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わが家の居候さん  作者: 久我わかなり
第1章 「あの子は居候さん」
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第1話ー1

 


 高校2年。春。


 出会いと別れの季節を少し過ぎ、それぞれの環境に慣れ始めた最中、緊張や疲労で強張った心身に休みを与える為のゴールデンウィークがやってきた。


 しかしながら、休みを満喫しようと目論む者がいる反面、休みが取れずに仕事に励む者も、予定があって外へ出かける者も当然いる。

 現に我が父も、昨夜に「ゴールデンウィークに働きたくねぇよォ」と愚痴をこぼしていたし、妹は意気揚々と居間の方で部活に行く準備を進めているところだ。


 私こと伏見(ふしみ)(りく)は前者、つまりゴールデンウィークを満喫する側である。とは言っても、ライトノベルやアニメや漫画よろしく、春先に転校生がやってくるということもなかったし、目立った出会いも別れもないままに5月を迎えたため、予定など何ひとつ入れていない。



 つまること、暇人である。


 



 現在時刻は朝7時。

 こんな時間に起きてしまったのも、普段このくらいの時間は学校に行くという習慣があるせいだろう。普段ならばもう50分くらい寝ているのだが。休みの日くらいはどっぷり寝ていたいものである。






「あれ、お兄ちゃん起きたんだ?」






 妹であるみくが、ジャージ姿で言う。






「お前もゴールデンウィークの間くらい部活休めばいいのになぁ」




「なに言ってんのさ、今年で最後の大会なんだよ?しかも、色んな人に期待されちゃってるんだから、裏切るわけにはいかないでしょ」






 にかっ、と。快活な笑みを浮かべる妹。

 その笑顔がとても眩しく思えたところで、妹が時計を確認してバタバタと玄関へと向かう。






「気ぃつけてな」




「ありがと!いってきまっ!」






 元気な声と共にドアを開けてダッシュで飛び出していった。7時半から部活と聞いていたが、あの調子だと5分で学校に着きそうだ。


 朝から元気なやつだと思いつつ、居間で喉を潤してから、階段を上がって部屋に入り、自分のベッドに潜り込む。休日の二度寝ほど気持ちいいものはない。



 大した事件も変化もない日常。凹もなければ凸もない日々。たぶん、平和とはこうゆうものなのだろうと、そんな寝ぼけたことを考えながら、欠伸をかまして眠りに耽るのであった。






 *********************






 朝の10時になった。



 ベッドから起き上がり、5月頭だというのにいまだに残る肌寒さに身を震わせ、二度寝から覚めたぼーっとする頭で階段を下りていく。



 そういえば今日は集めている漫画の単行本の発売日だったか。地域が地域なため、発売日に置いてあるかどうかはわからないが、一応本屋に行くことにした。ついでにアニメのDVDでも借りてくるかと考えながら、歯磨き粉をつけた歯ブラシをシャカシャカ動かしつつ、ド派手についた寝癖を直し、なんとなくテレビを点ける。

 公園で子供がヘリコプターのラジコンを操作していたら、たまたま国のお偉いさんの付近に墜落して大騒ぎとか、海外の金持ちが所有していた自家用ジェット機が危うく墜落しかけたとか、なんだか墜落してばかりなニュースに耳を傾け、世の中物騒なこともあるもんだと適当なことを考える。




 そんな折、ピンポーンと、間抜けな音が響いた。






「(……みくか?)」


 

 



 そそっかしいウチの妹はよく家の鍵を忘れることが多い。そのため、「今日は部活が早く終わって、まっすぐ帰ってきたけど鍵忘れちゃったぜ☆」みたいなことも多々あるのだ。


 カメラが壊れて使えなくなったインターフォンのモニターを素通りし、ガチャリと鍵を回してドアを開ける。



 やがて、気づく。

 果たして自分は二度寝する前、みくが出かける時に鍵をかけただろうか。なにせ寝起きだったためにうろ覚えだが、たしか鍵には手をつけてなかったはずだ。

 しかし、今鍵がかかっていたということは、みくは鍵を持っていて、自分で鍵をかけたということになる。そうなれば、鍵を持っているのにわざわざインターフォンを押す必要もない。



 ならば、ドアの向こうにいるのは誰なのか。



 平和ボケしてドアスコープを覗かなかった自分の無用心さを嘆きたいところだが、ドアを開けた手はもう引っ込みがつかず、ドアから差し込む光は少しずつ広くなっていく。




 そして、




「へう゛っ」 と短い悲鳴が響き、

 開くはずだったドアはせき止められた。


 それが妹以外の声だと気づいたところで、今一度ドアをゆっくりと開き直し、頭を押さえて呻く人に声をかける。






「すいません、大丈夫ですか?ドアの前にいるとは思わ……なく、て……………………」




「あぅ……あ、だ、大丈夫…大丈夫。ちょっとおでこをぶつけた…だけで………………」







 そこにいたのは、艶やかな長い黒髪の少女だった。そして、どこか見覚えがあるようなヘアピンをした少女が顔を上げたところで、誰だったのかを確信する。






「………………有沢(ありさわ)…?」




「……えへへ。久しぶり、陸」






 ポトリ、と。

 咥えていた歯ブラシが地面に墜落した。





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