第3話「さよなら……?居候さん(9)」
あれから、どれほど時間が経っただろう。
気づけばベッドの上にいた。そのまま身を任せて眠りにつこうと思って目を閉じても、鬱屈した感情が胸の奥で渦巻いて、吐き気のような気味の悪い感覚が込み上げてきて眠れなくなる。何度も何度もそれを繰り返して、結局眠れないまま時間ばかりが経っていた。
「…………………………わたし、」
何か言葉を口に出さねばどうにかなりそうな気がして、掠れた声で呟く。
けれど、そこから先は続かなかった。言葉が出なかった。何を吐き出せばいいのか、何を飲み込めばいいのかわからなかった。わからないまま、また時間だけが過ぎて─────。
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「……なァるほどなぁ」
親父にある程度の経緯を話した。しかし、あのメールのことは伏せて、体調が悪くなったらしいとか、それっぽい理由をでっち上げた上で。
それでも親父は、なにかを察したように、
「ご苦労さん」と、一言告げた。
それから数時間。夜の22時を回った頃。
自室でパソコンと向き合いながら、手元でペンを回す。
ディスプレイに表示されているのは一枚の絵。昨夜は線画の途中で切り上げて、完成は早くとも明日になるだろうと思っていた。しかし、ディスプレイには完成された一枚の絵。ここまで早く完成までこぎつけられるとは思っていなかった。
それというのも……自分で言うのもなんだが、ひとつの癖というか、性格というか、そうゆう部分によるところが大きい。何か胸につっかかりがある時、何か気に入らないことがある時、決まって手が進むのが早くなる。
それでクオリティが下がるかといえばそうゆうわけではないらしく、編集やら原作者やらの人からはそうゆう時に描いた絵の方が評判が良かったりする。
まぁそんなことはいいとして。
ぎぃ。と、天井を仰ぐように背もたれに体を預ける。
絵の完成が想定よりも早かった。ということは、逆説的に何か気にかかることがあるということだ。答えなんて決まっているようなものだが。
別に、何をどうしたいというわけではない。できるわけもないのだから。それでも胸につっかえているのは、きっと………。
そんな思考を遮るように、ドアを叩く音が響く。
「なんだ、みく」
ドアを開いた先に居たのはみくだった。予想はしていたが、やはりその表情は沈んでいるようだった。
「………ね、お兄ちゃん。奈穂ちゃんのこと、なんとかできない……?」
「……なんとかって?」
「話聞いてあげるとか、さ。だって、奈穂ちゃんすごい大変そうだったもん。みくでもわかるよ、それくらい」
みくだってバカではない。家庭の事情で奈穂がここに来ているということくらいはなんとなくでも理解している。けれど、自分にはどうしようもできないのをわかっていて、飲み込もうとして、それでも納得できなくて訪れてきた。そんなところだろう。
「……俺だって、なんとかしたい気持ちはないでもない。でも、俺らがどうにかしていいことじゃない……どうにかできることじゃないってのは、お前だってわかるだろ」
「でも!…………でも、それでもさ、奈穂ちゃんすっごいつらそうだったもん。何かしてあげたいって思うじゃん。……でも、みくじゃ何もできないもん。きっと奈穂ちゃんも気を使うと思うし。けどさ、お兄ちゃんならさ、話を聞くくらいならできるんじゃないかって思って………」
「………………………わかった。でも、俺から聞きには行かないぞ。もしあいつが話しにきたなら、そん時はちゃんと聞いてやる。それでいいか?」
「………ん」
それでも不安そうな表情を浮かべるみくの頭を撫でて、ぐいっと押し出して部屋の外に出す。
「んじゃ早く寝ろ。明日も部活だろ?」
「ん。…………あのさ、お兄ちゃん、」
最後に振り返ってみくは言った。
「お願いね」




