第一話 副業:勇者
こうして俺は異世界にやっと転生した。
いや、転移した。が、正しいのかもしれない。
軍曹殿からは勇者としての使命についてはこう告げられた「好きにしろ。自由だ」とだけ。
もしも世界が危機にあるときに戦うのも自由、戦わぬのも自由。
そして、戦わないばかりに世界と共に自分自身が滅びるも自由。
前の人生では、大型トラックを前にして動かない自由を選んだ。
その前世の自由の結果がこれだ。
人生万事塞翁が馬とも言うが、人生の終わりの後まで塞翁が馬とは思わなかった。
とりあえずは現状の認識だ。
今、俺は、道の上に立っている。
地面を人や車が踏み固めただけの、人工物の名を冠するには少々手間が足りていない道だ。
舗装道ではない。石畳でも無い。これはこの世界の文明レベルを象徴している。
今、俺が立っているのは田舎の道なのかもしれないが、現代日本の基準に照らし合わせても日本の農道の方がずっと上だ。
前世においては途上国などでただ踏み固めただけのあぜ道を利用する国もあった。
世界全体がそうだと考えるのは早計だが、この周辺の文明レベルは推し量れた。
道や建造物は、その文明の尺度である。
そしてなによりも、轍がある。蹄の跡があった。
これ、馬車の通り過ぎた後だよね?
これはつまり、中世や近世レベルの文明進歩度なのだろう。
そうして先ほどから自己主張の激しい『ステータス表示』という視野の一角を邪魔する光の文字に目を向ける。
目を向けると『ステータス表示』も目の動きにあわせて逃げてしまうため、正確には意識を向けた。
するとRPG的な、おっと、対戦車擲弾の方ではないぞ?
RPGのゲーム的なステータス表示が俺の視界を遮った。
一言で表すならば、「邪魔」だ。
◆ ◆ ◆
ステータス表示(略式)
名前:<未登録>
職業:コマンドー
副業:勇者
Lv:1 EXP:0/100
HP:1/1 MP:100/100
スキル:アナライズ スニーク サイレントムーブ アンブッシュ サプライズアタック トラップ テイクダウン タクティクス
称号:なし
◆ ◆ ◆
……軍曹殿、自分のメインジョブはコマンド部隊のようです。サー!
たった一人のランボー者です。映画の1ですね! 警察署は何処にあるのでしょう? サー!
そして、勇者訓練ブートキャンプを終えた筈なのに、勇者の職は副業に追いやられておりました。
さらに俺は俺のステータスについて色々とツッコミたい!!
転生したてなのだからLv1は理解できる。EXPが0も解る。
でもHP:1/1って、掠り傷一つで死んじゃう虚弱体質なのですか俺は!?
それに名前は生前のものがあるでしょ!?
いや、でも、転生したこの身。
そして名前って本来、自分で付けるものじゃなくて親や他人が決めるものだったか……。
あれ? そうすると……俺って生涯、未登録なの?
とりあえずは「ナナシ」とでも名乗っておくとしよう。
あとステータス表示の(略式)が気になる。
ならばステータス表示(詳細)なり(正式)もあるのだろう?
さっさと表示するんだ、ステータス画面よ。
◆ ◆ ◆
ステータス表示(詳細)
名前:ナナシ
職業:特殊勇者教練基礎過程修了生コマンド部隊隊長
副業:勇者
Lv:1 EXP:0/100
HP:1/1 MP:100/100
STR(頭部):100/100
STR(胴体):100/100
STR(右腕):100/100
STR(左腕):100/100
STR(右脚):100/100
STR(左足):100/100
VIT:100/100
CON:100/100
MEN:100/100
SAN:100/100
INT:100/100
AGL:100/100
DEX:100/100
MAG:100/100
スキル:アナライズ スニーク サイレントムーブ アンブッシュ サプライズアタック トラップ テイクダウン タクティクス
称号:なし
◆ ◆ ◆
まず、名前が「ナナシ」に変りました。
次に俺はコマンド部隊の隊長のようです。隊員は、もちろん俺一人!!
そしてHPが1の理由も解りました。
人間、一人には一つの命しかありません。
ですから、HP:1/1は実に正しい表記ですね!! あまりにも正しい、命の『残機制』の表記!!
あとの数字が全て100/100で示されているのは百分率。
つまり、これはステータス画面ではなく……ダメージコントロールパネルじゃないですか!?
そうね? STRが右腕と左腕で同じなわけないものね!
ATKとか武器の当たり方で全然違うから数字に出来ないものね!
DEFとかそんなの受け方次第なんだから数字に出来ないものね!
LUKとかそんなあやふやなものを数字に出来るわけないものね!
失せろっ! ステータス画面!!
視覚の一部を隠すのも止めて完全に姿を消せっ!!
邪魔だっ!! 精神的にっ!!
もっとピコピコライクなRPGを期待していたのに、少々リアルライクなRPG世界に飛び込んだ模様。
でも受けてきた訓練を考えれば、ピコピコよりもリアルの方が実際には良いのかもしれません。
いや、これで良~いのだ!!(自分向け演説)
そうやって自分を励ましながら、さらに状況分析を続けた。
轍があって、馬の歩幅が広く、それを追うように無数の小さな足跡が続く。
踏み込みは前足で土を削るような形をしているところから、これは走った足跡だ。
ゆえにこれは逃亡劇が繰り広げられている証拠だ。
つまり、この道の先には逃亡者と追跡者、そして逃亡先となる街か何かが存在しているということ。
では、街を目指して向かうとしよう。
逃亡者と追跡者に関しては、どちらが正義かどちらが悪か、はたまたどちらも「正義」を名乗る者共やも知れぬので放っておきたいところだ。
戦況分析が終らないうちから首を突っ込むような馬鹿な真似はしたくない。
と、思いながらスタコラさっさと追跡者を追跡して走り続けたところ、道の先には倒れた馬と、横倒しになった馬車と、緑色の大群衆。
俺はとっさに横合いの茂みに身を隠して状況のさらなる観察を続ける。
なかなかの貴人が乗り合わせた馬車なのだろう。
横倒しになった馬車には豪華な装飾が施されている。
素材となった木材自身も泥だらけだが高級感にあふれている。
それを襲っているのはいわゆるモンスター達。
緑色の大群衆とも言える小鬼はゴブリン、あるいはFC岐阜のサポーター達だろう。
ゴブリンは小学校高学年程度の背丈に、武器は身の丈に応じた短刀や短槍に小さめの弓。
背が高いほどにむしろ下方向からの攻撃はしのぎ難くなるため、そこそこに戦い辛い相手だと思う。
……のだが、馬鹿のようにゴブリン達は背筋を立てたまま体勢を低くしないため、高学年の小学生のように大人の騎士達に蹴散らされていた。
まさしく児童虐殺の図だな。
ゴブリンよ、蜘蛛のように屈め、そして抉るように槍先を腰下に向けて突きたてるんだ!!
そうすれば簡単に相手の攻撃は当たらん! そして、相手は簡単に攻撃を避けられん! そして相手は簡単に受けられん!!
猛将を狙わんとすればまず腰下を狙うのだ、ゴブリン達よっ!! 運良く大腿動脈を傷つければ大量失血による勝利確定だ!!
『パパパパーパーパーパッパパー♪』
む? なんの音だ?
『エキスパートオピニオン(鑑定)のスキルを入手しました』
うるさいっ!!
今は戦況分析中だ!!
静かにして黙ってろ!!
しかし、エキスパートオピニオン(鑑定)か……。
対象、ゴブリン(仮)を鑑定!!
『鑑定対象:ゴブリン
平原、森林、山岳まで幅広い生息域を持つ繁殖性の高いモンスター。
多くの地域で集落であるコロニーを形成し、近場の弱小モンスターや動植物を餌として生活を営む。
総じて戦闘能力は低いが、その数を活かした人海戦術を用いて大きな獲物を仕留めることもある。
上位種族にはホブゴブリンがあり、これらを貴族階級とした社会を形成することもあり、
その場合にはより高度な戦術に従った軍事活動を行なう場合もある』
ほほう、つまりは、ゴブリンは急揃えの民兵達なのか。
なるほど……錬度がまったくなっていないわけだ。
そして、あの後方の高台で踏ん反り返っている大きな個体が上位種族のホブゴブリンという訳だな?
『鑑定対象:ホブゴブリン
ゴブリンの上位種族であり、ゴブリンに対する強い命令権を持つ。
総じてゴブリンより高い身体能力と高い知性を持ち、人語を解する個体も多い。
多数のゴブリンを使用した人海戦術や、それに伴った包囲や挟撃などの戦術を用いることもある。
知性が高まった結果として雌のホブゴブリンは金や銀などの装飾品を好むようになりその繁殖性は激減、
雌のホブゴブリンの気を惹くために雄のホブゴブリンは人間の行商人や貴人の荷などを襲うことがある』
なるほど、単なる狩猟目的ではなく女に貢ぐために頑張って人間を襲って居るのか。
……惚れた女のために、なんとも健気じゃないか。
ホブゴブリンよ、種族は違えど女の業の深さに男は泣かされる生き物なのだな……。
さて、戦況分析は完了した。
貴人が乗ったまま横転し、動けない馬車という儚い砦が一つ。
それを囲んだゴブリンの民兵達が五百余名。
馬車を守るために離れられない十余名の騎士達が円陣を組んで防戦に勤め、遠巻きに発射される小弓によって矢傷を増やしつつある。
小高い丘に構えられた司令官のホブゴブリンを中心とした弓兵部隊の陣。その背後には林。
その丘の下には動けない馬車を包囲された状態の騎士達の防御円陣。
それをさらに遠巻きに包囲したゴブリン民兵の大群衆。
後方から数で追い立てられ、丘上からの弓の一斉射撃によってこの場で馬の脚を失ったのだろう。
まぁ、命の蝋燭の長さは持って半日というところ。
人間、休息無しで戦い続けられる時間は錬度に限らずそう長くはない。
ゴブリンは交代して休息を取れるが、弓と包囲によって騎士達はそれを許されない。
ふむふむ、つまり戦況は詰んでいる。
では、ここで俺に提示される三つの選択肢。
1・このまま林の裏手を通り抜けて街へ去る。あるいは、ぼーっと隠れ続け、ゴブリン軍団が去るのを待つ。
2・五百余のゴブリン集団に徒手空拳で挑み、一騎当千の大活躍を見せて死ぬ。
3・生暖かい目で騎士達が死ぬのを見届け、ゴブリン達が貴金属を奪い去った後に残った剣や鎧等で当面の装備を整える。
個人的に2は避けたいところだ。
俺も命は惜しい。なんと言っても死んだところで「おぉ、勇者よ死んでしまうとは情けない」とばかりに軍曹殿が目の前に立っている可能性が非常に高い。非常に高すぎる。とっても非常に高すぎる。
人道的に3も避けたいところだ。
やはり、戦士の骸を漁るという行為は同じ戦いを生業とするものとして避けたい気持ちがある。
これが傭兵であるなら日常の光景なのだろうが、なにせ俺の副業は勇者だ。
下手をすると副業が勇者から死体漁りのスカベンジャーになりかねない。
であるなら、消去法によって1の『傍観する』が正解だな。
と、いうわけで高見の見物をするホブゴブリンの、さらに後方の林のなかで高見の見物のゴロ寝と決め込むとしよう。
俺を起こさないでくれ、死ぬほど疲れてる。
◆ ◆ ◆
頑張れ! 騎士達! 頑張れ! ゴブリン達!
思えば、運動会の綱引きの際、場内アナウンスが両陣営の両方に声援を送るのは不誠実なのではないだろうか?
よし、ここは死ぬ覚悟を決めているはずの騎士達よりも、無理やり戦わされているゴブリンに心を移そう。
頑張れゴブリン! 負けるなゴブリン! あと一息だ!
騎士の円陣に着かず離れず、そして、精神を削り、矢傷で命を削るんだ!!
人間は二十四時間戦い続けていられないからな!!
前衛と後衛で交代しつつ命と精神の消耗戦に持ち込むんだ!!
ガ・ン・バ・レ・ゴ・ブ・リン♪ 負・け・る・な・ゴ・ブ・リン♪
リン♪の部分で声を弾ませる部分が素敵ポイントだ!!
騎士達は戦士であるのだから自らの主のために死ぬことも仕事のうちだ。
ホブゴブリン司令官殿も殺しに来たのだ、殺される覚悟くらい出来て居るだろう。
可哀想なのは強制的に連れ出され、何の訓練も受けないままに戦場に放り込まれたゴブリン民兵達だ。
多くの命を落として得られるものは馬肉と少数のヒューマン肉のみ。
キラキラしたものやピカピカしたものは全てホブゴブリン司令官殿の懐の中に。
それも、女に貢ぐために……だと?
それは、やるせない……やりきれないなぁ……?
撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだとドラマの中でタフガイは言った。
本業はコマンドーとはいえ副業は勇者、これは見逃せんな。
いや、本業、副業、その両方の心が許しておけんな……。
司令官となる下半身に忠実なホブゴブリンは一匹。
いや、この場合は司令官ではなく奴隷頭といったところか。
挟撃する。包囲する。待ち伏せする。と言った脳はあっても、斥候を散らせておく脳まではなかったか。
さて、死角であるホブゴブリン弓兵隊の左後方からサイレントウォーク。そして右方の木の幹へ小石を投擲。
石と木の幹の間でコツンと快音がすると、うかつな民兵である何匹かの弓兵ゴブリンが茂みの方へ様子を伺いにやってくる。
だが、残念なことに俺が伏せている位置は、その反対側なのだ。
最後尾のゴブリンに対してスニーク状態で近寄り、そしてテイクバックからの頚椎快音キル!!
ゴブリンが身に付けていたナイフを奪って左右の手に、背後から首筋へ、チェイン! チェイン! チェイン! チェイン! チェイン!
これで合計六体の……。
『パパパパーパーパ(うるさいっ!!)
時間との勝負なので、気合を使い脳内音を掻き消してゴブリンの遺体を近くの木の根元へ運ぶ。
俺はさらに走る。
そして、もう一度、小石を投げて木を叩く快音を挙げると後方を振り返ったゴブリンが多数の遺体を見つけて騒ぎ始める。
さて、惚れた女の為に奴隷を使役したホブ司令官殿はどう動くだろうか?
周囲の弓兵部隊を山狩りに出すか?
騎士を囲む円陣の一部を山狩りに出すか?
周辺の警戒を保って閉じこもるか?
いやいや、もっとも愚かなことにホブゴブリン様が直々に、六体のゴブリンの遺体を検分に近寄って来たじゃないか。
木を隠すには森の中、灯台は元暗し、では、六体の遺体が置かれた木の直上はどうだ?
俺はホブゴブリン殿に飛び降りざまのテイクダウン。
自分の背を地面つけて背後の防御を固め、ホブゴブリンを仰向けに抱え、ゴブリン達への盾代わりにして一時的な安全を確保する。
ゴブリンもホブゴブリンも一瞬の出来事に未だ意識が追いつかず、その意識は空白になったままのようだ。
「そういえば……女への貢ぎ物を欲しがっていたのだったな? ならば、俺が一つくれてやるよ……」
この異世界におけるホブゴブリンの総HPが幾つかなど知らないが、一つの肉体には一つの命だろう?
首筋に抉りこませたナイフの刃先で左右両側の頚動脈と内頸静脈の計四本を切られても耐えられるだけのHP残高はあるのかな?
「赤き血のネックレスだ、喜べ!!」
鮮血がネックレスとして吹き出す。
一瞬で脳への酸素供給が止り、僅かな時間ビクビクと身体を震わせて、ホブゴブリン殿の命は血と共に失われた。
ホブゴブリンはHP:0/1の状態になったようだ。
残るはゴブリン民兵、いや、ゴブリン戦奴達か……。
『パパパパーパーパ(うるさいっ!!)
あとは、印象の問題だな……。
思考の空白と恐怖に固まったゴブリン達を尻目に、ホブゴブリンの亡骸を抱えあげ、そして俺は大きな声で笑った。
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲゲラッチョ!!」
もちろん、俺の顔と言わず上半身はホブゴブリンの鮮血のネックレスで真っ赤に染まっている。
それは何の訓練も受けていないゴブリン民兵が正視に堪えられる限界を超えていた。
結果、彼等は逃げ出した。
腰を抜かしたまま失禁しながら這いずるようにして逃げだした者も居た。
さ~て、ホブゴブリンさまの持つ、雑兵のゴブリンナイフよりも立派なホブゴブリンナイフに持ち替えてご~りごりっと。
刃を痛めるので骨を切断する必要は無い。
問題となるのは周囲の腱と肉だ。
ナイフを刺し込んで切れ込みを入れ、あとは思い切りよく回転させる。
骨は硬い。だから、テコの原理でよく折れるしよく外れる。
周囲の腱さえなければ簡単に取り外せるものだ。
軍曹殿に、何度取り外していただいたものだろう。上手に頚動脈を避ければ殺さずにでも外せるものなのですね。サー!!
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
上手く外れたので、なんとなくトロフィーを手に入れた捕食者のように叫んでしまった……。
ここからは、簡単だ。
丘の上からホブゴブリン様の新鮮な生の首を掲げて見せつけてやれば良い。
これで『戦う理由』が、無くなる。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
掛け声は何でも良かったのだが、なんとなく叫んでみた。
丘の下、ゴブリン達の大群衆の視線が自分達の主であるホブゴブリンの姿を捜し求めると、生な首だけがそこにはあった。
死んでいるのに生な首。
そしてトロフィーを片手で鷲掴みにしている鮮血に赤く塗れた「何か」おぞましきもの。
元々、忠義ではなくホブゴブリンへの恐怖から付き従っていただけの戦奴の軍勢。
さらなる恐怖が現われたなら瓦解するのも早い早い。
緑の大群衆が、道を右へ左へ、反対側の森に逃げ出す連中も沢山。
さようならゴブリン民兵達……いや、ゴブリン戦奴達よ。
もう二度と理不尽なご主人様に掴まるんじゃないぞ……。
そして円陣を組んでいた騎士達が、一斉に剣先や杖の先を俺へと向け直した。
……おいおい、命の恩人に向かってなんて失礼な連中だ。
丘を降りて近づいてからトロフィーことホブゴブ頭をぽいっと投げつけてやる。
そこまでしてやっと自分達が命を助けられた側だと理解できたようだ。
いや、俺が人間だと理解できたようだ。
……ん? この待遇は「キシャアア」とか叫んでみせた俺の奇行のせいなのか?
◆ ◆ ◆
血を洗い流すための水を要求すると、快く魔法のシャワーで洗い流してくれた。
馬車の護衛に着いていた銀髪の魔法少女ちゃんが湯水の如く、まさしく水なのだが、水を頭からかぶせてくれて助かった。
血液は凝固すると拭い取ることが難しくなり、何よりも被害を受けるのは頭皮だ。
毛と毛がガチガチに接着されて、頭皮ダメージが著しくなることを野生の王国で学ばされたのだった。
将来のために洗っておかねばならない。
そうやって水を被りながら馬車の護衛達一人一人の戦力をチラリチラリと分析する。
質は悪くない。
いや、むしろ極端に良い。
体幹の動かし方、足の運びから解る。
普通の戦闘状況ならばこの半数の数でも十分にゴブリン五百体を壊滅できただろう。
百も殺せば向こうが逃げる。
だが、今回は護衛対象が悪く、そして、ホブゴブリンという将軍が居た。
横倒しになった馬車に乗っていたのは一国の姫君。
自らの国を救える勇者を探して西へ東への強者探しの旅の途上であったらしい。
俺の副業は答える。
「俺こそがその勇者だ!!」
俺の本業は答える。
「だからどうした? 自国のことは自国の軍隊でなんとかするんだな」
お姫様の愛や、国民からの賞賛や、金や銀といったもののために懸けられるほど安い命を俺は持ち合わせていない。
そうだ! 自分の死は軍曹殿との再会を意味するのだ! どれだけの対価を積まれようとも自分の心は動きません!! サー!!
しかし、城にこもって部下を使いに出せばいいだけだろうに、わざわざ姫君自身が動いた理由が不明だ。
守るものという余計なリスクを背負わされ、行動を縛られて、全滅しかけた護衛の騎士や魔法少女が哀れで仕方ない。
こうやって一行の哀れな姿を見て戦況推移のあらかたの顛末が予想できた。
まず、背後から多数のゴブリンに襲われたため馬の速度に任せて振り切ろうとしたところ、丘の上、横背からの弓の一斉射撃で馬の脚を奪われた。
地面を見る限り、ご丁寧にも水を巻いて簡易な沼地まで作られていたようだ。
そして運悪く、いや、予定通りに馬車が横転。
指揮を取るべき上官の姫君様が負傷し、指揮系統を失った優秀な兵達はただ守りの一手である円陣を固めて尽くした。
結果、極めて優秀な騎士たちが、たかだか民兵ゴブリンの集団相手に全滅の憂き目を見せようとしていたのだ。
姫君様を守る護衛は優秀な兵だ。
だが、将ではないために命令が無くては兵は動けない。
ボブゴブリンは有能とは言えなかったが将だった。兵ではない。
軍隊は将と兵が揃って初めて軍隊足りえる。
頭と身体が繋がって初めて動けるようにだ。
姫君様を守る護衛達は、皆腕利きの近衛の名に相応しい兵士達だった。
これは、失われた指揮系統&有能な兵士VS凡将ホブ将軍&弱卒のゴブリン兵団の戦いだったのだ。
軍曹殿が仰っていた。
「部下を殺す無能な将は、まず真っ先に銃殺すべき対象だ」
本当に、まったくもって、その通りで御座いました……。サー!!