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第三話 勢揃いの一人の勇者


「スピカ、あとの事は頼んだぞ?」

「はい、承りましたぁ」

「シャウラ、面倒を起こすなよ?」

「なんで子供扱いなんですかっ!?」

 普段の自分の言動を省みろ。

 しかし、これより向かうのは……ある意味、地獄より恐ろしい地獄だ。

 軍曹殿のキャンプよりも恐ろしい地があるとは、自分は想像もしておりませんでした! サー!!

 自分は……自分は今、恐怖に震えております!! サー!!

 軍曹殿!! どうぞご加護を賜りください!!! サー!!

「では、俺は……向かう!! 地獄のキャンプへ、な……」

 ワンニャンアーミーが地獄へ向かう俺の背中を心配そうに見詰めていた。

 これより向かうは敵地の中の敵地!! 地獄の中の地獄!! 聖騎士団のキャンプ地だ!!


 ◆  ◆  ◆


 俺は裏ルートから手に入れた聖騎士の装備一式を着込んで聖騎士団のキャンプを目指した。

 総勢一万人の聖騎士達のキャンプ、一人や二人見知らぬ男が混じってもバレることはあるまい。

「お? 初めて見る顔だな? ……どうだ? 今夜?」

 即座にバレたっ!? あと、何が今夜だ!? それからどうしてズボンしか履いていない!?

 あぁ、鍛え上げられた三角筋、シックスパッドの腹筋、ピクピクと動く胸板……あぁ……あぁ……。

「すみません先輩。……自分には既に結ばれた兄弟が居るのです」

 聖騎士団伝統の兄弟制度。

 先輩の聖騎士と後輩の聖騎士の間に結ばれるパートナーシップ制度。

 百合の花咲く伝統の女学園なら美しい光景なのに、どうして薔薇の花咲く聖騎士団内では生々しく感じるのかなっ!? それはきっと実際に生々しいからじゃないかなっ!?

「そうか! すまなかったな! お前の兄弟にもよろしくなっ!!」

 ここは、一万、いや、今は八千本の『ゲイ』ボルグが揃った地獄の性地。

 聖騎士団の駐屯するキャンプなのだが……なぜ、皆、上半身が裸なのっ!?

 いや、上半身裸……パンイチ……足が三本の新生物発見。

 あれは三本足の新生物!! あれは三本足の新生物!! あれは三本足の新生物なのぉっ!!

 ムキムキ……筋肉……パラダイス?

 天国? もしかして、ここは天国なの?

 わぁ~い、パライソさ行くだぁぁぁぁ……じゃない!! しっかりしろ!! 俺!!

 ここは天……地獄だ!! 地獄の二丁目だ!!

 くぅぅっ、肌色が眼の毒だ!! 事実上、SAN値を削っている毒だっ!!

 俺は逃げた!! ダンジョンだ!! ダンジョンならば!!

「ん? どうした兄弟? 今、ダンジョンは封鎖中だぞ?」

「うむ、ダンジョンは危険だからな。封鎖中だ」

 あああ、ダンジョンの入り口の左右に仁王象が建立されている!!

 右の阿形像に左の吽形像。どちらもムキムキマッスルでござるよ!?

 そしてなぜ、上半身が裸なのでござるかっ!?

 俺は正気を振り絞って手に持った花の束を見せた。

 そう、これは未だ引き上げられぬ死者への献花だ。

「そうか……お前の兄弟は、まだ見つからぬ身か」

「悲しくなったなら、我等の宿舎へ来い。何、たまには三人というのも良いものだぞ?」

 あああ、なにが三人なのですかっ!?

 すでに三人なら知ってますよ~だっ!!

 ワンワンとニャンニャンとワンニャンしましたよ~だっ!!

 俺は俯いて、肌色を目にしないように気をつけて駆け抜けた。

 きっと、彼等の眼には兄弟を失った悲しい漢の姿に見えたに違いない。


 そして、地下二十階層。出来る限り、離れて居たかった。

 あの天……地獄のキャンプから出来る限り離れて居たかった。

 出来ることなら地下三百階まで逃げたかったのだが、残念なことに地下二十階層が限界だ。

 俺の『ライフフォースセンサー』も磨きに磨きぬかれたもので、地上まで200mの距離があるというのに彼等の気配をしっかりと、しっかりと捉えてしまっていた。あぁ、パッシブスキルはOFFに出来ないのかっ!!

 そんな地下二十階層に一つの生命体の反応があった。

 きっと、モンスターの目を盗んで遺体の回収を行なっている『彼』だろう。

 報告書を通して一方的に知っている関係だが、様子だけは見ておきたかった。

 ……一言でいえば『彼』は病んでいた。

 聖騎士団と言う特殊ながら硬い絆で結ばれた兄弟達。

 それを見捨てた自分自身への罪悪感。

 『彼』は命懸になる遺体の回収を自らの贖罪として心に誓った。

 キャンプ地を見れば解るとおり、彼等は彼等なりの固い絆で結ばれた兄弟だ。

 何がノーマルで何がアブノーマルかはさておき、ノーマル以上の固い絆で結ばれた兄弟達だ。

 だから必ず遺体は回収するし、豪華な埋葬も執り行われる。

 ワンフォアオール・オールフォアワン。一人は皆のために、皆は一人のために、聖騎士団にはこの精神が息づいていた。……随分と生々しい形でだが。

 それは、強みであり弱みでもある。

 彼等はこのダンジョンの深さを知らない。

 彼等はこのダンジョンの凶悪さを知らない。

 彼等はこのダンジョンの悪意の恐ろしさを知らない。

 なにせ、コマンドーすら膝を屈したダンジョンだぞ?

 あぁ、こんなことが軍曹殿に知られたなら自分にはどんな懲罰が待ち受けることか……。サー!!


 聖騎士団の兄弟達は決して切れない硬い鎖で繋がれている。

 だから、ダンジョンにその鎖の一端が囚われたなら、ズルズルと引きずり込まれるだけなのだ。

 世界全体に散らばる聖騎士の数は三百万とも一千万とも言われる。

 そんな彼等は互いに硬い鎖で結ばれて、このダンジョンの中に引きずり込まれようとしていた。

 強さが、時に、弱さになる。

 まるで、大理石の匠の壁だ。

 ジェロームには敵が少々弱すぎたと言ったが、実際には敵が少々強すぎたのだ。

 壁が脆ければあそこまで水を溜めることは出来なかった。

 石壁の出来が悪ければ水漏れを起こして何処かから決壊したことだろう。

 完璧すぎる仕事が、完璧すぎるために仇となった。


 ……戦友の死のために、新たな戦友の死を呼ぶ。ここは本当の地獄だ。

 どこかで諦めをつけて欲しい自分と、プロヴィデン王国のためにズルズルと飲み込まれ続けて欲しい自分がせめぎあっていた。勇者とコマンドーとナナシと、折り合いのつかないアンヴィバレンツに苦しむ俺はきっと、遺体の回収を誓った彼のような顔をしていたことだろう。

 ……地上のキャンプでSAN値もMEN値もガリガリ削られた後だしな!!


 ◆  ◆  ◆


 さて、夜更けを待ち、ダンジョンから地上のキャンプ地に戻る。

 さすがに肌色成分も減っていることだろう……。

 俺の今回の任務は次の完全無敵勇者レーベン様の動向を探ることだ。

 絶対の剣、絶対の鎧、絶対の盾、三重チートが重なれば、このダンジョンとて危うい。

 下手をすると三百階層を突破しかねない。

 その気になれば床をくりぬいて三百階層を一人で降りて行っても構わないのだ。

 そこで日程表を手に入れようと夜のキャンプ地へ戻ったわけだが、昼間の聖騎士は夜の性騎士にクラスチェンジしていた。

 周囲から聞こえる大音量のバイノーラルなアブノーマル音響兵器群。

 あぁ!! 駄目だ!!

 俺の『ゲイ』ボルグよ!! オリハル根に変わろうとするんじゃない!!

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 コマンドーは逃げ出した。

 同じ相手に二度目の敗北だ。

 こんな! こんな恐ろしい地獄は初めてだ!!

 こんな、こんな、こんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 Oとrとzで構成される惨めな俺の姿、スピカとシャウラには見せられんな。

 耳に残るあの音響兵器……いや、まだ微かに聞こえている上に『ライフフォースセンサー』がこう、生命体が繰り返し、繰り返し、前後に運動する気配を捉えて……。

「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 コマンドーすら退ける、あの絶対防御結界。怖い!!


 仕方が無いので、霊園まで足を伸ばした。

 さすがに、お墓の周りでオイタをする子は……居ないとも限らないのが聖騎士の怖いところだ。

 幸い、ボッタクリ商店の用意した花の咲き乱れる霊園に先客は一人しか居なかった。

 立ち並ぶ聖騎士一千名強の墓。この下には、それだけの遺体が眠って居るのだろう。

 そしてそんな中でも一際荘厳に聳え立つのは勇者ローランと勇者リーランの墓。

 その前で手を組み、祈っている彼はきっと、勇者レーベンなのだろう。

 二人の遺志を引き継いだ、三つの無敵を揃えた完全無敵の勇者様。

 下手をすればブラックドラゴンの黒竜丸さえ敗れかねない勇者様だ。

 何でも斬れる剣だけなら恐ろしくは無い。

 何でも防げる鎧だけなら恐ろしくは無い。

 魔法を反射する盾だけなら、もっと恐ろしく無い。

 だが、三つ揃えば無敵の勇者だ。

「祈っていただけるのでしたら、どうぞ傍へ」

 狂乱状態で走ってきたため、スニークをしていなかった。

 このコマンドーがそこまで錯乱状態だったのだ。恐るべし聖騎士団。

「勇者ローラン、勇者リーラン、神の悪戯によって選ばれし勇者。そして、私のために教会の策謀の犠牲となった悲しい私の兄弟たちです。知っていましたか? 今の時間、聖騎士達は私に気を使ってこの墓所へは来ないのです。私が、彼等の楽しみの時間を選んでこの時間に祈りを捧げに来ていることもありますけどね」

「そうか、それは……知らなかったな。悪い事をした」

 兜は被っていないが、勇者レーベン様はフル装備。

 こちらは聖騎士の標準装備という徒手空拳と代わらぬ在り様。

 逃げ足では勝るだろうから問題は無いか。

「いえ、構いません。ローランはこのプロヴィデンの村の生まれでした。リーランはこのプロヴィデンの王都の生まれでした。それぞれに聖具が与えられたのは三年前。そして、薬物を使って聖騎士にされたのも三年前でした。当初は荒れに荒れ狂ったそうです。ローランは聖剣を振り回したそうですよ」

 そりゃそうだ。

 勝手に『男色家』にされちゃたまったものではない。

 たまったものではないんだよ? ステータス君? 解ってる?

「しかし、そこは素人の剣。容易く取り押さえられて聖剣を鞘に収めた状態で封じられてしまいました。ローランとリーランがそうして荒れていたところに私が混ぜられました。私の名はレーベン。小国ながらも王族の第三王子です。剣の技から魔法の術まで一通りを学びました。なのに、与えられた聖具が盾というのは皮肉なものです……。私が混ぜられたのは教会の思惑だったのでしょう。ローランとリーランの間に私を挟むことによって、傷の舐めあいが始まることを見越して私を混ぜたのでしょうね」

 同病相哀れむ、か。

 俺も哀れんで良いか? 同病者として。

 病気じゃないけどな。

「私たち三人が揃うことで心に落ち着きがもたらされました。渋々、勇者の役職を引き受け、聖騎士としての人生を受け入れました。ローランとリーランの家族には手厚い保護を、我が国にもそれなりの優遇を、こうして我等三人は三人だけの兄弟となりました。二人の名誉のために言っておきますが、我々に肉体的な関係はありませんでしたよ? 覚えて置いてください」

 プラトニックもラブのうち、だな。

 通りで肉食系聖騎士らしくないわけだ。

 まだ三年、まったく染まりきってないどころか三人寄り添うことで綺麗なままで居たのだろう。

「私は明日、地上に最小限の人員を残して八千名の聖騎士と共にダンジョンに挑みます。無敵の剣、無敵の鎧、無敵の盾が揃った今、私に敵は居ないでしょう。教会の思惑通りです。聖具は勇者が神より賜りしもの。それを教会の都合で奪い去るわけには参りません。ですが、勇者が亡くなり、その遺志として託されたなら話は違います。このダンジョンの討伐は、私と言う無敵の勇者を作るための茶番でしかなかったのです」

 だろう、な。

 三つ揃えば無敵。三つ揃わなければただの雑魚だ。

 無敵の勇者レーベン様を作るために犠牲になった二千名の聖騎士と二名の勇者に哀悼の意を捧げよう。

「私はその考えに気付きローランとリーラン、二人に逃げようと申し出ました。しかし、二人は首を横に振りました。故郷には家族が居ます、私にも国があります。そして、教会の目の届かない地などこの地上にはありません。ですから、彼等はその死を知りながらダンジョンに挑んだのです。彼等はダンジョンに敗れた敗北者ではありません、自らの死の恐怖に勝利した勇者達です。覚えておいていただけますか?」

「あぁ、勇者としてその名を覚えておこう」

 死地と知りながら他人の為に赴く。

 勇者でなければなんだというのだ?

 副業の勇者がケチをつけられる相手ではないな。

「無敵の勇者でありながら、それでも私が敗れて死んだとき……リーランとローランの二人の墓の間に埋めてはいただけませんか? 冒険者のナナシ様。地下二十階層までを攻略した貴方なら、その程度のことは可能だと思うのですが?」

「可能だが、報酬はどうする? 死者に報酬は払えないぞ?」

 まぁ、バレているよな。この国で俺は冒険者として目立ちすぎだ。

 メリットもあり、デメリットもありの話だが。

「聖剣ローラン、聖鎧リーラン、聖盾レーベンをその報酬として支払いましょう。聖具はあくまで勇者の持ち物、私の印を持ってその所有権の譲渡書をしたため身に付けておきます。そうすれば教会とて、貴方から奪うことは出来ないでしょう」

「奪うための画策はされそうだがな。まぁ良い、引き受けた。その依頼内容で後悔するなよ?」

「えぇ、私は……ローランとリーランの間で眠れるなら、それだけで満足です」

 絶対無敵の勇者様でも国を人質に取られればただの人、か。

 俺も、スピカやシャウラが人質に取られたなら……コマンドーは絶対に取り戻す。

 そして敵対組織を完全に滅ぼす。それが理想的コマンドー像だ。

 絶対無敵で世界最強、なのに教会などの権力には容易く縛られる。

 なかなかままならないものだな……。


 ◆  ◆  ◆


 八千名の大行軍に紛れて俺もダンジョンの中へと入っていった。

 前後左右のムキムキマッチョメンの鎧姿。これで魔法も使えるというのだから大精鋭部隊だ。

 目覚めるんじゃない!! 『ゲイ』ボルグ!!

 地下二十一階層、罠は聖鎧リーランが防いだ。

 ファイアーエレメント、ウォーターエレメントの魔法は聖盾レーベンが反射した。

 そして聖剣ローランはあっさりと両エレメントの命を奪った。

 さすがは無敵の勇者様だ。

 俺は一人、聖騎士の群れから離れてスニーク状態に入った。

 モンスターを避けながらの追尾。『ライフフォースセンサー』を使ったちょっとしたパックマンだ。

 勇者は無敵だった。ただ、勇者以外は無敵ではなかった。

 聖騎士八千名ともなれば大軍団。嫌でもモンスターの注意を惹いてしまう。

 前方のモンスターは勇者様が切り伏せる。

 では、右方は? 左方は? 後方は?

 聖騎士団のそれぞれの指揮官は有能だった。

 選択された魔法は『ブリザード』、ウォーターエレメントを氷らせて同時にファイアーエレメントを傷つける。

 今迄の指揮官は、あえて無能を掴ませたのだろうか?

 昨日の話を聞く限りではありえなくもない。

 だが指揮官は有能でも人員の死傷者数は増えていく。

 大勢で進む、そのために勇者が踏み損ねた罠に聖騎士が犠牲となる。

 罠の踏み板は中央だけとは限らないのだ。

 ……その全てに反応して起動させようとする罠探知ワンコの嗅覚はどうなっているんだ?

 勇者はついに地下二十一階層を突破した。

 そして地下二十二階層、二十三階層と突破した。

 聖騎士達も善戦した。

 辿り着いたのは地下二十四階層。

 勇者に随伴していた最後の聖騎士が倒れた。

「これで聖騎士団軍団長の座は自然消滅したわけだ。勇者レーベン様」

「着いてきていたのですか。それも手傷一つ負わず。……流石は冒険者ですね」

「炎が煌々と燃え盛っていると、周囲の暗闇に潜む者は気付かれないものなのだ。モンスターも、同じだ」

「なるほど、勉強になりました。それで、たった一人になった私の前に顔を出した理由をお尋ねしても?」

 聖剣を構え、聖鎧のフルプレートに身を包み、聖盾で魔法を反射する無敵の勇者。

 俺には彼が聖具と共にダンジョンの闇に消え去った、という事実が必要だった。

 聖具は神の恩寵、教会はその威信にかけて取り戻さなければならないだろう。

「敬意を表しに。無謀な突撃に八千人の部下を道連れとした無能な軍司令官殿に敬意を表しに。私怨のために部下を全滅させた軍団長殿に敬意を表しに。わざわざ顔を出した」

「……なるほど、確かに、そうとも言える行軍ですね。それを口にするためだけに闇討ちの機会を損なった貴方に敬意を表しましょう」

 部下たちは喜び死に急いだのだから俺が恨み言を語る立場ではないのだが、無為に死なせた指揮官殿にはその立場を知っておいて欲しかった。

 ただ、それだけだ。

 ただ、それだけだ。

「防御を無効とする聖剣、攻撃を無効とする聖鎧、魔法を反射する聖盾。ここまでの装備をした相手とどう戦うつもりですか?」

「防御が無効になるなら避けるだけだ。攻撃が無効になるなら攻撃しない。魔法を反射するなら魔法を使わない。簡単な話だ」

「まるで私が雑魚であるかのように聞こえますね」

「事実だ。否定はしない」

 相手の性能が判明した時点でどれだけ高性能でも雑魚は雑魚だ。

 隠し玉の一つでも持っておくべきだったな。

「では、雑魚かどうか、試してもら……っ!!」

 俺が何故会話をしたと思う? 油断を誘うためだ。勇者レーベン、君は性格が良すぎるな。

 粘性の高い油袋を投擲。流石は聖剣ローラン、反射的に真っ二つにしたその袋の中身はフルヘルムにベッタリと張り付いた。

「魔法は反射するそうだが、ただの火は反射するのか?」

 次弾の油袋に魔法で着火。多少手が熱かったが気にせずにフルヘルムに投擲した。

 これで燃え盛る油と煙に視界を奪われる。そして、ついでに酸素もな。

 フルヘルムのフェイスガードを上げたところで追加の油袋を投擲。ヘルムの内部は油でいっぱいだな。

 酸素を求め口を大きく開けたところに第四投。口中から喉奥にかけて炎が侵入した。

 余らせても仕方が無いと、五・六・七・八・九・十と油袋を投擲し、無敵の勇者が窒息死するのを待った。

 流石は聖鎧、レーベンの顔には煤一つ、焼けど一つ見当たらなかった。

 ただ、無いものは無い。酸素が無ければ人は死ぬ。

 酸素が無ければ人は自ら死に至る。

 これは攻撃ではない。ただの自壊だ。餓死と同じで聖鎧の防御の外のことだった。

 たったそれだけのことなのだが地下二十階で遺体を回収する『彼』には感謝すべきなのだろう。

 無敵の勇者の殺し方を報告書として纏めて教えてくれたのは『彼』なのだから。


 レーベンの聖具を剥ぎ取り袋に詰め、窒息の苦悶に歪んだ顔が硬直する前に安らかな死に顔に見えるようグニグニと動かして、適当な聖騎士の武具に着せかえさせる。それを背負いながら俺は地上を目指した。

 途中、地下二十階層に勤める『彼』と擦れ違ったとき俺は感謝の意としてちゃんと伝えておいた。

「八千名、追加だ」

 『彼』は泣いていた……。


 こうして人知れず元勇者レーベンの遺骸を運ぶと契約どおりにローランとリーランの墓の間に川の字になるように並べて埋めた。

 天の国とやらがあるのなら、その地で三人仲良く川の字になって眠っていてくれ。

 レーベンとの口頭契約の内容に墓石の追加は無かったためレーベンの墓に墓標は無い。

 だから、契約内容に後悔するなよと念を押して言ったのだがなぁ……。

 とりあえず、小石を積み上げたケルンだけはサービスしておいた。


 ◆  ◆  ◆


「あのぉ~? ナナシ様ぁ、怒ってます?」

「はいっ! 私たち、何かしましたか!?」

 ワンニャンアーミーでも人の顔色を伺うということがあるらしい。

 レーベンの死後、失われた聖具と勇者の捜索の為に数十万人規模の聖騎士追加増援が決まったそうだ。

 失われた聖具はダンジョンの中ではなく俺のスイートホーム要塞に眠って居るのだが……頑張ってダンジョンを捜索してくれ。

 ちなみに、何でも斬れるという謳い文句の聖剣ローラン。……ドラゴンの牙は斬れなかった。

 この世界にJAROは無いのか?

 とにもかくにも色んな意味で確かに俺は不機嫌だった。

 それが顔に出ていたのかもしれない。

「そうだな、ここ二回に渡る都市攻略において生徒があまり良い成績を上げていないことが不満といえば不満だな」

 二匹が揃ってギクリと言う表情を浮かべた。

 さて、第三回青空教室。

 小高い丘から見えるオークロードの都市国家は直径約1000m、外周は約3000mの……コンクリート製の壁だと!?

 川から引かれた水は上水用の大きなパイプを通り、地下の下水道を通して汚物と一緒に排出。

 建築中の家屋……いや、ビルディングを見る限り、鉄筋コンクリート、それも基礎工事までしている。

「なぁ、プロヴィデン王国よりも、明らかに……」

「魔法学園の方が上ですよ?」

「豚、豚、豚に……豚にぃぃぃぃぃぃい!!」

 スピカの発言も気になるが、シャウラのSAN値が危険領域だ。

 人類として文化的に豚に敗北した、その事実を受け入れられないのだろう。

「ふぇぇぇぇぇぇん!!」と子供のように泣き始めたので、それを宥めるのに無用な時間を要した。

 あと、こんな都市国家を『オークロードの集落の壊滅』と書くな。

 オークロードの先進文明都市国家と情報は正確に書いておけ!!

 近くには森がある、石切り場がある、そして鉄鉱石の取れる鉱山もあるのだろう。

 木と石と鉄があれば確かにこれだけのものは作れるが……もう、オークロードに霊長類の座を明け渡したらどうだ? 人類。

 これからはオークロードが人間で、人間が猿型の亜人で良いんじゃないか?

 なんてことを口にしたところシャウラのSAN値がまた危険領域に達した。

 この都市攻略戦は人類の尊厳をかけた戦いに変わったようだった。


『鑑定対象:オークロード

 豚に良く似た顔を持った亜人。

 成人男性の身長は2m90cm前後、成人女性の身長は2m60cm前後であり、それに相応しい骨格と筋力を誇る。

 一見肥満体に見えるが、皮下脂肪の下は筋肉の塊であり、人間の男性成人程度であれば拳で軽く殴り殺せる。

 また、その分厚い皮と皮下脂肪が天然の鎧となり、弓矢などの重量の軽い攻撃は効き目が薄い。

 繁殖力は旺盛だが、子供が生まれると成人するまで次の子を控える傾向がある。

 上位種にオークキングが存在し、それを中心とした集落を築くことがある』


 中心部にはお城、というよりもちょっとしたオシャレなタワーが中心に見えるなぁ。

 オークキングの集落にはオークエンペラーが住んでるのかなぁ……。

 車が空を飛んでたりしたりしてなぁ……。


 さて、鉄筋コンクリートと言う文明に出会って面食らったが、なに、懐かしのコンクリートジャングルだ。

 直径約1000m、円周約3000mの鉄筋コンクリート製の圧壁。高さは50m。門は一つで鋼鉄製。

 周囲の田園風景も今迄以上の出来栄えだ。上水用の巨大パイプと排水用の巨大地下下水トンネルを三本発見。

 ふむ、ここは……。

「はいっ! はいっ!」

「なんだ? シャウラ、なにか意見でもあるのか?」

「魔法学園に貯蔵してある200万個の手榴弾を黒竜丸を使って一度に投下しましょう!!」

「うむ、100点だ。ただし、その軍費をお前が調達できるならな? 手榴弾を使うなとは言わないが費用対効果を考えてプランを立てるように」

「あのぉ、手榴弾ではなくてぇ~、魔水晶なんですけどぉ?」

 手榴弾の単価は割りと高い。原産地がダンジョンしか存在しないからだ。

 考えてみれば思い切りの良い使い方をしたものだ……。

 だが、楽しかったからよしとしよう。常在日常、コマンドーの日々にも娯楽は必要だ。

 しかし、シャウラ的にはもはやこの文明の存在自身が許せないものらしい。

 そりゃあ、まぁ、プロヴィデン王国の文化水準と比べれば……。

 やっぱり、もう人間が亜人で良いんじゃないか?

「では、敵性戦力の概要を述べる。敵の都市国家は人口約三万、直径約1000m、外周は3000mの鉄筋コンクリート製の壁で囲まれ、上水用パイプに地下下水道が完備だ。彼等の肉体の大きさを考えると都市の地下にはかなり巨大な下水網が敷かれて居ると思われる。以上のことを考慮ならびに都市の状態を観察したうえで攻略プランを考えよ。幸い、建造物の表面はガラス張り、内部の様子はよく見えるだろう。今回の作戦難易度はそれなりに高い為、プランの立案までに三日の猶予を与える。以上だ」

 ワンコマンドーが殺る気に満ちた目をしている。

 これは……期待できるのか?

 ニャンコマンドーもムムムと頭を悩ませている。

 これがご褒美をもらえる最後のチャンスだ。

 30mを超えるビル群、80mの高さを誇るガラス張りのランドマークな中央タワー。

 なかには何仕掛けか解らないエレベーターまで完備されてるじゃないか、それも外から見えるガラス張り。

 ちょっと昔のニューヨークという感じだ。一枚ガラスの窓に素敵なレースのカーテン。

 ソファーにベッドにクローゼットも完備とは恐れ入った。

 全部屋が俺のロイヤルスイート並……いや、それ以上の出来栄えだ。

 道路の面積を除くとして一人当たりの坪数は……40坪!? 80畳!?

 うむ、日本のお父さん的には許せないセレブ都市だな。

 道路が賽の目上に区切られている都市の計画性、二重に腹立たしい。

 さて、俺は都市攻略プランBの準備に入るとしよう。

 やはり困ったときにはプランBが一番だ。


 俺はまず目視による測量により街の地図、ビルの位置などを記録した。

「うわぁ、ナナシ様。絵が上手なんですねぇ」

「絵、ではなく二次元マップだがな。手習いとして覚えただけの芸術とは無縁の技だ」

 そう、『空気』という椅子に座りながら正円をフリーハンドで描かされた続けた訓練の成果です。サー!!

 そう、『空気』という椅子に座りながら直線をフリーハンドで描かされた続けた訓練の成果です。サー!!

「敵地攻略にあたって地図情報は重要だからな。ダンジョン攻略時にもちゃんと一層づつマップを描いていただろう?」

「そう言えばぁ。そうでしたねぇ~。シャウラの安全のために罠の残りがないか確認するためだと思ってましたぁ」

 ……鋭いな、猫。

「前回と同じ、水攻め、じゃあ無理ですよねぇ?」

「うむ、そうだな。コンクリートの要所要所に弓を射掛けるための銃眼が取り付けてある。例え下水の排水溝を塞いでもあの位置よりも上には行かないだろう。被害が拡大する前に水圧で壁の方が自壊して大穴をあけるはずだ」

「うむむむむぅ、難問です……」

 悩みに悩むニャンコマンドー、良い傾向だ。

 それに引き換えワンコマンドーは……なぜ剣の素振りをしているんだ?

「シャウラ、今、どういった戦略プランを考えて居る?」

「はい、勇者の装備を着込んで私が突入。バッサバッサと切り殺すプランを……」

「勇者装備は最重要国家機密のため外部での使用は不可だ。他を考えろ」

「え~!? そんな……勝ったと思ったのに……」

 三万の人口をたった一人で殺そうなどと無謀なことを……俺は二十万のダンジョン居住者を皆殺しにしたな。

 コマンドー的には可能かつ正しい発想だが、勇者装備は使用不可だ。

 何処に教会の眼があるやも解らんからな。

 彼等にはもっともっとダンジョンの奥底に踏み込んでもらい墓石を購入してもらわねばならんのだ。

 しかし……主要産業が墓石の国というのも頭が痛い国だ。

 最近では自分が石工職人なのか墓石職人なのか解らないと職人達が愚痴りだしていた。良い傾向だ。

 君達の技では届かないあのハイオークの領域にまで達したまえ。

 今度、慰労をかねてあのハイオークの大理石の壁を見せてやろう。

 きっと、石工職人達は地面に膝を屈して感動の涙を流すことだろう。

 地面を叩きながらな。何度も何度も。


 次に、オークロードの生活汚水が垂れ流される下水道のマッピングだ。

 これは現地測量しなければならないため夜間に行なわれる。

 二匹のワンニャンアーミーも誘ったのだが、拒否をしよった。

 測量には不要だが、まさか、生活汚水程度に怯えて居る訳ではないよな?

 コマンドー的に下水道は良い侵入経路なのだぞ?

 とにもかくにも地下下水道に入る。オークロードの身長が約3mであることからか、やはりかなり広いな。

 身長3mで1mの高さの下水道を作れと言われる方が難しいだろう。

 これだけ広くて、地上の建造物をどう支えているのかと思えば、賽の目上の道路に沿って下水道は作られ、建築物の下にはあまり通っていないようだ。

 そのためマッピングは迅速に完了した。

 殆どが道路に沿ったただの賽の目の形状だ。

 そして二匹が臭い臭いと文句を言うので渋々お湯を被って洗い流した。

 こうしてスピカに魔法でシャワーしてもらうのも、なんだか懐かしい気分だな。

 そして洗い終わってもやっぱり臭いと文句を言うものだから、寝床は別になった……。

 この程度のことで文句を言っているようでは立派なコマンドーにはなれないのだがなぁ……。


 ◆  ◆  ◆


 さて、プランB決行の為に必要な物資を魔法学園の倉庫に取りに戻る。

 馬に乗るよりも走った方が速いコマンドーというのもどうなんだろう?

 まず、道路事情に関係無く直線を走れる。

 時速は約80km、もちろん全速力ではなく荷物を積載した状態での速度だ。

 プロヴィデン王国はおおよそ北海道と同程度の大きさを持つのだが、この大陸という規模からするとこれでもまだ中小の国家に当たるのだから、大陸に存在する七つの大国の版図は計り知れない。

 だが、その世界に偏在する教会勢力と、その世界をそのものを破壊するつもりのダンジョンはもっと計り知れない。

 なので目の前の事柄から片付けていくとしよう。

 俺の身は一つしかないんだ。俺の身は、なぁ……。


 魔法学園に辿り着いたとき、自分の身長を超えた本の束を抱え上げた銀髪の少女を見かけた。

 男として見てられなかったので本を半分持ってやる。恋愛ゲームならフラグが立つところだ。

 本の下には可愛いスピカが居た。スピカよりもまだ三歳ほど幼いスピカだろう。

「あのぉ、ありがとうございます~」

「気にするな。ヨロヨロしている姿が可愛らしすぎて見ていられなかっただけだ」

 アカシックなんとかの映像記録で見た愛弟子一号。

 その複製体、それがスピカであり、今目の前に居る幼いスピカであった。

 寿命と言う概念から解き放たれた三賢人の倫理、道徳、価値観は常人のそれと大きく違う。

 愛弟子の老衰を悲しみながらも、じゃあ、新しく作り直そうと口にした時には驚いた。

 正確には同じ遺伝子を用いた双子のような存在、クローンなのだが、愛弟子一号である彼女達は今でも生きてこの魔法学園で働いていた。そのうちの一体、いや一人が俺の傍に居るスピカである。

 スピカは言った『魔法学園の方が上ですよ?』たしかに遥かに上だろう。

 生命倫理? なにそれ食えるの? と、言わんばかりの産物。クローン複製体すら持つ学園だ。

 ガーデニングで毎年同じ種を蒔くように、三賢人達はスピカという種を蒔いていた。

 一歳児には十歳の心が解らない。

 十歳児には二十歳のこころは解らない。

 二十歳には三十路の、三十路には六十の心は解らない。

 一千年を超える歳月を経た彼等の心の中では、動物と植物の違いすらないのかもしれない。

 自分が騎士だからといって相手に騎士であることを求めるなとシャウラに言った。

 言った手前、自分が嫌悪するからといって、三賢人にも嫌悪しろとは言えないな……。くそっ!!

 常人からすれば狂っている、狂人からすれば正常な、これが魔法学園の日常の風景だった。

 ざっと見渡しただけでも百人単位のスピカが確認できた。

 稀に、スピカ以外の者も見つかるがこれは外部からの入学生なのだろう。

 親スピカが子スピカに魔法や学問を教えていた。ついでに外部入学生たちにも。

 よくもまぁ、こんな狂気の世界で神経を保てるものだ……。

 ……いや、慣れてしまえば銀髪ニャンニャン美少女パラダイスなのか?

 審美眼が肥え過ぎて故郷に帰ってからの落差が酷いだろうなぁ。


 荷造り中、大人の姿をしたスピカの案内で俺は理事長室へと連れられてきた。

 なにやら三賢人から話があるらしい。悪い予感しかしない。

「やぁ、待っていたんだぁ!!」

「そ~なんだ~、待ってたんだ~!!」

「うん、待っていた!!」

 理事長室で待ち受けていた三賢人。

 そのテンション、何を仕出かすやら冷や汗ものだ。

 まず相手の戦力が未知数すぎる。そして思考が未知数すぎる。

「ありがとう! 僕達を怒らないようにって口を聞いてくれたんだってねぇ」

「そ~なんだ~、感謝してたんだ~」

「うん、怒られなかった。有り難う」

 あぁ、そう言えば三賢人の手作りダンジョンを三賢人が封印していたダンジョンの美談に摩り替えた際にそうなった。

 すっかり忘れてたな。

「それでぇ、君を見込んでぇ、追加の依頼をしたいんだぁ」

「そ~そ~、教会に~ダンジョン攻略を押し付けた手腕は凄いね~」

「うん、素直に凄い。それで、ダンジョン攻略後に現われる魔王の討伐も依頼したい」

 ……待て、ダンジョン討伐後に現われる魔王、だと?

「ダンジョンを攻略すると魔王が現われるとは、どういういう話だ?」

「それはねぇ、話すと長くなるんだぁ」

「だから~、映像で見て欲しいな~」

「うん、アカシックレコードから情報を映像で投影するぞ」

 こうして始まったこの世界で第二の試写会はショッキングな映像であった。

 まさか、この世界で怪獣映画を見られるとは思っていなかった。


 ◆  ◆  ◆


 この異世界は四つの次元で構成されている。

 縦、横、高さ、そしてマナだ。

 このマナ次元に干渉し、願いを叶える行為が魔法だ。

 もちろん作用には反作用が存在する。

 魔法で願いを叶えた量と等しいだけ、反魔法が願いを叶えない為に働くのだ。

 具体的には大怪獣・魔王として出現し人類文明を滅ぼしてしまう。終末の獣だ。

「いやぁ~、超古代魔法文明の人達も頑張ったみたいだけどねぇ」

「魔法で反撃すれば~、それだけ次の魔王が多くなっちゃうんだよね~」

「うん、だから勝てなかった。結局、数に負けて滅んだ」

 超古代魔法文明期、彼等は生活のあらゆる点において魔法を使用していた。

 その反作用となる反魔法は地下深く、地脈の流れに乗ってゆっくりと滞留し蓄積されていった。

 そしてそれが臨界点を超えたとき、その反魔法の塊は中空に浮かぶ黒い卵として出現したのだ。

 卵から産み落とされたのは魔王と言う名の大怪獣たち。

 全高300mの巨人、ヒュドラ、ケルベロス、多種多様なモンスターの姿を模して魔王は出現した。

 人間の願いを叶えない為に最も相応しい形状がモンスターだったのだろう。

 しかし流石は超古代魔法文明、それらの大怪獣を更なる巨大な魔法によって退治して初戦を乗り切った。

 だが、その魔法攻撃のために次の波は更に大きくなり、次の波は更に大きくなっていった。

 大怪獣を倒すためにはそれだけの巨大魔法をぶつけなければならないからだ。

 人間の、生命の根源的な願いは『生きたい』である。

 だから反魔法の塊である魔王こと大怪獣達はその願いを叶えさせないため生命を滅ぼしつづけた。

 文明が滅びたのはそのついでのことだった。

「調べてみてぇ、解ったんだけどぉ」

「ダンジョンって~、地脈内からこの反魔法成分を蓄積して浄化するための~、自動浄化装置だったんだね~」

「うん。だから、ダンジョンが攻略されると、俺達が千年間使い続けてきた魔法の分の反魔法が溢れ出して魔王が生まれる。かなり沢山」

 ……結局お前らのせいか!!

 ダンジョンを攻略しなければ惑星が滅ぶ。

 ダンジョンを攻略すれば魔法学園千年分の反魔法の塊、大怪獣が沢山現われて世界は終る。

 どちらにせよ、人類は滅ぶ。

 百億人死ぬ毒と、百兆人死ぬ毒のどちらを選んで飲むか、そんな問題だ。

「……今までの魔王に対して魔法学園はどうやって生き残ってきたんだ?」

「学園を封印してぇ、魔王が暴れてる間は眠って過ごしてたよぉ」

「眠っていれば~、願いもないからね~」

「うん、魔王は存在し続けるだけでもエネルギーを消耗するから、消えるまで待ってた」

 コールドスリープ状態で魔王達の目を晦まして、災害をやり過ごしてきたわけか。

 くそっ、こいつら頭がいいのか馬鹿なのか紙一重どころか重ね合わせの状態だ。

 しかし……ここに来てまさかの新事実。

 勇者レーベン。お前は世界を滅ぼす引き金を引きかけていたんだな。

「では、魔王に対抗して現われる聖具とは何なんだ?」

 あの桃色ドラゴンの牙すら削れない無駄も良い所の聖工具。

 アレはどこから現われるんだ?

「あれはぁ、この世界の管理者がぁ、せめてもの対応策として人間にくれるんだよぉ」

「そうだね~、神様だね~。神様としても~、人類に滅んでは欲しくないんだろうねぇ~」

「うん、神様。魔王の数に合せて聖具を撒いて、魔王による人類絶滅を防ぐ何か」

 ……神よ。まず退治すべき魔王の源泉たる三馬鹿が目の前に居るぞ?

 お前のその眼は節穴か?


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