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第三話 コマンドー式レベル上げ

 ギルドの所在は前もって調べておいた。

 その内部の雰囲気も通してだ。

 酒場と安宿を兼ねた冒険者達の溜まり場、そして、殺戮の依頼状が多数用意された物騒な建物だ。

 基本的には暴力を売り物にする人間達の溜まり場、紳士的な雰囲気は期待できそうに無い。


 俺はギルドの扉を開き、中に入る。

 右を見て、そして、左を見る。

 恐持ての面構えをした実力を感じさせる猛者ばかりだ……そして確信した!

 よし、軍曹殿より恐ろしい存在は絶無だ! これならば恐怖するに価しません! サー!

 ブラックドラゴンよりもA10攻撃機で追い掛け回してきた軍曹殿こそが恐怖の象徴で御座いました。サー!

 崖下の天然地下シェルターに身を潜めていたところをバンカーバスターで埋め殺しの刑にあったことも御座いましたね! サー!


 MEN値が急激に回復してメンタルがスッキリしていく感覚がする!!

 SAN値が急激に減少して正気が失われてスッキリする感覚もする!!

 これから始まるのは戦闘行為であり殺戮行為、過剰な正気など足手まといに違いないから構わない!


 そう、俺はこれからモンスターを殺戮しに行くのだから!!


 ◆  ◆  ◆


 受付と思われるカウンターへ向かう途中、大柄な男に脚を伸ばされ邪魔された。

 いわゆる転校生を苛めるための脚の長すぎるアレだ。

 脚が長すぎて困っている大柄な男が、俺の進行を妨げた。

 なので、俺は黙ってナイフのホブ丸を抜き放ち様に頚動脈に押し当てて、黙ったまま見下ろした。

 やがて、彼の脚が行儀良くテーブルの下に収まったので、黙ったまま見下ろし続けた。

 俺はただ、刃先を頚動脈に押し当てたまま黙って見下ろし続けた。


 冒険者ギルド内部では俺と、その大柄な男を中心にして剣呑な空気が渦巻いていた。

 各々、剣や槍などの相棒に軽く手を添えて、次の動きを待っていた。

 俺は、ただ、黙ったまま見下ろし続けた。


「す、すみません……」

 大柄な男の謝罪を受け、ようやくホブ丸が俺の背中に帰って来た。

 こうしてギルド内の空気が緩んだので、やっとカウンターへと歩を進められた。

 新人歓迎とは、どこの世界でも辛いものだな……。


 ……あの世界は除いてですが! サー!

 『辛い』と言う言葉で表現できるものではありませんでしたから! サー!


「あ、あんたねぇ、気持ちは解るがやりすぎじゃないか?」

 ギルドの受付のオジサンが冷や汗をタオルで拭いながら尋ねてきた。

 お若い受付嬢が希望だったのだが、この荒くれ相手共の相手を女性にさせるのも酷な話だ。

「適度だ。殺意も無いのに刃物を振りかざして喜ぶチンピラだと周囲に思われてはこちらが困る」

「……ア、アンタ、こ、殺す気、だったのかい?」

「それは想像に任せる。そんなことより冒険者ギルドへの新規加入と仕事の斡旋を紹介してもらいたいのだが? 実力は、今先ほど見せた通りだ。大柄の彼よりは上だと自負する」

 SUN値が足りないせいか、俺の半分を構成していたはずの優しさ成分が足りません。

 CON値が下がって頭痛がするので、優しさ成分を補給したいのだが、あいにく異世界には売っていないようだ。

「それじゃあ、このカードに右手の親指を押し付けてくれ。ギルドカードの再発行はそれなりに高額になるから紛失には気を付けてくれよ? それから、ギルドカードを身分証として悪用された場合にはその保有者が全面的に責任を取ることになるからな。その点にも気をつけてくれ」

 渡されたのは一枚の、金属ともプラスチックともなんとも言えない感触の薄板一枚。

 これは紛失の前に戦闘中の破損が怖いな。

 とりあえず、言われた通りに拇印をポチッとな。


『名前:ナナシ

 職業:コマンドー

 Lv:6 功績値:0

 HP:1/1 MP:100/100』


 自前のステータス表示よりも更に簡易なステータス表記。

 魔法的ななにかの技術が使用されているのだろうか?

 拇印一つで済む素晴らしいお役所仕事。

 あと、功績値ってなんだ?

「これで良いのか?」

 俺のステータスが記入されたカードを見せると、受付のオジサンが顔をしかめた。

 ……なにか、まずったか?

 いやいや、ちゃんと言われたとおりに右手の拇印を押したよね?

「えーっと、職業のコマンドーってなんだい? あと、HPが1って、あんた掠り傷一つで死ぬんじゃ?」

「うん? なにかおかしいのか? 人の命は一人に一つ、1/1の表記に間違いはないだろう?」

 カウンターのオジサンが自分の懐からカードを差し出して見せてくれた。

 あぁ、うん、なるほど、これは完全に俺がおかしい。


『名前:ジェローム・ラランド

 職業:戦士

 Lv:28 功績値:3823

 HP:272/272 MP:108/108

 ATK:91 DEF:82 AGL:67 MAG:33』


 これはこれは……軍曹殿! 自分だけ特別仕様過ぎますよ! サー!

 彼等のステータスは標準的RPGに則ったステータス表記、

 俺のステータス表記はダメコンとMPという残弾数表記のみ。

 あと、勇者がサブ職業に追いやられたせいで勇者を名乗れない!!

 でも、実際に自分が勇者かコマンドーかと問われたならば……俺はコマンドーだな。

「んっ、んーっ、コマンドーとは我が国に伝わる伝統的な職業でな。その始祖はこう言ったのだ。『あたらなければどうと言うことも無い!!』とな。あたらHPがある故に慢心するよりも1/1で丁度良いのだ。仕事さえ出来れば良いのだろう?」

 そう、当たらなければどうということもない。

 見つからなければ、もっとどうということもない!!

「あ、あぁ、まぁ、そうだな。……とりあえずの説明だが、Lvと功績値の兼ね合いによって紹介出来る仕事は変る。功績値はどれだけ冒険者として活動したかの値、つまりは信用度ってことだな。藪を突付いてモンスターの大群を街に連れ帰ってくるような奴には任せられない仕事も多くあるんでな。新米冒険者はまずは地道に、街道沿いの警備なんかを……」

「断る! 功績値と関係なく即座にモンスターと戦える仕事は無いか?」

「いや、アンタのLvは6でまだ……あ~もう、全然、関係無さそうだな。そこの掲示板に誰が引き受けてもいい依頼の一覧が貼り付けてあるから適当に選ぶと良い。依頼と関係なくモンスターを退治しても金は入らないが功績値は上がるから。もう適当にやってくれ。通常、カウンターで斡旋する仕事はLvと功績値との折り合いをつけたものになるからな。今のあんたの希望と実力に見合った仕事は紹介できそうにない。これも規則でな、スマンね」

 受付のジェロームに感謝と納得の頷きを重ねて、掲示板の方へ戻ろうとすると、またしてもあの大柄な男が絡んできた。

 一度、殺されかけたくらいで心は挫けないのか?

 いや、冒険者足るもの、そうでなくてはいけないのかもしれない。

 一度や二度や十万度以上殺されても挫けていない心の実例が今ここにあるのだから! サー!


「おめぇ、Lvが6でHPが1なんだってな? じゃあ俺が一発殴るだけで死んじまうわけだ?」

「そうだな、で?」

 実際には残機制なのだから違うのだが、あえて敵対者に正確な情報を流す意味は無い。

「だ~か~ら~、俺が一発殴るだけで死んじまうわけだろ?」

「そうだな、で?」

 結局、その一発をも自分は軍曹殿に当てることは適いませんでしたなぁ。

 それだけが心残……ってはおりませんので再訓練は必要御座いません! サー!

「チッ、せっかく人が謝れば許してやるって優しく言ってやってるのに、馬鹿は死ななきゃわかんねぇってか?」

「そうだな、で?」

 いやいや、謝れば許してやるって初耳よ?


 おぉ、大柄な身体に血が巡って、怒りによる力みによってさらに大きく筋肉が膨らんで……身体の動きが鈍くなってるな。

 もしも、本当にHPが1の敵を相手とするなら、ダメージを1与えるだけの軽いジャブで良いものを……。

 大きく振りかぶってからの~鈍足のテレフォンパーンチ!!

 なので、重力に身を任せて身体をストンと自由落下、相手の腰下まで体勢を低くして回避する。

 すると、ちょうど大柄な男の『男の男』が目の前に来たので素手ナックルに腰の捻りを加え、脇を締めた無駄のない最速パーンチ返しっ!!

 グシャリンコ!!

 玉の一つや二つ潰れたような感触があったけれども、回復魔法のあるこの世界、気にする必要は無いだろう。

 おぉ、埃に汚れた木貼りの床をデッドリーなローリングダンスで自主的に掃除する大柄男の美しい心意気。

 その気持ち、解る。自分の自分とさよならバイバイする苦しみは何万回味わっても筆舌に尽くしがたかった。

 軍曹殿に何万の『俺の俺』を奪われたことか……。サー!

「さて、俺のHPが1と知りつつ攻撃を加えてきた。つまり、これは喧嘩ではなく殺人未遂だ。そこで質問したいのだが、俺がこの場でコイツの命に始末をつけることになにか問題があるか?」

 まず、ローリングする大柄ルンバッバの首筋を踵で抑えて動けないようにする。

 あとは全体重を乗せるだけで頚の椎は快音を鳴らすことだろう。

 右手側に視線を送る。冒険者ギルドのメンバーは皆そろって首を横に振った。

 左手側に視線を送る。冒険者ギルドのメンバーは皆そろって首を横に振った。

 大柄な男と共に呑んでいた者達すら首を横に振った。

 さすがに喧嘩と殺人の違いが解らない殺人未遂犯とは友達付き合いをやめたらしい。

 魔物と戦う、死と隣り合わせの実に命の安い世界。

 しかし、徒手空拳の戦い方も知らないのに敵に挑むとは挑むとは実に愚かな。

 今のテレフォンなパンチの動きは、武器を持った上でモンスターとの戦いを想定とした大振りな重い武器のための動きだったんだろ?


「あ~、スマンが、ギルドのなかで人が死ぬのは避けたい。国の兵士に任せて縄で首を吊らせるから、ここでの殺しは止めてくれ。片付ける方の身にもなってくれよ」


 世話になった受付のジェロームがそう言うのなら仕方ない。

 俺が離れると、今迄酒を飲み交わしていた大柄男の元友達連中が何処からともなく縄を取り出して縛り上げた。

 なんという友情。

 せめて、自らの手で葬ってやろうと言う男と男の友情に俺は感激した。

 素晴らしきは手の平返し。


 気が付くと功績値が100上がっていた。

 さすがは殺人未遂犯の即時逮捕。それなりに貢献したことになるらしい。

 あれ? もしかして、縄で縛ってたアイツラも功績値を小ずるく手に入れてたりしてる?

 泡を吹いたまま、兵士に引き摺られるようにではなく、完全に引き摺られて行く大柄男を背景に、俺は掲示板の依頼を確認した。


 『ホブゴブリンの集落の壊滅』『オーガの集落の壊滅』『人喰いジャイアントブラックベア退治』『ポイズンビーの巣の破壊』『アイアンアントのコロニー破壊』『各種薬草類の採取』『各種鉱石類の採掘』『エトセトラ』……なるほど、『請負:歩合制』なお『死亡時の手当ては一切出ません』な仕事で掲示板は一杯だ。

 採取系は除いて、集落の破壊や特定個体モンスターの殺害報酬は全てがおそろしく高い。

 おそらくは数パーティから数十、時には百単位のパーティ数で挑むべき依頼の数々なのだろう。

 モンスターの町や村を一つ滅ぼすとなれば、それは冒険者ではなく軍の仕事なのだから戦費相応の料金設定と言うわけか。


 なるほどね。この世界の仕組みはよ~く解った。


 ◆  ◆  ◆


 戦場には煙が立ち昇っていた……。

 前門の黒き巨大な獣、後門の鉄の蟲、何処からともなく立ち昇る火の手の煙。

 この集落は今、混乱の渦に陥っていた。

 混乱に陥りながら彼等は、彼女等は、果敢に戦い続けた。

 目の前に迫る自らよりも三倍以上の身の丈をした黒く巨大なケダモノ、そして後方より襲いくる鉄のアギトを携えた鋼の蟲の大群。

 その鉄のアギトに、巨大な牙に、巨大な爪に、抉り抉られながらも鉄の斧を、鉄の棍棒を手に戦い続けた。

 ……うむ、偉い。最後の一兵まで戦おうとするその戦意と士気の高さには拍手を送ろう。


『鑑定対象:ジャイアントブラックベア

 全長10mを越える長毛種の巨大な熊。

 魔法による遠距離攻撃能力は持たないが、その物理攻撃能力は絶大。

 また黒く見える毛の一本一本に魔力が備わっており、その毛は非常に高い弾力性と靭性を有する。

 厚い魔法の毛皮の下にも厚い皮膚に脂肪と硬い筋肉を供えるため、打撃、斬撃の類の攻撃に対して非常に強い耐性を持つ。

 捕獲した獲物を地面に埋めて熟成を待ち食するというグルメ癖がある。

 獲物(美食)に対する執着心はとても強く、獲物を奪われると奪い返すために匂いを辿り何処まででも追いかけてくる危険なモンスター』


『鑑定対象:アイアンアント

 全長1m前後の鉄の外殻を纏った蟻。

 地中のコロニーには数千匹の働き蟻と女王蟻が生息し、通常の蟻と似通った生態を送っている。

 巨大な顎の鋏以外の攻撃手段を持たないが、集団で狩りを行なうことによりその弱点を補っている。

 鉄の外殻を持つため斬撃や刺突といった物理攻撃は効果が薄く、逆に刃を痛めてしまう可能性が高い。

 メイスやハンマーなどの打撃武器による攻撃が効果的ではあるものの、鉄の外殻の防御を越えるだけの膂力を必要とする』


『鑑定対象:オーガ

 身長3m前後の巨体を持つ鬼の亜人。

 簡単なつくりの鉄の棒や鉄の斧などを手にし、数百から千余りの人口の部族社会を築きあげる。

 基本的に雑食であるが、農耕をしないため狩猟採取の食文化を営んでいる。

 そのためコロニーの人口が増えすぎると周囲の生態系を考えて長の息子を中心としコロニーを分化し、新たな土地に新たなオーガのコロニーを作りだして増殖拡大を繰り返す。

 男女の差はなく一族は総じて雄々しい戦士として育てられるため、子供のオーガですら人間の大人の戦士を凌駕する膂力を持つ』


 ◆  ◆  ◆


「あ、あの~、ナナシさま? 私達は、今、何をしているのでしょうか?」

 俺が高台の上でエキスパートオピニオン(鑑定)にふけっていると生真面目なくっ殺乙女騎士のシャウラが尋ねてきた。

「あそこにジャイアントブラックベアが居るな。あれは、奴の狩った獲物をオーガの村の鼻先まで運んでやった結果、オーガが喜んでこれを捕食。獲物を横取りされたことに激怒して暴れて居るんだ。そして、反対から迫るアイアンアント、あれはコロニーからオーガの村まで王都で購入した肉を適度に並べて誘導したものなんだ。で、村が燃えて居るのは混乱に乗じて俺が火を放ったからだ。そして、俺達が何をしているのかという質問だが、高見の見物とともに魔物退治をしている。わかったか?」

 なにを? と、言われても、高みの見物と魔物退治以外のなんだと思っていたのだ?

「え~と、私は、魔物退治に行くぞと言われて剣と鎧を纏って着いてきたのですが?」

「ん? 現行でしてるだろ? 俺は魔物を使って魔物を退治している。完全な魔物退治だ」

 スピカは早々に興味を失ったのか、身を伏せて観測を続ける俺の背中の上でゴロニャンコと決め込んでいる。

 『剣』を使って魔物を倒せば、EXPが手に入る。

 ならば、『魔物』を使って魔物を倒せば、EXPが手に入るに決まっているだろう?

 実際に魔物を誘導しただけの俺のLvはしっかりと上がっている。

 副業に『魔物使い』が加えられたせいかもしれないが。

 剣を使うと言っても使役しているわけではないのだから、魔物を使うと言っても調教して使役する必要は無い。


 上手く使って潰せばそれでいい。


 数は多いが打撃主体でジャイアントブラックベアに有効打を与えられないオーガ。

 膨大な数ではあるが、オーガの鉄根や鉄斧で殺されてしまうアイアンアント。

 一頭であるがゆえに数多くのアイアンアントから鋏で細かい傷を負わされてしまうジャイアントブラックベア。

 グーが勝つか、チョキが勝つか、パーが勝つか。

 実に難しい難問だ。


「スピカはどれが勝つと思う?」

「えっとねぇ、熊さん」

「そうか、じゃあ熊さんが勝ったらご褒美だな」

 さぁ、何を強請られるやら解らないが、女に甘えさせる隙を作るのも男の甲斐性の一つだ。

 そうして眼下の戦場を眺めていると、シャウラも意見を聞いて欲しげにチラチラとこちらを視線を送ってくる。

 気付きながら俺は……無視をした!!

 このシャウラの弄られキャラっぷりはゾクゾクものだ!

 ありがとうセレスティアル姫!! 確かな人選だ!!

 色気と言う面では一切役に立たないが……。

 金髪と銀髪の大小乳の美少女セット盛り合わせなベッドの中なのに、まったくぜんぜん色っぽい雰囲気にならない。

 なぜならば、寝台の中では即寝とガン起きの二択だからだ。

 どちらを相手にしても、そういう流れに持っていけません。

 軍曹殿! 自分はどうすれば良いのでしょうか!? サ~?


「シャウラはどれが勝つと思う?」

「わっわわわ、私はっ! オーガ! オーガが勝つと思います!!」

「声が大きい」

「す、すすす、すみません……」

 眼下の戦場の惨劇ぶりを見るに、この高台で宴会を開いていても全く問題は無さそうだが、一応はスニーク中なのだ。

 気をつけるに越したことは無い。

 グーがオーガ。

 チョキがアイアンアント。

 となるとパーがジャイアントブラックベアになるわけか。

「では、俺はアイアンアントに賭けることになるわけか。俺が勝ったらご褒美は何にしようかなぁ?」

 レベルアップの度に鳴る『パパパパーパーパーパッパパー♪』の音を気合で消せることを理解して以来、常時OFFだ。

 知らせるまでも無い優先度の低い情報は、有益な情報を押し流す雑音だ!!


 それにしても、今の自分のステータス表示が怖い……とくに称号系。

 街の冒険者の皆さんにお酒を奢りながら聞いてみた。

 称号というものは自らのステータスに小さいながらも作用し、時には大幅な恩恵を受けることもあるらしい。

 ただ、未だにステータスの厳密な数値化には至っていない俺にはさっぱり解らない恩恵の数々であった。

 しかし、ジャイアントブラックベアの熟成中の餌を拝借しただけなのに『盗賊』と『墓荒らし』の副業が付いた一件が解せぬ。

 あと、大柄な殺人未遂犯のアレのアレをアレにした際に付いた『男殺し』の称号も解せぬ。

 さらに男&雄に対して三割増しのダメージを与えるという『男殺し』の絶大なバフ効果がもっとも解せぬ。


 俺のステータス表示との勝負は気合が鍵であった。

 今ではMPのみを視界の片隅に表記させている。

 コマンドーとして残弾数の確認は必須条件だからだ。

 他は必要ない。身体の感覚で全て解る。

 勝負の始まりは、手習いとしてスピカから魔法を教えてもらって居る最中、ステータス表示の野郎は『ファイア』『ファイアボール』『ファイアストーム』『ファイアウォール』『ファイア(ry』と火の魔法のスキル細分化を試みた。

 なので、火の魔法は全部、魔法(火)だっ!! と、五時間に及ぶ気合による命令によって受諾させた。

 今では俺も立派な魔法使いだ。魔法(火・水・風・土)の四大元素を扱えるのだから。

 結果としてどんな魔法が使えるのかは自分でもよく解っていない。

 今後、時間や空間、重力、電気、磁気などの属性を覚えた際には、全てを魔法の一字に閉じ込めるためのステータス表示との長い長い気合の勝負が待って居るのだろう。

 スキルは気合で変えられるからまだ良い。

 だが、副業と称号は気合を持ってしてもどうにもならなかった。

 そもそも副業なんだから辞める事もできるはずだろうに。

 おのれステータス表示め……いずれは気合で全てを捻じ伏せてくれるわ!!


 ◆  ◆  ◆


 さて、期待の怪獣大決戦。

 まず最初の脱落者はオーガでした。

 最初はおおよそ700体ほど居たオーガが今では絶滅を危惧するまでもなく絶滅しました。

 ジャイアントブラックベアとの相性が悪すぎた模様。

 さて、残るは一頭のジャイアントブラックベアとアイアンアントの大軍団。

 だが、その前に、言っておきたい事がある。


「シャウラ、お前の賭けたオーガが真っ先に脱落したから罰ゲームだ」

「え、え、え、ええぇぇぇぇぇ……」

「大丈夫。シャウラ……がんばれ♪」

 なんの慰めにもなっていないスピカの声援を頼りに頑張るといい。

 ちなみに罰ゲームはミニスカートで城下町を一日散歩だ。

 帯剣は許しておくので、滅多なことは起きないだろう。

 起きるとしたら、絡んできた相手が滅多刺しになることぐらいだろうか?

「は、はわわわわわわわわわわわわ……」

 想像力の限りを使って何らかのエロスな罰ゲームを想像しているのだろう。

 頭から煙が昇りそうだ。

 スピカよ、適当に頭から水を被せてやると良い。


 そして俺は、じーっと戦況推移の観察を続ける。

 全長10mのジャイアントブラックベアの肉体と長毛は、アイアンアントの鉄の鋏を持っしても噛み千切ることは難しいようだ。

 そして、ジャイアントブラックベアの平手打ちでベチンと叩き潰されるアイアンアント達。

 まぁ、あれだけ巨体のジャイアントブラックベアの力がオーガ以下ということもあるまい。

 数が勝つか、実力が勝つか。

 あとは時間の問題……。

 あ、オーガの遺体を引き摺ってコロニーに持ち帰ろうとするアイアンアントが居た。

 結果、獲物を奪われたジャイアントブラックベアがそれを追う形に。

 戦場が次第にオーガの村からアイアンアントのコロニーの方向に移って行くので、俺達も追いかける。

 スピカは完全にスーピカスーピカと眠っていたので背負った状態で起こさないように気を付けて運んだ。

 ……心の底から誓われたはずの忠誠ってなんだろう? ご主人様ってなんなんだろう?


 ◆  ◆  ◆


 結果から言うと、ジャイアントブラックベアの一人勝ちだった。

 ギルドの報奨金としては三番手だったのだが、人間基準の危険度と実力の差の違いというものか。

 そして俺は用意してきたジャイアントブラックベア専用の槍型必滅兵器『エイナルプラッガー』の柄を握る。

 700のオーガ、数千のアイアンアントのEXPを吸収したおかげで、すでにLv82のコマンダー。

 身体能力がかなり上昇した感じはするものの、だからといって正面切ってジャイアントブラックベアに勝利できるとも思えない。

 あのブラックドラゴンにも勝てそうには無いし、軍曹殿は……想像すら及びません! サー!


 ジャイアントブラックベアはオーガの肉を奪ったアイアンアントを追って、そのままコロニーの穴を掘りはじめ、アイアンアントの女王すら殺しきった。

 結果、アイアンアントのコロニー跡地は露天掘りの鉱山のような状況になっておりました。


 今は数少ない残りのアイアンアントを潰して廻っている最中なので、スニークとサイレントムーブを利用して、ジャイアントブラックベアの背後をとる。

 それにしても、どうして犬とか猫とかの四足歩行の生き物の歩く後ろ姿はこうも無防備に見えるのでしょう?

 玉とか、穴とか、丸見えだよね。


 槍型必滅兵器『エイナルプラッガー』

 差し込むには易く、抜き出すことは鋭い返しが幾重にも付いているため絶対に適わない、実に恐ろしい必滅兵器。

 軍曹殿に使用された際は、何度も何度も死に還りを経験しながら、自らの腹部を切り裂いてようやく取り出せました。

 俺は無意味な音を発てず、剥き出しの無防備な出口に向かって、ただ一閃!!

 脂を塗り滑りをよくされ丸みを帯びた槍の穂先は大した抵抗も無く、ジャイアントブラックベアの体内に侵入完了!!

 打撃、斬撃への耐性はあるが、刺突への耐性は持ってないのだったな。

 まぁ、どうせこの部位に限れば同じ事だろうが。

 さて、ジャイアントブラックベアがヌルリンという不思議な感覚に戸惑っているうちに逃げるとしよう。

 スニークとサイレントムーブを利用して、森の中へ、そして、高台へ戻ってくる頃にはジャイアントブラックベアはのたうち回っていた。

 うん、俺も経験したから、その気持ち解る。

 でもね、その兵器の恐ろしさは、もっと後日にあるんだ……。


 ところで、熊は冬眠をする生き物ですが、その冬眠の仕方が面白いんですよ。

 まず肛門部にとっても硬い排泄物を置き、それを蓋として、一冬の便秘を我慢するんですね。

 ちなみに『エイナルプラッガー』は前には進んでも、後ろには返しの刃の為に絶対に進まない構造をしています。


 一日目、お尻の痛みに耐えながら、なんとか活動を続けるジャイアントブラックベア。

 二日目、お尻の痛みに耐えながら、排泄行為を試みるが、それが適わないことだと気付くジャイアントブラックベア。

 三日目、お尻と排泄不能の痛みに耐え切れずに転げまわるジャイアントブラックベア。

 四日目、それでも飢えのために食事を摂取する他なく、さらなる腹部の膨張を見せるジャイアントブラックベア。

 五日目、体内でガスが膨張し、妊娠六ヶ月目の胎児を抱えたかのような腹部のジャイアントブラックベア。

 六日目、排泄不能のため腸内ガスによる自家中毒と大腸内の細かな傷の出血および毒素混入により泡を吹いて倒れたジャイアントブラックベア。

 七日目、ピクピクとした痙攣が止り、『パパパパーパーパーパッパパー♪』という音ともにジャイアントブラックベアの死を確認した。


「勝った……長く、苦しい、戦いだった……」

「ナナシ様? 私は、ずっと見ていただけの気がするのですけど?」

「お風呂入りたい……」

 あ、そういえば賭けはスピカが一等賞だ。

「スピカ、賭けはお前の勝利だ。ご褒美には何が良い?」

「お風呂に入りたい。あと、このまま抱っこで帰りたい」

 お姫様な銀髪猫さんの気の向くままに、王都へ帰還した。

 そして、いつもの十倍は気前の良いお貴族様用の豪華な宿を取り、その大きなお風呂場で二人で遊んでまわった。

 裸の美少女が、一緒に、お風呂の中に居て、肌と肌を合せて居るのに、なぜ、反応しない? 俺の俺よ?


 あぁ、ワンワン乙女シャウラに関しては風呂に入れた直後、裾の長さがギリギリ過ぎる服を着せて、宿から放り出した。

 夕方過ぎに帰ってきて俺にしがみつき、途端に泣き出したときになって失敗したと心の底から悔やんだ。

 ……ちゃんとスニークを使って追跡して、恥じらいで顔を泣きそうになってるシャウラの姿を観察しておけば良かった!!

 次があるならそうしよう。


 きっと、次の機会は遠くない。


 ◆  ◆  ◆


 冒険者ギルドの受付けであるジェローム立会いの下、戦果の確認を行なった。

 ジャイアントブラックベアの巨大な腹部の膨らんだ死体。

 完全に炎上し、壊滅したオーガの村落と死骸の山。

 露天掘りされて完全に破壊されたアイアンアントのコロニー。

「アンタ、いったい、コレはなにをやったんだ?」

「我が国に伝わるコマンダーの秘術を使ったまでのこと、これで依頼は完了で構わないな?」

 コマンダーの秘術『敵の敵はやっぱり敵』の術だ。

「あ、あぁ、完全に依頼完遂だよ。ジャイアントブラックベアが一体、オーガが七百体、アイアンアントが……どう数えればいいんだこれは? とりあえず、五千以上だな。こちらで冒険者連中に依頼を出して素材としての回収から売買を行なって、純益のうちの五割がアンタの取り分だ。アンタが手配から販売まで全て受け持つなら十割全部アンタのものだが、どうする? あ~、これは鉄相場が荒れるぞ。魔法繊維の相場もだな」

「回収に売買はギルドに任せる。しかし、鉄は解るが魔法繊維の相場が何故荒れる?」

「ジャイアントブラックベアの毛を糸にしたものを練りこむと、ただの服なのに斬撃と打撃を防ぐ魔法の服になるんだよ。その辺の鎖帷子よりずっと軽くて、ずっと頑丈な服だ。喉から手が出るほど欲しがる連中も多いのさ。毛糸の盾なんて冗談みたいな装備もあるんだぜ?」

 あぁ、死んでもその魔法防御の効果は残るのか。

 考えてみればドラゴンメイルとか、ただドラゴンの鱗を貼り付けただけであんなに防御性能が良くなるわけがないものな。

 まぁ、鉄材も、魔法の繊維も、ブラックドラゴン対策のために必死になって国が買い上げてくれるだろう。

 相場が崩れて俺が困るという事も無さそうだ。

 ただ、オーガーの皮を使った革の鎧も作ると聞いたときには、冒険者の世界の世知辛さを感じた。

 人型の生き物の皮は、ちょっとなぁ……。



 まず、盗人を出さないための警邏隊。

 次に、回収して解体部に回すための回収班。

 それから、魔物の解体を得意とする素材の解体班。

 ジェロームの、冒険者ギルドの仕事の手際は速かった。

 警邏隊にはLvと功績値の高い者を、回収班はそれなりに、解体班は功績値の高い者が選ばれた。

 結局は、火事場泥棒が出ないようにというギルド側の配慮なのだろう。

 途中、国から『格安』での買取オファーがあったらしいが鼻で笑って終ったそうだ。

 警邏も、回収も、解体も、命を懸けるほどの危険がない安全な仕事でありながら、その分量から十分な収益が皆にあったらしい。

 その為、美味しい仕事を回してくれた期待の新人といて冒険者ギルドのメンバー内での期待評価も上がった。

 そして、美味しい仕事を生み出した脅威の新人として冒険者ギルドのメンバー内での脅威評価も上がった。

 敵に回さず、味方に付けることが正しいと理解されたようでなによりだ。


 さて、そろそろ、俺の今生における最大の宿敵との対決といこう……。

 こいっ! ステータス表示!!


 ◆  ◆  ◆


 ステータス表示(略式)

 名前:ナナシ

 職業:コマンドー

 副業:勇者 斥候 暗殺者 オゾマシキモノ(偽) 捕食者(偽) 傭兵 人買商人 墓荒らし 盗賊 魔物使い 槍使い マタギ

 Lv:87 EXP:63/100

 HP:1/1 MP:100/100

 スキル:アナライズ スニーク サイレントムーブ アンブッシュ サプライズアタック トラップ テイクダウン タクティクス エキスパートオピニオン サイレントキル チェインキル 咆哮フィアー 魔法(火・水・風・土) アナルファック

 称号:死者冒涜 オゾマシキモノ 捕食者 男の敵 女の敵 肌色の奴隷 挑戦者 卑怯者 鬼畜 大量虐殺者 魔物潰し 鬼殺し 男色家 熊を孕ませし者 熊殺し ロリコン紳士 変態貴族 成金野郎


 ふむふむ、なるほど……ステータス表示くん?

 ちょ~っと、体育館裏で話そうか?


 まずはね、副業のことだけどね、

 墓荒らし……ん~、まず相手は人間じゃないし、そもそもあそこは墓場ではなく食糧熟成室だよね?

 盗賊……ん~、重ねて言うけれど、相手は人間じゃないでしょう? 相手は熊でしょう?

 魔物使い……これは完全に語弊を招く表現だよね?

 槍使い……確かに使いましたね、エイナルプラッガーは槍型必滅兵器ですから。

 マタギ……お前ん中じゃ熊さえ殺せばマタギ認定なんかいっ!?


 あとな、スキルの『アナルファック』ってなんだ!? ただの弱点を狙った刺突攻撃だろ!!

 じゃあ金的の時に『ゴールデンクラッシャー』も追加しとけや!!

『パパパパーパーパーパッパパー♪ ゴールデンクラッシャーを……(今更、追加するなっ!!)


 次は、称号だな。

 挑戦者……これは、ブラックドラゴンにエキスパートオピニオンを仕掛けた際の無謀な行為によるものだな。

 卑怯者……うん、褒め言葉だな。たまには気の利くことも言うじゃないか。

 鬼畜……うん、褒め言葉だな。たまには気の利くことも言うじゃないか。

 大量虐殺者……うん、褒め言葉だな。たまには気の利くことも……いい加減にしやがれこのやろう!!

 魔物潰し……あぁ、潰しあせましたね!! 魔物をこうゴリゴリっと。

 鬼殺し……そうね、間接的にだけどオーガ殺したね。

 男色家……違うわぁぁぁぁっ!! ただ弱点を攻撃しただけじゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 熊を孕ませし者……ただの便秘で腹が膨らんだだけで孕ませて無いわぁぁぁぁぁぁっ!!

 熊殺し……そうね、熊を殺したよ。熊を、殺した、だけなんだよ。だから前の二つは取り消してくんないかなぁ?

 ロリコン紳士……ん? なんだこれ? えーっと……ニャンニャンのスピカと一緒にお風呂に入ったけれど、することをしなかったからか?

 変態貴族……シャウラにきわど過ぎる服を着せて屋外に行かせたからか? それとも、次は覗きに行くと心に決めたからか?

 成金野郎……なんで成金じゃなくて『野郎』が付くんだよ!! お前、絶対に私情挟んでるだろ!? ステータス表示!!


 ぬううう、おのれステータス表示め、余計な副職と称号を増やし続けおって。

 覚えておけよっ!! いずれ称号消しのスキルを取得してやるからなっ!!


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