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第一話 不揃いの勇者達


「東方の三賢人がその魔力を使って千年間も封印し続けていた深淵のダンジョンの封印が解けてしまった!! これは魔王誕生の予兆ではないのか!? この深淵のダンジョンを踏破してくれる勇者は居ないのだろうかっ!?」

 白々しい嘘の噂話だが真実を確かめる術は無く、三馬鹿の実情は知る者しか知らない。

 知って居る者は、どうせあの三馬鹿がまたなにかやらかしたのだろう、と、思って居るだろう。

 プロヴィデン王国以外の国はダンジョンの爆発でプロヴィデン王国が滅びる良い機会だと思っているだろう。

 国が滅べば空白地帯が出来る。

 あるいはすでに分け前の相談でもしているかもしれない。

 ただ、その時にはお前らの国も惑星ごと道連れだけどな。

 こうして噂を流し続けた結果、予定調和通りに教会の聖騎士団が名乗りを上げた。

 元々、他国が抱える勇者が国を跨いでプロヴィデン王国に入るわけにも行かない。

 自国の勇者を単身で送り込む馬鹿は居ないし、他国の軍隊を受け入れる国もない。

 聖騎士一万、勇者三名という実に素晴らしい大軍団。

 およそ地下二十一階のモンスター居住者と同等の数だ。

 もしもキルレシオが1:1ならなんとか一階層分は立ち退きを迫れそうだ。

 まぁ、聖騎士達の諸君よ頑張ってくれたまえ。かなりの難敵だぞ?

 俺は俺でこれでも結構に忙しい身分なので手伝えないのが残念だ。


 現在、プロヴィデン王国の内情はボロボロだった。

 主にブラックドラゴンの求愛活動の復旧費用と無駄に終った山岳要塞の建造費用。

 さらにブラックドラゴンが自由に飛行する地域を拠点に経済活動を行ないたくない商人達が国外に逃亡した。まずは行商人から、ついで身の軽い貿易商たちが。

 結果として経済活動、金や物流の巡りそのものに致命的なダメージを受けていたのだ。

 神に認められた訳ではない勇者『黒竜丸』の皇太子就任によって内政は一定の安定を見せてはいたが、一度崩れた経済活動そのものを立て直すことはなかなかに難しい。簡単に言えば大不況の状態だ。

 俺としては別にこの国が滅んでも構わないのだが……いや、嘘は止めよう。

 この国はスピカとシャウラの生まれ故郷だ。

 滅んでも構わないとまでは言えない。

 これはハニートラップではないが、コマンドーとは言えそこまで人間を辞めたつもりもない。

 そもそもコマンドーとは言え、戦う理由が無ければ戦わない。殺人狂と勘違いしないでくれ。

 コマンドーはキリングマシーンではあるものの、理由がなければ誰も殺したりはしないのだ。

 包丁は人を殺せる。だが、殺すのは人の意思だ。

 コマンドーは殺せる技を持つ、だが、殺すのは俺の意思だ。

 これはそういう話だな……。


 ◆  ◆  ◆


 さて、経済を回すとなるとまず商人達を呼び戻す必要がある。

 と、なると、素敵な商材を用意する必要があるわけだ……。


 残念ながら生きた超高級商材こと桃色ドラゴンは役立たずだった。

 どうせ一月で生えてくるのだから鱗を剥かせろ。

 どうせ一月で生えてくるのだから牙を抜かせろ。

 どうせ一月で生えてくるのだから尾を切らせろ。

 その全ての要求に対する答えがコレだ。

「我が主の命とは言え、断る!!」

 もはや奴の口癖だな。

 そもそも貴様が俺の命令に従った回数の方が少ないのではないのか?

 何が我が主だ。主のために身を粉にしろ。それがご主人様への奉公だ。

 いや、身を商材にしろ。身売りだ身売り。桃色ドラゴンのバーゲンセールだ。

 だいだい、現状の不況の原因が自分自身だということを深く理解しろ、皇太子の桃色ドラゴン。

 まったく使えないエロゴンを拾ってしまったものだ、食費がかさむ一方だ。

 何とかして上手に捨てる方法が無いものだろうか……。


 さて、使えないエロゴンの事は忘れてプロヴィデン王国にも素敵な商材は揃っている。

 『ただし、モンスターの生息領域の中に』とついてしまうのであるが。

 合板の無いこのファンタジー世界、樹齢を重ねた大きな木材は高値が付く。

 だが、そう言った樹木は人の手が及んで無いからこそ樹齢を重ねられるのだ。

 人が近くに住み着いていれば、近いから、金になるからと言う理由で切ってしまう人間が数世代に一人は現われて台無しになる。

 子孫の大金よりも今の懐具合が大事なのだ。

 まぁ、今がなければ子孫もいないのだしな。

 決して今日の酒代に変わったわけではないと思い込んでおこう。


 それらの理由で今、冒険者ギルドの掲示板を俺は眺めていた。

 モンスターの位置情報と資源の配置、街道や輸送路を通すための経路を考えるためにはスキルの『ストラテジー』が役に立った。

 これは能動的とも受動的とも言えないスキルなのだが、何事かを為すときに大局的思考が出来るようになるのだ。

 既存の人間の勢力図に街道。モンスターの勢力図。資源の位置と酒類と輸送経路。

 ある川沿いに『オークの集落の破壊』『ハイオークの集落の破壊』『オークロードの集落の破壊』の三つが並んでいるのが目に付いた。川は輸送経路に持って来いの道の一つだ。


 しかし、この場合……どれがお兄さんでどれが弟になるのだろう?

 やはり、進化元であるオークがお兄さんでオークロードが弟になるのだろうか?

 それとも、進化先のオークロードがお兄さんで、オークが弟になるのだろうか?

 難問だ。集落を見てから考えることにしよう。


「アンタがその掲示板を見てるってことは、また何か悪巧みでも考えて居るのか?」

 あら、受付のジェローム様から声がかかるなんて珍しいことだわ。

 最近は無言で依頼書をカウンターに置いて壁際に遠ざかっちゃうから複雑な気分だったのよ?

「うん? 依頼を完遂すること、それは依頼者にとって良い事だ。だから善い企みだろう?」

「いやまぁ、そうなんだけどよ。アンタの場合はやり方が……まぁ、モンスターが減るのは善い事だ」

 えぇ、解っていただけて嬉しいわ。

 モンスターが減ることは善い事よ。

 ……人間にとってはね♪

「そうだな。まず半月、次に半月、最後に半月。計45日で三度、大量の後片付けの依頼が出来ると思っておいてくれ」

「……あのよぉ。冒険者ギルドは掃除屋じゃ……いや、掃除屋だな。殺すか、殺したものを片付けるか、それだけの違いだな」

「うむ。他の冒険者の諸君にも美味い話だ。だから、そろそろ壁際から離れるように説得しておいてくれないか?」

 なぜ? なぜ私がギルドに入ると皆さんは壁際に揃って逃げてしまうの?

 右の壁際の恐面のムキマッチョ冒険者さん、何故?

 左の壁際の優顔のムキマッチョ冒険者さん、何故?

 数少ない女性冒険者さん達がその殿方達を指差してケラケラ笑っているのは、何故なの?

「…………そういう依頼を出してみるか? もちろん、大金を弾んでもらうぞ?」

「これだけギルドの仕事をこなしてもこの扱いとは……俺は悲しいぞ……」

 ちっ、守銭奴どもめ。

 いずれここの壁一面に男性が近寄ると斥力場を発生する不思議な石でも埋め込んでやるわ!!


 ◆  ◆  ◆


 今、俺はある川沿いの小高い丘で青空教室の勉強会を開いていた。

 受講生はワンコマンドー見習いシャウラと、ニャンコマンドー見習いのスピカだ。

「我が祖国にこのような童話がある。三匹の子豚がそれぞれ家を建てた。一番上の兄は藁で家を作り、二番目の兄は木で家を作り、末の弟はレンガで家を作った。そこに狼が現れた。さて、スピカ、どうなると思う?」

 スピカは日光に当たってぽけーっとした顔つきで考えながら答えた。

 猫には少々つらい青空教室であったようだ。もうかなりのオネムさんだ。

「子豚に独力で家を建てさせるなんてぇ~、親豚は何をやっていたのでしょうか?」

「うむ、良い回答だ。80点。親としての扶養義務を果たしていないな、まず親豚が悪い。さて、この一番上の兄が造った藁の家は狼が大きな息を吹きかけると破壊されてしまった。そこで長兄は二番目の兄の木の家に逃げたわけだが……シャウラ、この件についてどう思う?」

 シャウラは真剣な顔つきで考えた。

 子豚と狼の追いかけっこ、そこから導き出される答えは……。

「子豚の足で狼から逃げられるとは思えません!! 食べられておしまいです!!」

「うむ、残念な回答だ。10点」

「えぇっ!! どうしてですかっ!?」

「それはな、狼はわざと子豚を逃がしたからだ。子豚が頼るはずの別の兄弟や親豚の位置を特定するためにな」

「それは……騎士の戦い方ではありません!!」

「狼は騎士ではない!! 0点だ!! 前提条件を間違えるなっ!! お前が騎士だからといって相手も騎士とは限らんのだぞ!! 狼の思考を考えろ!!」

 シャウラの思考は危ういな……。

 自分自身が騎士道に殉じるのは自分自身の勝手だ。好きに殉じて死ぬがいい。

 だが、自分が殉じているからと自分以外にも騎士道の精神を求めるのはただの馬鹿だ。

 馬鹿の中の馬鹿だ。これが司令官なら死んだ方が良い馬鹿になってしまう。

 『私の美学の為に死んで来い』こんなことを平然と口にする上官は真っ先に殺害すべき膿だ。

「さて、この二番目の兄の子豚の家。木造でありながらこれがかなりの安普請。狼が息を吹きかけると破壊されてしまった。そして二匹の子豚は末の弟のレンガの家に逃げたわけだが、スピカ、この件についてどう思う?」

 お日様がぽかぽかで、かなりオネム状態。

 ショボショボした顔でスピカは答えた。

「せっかく二匹居るんですからぁ、二手に分かれるべきですねぇ~。そうすれば~一方は確実に助かります」

「うむ、100点。スピカは賢い子だ。これはご褒美をやらなければいけないかもしれないな」

 ご褒美と言う言葉に二匹の目が輝いた。現金な獣達だ。

「では、これは難問だからよく考えて答えるように。末の弟のレンガの家に逃げ込んだ二匹の子豚。狼がいくら息を吹きかけても壊れない。レンガの家には煙突が着いている。窓や扉にはバリケード。迂闊に攻めればバリケードの隙間から槍が突き出される始末。さて、狼はどう攻める?」

 ご褒美と言う甘い響きにつられて頭を悩ませる二匹。

 最初に答えたのはシャウラだった。

「はいっ!! 煙突から突入し、三匹を襲います!!」

「うむ、侵入口を理解された状態で攻めれば三匹の子豚に串刺しにされて狼が死ぬな。0点だ!! 祖国の童話では煙突の中に入った狼は暖炉に火をつけられて死んだぞ!! ご褒美は無し!! それどころか懲罰ものの回答だ!!」

 アホの子シャウラに比べてスピカはまだ頭を悩ませていた。

 そして出した答えがこれだ。

「三匹の子豚が飢えて、諦めてぇ、決死の逃亡を図るまで待ちます」

「ふむ……10点だ。兵糧攻めは確かに有効だが、今回の目的は子豚の捕食だ。子豚を痩せさせてどうする? さらに兵糧攻めを行なっている間の狼の兵糧はどうするつもりだ? 試算があわんだろう? ご褒美は無しだ!!」

 スピカは子豚の殺害を目的としすぎて主目標を見失ったようだ。

 ご褒美無しという現実にしょぼくれていた。

「はいっはいっ!! じゃあナナシ様の回答はどうなんですか!?」

 納得のいかないシャウラが手を挙げての質問だ。

 そんなもの、コマンドーとしての答えは決まっている。

「長兄の家では藁を、次兄の家では木材を鹵獲できる。よって、出入り口となる場所を外側からも木材で塞ぐ。その後、煙突から多量の藁や木を投入して着火。そして煙突に蓋をしてレンガ造りのオーブンを完成させる。あとは鎮火後にバリケードを破ってスモーキーな子豚の丸焼きを食べるだけだ」

 前提条件として両兄の家という戦略物資を提示しているというのに何故この回答に辿り着けない?

 他にも回答例は幾らでもあるのだぞ?

 貴様等のトロフィーは何のために付いているんだ、まったく……。


 では、簡単な演習問題はここまでにして本題に移ろう。

 今、小高い丘からはオークの集落という名の都市国家が一望できていた。

 およそ直径1000m、外周3000mの丸太の壁、平均的な高さは10mほどか。

 さらに中央には土壁と木材で頑張って作ったと思われる城まで存在する。なんとなく和風だな。

 人口は約三万、人口密度は高いが二階建ての建造物も多く見られ、一匹あたりの住宅事情はそれほど悪く無さそうだ。

 都市国家の外には田園地帯が広がり、これが三万の人口の食を支えているのだろう。

 もはや完全に知的生命体であるがこの世界のモンスターの定義は簡単だ。

 『人間様に都合の悪いものは全部モンスター』

 解りやすいな。非常に解りやすい。

 肌の色の違いだけで人種差別を乗り越えるのに一苦労だった我が前世、未だに残っても居る。

 肌どころか種族差別を乗り越える為にこの世界はどれほどの時代を要するのだろうな?

「では、本題を出題する。この眼下の人口三万のオークの都市国家をこの三人で滅ぼす方法についてだ。解答は今日の夕暮れまでとする。各自で悩むよし、相談しあうもよしだ。スピカ、シャウラ、両名の賢明なる回答を望む!!」

 悩み始める二人を尻目に俺は望遠鏡を使ってオークの街を観察する。

 周囲の大森林を切り開いてそれを材料としたためか、ほとんどの家が木造だ。

 さらに、近くの川から灌漑用、生活用の水を取り込んで豊かで平和で文化的な生活を送っている。

 都市国家の近くでは豚を飼っている畜産農家オークも居るが……良いのかそれは?


『鑑定対象:オーク

 豚に良く似た顔を持った亜人。

 成人男性の身長は2m30cm前後、成人女性の身長は2m前後であり、それに相応しい骨格と筋力を誇る。

 一見肥満体に見えるが、皮下脂肪の下は筋肉の塊であり、人間の男性成人程度であれば拳で軽く殴り殺せる。

 また、その分厚い皮と皮下脂肪が天然の鎧となり、弓矢などの重量の軽い攻撃は効き目が薄い。

 繁殖力は旺盛だが、子供が生まれると成人するまで次の子を控える傾向がある。

 上位種にハイオークが存在し、それを中心とした集落を築くことがある』


 ファンタジー世界では忘れがちだが大きさはイコール強さである。

 身長2m30cmの骨太の大男を前にして、素人の人間は何を持てば勝てるだろうか?

 バット? ナイフ? 日本刀? 俺としては357マグナム以上の拳銃を推奨したいところだ。

 さて、出題された難問に二匹が頭を悩ませているうちに俺はコマンドー流の都市攻略プランAの準備に取り掛かるとしよう。


 まずは、袋に可燃油を詰めそこに接触信管式手榴弾を仕込む。

 なんと、これでただの手榴弾が焼夷手榴弾にはやがわりだ。

 もともと手榴弾とはその爆風よりも飛散した破片で攻撃する物だ。

 それを考えれば、エキスパートオピニオン(鑑定)がこれを手榴弾と認めなかった理由も解るという物。袋に飛翔物を詰め、その中に炸薬として設置することによって初めて手榴弾になるのだから、この魔水晶とは手榴弾の炸薬兼信管であって手榴弾そのものではない!!

 正確には手投げ炸薬でしかなかったわけだ。

 手『榴弾』であるためには飛散させるべき何かが必要だったのだ。

 エキスパートオピニオン(鑑定)よ、俺の間違いを正してくれてありがとう!!

 さて、焼夷手榴弾は三十もあれば十分だろう。それでは二匹の答えを聞くとしようか……。


 まずはシャウラは……涙目になってプルプルと震えて居るな。

 あぁ、これは夏休みの宿題が夏休み中に終りませんでしたという子供の顔だ。

 なので~、あえて尋ねる!!

「シャウラ、都市攻略計画のプランを尋ねよう? 回答は?」

「……い、一騎打ちを所望します!! オークの王との一騎打ちを申し込み、これに勝利したなら都市を明け渡すように条件を付けた一騎打ちで勝利します!!」

「うむ、血の流れない見事な作戦、100点だ!!」

「えっ!? えっ!? 本当ですか!?」

 自分でも100点を貰えるとは思っていなかったらしい。

 一騎打ちで勝利し都市を陥落させる、勝海舟の無血開城に程近い実に見事な外交手腕だ。

 王政の国家ならば王の勅命と言う形で都市の引渡しも可能だろう。

「それで、その一騎打ちの場にオークの王を引き出すための策を聞かせてもらおうか? プロヴィデン王国の国王はそんな軽々しく国を賭けた一騎打ちを承知する阿呆だったか? オークの王は一国を賭けるのだ、こちらはいったい何を賭けて交渉をする気だ?」

「え、え~と、それは……解りません」

「うむ、だろうな。実現不可能な計画を口にするな!! 減点200、マイナス100点!! 無回答よりも性質が悪い!! 解らないなら解らない、出来ないなら出来ないと口にするように!!」

 うむ、これでシャウラに懲罰を与える機会が出来たな。

 不可能なことを可能であると言われれば現場が混乱し、最悪、味方に死者が出る。

 出来ないことをやらせる上層部も問題だが、出来ないことを出来ると口にする兵士も大問題だ。

「では、次はスピカ、回答せよ!!」

「え~っと、まずは~、夜を待ちます。それからぁ、あのお城に極大のファイアーボールを使って火を着けます。その火事に注意を集めている間に都市に忍び込んだナナシ様がぐるりと一周、外周部の家々に火を着けて回れば都市が全焼してオークの丸焼きの出来上がりです♪」

 うむ、使えるものなら上司も使うその精神。見事だ。

「うむ、100点!! ……いや、90点だな。俺の能力を買ってくれるのは嬉しいが、流石に3000mの家々に火を着けて周るのは目立つ行為であり発見される可能性が高く時間も掛かる。結果として多数のオークに逃亡の機会を与えかねない」

「では、私がここからファイアーボールで火付けを手伝いますか?」

「……うーむ、30点まで下がったぞ? ファイアーボールでは射線が丸見えであるからオーク達が報復攻撃としてこちらに押し寄せてくるではないか」

「そうでした……残念」

 ションボリ猫、可愛い。

 こちらの位置を捕捉されれば報復攻撃を受けてしまう、これは必定。

 あるいは陽動に使えるが、今回の場合はあまり策として思わしくは無い。

 敵に見つからない、これ以上の防御は無い。あるとすれば報復前に敵を皆殺しにする核弾頭だ。

「いや、しかし、相手の都市国家の構造、木造家屋であることを考慮した考えは見事だ。あとは最後の詰めの一手だ。今後に期待する!!」

「は~い♪」

 スピカの頭をグワシグワシと撫で回す。喜ぶ猫、可愛い。

 シャウラの策も無いわけではない。

 ただし、一騎打ちを迫れるだけの取引材料が決定的に足りなかっただけだ。

 つまり、決定的に無かったわけだな。

 やはりマイナス100点だ。

 では、コマンドー流の都市攻略プランAを実行するとしよう……。


 ◆  ◆  ◆


 その日は俺の六歳の誕生日だった。

 オークは七歳で大人になるから子供扱いされる最後の誕生日だ……。

 五歳の誕生日は子供扱いされるのが嫌で嫌で溜まらなかったけれど、これが最後だと思うと寂しくも感じる。来年からは大人になって家族を支える側に回るんだ。親父とお袋も次の子を作りたくてウズウズしているのが解った。あんまり肉親のそういう感情は感じたくないなぁ……。

 とはいえ、かく言う俺自身も幼馴染の***(人間には発音不能)との間に家庭を設けるつもりだ。

 向こうだって、そう悪い気はしてない……と、思いたい。

 いや、そりゃあまだ子供同士だしすることはしていないけど、その前までは……した。

 あいつも恥ずかしがっては居たけど嫌がってはいなかった。脈は十分にあるはずだ。

 来年の誕生日と一緒に結婚式を挙げるのも良いかもなぁ。

 でもアイツの方が生まれは遅いから、アイツの誕生日になっちまうか。

 それも良い。誕生日に結婚式を挙げておけば結婚記念日を忘れることも無い。

 ……でも忘れた場合は怒りが二倍になるだろうけどな、ははは。

 親父が結婚記念日を忘れた時は……それはそれは荒れたもんだ。お袋もこぇぇな。

 あれが二倍かぁ……ちょっと真面目に考えておこう。若死にはしたくねぇ。

 そんなことを考えていた俺の前にお袋特製のパンケーキが並べられた。

「もう、子供じゃないんだから」そう言おうと思ったけれど、今日が子供としての最後の誕生日だ。

 お袋の好きなようにさせよう。俺を子供扱いできる日は残り少ないんだからな。

 何枚も、何枚も重なったパンケーキにクリームとシロップがたっぷりとかけられた。

 甘いのは、もう、あんまり好きじゃないんだけどなぁ……。

 しっかし、懐かしい味だ。

 小さな頃はどうして毎日このパンケーキをお願いしたんだろう?

 今となっては甘くて甘くて、水が無ければ食べられたものじゃないって言うのに。

 そうやってどんどん追加されるパンケーキの山にウンザリし始めた頃、大きな音がした。

 それは聞いたことの無い音、強いて言うなら雷の音に近かった。

 外から聞こえたその音に家の外を見てみると……城が燃えていた。

 ハイオークの*****様が住んでらっしゃる城の天守閣が燃えていたのだ!!

 都市の男達は木のバケツを手に持って、生活用水から水を汲み上げてのバケツリレーを始めた。

 ここは木造の都市だ、火事対策だって訓練として皆が受けている。

 俺はまだ六歳だったけど大人達に混じってリレーに混じって頑張った。

 親父も俺の隣でバケツリレーの消化活動を手伝っている。

 なんだか、こういうのは~、ムズ痒いものを感じるなぁ。

 親父のほうもなんだかムズ痒そうにしてらぁ。

 俺達は、水をかけた、水をかけた、水をかけた、なのに……城の火は一向に鎮火しない。

 むしろ勢いを増しているようだった。

 天守閣から徐々に焼け落ち始めたころ、また、轟くような大きな音がした。

 続いて雷のような大きな音が連続でした。何度も、何度もだ!!

 連続する巨大な響きに驚いて、目を閉じて……目を開けると、俺の目に映る景色が変わっていた。

 街が……燃えて……いた?

 見渡す限りの建物の屋根に火がついて、都市の全てが燃えていた。

「お、親父!! これは何……」

 隣に居たはずの親父は、城から飛んできた瓦礫に潰されて動かなくなっていた。

 そんな……さっきまで……さっきまで!!

 あ、あ、母さん!! 母さんはどうなった!?

 俺は走った。力の限り全力で走った!!

 俺の家の屋根にも火は燃え移っていたが母さんは無事だった。

「母さん!! 逃げるんだ!! 都市が燃えている!!」

 母さんは俺の言葉が信じられないかのような顔をしていたが、道に出て、そして、その火炎地獄の光景に意識を失いそうになった。俺が支えてしっかりしてくれと揺さぶると、母さんが問いかけてきた?

「お父さんは!? お父さんは、どうなったの!?」

 俺は、静かに首を横に振った。

 母さんは静かに泣き始めた。

「母さん!! しっかしりてくれ!! 今すぐ逃げるんだ!!」

「でもお前、逃げるって、何処へだい?」

 言われて気が付いた。

 何処へ、何処へ逃げれば良いんだ?

 都市の全ての家々が燃えて居るのに、何処に逃げ場所があるんだ?

「******!!」

 俺の名を叫ぶ声があった。

 幼馴染のアイツの声だった!!

 アイツは俺に飛びつくように抱きついてきた。

 俺と、母さんと、幼馴染のコイツ、三人一緒になって泣いた。

 だけど、泣いているその間にも火はどんどん大きくなって行く。

「逃げよう!!」

「でも、何処へ?」

「都市の外だ!! そこまで逃げればきっと安全だ!!」

 そうだ、都市の中は家々が燃えているけれど、きっと外にでれば安全だ。

 近くには川だってあるんだから、そこまで走って逃げれば安全だ。

 二人の手を引いて俺は走った。

 右の家々が炎に包まれていた。

 左の家々が炎に包まれていた。

 そして……都市を守るはずの木の壁が炎に包まれていた。

 高さ10mの壁が、俺達の逃亡を阻んでいた。

 さっきから、煙で咳が止まらない。

 それから、火の熱で、熱くて熱くてたまらない。

 汗が流れ出る先から蒸発して塩に変わっている。

 俺と、母さんと、幼馴染のコイツで抱き締めあって流す涙も、すぐに蒸発して塩になっちまう。

 俺達が何をしたって言うんだよ!!

 なにが、なにがこの都市にあったって言うんだよ!?


 ◆  ◆  ◆  ◆


 説明しよう。都市攻略プランA、Abura(油)攻めだ。

 木造の密集した建物は火災に弱い。ならば、住人達もそのことを熟知しているだろう。

 そのため消火能力も高いものと推定して行動を算出。

 まずはその消火能力そのものを破壊することにした。

 夜を待つ。夜襲は基本だ。夜の闇がコマンドーを隠してくれる。飛翔する物体もな。

 俺は焼夷手榴弾を荒縄で縛り、その端を握ると頭上で回転させはじめた。

 これは石などの重量物を遠投するための技なのだが、物が焼夷手榴弾でも変わらない。

 十六倍の力!! 四倍の速度!! さらに伸ばした縄の遠心力!!

 ……うっかり音速を超えないだろうな?

 そして~第一投っ!!

 なぁに、丘から3km程度の遠投、あれだけ大きな対象物をコマンドーは外しはしない!!

 見事に城の天守閣に直撃、爆音と共に燃えた油が周囲100m圏内に飛散した。

 第二投、第三投は手榴弾を梱包しないただの追加燃料だ。

 オーク達がバケツリレーで水を掛けている姿が望遠鏡越しに視認できた。

 流石は木造都市の住人、素早く良い連携だ。だが、油火災に水は危険だぞ?

 ただ水が油を伸ばして延焼の面積を広げるだけだぞ?

 彼等が一生懸命に油火災を広げてくれている間に、次の袋の遠投の準備をする。

 手榴弾、いや接触信管式炸薬の塊だ。これをあの燃え盛る木造の城の内部に直撃させれば、城自身が燃え盛る破片となってくれるだろう。

 では、第四投を~投射!! 城の内部にジャストイン!! そして大爆発!!

 木っ端微塵とはこのことか、やはり、城は木で作るものでは無いな。


 安土城も焼け落ちた。

 大阪城も焼け落ちた。

 あの江戸城ですら明暦の大火等に呑まれて焼けたことがある。

 その大火の原因は飽和攻撃であった。

 複数箇所からの火の手により住人の消火能力を上回ってしまった結果だ。

 では、それに習って俺も飽和攻撃を開始しよう。

 都市の円周は3000m、焼夷手榴弾の飛散半径50m、直径100m、都市外周部に向けて~遠投! 遠投! 遠投!

 予備を考えて30の数を用意したのだが、正確すぎる遠投のために十二個で済んでしまった。

 中央の城跡と言う中心部から外側に広がる火災の輪、外周部から内側に向けて広がる火災の輪。

 大火は良い、三つの攻撃手段が含まれて居る。

 一つ目は単純な炎による建造物の崩壊。

 二つ目は輻射熱という目に見えない遠赤外線効果。

 三つ目は一酸化炭素中毒と酸欠による窒息死。

 うむ、ステータス表示のEXPの増加で死亡していくオーク達の様子が手に取るように解る。

 ここまでしても半死半生で逃げ延びる運の良いオークは居るもので、スピカには望遠鏡によるその索敵を頼んである。

 これだけの大火だ、光源には事欠かない。望遠鏡で覗き込み、発見後、ファイアーボールで狙撃。

 3kmの距離は流石に辛いのか直撃弾は殆ど無いが、ワンワンがその炎を頼りに走りこんで、半死半生の幸運にも逃げ延びたオーク達を斬殺する。

 火事から逃げのびて一安心したところに迫る絶望の刃。ワンワンは恐ろしい子だ。

 いつのまにやらダンジョン産の魔法のアイテムでやけに強化されたらしい。

 早い早い、司令官としては困ったものだが猟犬としては優秀なワンワンだ。

 こうして鎮火を見守ること三日、流石はオーク三万匹が住んでいた都市、全てが焼け落ちるまでには時間がかかったな。

 残ったものは、城の炭と、建物の炭と、オークだった炭だけだ……。


 ◆  ◆  ◆


「で、まだ七日しか経っていないわけだが?」

「仕事が速いことは良いことではないか?」

 ギルドの受付殿方ジェローム様を連れて、依頼の終了確認と言う名のデート♪

 ジェローム様の足が遅いから、お姫様抱っこして連れてきちゃった大胆なワ・タ・シ♪

 オーク式だけど十分に耕された農耕地に灌漑用水路も無事に残ってるから、すぐにでも移住可能ね。

 私なら家を建てたくはないけど、今だ煙燻る直径1000mの円形の空き地もあるわ。

 周囲には年齢を重ねた樹木達。人間と違って無駄に木を切らないから大きくて高価な木が沢山♪

「いやしかし、アンタもひでぇことを……いや、モンスターだったな」

「うむ。ファイアーボールで焼くことと火災で焼く、そこに違いなど大してあるまい?」

「まぁ、そりゃそうだ。ただ、ここまで消し炭になると、人間の焼死体とあんまり変わらない気がしてな……なんか、悪い気がしちまうよ。このオークなんて三人……いや、三匹が抱き締めあって……」

 実際、亜人だ。

 白人も黒人も黄色人種も、炭になるまで焼けば皆、平等。

 でも、外国人男性の骨格が良すぎて骨壷に入りきらなかったって噂を聞いたことがあったな。

 体積のみが不平等だ。

「では、残党オークの掃討。農作地が荒れる前に開拓民の移住の手配。川辺を利用した下流の街との輸送路の整備。その他諸々を頼んだぞ?」

「そりゃあ冒険者ギルドじゃなくて、国の仕事だと思うんだけどね」

「もともとオークの都市国家への侵略自身が国の仕事だろう?」

「まぁ、そりゃそうだ。国と協議して二人三脚で仕事を行なうさ」

 うむ、そうしてくれ。

 なにしろ次の仕事がさらに上流には待っているのだからな。

 次は兄か弟か、ハイオークの都市国家だ。


 ◆  ◆  ◆


~とある聖騎士の記録A~


 勇者ローラン様はこの国の生まれだという。

 聖騎士となっても、やはり生まれ故郷は生まれ故郷。

 教会を我が家としながらも私自身、生まれ故郷や家族には思うところがある。

 勇者ローラン様の携えし何ものをも切り裂くという聖剣は今迄に数多のモンスターを葬ってきた。

 ローラン様さえ居られれば、ダンジョンも恐れるに足らず!!

 こうして我等千名の聖騎士と共にダンジョンに踏み込んだ……。

 緊張しながら踏み込んだその第一歩目、我等の口からは思わず笑いが零れてしまった。

 あれだけ緊張した初めての戦場であるのに、そのダンジョンはすでに攻略されていたのだ。

 モンスターは駆逐され、罠の全てが破壊され、ご丁寧にも地下へ向かうための道標として白い石灰が撒かれていた。

 ローラン様も緊張なさっておいでだったのだろう。

 この肩透かしの大歓迎にはお笑いになられていた。

 その安全な道行は地下二十階層まで続いていた。

 そして、そこで石灰の道標は途切れていた。

 だが、ただの冒険者がここまで到達できたのだ。

 我等聖騎士一千名、さらにはローラン様が居て、なにを恐れるものがあるというのだ?

「では、行こう。ここからが我々のダンジョンだ!!」

 ローラン様は我々を鼓舞するように陣の先頭を歩いた。

 如何なるモンスターが現われようとも、その聖剣で切り裂くおつもりだったのだろう。

 そして、それが……最初の間違いだった。緊張感の足りない我等は見過ごしていたのだ。

 なぜ、モンスターが駆逐されていたのか、なぜ全ての罠が破壊されていたのか。

 その理由が理解できていなかった。ちゃんと観察していたならこんなことにはならなかったのに。

 吊り天井、後から知った罠の名前であったが、突然落ちてきた硬い石の天井がローラン様を押しつぶした。

 その面前の光景が信じられずに我等一同は固まってしまっていた……。

 やがて石の天井がキリキリと持ち上がり元の位置に戻ると、その下には金属の鎧ごと押しつぶされたローラン様が残っておられた。

 迂闊な騎士達がローラン様をお救いしようと駆け寄る、そして二度目の天井落下が起きた。

 どこかに天井落下のスイッチとなる踏み板があったのだろう。

 それを駆け寄った騎士の誰かが踏んでしまった……。

 キリキリと音を発てて戻ろうとする吊り天井の四隅の鎖を私は剣で切断した。

 そして、聖騎士団員の力をあわせ天井だった石の板を取り除くと、ローラン様以下数名の遺体が残されていた。あまりにも、あまりにも惨い光景に我々は絶句した。思わず神に祈りを捧げていた。

 だが、ともらいの時間はほんの僅かしか与えられなかった。

 二度に渡る吊り天井の落下音、それはヤツラを呼び寄せるのに十分なだけの音だったのだ……。


 現われたのはウォーターエレメントとファイヤーエレメントが一体づつ。

 どちらもかなりの難敵ではあるが、弱点のはっきりとしたモンスターだ。

「勇者ローラン様と聖剣を回収せよ!」

 副長がそう口にした瞬間、私の身体は動いていた。

 ローラン様の潰された遺体を背負い不壊不滅の聖剣を手に、私は地下二十階層まで走って戻った。

 私だけは地下二十階層まで走って戻っていた。

 そして、残された兄弟達の行く末を扉の影から覗きこんでいた。

 ファイアーエレメントは周囲の火の魔力を支配する強力なモンスターだが、水の魔法に弱い。

 ウォーターエレメントは周囲の水の魔力を支配する強力なモンスターだが、火の魔法に弱い。

 対処法が既に判明しているモンスターだ。

 強力ではあるが、倒せない相手ではない。

 そして我等は聖騎士団。火や水などの基礎的な魔法が使えぬものなど一人も居ない。

 この争いは、簡単に勝敗がつく筈であった。

「各自、火の魔法、水の魔法をそれぞれ用意!! ……放てっ!!」

 副長の号令一下、投射される水と炎の無数の魔法群。

 水の魔法は投射されると同時に曲がりくねり、ウォーターエレメントに直撃した。

 火の魔法は投射されると同時に曲がりくねり、ファイアーエレメントに直撃した。

 もちろん、対象としたモンスターは逆だ。投射した魔法が彼等に支配されたのだ。

 こうして我々の魔法の投射は、ただ彼等を肥え太らせる結果に終った。

 そしてファイアーエレメントが吸収しただけの炎の大玉を我々に返そうと抱え上げた。

 千人のうちのおおよそ半数の力で作り上げた炎の大玉、それを喰らえばどうなることか。

「前衛!! 水流防壁陣!! 奴の攻撃を防げ!!」

 水流防壁陣。これは複数の聖騎士による合成魔法陣。

 文字通り、流水による防壁を形作り、火炎系の魔法に対する絶対の防御陣になるはずだった。

 ……ウォーターエレメントさえ居なければ。

 形作られる端からその水流は吸い上げられて壁の形を成さない。

 水流の後ろでは自らの魔力も込めて居るのか、火炎の大玉が通路一杯の大きさにまで膨れ上がっていた。

 水の守りは全て奪われ、無防備になった兄弟達に業火の大玉が転がされた。

 ただ通路の上をゴロゴロと転がされるだけの火炎の大玉に兄弟達が飲み込まれていった。

 私は咄嗟に扉を閉めて、その大玉を避けた。扉の向こう側から響いてくる兄弟達の断末魔の悲鳴。

 ……私は、しばらくの時をその場で座り込んで待った。

 誰かが、ひょっこりと、扉を開けてくれるのではないかと、期待しながら待った。

 だが、予想通り……誰も帰って来てはくれなかったのだ。

 私は勇者ローラン様を背負い、その聖剣を携えて、地上を目指して一人で帰ったのだった……。


 ◆  ◆  ◆

 

 結局、聖騎士団の第一回ダンジョン攻略はモンスターの一体を倒す事もなく終ったわけか。

 さすがは地下二十一階層。やり方がえげつないな。

 水の魔法はウォーターエレメントが引き受け、炎の魔法はファイアーエレメントが引き受ける。

 結果、彼等のコンビネーションの前に魔法的な弱点など無い。

 それなりに考えられた配置だ。やはりダンジョンには悪意的な何かがある。

「ふむ、スピカ。墓石の手配は?」

「はい、五千人分は過酷済みですよぉ。でも~それ以上となると素材の方がぁ……」

 聖戦に殉じた聖騎士達の墓標ともなれば石の大きさも質もそれなりに高価なものになる。

 聖騎士達はモンスターの目を盗んで一千人の焼け焦げた遺体らしきものを回収したそうだ。

 そしてダンジョンの周囲に埋葬しようとしたところ魔法学園側から苦情の申し立てがあった。

 自分の家の隣に勝手に墓地を作られてはたまったものではないのは、どの世界でも同じことだ。

 そこで何処かの優しいコマンドーが霊園に良さそうな開けた花咲く土地の紹介と、勇者に相応しい豪奢な墓石、そして聖なる戦いに殉じた聖騎士達のための立派な墓石を適正価格で紹介させて貰った。

 なに、千人分とは言え世界に蔓延るグローバル企業の教会様からすればお安い買い物だ。

 そしてなにより、次回の殉死者に前回の殉死者よりもお粗末な墓石は与えられないだろう?

 この調子でどんどんと御立派な墓石を買って逝ってくださいませ。

 ようこそグローバル企業の教会様。我がボッタクリ商店へ!! 大歓迎いたします。


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