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第五話 真の敵

 虎に追われしかの野、熊に追われしかの山、鯱に追われしかの海。

 最終的には、全て滅してやりましたがな。サー!

 はっはっは、わがグングーニルが『ゲイ』ボルグに成り下がったこの怒り、どうしてくれようか……。


 さて、このやり場の無い怒りの矛先は、まず軍規違反者のシャウラに向いた。

「服を買ってやる! ついてこい! デートタイムだ!」

 一つの浴室で共に甘い時間を過ごし、一晩を同じベッドで過ごし、一晩を一人泣き明かした後に、スピカとシャウラの二人をデートへ連れ出した。

 まずは、高級極まりない服飾店だ。

 偉い子のスピカにはご褒美として、フリフリのいっぱい付いた黒を基調としたドレスを買って着せた。

 ゴシックロリータとはまた違う素敵な装いに、銀髪の猫さんも気に入ってくれたようだ。

 スピカの頭を撫でるとニヘラと笑ったので、調子に乗って、唇も重ねる。

 以前とは違って男女の意識が生まれたのか、ニヘラがデヘヘに変った。

「……さて、ここからが本番だな。シャウラ、お前にも服を買ってやろう」

「えっ? 私も、ですか? 良いんですか!?」

 罰ゲームと聞いて、どんな目にあわされるか想像に曇らせていた顔が、餌を前にした子犬のように明るく輝く。

 だが、俺の心は最初から鬼だ。

 鬼にするまでもなく鬼畜にして外道だ。

 いや、自分は鬼以上の軍曹殿を目指すオゾマシキモノだ!! サー!!

「あぁ、構わんさ。お前が、遺跡内部で鹵獲した物資を横領し、村中の老婆や中年女性や少女達に横流しした件、一晩かけて、じっくりと拝見させてもらったからなぁ……」

 あの村での一晩、俺は用事があるから一晩任せると言って外に出た。

 用事、そう、悪い子シャウラの忠誠心を監視するという用事だ。

「え、え、えぇぇっと……あの、家宝で、冬が越せないからで、それに母親の形見で……」

「ふむ、で、その代価は受け取ったのか? 家宝ならそれなりの値が付いたのだろうな? 一冬を越すための銀貨だ、等価となる何かを貰ったんだろうな? 母親の形見だ、ちゃんと足元を見た値段で売りつけたのだろうな?」

 シャウラは、黙っていた。

 返す言葉が御座いませんという言葉すら返せる言葉が無いのだろう。

 物資の『無償供与』、実に人道的で素晴らしく、『自分の財布』でやりなさいと付け加えるべき美しい言葉だ。

「そこで、この服を用意しておいた。なに、苦痛を与えたり、身体に危害をくわえるつもりなど一切無いから安心しろ。お前の美しい肌には一筋たりとも傷をつける気は無い」

 ポンと優しくシャウラの肩を叩いて、このために用意しておいた服(?)を手渡す。

 ミニスカート、コレは当然だ。さらに付け加えたのは深い両サイドのスリット。うん、素敵だね。

 胸元にはY字型の深いスリットを用意、金属のワイヤーを利用して左右から押し上げることで、素晴らしい胸の谷間を演出。

 腹部には、ダイヤ型の風通しの良い穴を用意してチャームポイントの臍が見えるようにしておいた。

 下腹部のきわどいところまで開けておいた穴は、ささいなことで事故を起こしかねないなぁ。

 そして背中、尻の割れ目のちょっと上まで大きく開いた素晴らしい斬新かつ思い切りの良い大胆デザイン。

 もちろん、下着も用意した。

 布? いや、紐? 隠すべきところはちゃんと隠れるように出来て居るのだからちゃんとした下着だ。

 いやぁ、湯水の如く大金をつぎ込んだだけの成果はあった。

 素材から職人まで、全てにおいて最高級の素材に人材を用意させた。

 『下着のほうがまだマシ』という実に素晴らしい出来。

 『裸のほうがまだマシ』という実に素晴らしい出来。

「えええええいいいあぅあぅあぅあぅあぅ……」

 ん? この異世界にも、その唄が伝わっていたのか?

 シャウラは自らの未来を悟ったのか、顔を氷のように蒼褪めて業火のように赤くして、器用な顔色でうろたえている。

「大丈夫。シャウラ……がんばれ♪」

 なにがどう大丈夫かしらないが、スピカの声援もあるから大丈夫だ。

 スピカとシャウラは普段から仲が良い筈なのに、こういうことに関してはわりとドライな関係だった。

 それに、子犬のシャウラは未だ勘違いをしている。

 想像力が全く及んでいない。

 この服を着て、一日、街をただねり歩く?

 たったそれだけで許される横領罪だと思ったのか?

 軍需物資の横領は本当に罪深いものなのだぞ?

 横領のために正式な作戦が失敗に終る事もあるのだぞ?

 作戦の失敗は……仲間の死を招くものなのだぞ?

 シャウラ君……君には地獄を、いや『天国』を見てもらう!!


 ◆  ◆  ◆


「えへへ、ナナシ様。この御菓子、美味しいね♪」

「あぁ、こっちの御菓子も美味しいぞ。ほら、口を開けろ、あ~んだ」

「あ~ん♪ えへへへへへ~」

 今、スピカと俺は甘い甘いデートをして居る。

 そして、案内役はシャウラだ。

 意外というほどの事でもないがシャウラも乙女、理想の男性との理想のデートコースを歩くという夢があったのだろう。

 なので、斬新過ぎる服を着せたまま案内役を任せ、その理想のデートコースを俺とスピカで『塗り潰し』ながら堪能させて貰っている。

 なかなかに素晴らしく考え抜かれた『乙女心』を理解したデートコースではないか。

 女の子を喜ばせるポイントを十分に備えている。

 これは素晴らしい『天国』だな!!

「えへへ、ナナシ様も、あ~んして?」

「あ~ん♪」

「美味しい?」

「あぁ、美味しいよ」

 スピカの銀色の髪を撫で、そしてホッペにキスを。

「えへへへへ……」

 デレデレになるスピカ。

 この世の全てに絶望を覚えたかのようなシャウラの無表情、無感動、虚空を映す瞳。

 人は精神の状態が振り切れてしまうと『喜怒哀楽』その全てを捨ててしまう。

「ツ、ツギハ……コチラニ……ナリマス……」

 『昭和』という懐かしい時代を匂わせるシャウラロボットの案内で、スピカと俺は王都での夢のような素晴らしいデートプランを丸一日堪能したのだった。

 うむ、余は満足じゃ。


 こうしてスピカと俺の二人は素敵な丸一日のデートを楽しんでからロイヤルスイートに帰ってきた。

 しばらくして、シャウラの個室から憤慨とも羞恥とも悲哀ともとれぬ絶叫が聞こえてきたが、まぁ、軍曹殿に比べればとてもとても優しい訓示の方法であっただろう。サー!

 軍需物資の横領は、極刑以上の極刑に処されると覚えておけっ!! サー!!


 さて、この場はシャウラの友達であるはずの既に幸せそうに就寝中なスピカに任せて、もう一匹のリア充との再戦に向かうとしようではないか。


 ◆  ◆  ◆


 夜空の一角を覆いつくす黒き闇。

 漆黒のブラックドラゴン。

 そして、それに応じるのはバルコニーに佇む一人の美姫。

 美しきセレスティアラ姫。


「おぉ、ロミオ。どうしてあなたはロミオなの?」

「そりゃあ親が名付けたからに決まっているだろう?」


 一匹と一人の会話に脳内アテレコをしつつ観察を続ける。

 前に見た時よりもセレスティアラ姫の表情が柔らかくなってるな。胸部の脂肪の塊の大きさは相変わらずだが。

 今、この隙をついて男性尊厳破壊兵器『エイナルプラッガー』をジャンピングで決めても倒せそうだが、その後、ブラックドラゴンが怒りに狂って王都が滅ぶのであれば意味が無い。

 あと、ステータスの野郎が新しい称号を用意してウズウズしているのを感じるから、もう絶対に使わない。

 さて、前回は失敗したエキスパートオピニオンだが、Lv89の今ならば通るだろう。

 いざ鑑定、ブラックドラゴン。


『鑑定対象:ブラックドラゴン

 主に山岳地帯に生息。巨大な洞窟を住居とし、繁殖力は旺盛。

 しかし、個体の成熟までに三千年の時を必要とするために個体数が増えすぎることはない。

 魔力を利用した超高速かつ高高度の飛行能力を有する。

 火炎、毒、冷気、諸々のブレスの形状をした魔法攻撃と、その巨躯を利用した物理攻撃も得意とする。

 ブレス魔法の形状には球体状、放射状、光線状の形態があり、それらを状況に応じて使い分ける。

 全身に魔力が宿っているため眼球ですら鋼鉄以上の硬度を誇り、また魔力干渉によって魔法への防御耐性も絶大である。

 その血には生命を活性化させる効果があり、ドラゴンの血を飲むと若返りの効果やあらゆる病気、呪い、毒が完治すると言われる。

 ドラゴンが住処とする洞窟は多種のモンスターの巣にもなって居ることも多いが、洞窟の主であるドラゴンに牙を向けるものはいない。

 滅多に無いことではあるが、ドラゴンが命の危機を救われたり、単独の力でドラゴンを倒した場合、これを自らの主として迎え入れる性質を持つ。

 集団で倒した場合には個体として敗北したわけではないので、忠誠に値しない卑怯なものとして忠誠を誓われることは無い。

 またこれは齢三千年を超えた成竜にのみ適応され、子供のドラゴンを倒したとしても忠誠を誓われることはない。

 竜言語と呼ばれる独自の言語を使用するが、人語及び、多種の亜人から言語と呼べぬモンスターの言葉まで理解する個体も多い。

 基本的に人間よりも知性が高く、かつ、長命であるが故にその知識量も膨大である。

 性情は極めて直線的で誇り高く、一度主を決めたなら主の命令なくばその死後に至ってまでも主を変えようとはしない。

 そのため、その永遠の寿命の終わりまで主の墓標を守り続けるドラゴンも存在する。

 また、複数のドラゴンを使役した場合、どちらが主に相応しいドラゴンかを定めるための決闘を始める。

 ブレス魔法の他には竜言語魔法、ドラゴンロアと呼ばれるドラゴン独自の魔法大系を持つ。

 なお、ドラゴンロアは非常に特殊かつ強大な魔法が多く、通常の人間にはその基礎すら理解しえないものである。

 尚、このドラゴンロアを使用することで別の種族に変身する事も可能であるため、個体によっては人間や他の種族社会のなかに混じって暮らす変わり種も存在する。

 この能力の応用としてドラゴン以外を相手にしての生殖行為も可能であるが、生まれてくる子は必ずドラゴンとなる』


 説明ながっ!!

 眼球ですら鋼鉄以上の硬度って、120mm戦車砲でも持ってこいと言うのか?

 単独でこれを倒すと主になれると言われても、ネズミが虎に勝つよりも難しい勝利条件だな……。

 ……まぁ、A10に乗った軍曹殿ならこれを軽く……いや、軍曹殿が徒手空拳で屠っている姿が想像出来ます! サー!

 鋼鉄をバターのように斬るという表現がありますが、バターで鋼鉄を斬っても不思議ではない軍曹殿でありますからな! サー!


 とりあえず解ったことは、物理的な勝利条件は存在しないということだ。

 まず眼球ですら鋼鉄以上、鱗となれば想像したくない強度を持った高硬度高高度爆撃機だ。

 がんばれプロヴィデン王国軍の兵士諸君。

 戦力差は絶望的だぞ! ナイスファイトを期待する!!


 ……しっかし、リア充してるなぁ。

 お姫様もドラゴンの機嫌を取るためか良く笑ってる。

 レベルアップしたおかげか目も良くなったようでよく見える。

 よく見えてしまう……リア充の姿が。

 まぁ、婚礼の約束の時間まではまだ一ヶ月以上残ってる。

 いましばらくは『自由』な時間が過ごせるだろう……。


 ◆  ◆  ◆


 冒険者ギルドに入って、俺は口にした。

「サキュバスを退治したい。サキュバス以外はどうでもいい。サキュバスとイチャイチャしてる男が憎……じゃなくて、世の女性達のために俺は戦いたい」

 MEN値もSAN値も100/100なのに、怒りが沸いてくるのだった。

 浮気の理由をサキュバスの魔法のせいだし~と、公認で奴らは楽しんでやがるのだ。

 結果として泣くのは、なけなしの財産をDVによって奪われた妻達に子供たち。

 俺のこの感情は、自らの『ゲイ』ボルグによるものではない。

 これはそう『義憤』だ! 正しき正義の心による『義憤』だ!

『パパパパーパーパーパッパパー♪ 称号:自己欺瞞を入手しました』

 ふん、だからどうしたというのだ?

 『鬼畜外道』に今更その程度で何か精神的なダメージを与えられると思ったのか? 我がステータスよ。

「アンタ、サキュバスに何か恨みでもあるのかい? サキュバス退治は女の冒険者か聖職者の仕事……アンタまさかっ!?」

 ジェロームが壁際まで下がった。

 ギルドの皆も壁際まで下がった。

 正解だけど違う! 断じて違うんだ!!

 筋肉マッチョの素敵な殿方達よ信じてくれっ!!

「ち、違うっ!! 断じて違うっ!!」

 腕力から魔力まで男女同権のこの世界であっても、女性の冒険者は少なかった。

 なぜならば、小汚いから。洗濯できないから。水浴びもままならないから。

 『危険・キツイ・汚い』の3K職に就きたがる女性はやはり数少なかった。

 なので、サキュバス狩りは自然と聖職者達の仕事になるわけだが……この世界の教会の世話にはなりたくない無いなぁ。

 修道士がALL衆道士ってどうなのよ?

「わ、我が職業であるコマンドーには特殊な魔法対処法があってな。それを利用することによってサキュバスの魅了を避けることが出来るのだ。魅了が無ければただの雑魚。そう、ただの雑魚ゆえに美味しい獲物なのだ!!」

 受付のジェロームがじーっと俺を見つめる。

 やめたまえ、そんな熱い視線で俺を見るのは……やめてぇぇぇ。

 ボクの腰が砕けちゃうから、やめてぇぇぇ……。

「まぁ、アンタがそう言うならそうなんだろう。サキュバスは宝飾品とかも溜め込んでるから倒せる者にとっちゃ美味しい獲物に違いない。……ってことにしておいてやるよ」

「ちがあぁぁぁぁぁうっ!! 断じて!! 違うんだぁぁぁぁぁぁ!!」

 結局、俺が冒険者ギルドを去るまで、誰一人として壁際から離れようとしなかった。

 筋肉質の素敵な殿方たちが、俺を、不信の目でジッと見つめ……やめてぇぇぇぇ。

 違うんだ……違うんだ……違うのぉぉぉ。

 この日、俺に対する冒険者ギルドメンバー達からの脅威評価は大幅に上昇した。



 ギルドを去るまでにSAN値が20も下がっていた。

 『鬼畜外道』を手に入れて30%の耐性込みでコレか……。

 まぁ、良い。目的は果たした。十数ヶ所に及ぶサキュバスの被害地域。

 いや、ボッタクリバー『サキュバスの園』の出店先を手に入れた。

 くくく、魔物公認の浮気だと?

 正気に戻って絶望するが良い!!


 ◆  ◆  ◆


「301……302……303……304……」

 プッシュアップの回数ではない。

 キャバクラデーモンのトロフィーから取り出したホルモン袋の数だ。

 べつに首を刎ねる必要は全く無いのだが、なぜか刎ねてしまうのは俺の本能だろう。

 きっと、俺の前々世は歯の長い兎だったのだ。

 あるいは口元が四つに開く地球外生命体だったのだ。


 ワンコとニャンコは相変わらず恐る恐るついてきている。

 四本足まで退化して無い分、以前よりも適応性は高まったらしい。

 最近は俺のトロフィーの狩り方まで進化してきた。

 小石を投げ、反対方向を向いた集団を最後尾から連続チェイン。

 堂々と近づき、虜になったふりをしながら血のネックレスをプレゼント。

 単独であれば、ナイフスローイングで頸部を狙うか弓矢で耳の穴を左右に貫通させて素敵なピアスをプレゼント。

 『ライフフォースセンサー』の導きに従って、建造物内部で収穫祭の作業を終えたのだった。


 鑑定の結果、発情ホルモンは唾液腺と同じようなもので、これを吐息とともに霧状に噴霧することにより相手を虜にするものだった。

 『ゲイ』ボルグのおかげで俺にはまったく効き目がないのだが……実に素晴らしい称号だよ。

 ステータスよ、ありがとう。そして死ね。


 なので、トロフィーを一箇所に集めて発情ホルモン袋の取り出し作業を行なっているわけだが、トロフィーを運ばされたワンコとニャンコのSAN値が危険水域を示していた。

 俺にとってはただのモンスターの頭部だが、彼女達にとっては人間の女性の頭部に見えるらしい。

 認識の差と言う奴だな。

 もう作業自身は手馴れたもので、一個あたり三十秒ほどの解体作業時間だ。

 簡単な作業なのでワンコとニャンコにも解体作業を手伝わせようとしたところ、断固とした拒否を示された。

 お前達の心から誓ったはずの忠誠とはそんなものだったのか?


 なのでワンコとニャンコには適当にふらついて、気分転換という名の財宝集めを命じておいた。

 ワンコが運搬係、ニャンコはトラップの回避を指示する係だ。

 それでも好奇心旺盛なワンコがトラップに引っ掛かるのだから、またワンコには罰ゲームだな。

 今度は何が良いだろう?


 そういえば、収穫祭の途中で新しい称号を手に入れた。


『鑑定対象:女殺し(称号)

 女性型のモンスターを多数に渡り殺害した男性に与えられる称号。

 女性・雌に対する魅了効果10%アップ。

 女性・雌に対するダメージ10%アップ。

 女性・雌に対する与性的快感100%アップ』


 なぁ、ステータス君よ。

 なぜ、一つだけ桁が違うんだい?

 確実に、これは、今の俺に対する嫌がらせだよね?


 ◆  ◆  ◆


 一つの建造物に異常なサキュバスの数。嫌な予感はしてたんだよね。

 その街を治める貴族の領主はサキュバスと取引をしていた。

 性的な娯楽と人間の生み出す娯楽の交換の取引だ。

 討伐の依頼そのものは街の住人の長から出されていた。

 そして、その天上人である貴族はサキュバスを娯楽の対象として利用していた。

 その齟齬から起きた事件の顛末は、俺に対する極刑だった。

 解りやすく言うなら縛り首。

 軍曹殿基準では(極)端に優しい方の(刑)罰だ。サー!!


 モンスターを狩った罪で人間を殺す、か、実に面白い法律だ。

 スピカとシャウラは第二王女セレスティアル姫の直属の近衛兵である身。

 おいそれと手は出せないのか俺一人が天上人の気晴らしのため獄中に繋がれた。

 糞尿垂れ流しの薄汚い、極刑待ちの極悪人には相応しい牢獄だった。

「シャウラ、この国にはモンスターを狩った罪で首吊りになる面白い法律があるのか?」

「いいえ、そんな法はありません。このことは姫様に報告して……」

「報告して、返答が戻ってくるまで俺の首は縄に繋がれてるわけだ。絞首台の上でプラーンと」

「……時間が、足りません。ね……」

 鉄格子越しの無為な会話。

 シャウラとスピカは、沈痛な面持ちで今の俺を見ている。

 まずは『街を騒がせた罪』で、背中を鞭で打たれた。

 あまりにも俺が苦痛の色を見せないので、通常は叩かれない胸に、腹に、手に、足にも打たれた。

 鞭という武器は、そのイメージ以上に皮膚と肉にダメージを与えるもので、適切な手当てをしても生涯に跡を残すほどの傷を与える。

 ケロイド状というやつだな。

 一撃では死なないが激痛を与える。

 これなら、即死の方がよっぽど慈悲的だろう。

 幸いと言って良いのか、この程度の苦痛、軍曹殿との訓練時には日常茶飯事どころか軽症……いや、無痛? のうちだ。

 なんら行動に問題は生じない。

 小汚い鞭に叩かれたために感染症の恐れがあるくらいだろうか。


「なぁ、スピカ。俺は、この国を、ドラゴンから守る必要があるのかな?」

「ナナシ様、ごめんなさい……わかりません……ごめんなさい……」

 人治国家なんて一皮向けばこんなものだ。

 国に法律があっても、その土地のお偉いさんの気分次第で今日は白、明日は黒に変る。

 じつに統治者にとって都合の良い社会だ。


「それで、スピカとシャウラはどうするんだ? 俺が縛り首になったあとの話だ」

「それは……姫様の元に、戻ります……」

「私も、シャウラと共に、戻ります……」

 ふむふむ、鎖が解けてきている感覚が、むずむずとするな。

「じゃあ、この場でさよならだ。姫様の命じた忠誠関係はここで終わりにする。最後の命令だ。首吊りってのは惨たらしいものでな。知り合いに見て欲しいものじゃないんだ」

 スピカとシャウラは見つめあい、そして、小声で相談しあった。

 そして、二人共に涙を流しながら頷いた。

「はっ、解りました。今、この場で、シャウラはナナシ様への忠誠の誓いを放棄します」

「はい、解りました。今、この場で、スピカはナナシ様への忠誠の誓いを放棄します」

 二人は涙を流していた……。

 この一月ほどで、俺に対して確かな感情を覚えていたのだろう。

 肌を、一応は、合せた間柄でもある。

 今、この薄暗く、糞尿臭い地下牢の鉄格子の向こうに立っているのも、これ以上の加虐を俺に対して加えさせないためだ。

 彼女達は、安全弁であり、俺を縛る鎖であった。

「じゃあな。姫様の元で、元気でな」

「はい、ナナシ様も……お元気、じゃない、ですよね。ごめんなさい。……さようなら」

「ナナシ様……スピカは、ナナシ様が、大好きでした。……さようなら」

 こうして、二人はこの小汚い地下牢から去っていった。

 これで、鎖は解けると思うのだけど……。


『デロデロデロデロデロデロデロデロデーデン♪ 肌色の鎖の称号を失いました』


『鑑定対象:肌色の鎖(称号)

 ハニートラップに引っ掛かった男性に与えられる称号。

 トラップの解除に成功するまで、トラップを仕掛けた者の願いを叶えるように自主的に働いてしまう』


 Q:この異世界に来て、一番最初に俺に戦闘行為を仕掛けてきた者は誰でしょう?

 A:それはセレスティアル姫様でした。


 この異世界の、このプロヴィデン王国のお姫様だ。

 教養として称号のことも知って居たことだろう。

 そして、ハニートラップの効果も、その称号が一種の呪いであることも文献などで知り尽くして居たのだろう。

 ドラゴン退治に対して「無理だ」と言った者、「出来ない」と言った者に『肌色の鎖』の称号をつけて廻ったのだろう。

 そして残った鎖の数が十余名の乙女達だった。

 一国の姫様が西へ東へ奔走するのにはあまりにも少なすぎる数。

 ホブゴブリンの一件は本当の事故だったのかもしれないが、それすら怪しいものだ。

 あの場は街道、誰かがゴブリンの集団に気付き、そして、援軍を連れて戻る可能性の方も高い。

 そして、運良く有望株が現われたなら『肌色の鎖』をつける気だったのかもしれない。

 援軍が無いなら無いで馬車の守りを半数に、半数をただホブゴブリンに突撃させれば子一時間もせずに勝てた戦場だ。

 無能のふりをして居る間に有望株である俺が現われたので、即座に『肌色の鎖』を仕込んだ。王族、さすが汚い。


 そもそも、俺の俺が『ゲイ』ボルグになっていなければ理解していながらも解除は難しかっただろう。

 さらに『肌色の鎖』を鑑定するスキルが無ければ、これが一種の呪いだと気付くことすら出来なかったはずだ。

 無意識のうちに、自主的に、ブラックドラゴン退治に参加させられるところだった。

 シャウラもスピカも何も知らなかった……と、思いたい。

 だから彼女達との絆である鎖を引き千切るのには良心の呵責が邪魔をした。

 あいにくと『鬼畜外道』な俺にとって良心の呵責は意図的に止められるものだったがな。


 向こうから心が離れて行くように振舞っていたつもりだったのだが、スピカとシャウラの忠誠心は根性が入っていた。

 卑劣な行いを見せ、非道な行いを見せ、四つん這いになるほど恐怖に戦かせて、罠のある迷宮を歩かせ死を呼び、生首を持たせて運ばせて、苛烈な恥辱を与えても、二人は俺から去って行かなかった。

 好きか嫌いかの二択で答えるなら、大好きだ。

 だが、残念なことに俺を縛り付ける鎖だった。

 この国と道連れに暗い海の底へ引き摺り込むための鎖だった。

 だから今、引き千切った。

 お貴族様の気まぐれで捕まったことは想定外の事件だったが上手く利用させて貰ったよ。

 有難う、お礼はちゃんとするよ。


 夜の街を馬が二頭走る音がする。

 無駄と知りつつも二人がお姫様の元に飛んで向かったのだろう。

 夜道の道中、事故をおこさないようにな。

 とくにワンコ乙女のシャウラよ。

 ニャンコは夜目が利くからな、ちゃんと後を着いて行くんだぞ。


 ◆  ◆  ◆


 さーて、屋敷から二人が離れたところで脱出作戦を開始しよう。

 作戦と名前をつけるほどのことか?


 まずは、左の手首の関節を外してっと……痛いが、鞭で打たれたほどじゃないな。

 手錠から抜いて、関節を嵌めなおす。

 次は、右の手首、次いで、右の足首、左の足首。

 こんな原始的な手枷と足枷でコマンドーの自由を縛れると思っていたのか?

 HAHAHAHAHA!!


 金属を切るための装備も服や髪の中に色々用意したつもりだったが、折角覚えたのだし魔法で良いか。

 ファイア、アイス、ファイア、アイス、ファイア、アイス、ファイア、アイス、ファイア、アイス。

 暖めて、冷ます、暖めて、冷ます、もともと、ろくな手入れもされていない腐食した金属の棒だ。

 あとは九倍の腕力でポッキリと。

 よし、俺を囲った鉄格子の排除完了。

 もはや本能的に行なわれているスニークとサイレントムーブを使用しながら出口方面に、ライフフォースセンサーの感覚では二人の守衛。

 俺の手は二本、なので、そのまま近寄って『殺気』から一瞬で気道を潰し、悲鳴の無い頚骨快音キルx2。

 ずるずると地下に運び、適当な牢屋に入れ、装備を脱がせて変装変装。

 兵士なんだ、死ぬ事も仕事のうちとして給料を貰っているんだろう?


 さて、奪われた手荷物を探すとしよう。

 とりあえず、片っ端から兵士を捕まえて所在を知ってる兵士を探すほうが早そうだ。

 荷物の所在を知らない兵士には罰ゲームとして頚骨快音キルだ。

 荷物の所在を知っていた兵士には御褒美に頚骨快音キルだ。

 兵士なんだ、死ぬ事も仕事のうちとして給料を貰っているんだろう?


 こうして最愛の荷物との再開。

 ご丁寧にも俺の荷物は荒らされてキラキラの装飾品類は盗まれていた。

 金をかけた長剣も盗まれていたが、ホブ丸は残っていたので一安心。

 ……いや、盗めよ。俺の愛ナイフだぞ?

 それからサキュバスの発情ホルモンも残っていたので一安心。

 さらに幸運なことに、俺を優しく鞭で打ってくれた兵士さんも発見できて一安心。

 まずは、顎を外し、大声を出せないようにしてから口中に布をつめる絶叫サイレンサー。

 両肩と両足の間接をコックリさんと外して人体実験を開始する、メンゲレオペレーションスタート。

 発情ホルモンの原液を一滴だけ肌に垂らす。

 おぉ、一瞬で彼の彼がオリハル棍に。

 なるほど、経口摂取や粘膜を狙わなくても皮膚からでも浸透するんだな。

 あとは、その御立派さにイラッときたのでスキル『ゴールデンクラッシャー』を発動!!

 そういえば、今の俺の攻撃って『男殺し』のバフ効果で男性相手にはダメージ量30%増しになるんだっけ?

 はっはっは、苦しみぬいて、死ぬがいい。

 お掃除ルンバッバにすらなれない鞭使いよ。

 ショック死が先か、唾液に濡れた布が喉を塞いで窒息死するのが先になるかは知らないが、無慈悲な死を迎えると良いさ。

 お前はずっと、鞭と荒縄の絞首台を使って多くの者たちに無慈悲な死を与えてきたんだろう?

 ただ、自分の順番が回って来ただけのことさ。


 最後のボスはやっぱり御期待の理不尽なお貴族様だ。

 いやいや、理不尽と言うわけでもない。現代人日本人から見ると理不尽に見えるだけだ。

 だが、ただの平民とは違う天上人のお貴族様をこの手に掛けるのはさすがに不味い。

 それくらいのことは俺にも解ることなので、発情ホルモンの原液をダバーッとかけるだけにしておいた。

 お貴族様のゴールデンボーイがとっても自己主張激しく、なんだか頭の中が弾けちゃったみたいだけど、気にしなーい。

 これからもずっと毎晩、サキュバス相手にこれで楽しんでいたかったのだろう?

 一滴でオリハル根な原液をシャバダバシャダバならもっと楽しめ続けるはずさ。

 結果、腰をガクガク振るだけの面白人形に成り果てたが、貴族の御当主様がこうだと家臣に親族達は大弱りだろうな。

 HAHAHAHAHAHA!!


 あとは、下半身に支配されたお貴族様の乱痴気騒ぎの混乱の中、俺の荷物から奪われたと思われる装飾品類やら金貨やら宝石やらをざっくざくと袋に山盛りに詰めこんで、最後にお馬さんを一頭奪ってパカラッパカラッと逃亡を……。

『パーパパパーパーパッパパー♪ 馬泥棒の副業に就きました』

 なぁ、ステータス?

 ここまでしておいて『馬泥棒』が一つだけってお前の判定基準なにかおかしくない?


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