖、未だに思い出しますなぁ。サー!

 奴らは相手が死に至るまで何度も何度も突き刺しますから、無限回復のあの世界では無限の回数を突き刺されるのですな。サー!

 結局、大雀蜂側の毒が品切れになるまで、たった一個の巣を相手に自分は、何百……何千の死を迎えたことでしょう? サー!


 ポイズンビーはテイクバックからのサイレントキルでトロフィーを奪っても、身体は未だに活動を続けようとして各種ホルモンを分泌してしまう。

 そもそも複眼持ちの生き物なので視野が広く、スニークもテイクバックもやりにくい。

 なので、トラップを使用する。

 ワンコとニャンコが居るときは手の内を明かさないために使えなかった全兵装解除の真価発揮。

 大きな肉を巣の周辺に幾つか置きます。次に松脂を塗り塗りと。

 通常で80kgを抱えて問題なく動けた俺の身体がレベルアップで九人分、720kgを運べるちょっとしたスペシャルポーターだ。

 待ち構えていたように渡された『荷物持ち』の副業も手に入れたね。

 罠を多数配置して、朝を迎えるとあら不思議、肉を抱えながら飛び立てないマヌケなポイズンビーさん達が一杯。

 カブトムシ用の罠とトリモチのコラボレーションな罠だ。

 小学校の頃、木に蜂蜜を塗りすぎて、昼頃に向かうと乾燥した蜂蜜のせいでカブトムシの脚が一斉にブチィッといった時は泣いたねぇ……。大泣きしたねぇ……。

 その辺の子供にだって作れちゃう簡単な罠だが、ポイズンビーや大雀蜂は危険なので良い子は真似しちゃいけないぞ?

 下手をすると、危険を感じて放たれた毒針から警戒フェロモンが出て、置いた粘着肉が大雀蜂のサルガッソー海になるから真似しちゃいけないぞ?

 ちなみに、肉は誘き寄せる分量だけで十分なので、残りの部分はスポンジ等でも問題ないから、絶対に真似しちゃいけないぞ?

 最後に火を点けるだけで松脂ごと焼却処分できるから、本当に間違っても真似しちゃいけないぞ?

 いわゆる蝿取り紙、この場合は蜂獲り肉か?

 その大顎で肉に噛み付いて、松脂で開けなくなったマヌケな個体も多数。

 顎の噛む力より開ける力が弱いのは、どの動物でも似たようなもののようだ。


 風向きを確認し巣の方角に流れないように気をつけながら梯子状に梯子状神経を梯子状惨殺。

 猛毒液(警戒フェロモン)とマーキングフェロモンを採取。

 集合フェロモンもあったが、鑑定の結果、これには雄のポイズンビーを呼びつける効果があるようだ。


 モンスターをハントするゲームが前世にはあったけど、なんであんなに罠の性能が悪い設定だったのだろう?

 相手が巨大なら、頭上から同サイズの岩を落とす程度の罠は欲しかった。

 もしくは硬化粘着材などの行動阻害用の永続性のあるトラップな。

 肉ではなく骨とか皮が素材に必要なら、河豚でも食わせて神経毒で麻痺させておけば良かったんだ。

 なんにせよ呼吸器系を止めて死なない生き物はいない。

 モンスターをハントするには人間は……弱い!!

 LVが90を超えた今でも俺は弱い。

 ものの強弱は相対評価だが、突撃小銃を構えた複数の一般兵と正面切って向かい合ったなら、まず射殺される程度の強さしか持ち合わせていない。

 つまり、俺は弱い。

 だが、見つからない限り、俺は強い。

 勇者が副業で良かった。

 剣と魔法を手に正面切って戦っていたら今ごろは蜂の巣の餌食だ。

 今、自分はコマンドーであることに喜びを感じております! サー!


 ◆  ◆  ◆


 さて、風向き良し、方位良し、各種フェロモンの用意良し。

 ホブゴブリンの集落……いや、街がそこにはあった。

 人口は五千? 一万?

 文明開化の音がします。

 頭を斬ぎってやりたい衝動は我慢我慢。

 文明が開化しているためか、雌ホブゴブリンの安眠のためか、夜はわりと静かになるのでスニーク状態で街の中央部へ。

 お城? っぽい高級なのだろう建造物まで発見。

 他者から奪うだけではなく、生み出すという文化も持っていたのだな。

 女のためにここまでゴブリン奴隷を酷使して頑張ったんだね、ホブゴブリン達よ。

 なら、贈り物の装飾品も自分たちで作れよ。

 では、このお城っぽい建屋にマーキングフェロモンを多量にべチャっとな。

 おーい、ポイズンビー達や~い、お前の餌はここだぞ~。


 あとは、高台で様子を見守ろう。

 高台は良い。下から見えないから一方的に観察できる。

 そして木の中に紛れれば上からも見えない素敵でVIPな観戦席な環境になる。

 朝方、一匹のポイズンビーがやってきて、寝起きの小柄なゴブリンをその顎の大鋏でガブリンチョ。

 ゴブリン達はギャーギャー騒いでこのポイズンビーを集団で囲み、多数の犠牲者を出しながら撲殺。

 警戒フェロモンやら集合フェロモンやらマーキングフェロモンが垂れ流し。

 風向きは良好。ちゃんと巣にまで届くだろう。

 一匹が二匹、二匹が三匹、はっはっは、蜂に襲われたときは戦わずにまず水の中に逃げろと教わらなかったのか?

 教わってないよな。自分も軍曹殿に口頭では教えていただけませんでした! サー!


 戦闘とともに多量に垂れ流されてきた各種フェロモンに反応して、ポイズンビー達が大量に襲いかかってきましたな。

 ゴブリンもホブゴブリンも戦闘状態、アドレナリンやドーパミンが脳内にたくさん溢れて居ることでしょう。

 なので、ゴブにシュシュッと『エロリーズ』を風上から噴霧してみました。

 『エロリーズ』とは原液のままでは使い勝手が悪いサキュバスの発情フェロモンを蒸留水で希釈したものの名称だ。

 世の中にはサキュバスのほかにもインキュバスという男性型の夜魔も居るそうだが、今は会いたくない。絶対に会いたくない。

 結果、ゴブリンの凡そ二分の一が物凄く戦いづらそうな前傾姿勢になった。

 そうだよね。

 戦闘の最中にオリハル棍が激しく自己主張を始めちゃうと、男の子は戦うことが難しくなっちゃうよね。

 オリハル根のまま100mを全力疾走できるものならやってみるが良い。イタタタタタタタ。

 おや、隣の雌ゴブリンに雄ゴブリンが性的な意味で襲いかかり始める始末。

 戦闘の興奮と、性欲の興奮の区別が付かなくなったのか?

 う~んと、つり橋効果?

 ゴブリンは元々、繁殖性が高い=性欲の強いモンスターだったっけ。

 これで戦力は半減どころか戦場に混乱効果を招いて総戦力は1/10以下というところですかな?

 ホブ付きの司令官なホブゴブリンも『エロリーズ』の効果のために指揮系統が崩壊。

 嫌がる雌のホブゴブリンにDVまがいの行為を働いてまで行為に及ぼうと夫婦喧嘩中。

 ただ貢がれることを当然とした生活を送ってきた雌のホブゴブリンに、どれほどの戦闘能力があるのかは知らないけれど、DV夫の脅威を気にする心配はありません。

 ポイズンビーの軍勢は働き蜂。

 全てが雌なので全ての始末をご安心して任せられます。

 サキュバス産『エロリーズ』の効果は男性または雄にしか効かないのですよ。

 約、一部を除いて……約、一部を除いて……。


 指揮系統の壊滅、性欲に暴走した群衆、そして頭上の利、全てが利したポイズンビーの圧勝だ。

 約半日の時をかけてホブゴブリンの街文明は古代と名の付くものとなった。

 航空戦力から逃れられたゴブゴブ達は居なかったようだ。几帳面な仕事だな、流石は働き蜂の名を持つ働き者。

 そうして安全になった戦場こと餌場で大きな顎を使い、肉団子を器用にコネコネして、ポイズンビー達は巣に持ち帰った。

 でも、雌の君達には解らないだろうけど、その肉団子には『エロリーズ』が付着してるんだよねぇ……。


 相手は空を飛ぶ存在、流石に走って追いかけても最初のイベントには間に合わなかったようだ。

 『エロリーズ』の影響を受けた巣の5%を占める雄の蜂達による女王蜂へのワッショイ祭り。

 さて、前世の知識に照らし合わせるならしばらくすると……新しい幼女王蜂が発生して……ワッショイ!!

 新しく幼女王蜂が発生する度に……ワッショイ!!

 雄蜂たちよ、お前等は酷いな、下半身に忠実な外道だな。

 いくら肉団子に『エロリーズ』が混入されているからって生まれたての幼女王蜂に酷いことをするんじゃない!!

 幼女王の身体は君達のワッショイ行為に耐えられないんだぞ!?

 理性を使って本能を抑えろ!!

 その梯子状神経のどこに理性があるかは知らないけど!!

 まぁ、このコロニーは遠からず内部崩壊を起こして壊滅するだろう。


 第一ミッションコンプリート。


 ◆  ◆  ◆


 さて、ミッションをコンプリートしたところで、冒険者ギルド受付のジェロームを王都の路上で捕獲。

 そのまま口を塞いで人気の無い路地裏まで連れ去った。

 そして壁ドン。

 ふふっ、俺はお前を……逃がさないぜ?

 やけにジェロームが自分のお尻の方を意識するものだから、俺も意識しちゃうじゃないか。

 とりあえずホブゴブリン文明の崩壊と、数ヶ月以内のポイズンビーのコロニーの崩壊を伝えた。

 掲示板に貼られていたいた『請負:なお死亡時の手当ては一切でません』の案件だ。

「ア、アンタ、また何をやらかしたんだ?」

「コマンドーの秘奥義を使ったまでのこと。なに、容易いことよ」

 コマンドー奥義の一つ『蜂の巣コロリン』だ。

「で、俺を拉致した理由は? ま、まさかっ……」

 壁を背にする背壁の陣。

 両手でお尻を後ろ手に守るとは、まるで無抵抗に捕縛してくれと言わんばかりの格好じゃ……。

 だからぁ、違うんだってぇ……。

 ジェロームとの関係はぁ、もっとピュアでぇ、ビジネスライクな関係なんだってぇ、『ラ・イ・ク』ラブじゃないのぉ……。

「違うわっ!! くだらん連中のシャウラスピカに絡まれてな。今、ギルドに直接出向くのは少々まずいのだ。なに、犯罪と言うわけではない。やつらの後ろにある組織(国家)が少々やっかいなだけだ」

「アンタ……ろくな死に方せんぞ?」

「安心しろ。初めては大型トラック、次は自分とのお別れ、その次も自分とのお別れ、ろくな死に方など一度たりともしたことが無いわっ!!」

 そう、俺が即死攻撃に拘るのは、それがもっとも慈悲深き、ろくな死に方だからだ。

 あとは趣味? キシャアアアアアッ!!

「言ってることの意味は全然わからんが、アンタだから納得しとくよ。それで、俺に何の用なんだい? ホブゴブリンの集落の壊滅と、ポイズンビーのコロニーの壊滅の報酬の相談か?」

「あぁ、大体はそうだ。ポイズンビーのコロニーは女王蜂を殺して新しい女王蜂が生まれないように細工しておいたので、働き蜂が死に絶えるまで幾ばくかの時間はかかるが必ず崩壊する。そこでその間、ホブゴブリンの方の雌が集めていた貴金属や装飾品類の回収を頼みたい。現地に俺が居るかのように噂を流してな」

 しばらく考えた後に、ジェロームは頷いた。

「現地にアンタが居ると匂わせる程度で構わんよな? 報酬の取り決めは前回と一緒で良いか? 報酬の方はいつもどおり、ギルドの銀行で預かっておくからな」

 俺はその条件で頷いた。

 ニャンコはともかくワンコは一直線で陽動に引っ掛かるだろう。

 なにせ罠の発見率と漢解除率が100%だ。

 そもそも、すでに忠誠関係には無いのだから上司でも部下でもないのだが、今になっては俺の明確な敵であるセレスティアル姫のこと、ニャンコとワンコは無意識のままに操られて俺を誘導にかかるだろう。

 冒険者ギルドでの大活躍を見せた以上は、俺がブラックドラゴン対策上の最も有望な駒の一つになったに違いない。

 すでに人相書きすら出回っている恐れすらある。

 こんどはどんな楽しい罪状が着せられるやら、これだから人治国家は面白い。


 安心しろ、ブラックドラゴンは俺が倒す。

 そして、俺の首に鎖をつけて死地に追いやろうとした報いを受けさせてやる。


 ◆  ◆  ◆


 まずは敵情視察を軽く開始する。

 ふむふむ、王都近くの小高い山岳を決戦場として要塞化し、木陰に隠した攻城用の巨大なバリスタと、投石器ならぬ投網機。

 人に見立てたカカシの群に、弓兵隊に魔法使い達を総動員した約二万を超える軍勢。

 間違いなくキルレシオは0:二万だな。

 まずバリスタの届く高度にドラゴンは降りてこない。

 木陰に隠した以上、木を焼かれれば諸共に燃え落ちる。

 弓は同じ理由で射程が足りず、下手をすれば逆さになって落ちてきた矢が重力加速度を得て初速とほぼ同じ速度で直上から味方を射抜く。

 友情を感じさせる射撃効果だ。

 考えに考え抜いた結果がコレか。

 まぁ、ブラックドラゴンが恋をしているセレスティアラ姫を木に貼り付けにしておびき出せば手傷の一つも負わせられるんじゃないか?

 囚われの姫、それを救い出す嘆きのブラックドラゴン、美しい情景だな。


 ……俺ならどうしただろう?

 まず、城の玄関口をドラゴンが入れるようにつくり直す。

 セレスティアラ姫とドラゴンを抱擁させる。

 次に、城を崩壊させる。

 愛するセレスティアラ姫を守るためにドラゴンは庇って城の下敷きに。

 上の瓦礫を動かそうにもセレスティアラ姫を巻き込む恐れが高くてうまく力を奮えない。

 その間にも兵士達は瓦礫の山の上に乗ってジャンピング体操を開始。

 巨大な石の重量にやがて力尽き、ドラゴンと姫は共に連れ立って永遠の夜空へ去って行くのだった……。

 うむ、完璧な作戦だな。

 たった一人の王族の命と城一つでドラゴンを倒せるのなら安いものだ。

 さらに言えば掘り返したブラックドラゴンの素材を販売することで城の再建築費用も賄えるだろう。

 ドラゴンは鱗の一枚から血の一滴まで貴重で超高価な素材だからな。

 さらには邪悪なブラックドラゴン退治のために命を捧げた聖女として大々的にセレスティアラ姫を称え上げるのだ。

 これで財政も国威も民意もガッポガッポ。

 うむ、二重三重に完璧な作戦だな。

 ただ敵を滅ぼす戦術のみならず戦費から国威に民意のことまで考える、この視野は戦術の域を超えた戦略の域に達しただろう。


『パーパパパーパーパッパパー♪ ストラテジーのスキルを入手しました』


 おぉ、やるではないかステータス表示。

 久しぶりに真面目な仕事をしやがって。

 では、俺も真面目に仕事をするとしよう。


 まずは、ドラゴン退治からだな。


 ◆  ◆  ◆


 ドラゴンの住む洞窟はダンジョンのようになっている。

 他のモンスターを住まわせることで煩わしい侵入者を防ぐためだ。

 なので、ドラゴンを襲おうとするなら、普通はまずこのモンスター達を相手としなければならない。


 だが、毎晩毎夜、セレスティアラ姫との甘い会話を楽しむために漆黒のブラックドラゴンはダンジョンを出る。

 そして、セレスティアラ姫が就寝すると、漆黒のブラックドラゴンはダンジョンに帰ってくる。

 なので、スニーク状態でドラゴンの背後をとってサイレントムーブで後をつける。

 ドラゴンの威を借りる俺。

 ドラゴンが通る際には他のモンスター達は顔を引っ込めるので、何の妨害も無く、ドラゴンの巣穴に辿り着くことが出来た。

 それなりに大きな空洞、魔法的な何かの水晶が光り、照明にはことかかない。

 穴倉の奥とは思えない幻想的な住まいだった。

 このブラックドラゴン、実はかなりのロマンチストのお洒落さんなのか?


「それで、人間の勇者よ。まずは単身で乗り込んできたその勇気を褒め称えよう。なに用か?」

 巣穴に戻ると、クルリと振り向いたブラックドラゴンが人間の言葉で尋ねてきた。

 しっかりとバレていた様だ。俺のスニークもまだまだだなぁ。

 ドラゴン的な感覚野で捉えられていたのかも知れない。

 さすがのスニーク状態でも身体が発する赤外線まではごまかせない。

「それはもちろんブラックドラゴン。お前を倒しに来たに決まっているだろう?」

「面白い、ろくな武器すら装備せずに我を倒すと豪語するか。周囲を見よ、名剣や名槍を携えた人間の勇者達の骸で一杯だぞ?」

 たしかに、見た。新鮮なものが多い。

 これが、あの姫様のやらかしたことの結果なのだろう。

 呪いを掛け、精神を弄り、そして死地に飛び込ませた結果だ。

 ここまで辿り着けただけでも拍手喝采な勇者達なのだろう。

「それはつまり、いかなる名剣や名槍をもってしてもドラゴンに人は勝てないという証明だろう? なら、なぜ持ってこなければいけない?」

「然り、確かに然り、貴様の言うとおりだ。では、貴様は何を持って我を倒すというのだ?」

「それは簡単だ。ドラゴンを使ってドラゴンを倒すだけだ」

「うん? 貴様、ドラゴンの主なのか? そのような気配はしないが?」

 そりゃそうだ。

 俺はドラゴン使いではない。

 そして、魔物使いでもない。

「ブラックドラゴンよ、尋ねたい。君は、心の底からセレスティアラ姫を愛しているのか?」

「我を侮辱する気か? 我は心底、セレスティアラ姫を愛している。 ゆえに毎晩毎夜と愛の言葉を捧げにまいっているのだ。セレスティアラ姫も最初は頑なであったがな。最近では我に心を許してくれるようになったよ。ドラゴンの本能として自らの暴力を見せ付けることが求愛に繋がると思ってしまった最初の出会いが悔やまれる。人間との恋路は初めてであったゆえなぁ……」

 照れくさそうにポリポリと頬を掻くブラックドラゴン。

 なるほど。これは馬に蹴られる事案発生?

 ありがたいことにますます勝率は上がった。

「では、ブラックドラゴンよ。君の負けだ。大人しく敗北を認めろ」

「未だ傷一つつけることなく、剣の一合も交わさずに我に勝利しただと? 寝ぼけているのか貴様は?」

「いやいや、寝ぼけてなんかいないさ」

 俺は懐から複数の瓶を取り出した。

「これはな、サキュバスの性ホルモンを抽出したもの。まぁ、いわゆる媚薬、発情薬だ。効果は絶大だと知っているだろう? だから、これを使われたくなければ敗北を認めろ」

「媚薬で我に勝つだと? 愚かな、話にもならぬわ! くはっはっはっはっはっはっ!!」

 ブラックドラゴンの笑い声は地響きのように響いた。

 密閉空間で笑われると鼓膜にキツイな。

 ブレスを吐くまでも無い、この場ではドラゴンの咆哮一つで人の精神は吹き飛ぶだろう。

「ブラックドラゴン。君はセレスティアラ姫を愛している。セレスティアラ姫も君を愛している。そして俺がこれを君に振りかけた時、その異常なまでに膨らんだ性欲の対象は何処に向かうのだろうな? そして、その対象は君の性欲の全てを受けいれられるのかな?」

 『殺気』を放ち、寝台の上で下腹部から破裂したように引き裂かれて死に絶えたセレスティアラ姫の姿を想像させる。

 貧弱極まりない身体の人間のコマンドーには自分の他に守るべきものが無い。

 副業が勇者であるために自分の命ですら守るものではない。

 だが、強靭極まりない身体のブラックドラゴンには守るべきものがある。

 あるいは自分の命すら超えて守るべき誇りや愛といったものがある。

「選ぶが良い。敗北を認めるか、その手で、いや、その股間のものでセレスティアラ姫を破壊しつくして愛を自らの手で終らせるか。単純な二択の選択だ。他に回答は、用意していない……」

 小瓶を揺らしながら、笑って見せた。

 俺は、お前の、弱点を、知っているぞ?

「ひ、卑怯な! そのような戦いがあってたまるかっ!! 戦いとは暴力と暴力をぶつけ合うものだろうっ!?」

 そうだな、お前ん中ではな。

 だが、本当にお前は戦いを経験したことがあるのか?

 お前の言う戦いは、本当に戦いだったのか?

「ブラックドラゴン。君の翼は卑怯だな、地を這うことしか出来ないものにとっては実に卑怯だ。君の牙も卑怯だな、小さきものにはあまりに巨大すぎる。君の鱗も卑怯だな、あまりに強靭すぎて名剣ですら傷一つつけられない。君のブレスも卑怯だな、あの火力はドラゴン以外に持つものはいないのだろう? 君のドラゴンロアも卑怯だな、特別で強大で人間などには抗いようのない超魔法なのだろう? なぁ、ブラックドラゴンよ、一つ聞かせて欲しい。君は、同じドラゴンを除いて、自分より強い相手と戦った経験はあるのか?」

 答えは『無い』だろう。

 あるのなら、既に誰かに仕えているか、既に死んでいる。

 そもそも戦いと呼べる戦いをしたことがあるのかすら怪しいものだ。

 軍曹殿との訓練は、決して戦いと呼べるものではなかった。自分が弱すぎたためです! 申し訳御座いません! サー!


「自分より巨大で、空を飛び、ブレスで焼き尽くし、こちらの攻撃は天空高く舞う君には決して届かず、たとえ届いても鱗に弾かれる。実に卑怯なドラゴンに対して、たった千匹足らずのサキュバスから集めた媚薬を使うことのどこが卑怯なんだ? 答えてみせてくれ、巨大なことがそもそも卑怯であるブラックドラゴンよ。自らより弱きものを殺戮してきただけの行いを闘争と勘違いし続けた卑怯なブラックドラゴンよ」

「ぐ、ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」

 卑怯という言葉は実に曖昧で傲慢だ。

 自分が勝手に決めたルールを相手が守らない、だからそれは卑怯な戦い方だなどと戦場で口にする奴はただの馬鹿だ。

 相手が剣と槍を手に持つなら、こちらも持たねばならないのか?

 いやいや、機関銃と迫撃砲で吹き飛ばすだけの話だ。

「では、今から俺がゆっくりとそちらに歩いて行く。俺の手が君の鱗に触れたなら俺の勝利、君が俺を殺せば……それは実に簡単で卑怯なことだが、君の勝利だ。もちろん、殺意を向けた瞬間に、俺はこの瓶の中身を君に振り掛けるがな?」

 にっこりと笑い、液体の入った小瓶をふって見せた。

 この距離とその巨大すぎる体躯なら必ず命中する。

「そんな勝負があるものかっ!! そんな……卑怯な……卑怯は、我、なのか? いや違う!! 我は力でもってお前を殺し!! 勝利し!! ……そして、セレスティアラを犯し殺して……駄目だ!! 我はっ!! お前がっ!! 卑怯だぞっ!!」

 身体が小さて脆い人間が、ドラゴンを相手に知恵を絞ることの何処が卑怯だと言うのだ?

 敵より強い、敵より大きい、絶対無敵の破壊の化身。

 お前は存在自身が卑怯以外のなにものでもないだろう?

 随分と都合のいい、誇り高きドラゴン様だ。

「ほら、一歩、二歩、三歩、か弱い人間が近づいて行くぞ。牙でもブレスでもドラゴンロアでも好きなものを使え、卑怯なるブラックドラゴンよ」

 本来、俺が触れたからといって敗北を認める必要も無い。

 ただ、ドラゴンは誇り高い種族であるがゆえに、自らを誇りで縛って勝手に敗北したと思い込むだろう。

 なにが勝利で、なにが敗北なのか、本当はそれ自身が曖昧なのに。

「やめろ! 待て! 近寄るな!! 我にセレスティアラを犯し殺させるな!! 我はっ! 卑怯だぞ人間!! 我が牙で噛み砕いてやるぞ!! 我がブレスで焼き尽くしてやるぞ!! 我がドラゴンロアで跡形無く消し去ってやるぞ!!」

「で? それがどうかしたのか?」

 俺は、歩みを止めない、確実に近づいて行く。

 なんだ、身体は大きいのに、心臓は小さいのか?

 随分と怯えて居るじゃないか、それでも誇り高きドラゴンか?

「やめてくれ!! やめてくれ!! 我は、ただ、セレスティアラと共に、安らかな一時を過ごしたいだけなのだ!! だから、許してくれ!! 頼む!! 近寄らないでくれ!! 財宝ならいくらでもやろう!! だから、その瓶を我に近づけるなっ!!」

「で? それがどうかしたのか?」

 俺は、歩みを止めない、確実に近づいて行く。

 恋するドラゴンは未だ覚悟を決めかねているのだろう、まるで今から力尽くで犯される処女のように震えてやがる。

 HAHAHAHAHAHA!!

「我は、我は、我はぁぁぁぁぁっ!! 卑怯とは、何なのだっ!? わからぬ!? だが、セレスティアラは殺せぬ!! お前を、卑劣なる貴様を殺したいっ!! だが、セレスティアラは殺せぬのだっ!! あぁぁぁぁぁっ!! 我はぁぁぁっっ!!」

「で? それがどうかしたのか? ほら、俺の手が触れたぞ。お前の敗北だ」

 俺の手が、確かに鱗に触れていた。

 俺が勝手に決めた勝利条件なのだから、ドラゴンが律儀に守る必要はないのだが、誇り高いドラゴンは敗北と認めてしまうのだろう。

 相手が人間ならば即日で手の平返しの勝利条件だ。

 敗北のふりをして、後ろから襲うことだろう。

「……あぁ、我の……敗北、なのだろうな。……口惜しいが、主として、認めよう」

「そうか、ほら、頭を冷やせ」

 小瓶の中身を頭に掛けてやる。

「なっ、何をするかっ!! これでは我はセレスティアラを……を?」

「水を掛けただけだ。まさか、本当にサキュバスの媚薬が入っていると思っていたのか? セレスティアラ姫を殺した後、お前は怒りのままに暴れ狂って、この国のみならず多くの国々を襲うだろう? そんな無責任な賭けを俺がすると思われていたとは、主人としてお前の知恵の巡りの悪さには呆れるばかりだ」

 匂いをさせるために他の小瓶の一つにはサキュバスの性ホルモンの原液を入れてある。

 だが、このミッション、この交渉が失敗すれば俺は死ぬだけだ。

 その際に、わざわざこの国の民衆を道連れにする必要は無い。


『パーパパパーパーパッパパー♪ ドラゴン使いの副業に就きました』

『パーパパパーパーパッパパー♪ ドラゴンハートブレイカーの称号を入手しました』

 ドラゴンスレイヤーでもドラゴンバスターでもないんかい!?


『鑑定対象:ドラゴンハートブレイカー(称号)

 ドラゴンの心をへし折った者に与えられる非常に珍しい称号。

 精神的攻撃を行なった際、300%のダメージ増加の効果を得る。

 竜言語が使用可能となる』


 精神に300%のダメージ増加、つまり『悪口王』に俺はなったわけか。

 この異世界の人間のステータス表には無いが、俺のダメコン式ステータス表にはMENメンタル値とSAN値(正気)値が存在している。ゆえに、物理的に無敵でも精神的には無敵で無いことには簡単に気付くことが出来た。

 実際、MEN値のダメージは深い虚脱感をもたらす。

 SAN値のダメージは正気と狂気の境目を無くす。

 ワンワン乙女騎士シャウラにデートの案内をさせた時は大幅に削れたと思ったのだが、流石はワンワン立ち直りも早かった。

 まさか一晩で全回復してくるとは。


「俺は最初に明言したじゃないか。ドラゴンを使ってドラゴンを倒すと。サキュバスの媚薬で倒すとは言っていないぞ? お前が勝手に勘違いし、お前が勝手に想像し、お前が勝手に怯え、お前が勝手に敗北しただけだ。お前を使って、俺は、お前に勝った。ドラゴンを使ってドラゴンに勝利した。最初の明言どおりだ」

 グッタリとうなだれるブラックドラゴン。

 さすがは300%増加の精神的ダメージ。

 ポッキリと折れた心を更に踏みにじることが出来たようだ。


 動物の躾は最初が肝心。ワンコとニャンコを飼った経験から覚えたことだった。

 動物は最初に甘やかしてはいけない!! 上下関係はしっかりと!!

 軍曹殿が最初の銃撃で『俺の俺』をさよならさせて教えてくれたことはコレだったのですね!! サー!!


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