第1話「平穏クライシス(4)」
「…………まぁそんなわけだから、色々よろしく頼むわ」
「なーるほどね、さっきの変な態度はそーゆーことかい」
放課後、学校内の人気のない場所で鷹紀に事情を話していた。
「とりあえず、今日1日だけでもなんとかできりゃいいってことか。っていうか、棗に言うくらいなら別にいいんじゃねぇの?アイツにも事情話せばアイツから言ってくれるだろうに」
「アイツに言うと色々めんどくさい気がする。いや絶対めんどくさい」
「まぁわからんでもないけど。棗はお節介だしなぁ」
「そんなわけだから、とりあえずお前はなんとかして奈穂から棗を引き剥がしてくれ。あとは俺がなんとかする」
「………奈穂、ね」
「なんか文句あんのか」
「いーや、別にぃ」
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放送文化部。私たちが所属している部活だ。
真面目な名前をしてはいるものの、その実ただのお遊び部活……の皮を被った何でも屋みたいなものだ。普段は大した活動はしておらず、昼に流す放送を作るくらいのものである。しかし、先生方や生徒会と連携し、学校行事の手伝いをするのが主な仕事になっている。ほとんどが雑用だが。
元々は普通の文化部だったのだが、それから人手不足だった放送部と統合し、それから何十年か経った今、その名残が残って今のままの名前になっているらしい。
四階建ての校舎の二階、職員室にほど近い場所にある放送室が、私たちの部室となっている。
冷蔵庫があり、クーラーもあり、大きなサイズのテレビからボードゲーム、果てには古い型のゲーム機まで。ほぼ完全にお遊び部屋になりつつある。また、部室の隅には二畳ほどの防音室があり、そこで何かしらのアナウンスの収録を行なったりする。……が、まぁ、大抵部員たちの遊び部屋や内緒話用の部屋みたいになっている。
部員は約10人ちょっと程度。
最上級生の部員はおらず、私たち2年生でだいたい7〜9人。1年生が3人
だいたい、というのは、あまり部室に顔は出さないが、たまに時間が空けばふらっと来るような"準部員"のような立場の生徒が数人いるためだ。
ちなみにリクは副部長という立場にある。溜まり場として使えるように、放課後は毎日鍵を開け、定位置である窓際の部室の隅で絵を描いたり本を読んだりしている。
いつもいつも帰りたいとか、絵を描きたいとか言うリクに「帰らないのか?」と聞いてみたところ。「帰ったら間違いなく寝るから時間がもったいない」という理由で部室に入り浸って時間を潰しているらしい。よくわからない信念である。
そんなわけで、我らが放送文化部……略して放文部は、今日も門戸を開けてそれぞれが自由気ままに過ごしていた。
………………のだが、
「紹介するよ!転校生の有沢奈穂!でもって今日から新しい部員だよ!」
そんな日常の中で、再びリクに試練が訪れたのだった。
もちろん、リクの表情はお察しである。
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「ちょ、ちょっと棗、まだ決めたわけじゃ……」
「なーにー?また生徒会にでも入るつもりー?やめときなさいあんな真面目なとこ、絶対息がつまるわよ?」
「いやそーじゃなくて………」
「わぁ、お昼ぶりだねー!ウチは結。よろしくちゃん!」
「えっと、よろしくちゃん……?」
「なっちゃん先輩のお知り合いですか?」
「そーそー、私らの元中」
「……てことは、りく先輩の同級生……?」
「そゆことー」
「ぬぬぬ……」
結に続き、後輩たちも奈穂の入部を歓迎しているような様子だった。そんな中で、部屋の隅に私と鷹紀、そしてリクは集まっていた。
「(ねぇ、俺そろそろ怒ってもいい?いや八つ当たりなんだけどさ、怒ってもいいかな?今日の晩御飯アイツの嫌いな豆祭りにしてもいい??)」
「(落ち着け落ち着け、とりあえず有沢に口止めさせりゃいいだけの話だろ)」
「(……てかむしろ、さっさとバラしちゃった方が早いんじゃないか?この部のヤツらなら広めたりはしないし……)」
「(それは最終手段……というか最低限許せるライン、最悪口八丁でなんとかできるラインでしかない。口外しないのが一番いいに決まってるだろ)」
「(んで、なんか策は決めてんのか?)」
「(……さっき調べたんだが、みんなで食う用の菓子がもうほとんどなくなってた。棗たちがたぶん後で買い出しに出かけるだろう。その時に、なんとかして奈穂だけを部室に残して、あとは俺がどうにかこうにかする。だから、まず鷹紀が棗を────────)」
「へーいそこのお前ら、なにこそこそ話してんの?」
「こ、こそこそなんてしてないやい!」
「嘘つけしてたでしょうが!せっかく奈穂が入部してきたっていうのに、歓迎くらいしてあげてもいいんじゃないの?」
「……うむ、たしかに。それじゃあ歓迎の意味も込めて、今日はちょっとしたパーティ的なアレをアレするためにお菓子とかジュースとかをパーっとアレしよう。うん。そうしよう」
「めんどくさがりのアンタにしては随分な提案するじゃない?なに?なにが目的?」
「いやいや、リクも奈穂のこと歓迎してるだけだって、たぶん。ほら、買い出し行こうぜ」
「え?んじゃあ奈穂も────────」
「あーーーちょっと待った、先に入部届とか、連絡先とか、そうゆうの済ませちゃおうぜ、有沢は。部長いないから、とりあえず今日は陸とってことで。長引くかもしれないから、俺らだけで買い出し行くべ。ゲストに行かせるわけにはいかないだろ?」
(完璧だぜ相棒────────!)
(へへっ、よせやい☆)
リクと鷹紀がそんなアイコンタクトを交わしたのち、よいさよいさと棗たちと後輩たちを部室から追い出そうとする鷹紀と私。
そして……………
「連絡先……あー………ごめん陸。今日バタバタしてたから、携帯そっちの家に忘れちゃって……」
そんなことを、奈穂は口にしたのだった。
「……そっちって、どっち?」
「あ、いや違くて!その、この前……そう、この前!陸の、みくちゃんの家に遊びに行った時!に忘れちゃって!」
「……昼休み、久しぶりって言ってなかったっけ?それに、この一年知り合いにはほとんど会わなかったって」
「や、それは言葉の綾というかなんというか、なんか勢いで言っちゃったっていうか、陸とはほんとなんの関係もなくて!陸の家に行ったのもつい一昨日からっていうか………!!」
「……へぇー、つまり、陸んちに泊まってるってこと?」
「なんで知っ…!?………っ!!」
はっとした様子で、奈穂は口を押さえた。しかし、カマをかけられたと気づいた時にはもう遅かったようで、そのあとは棗に、結に、後輩たちに、ジリジリと追い詰められてしまっていたのだった。
私と鷹紀は思わず頭を抱えてしまった。
……もちろん、リクの表情はお察しである。




