「わが家の居候さん」
わが家には居候がいる。
それ以上でも以下でもなく、
とにかくわが家には居候がいるのだ。
少年漫画よろしく幼馴染でもなければ、人外だったり、ケモノ耳だったり、実は生き別れの妹だったり、アレコレあって離れ離れになった義理の妹だとか、そんなことはない。ただ同じ中学に通っていたというだけだった女の子が居候になった。それだけである。
なんだかんだで1年、彼女は居候を続けている。
すっかり慣れてしまった今では、なに不自由なく暮らせているし、彼女がいる生活がほとんど当たり前のようにもなってきている。慣れとは怖いものである。
それはさておき、私こと伏見陸は、朝にシャワーを浴びる…所謂"朝シャン"を終えて台所にいる。夜更かしした後の朝シャンはとても爽快感のあるもので、朝シャンをするかしないかでは1日のテンションが違ってくるのだ。
それに加えて、朝シャン後に牛乳を飲む。『仕事終わりには酒を飲みたくなるもんなのよ』と父が力強く言っていた意味がわかる気がする。
きっとこれが大人になるということなんだろう、とか適当なことを考えながら、特撮ドラマのモチーフデザインが施されたカップに牛乳を注ぎ、一気に飲み干す。
「〜〜〜〜〜〜〜っっっかーーーー!」
「お兄ちゃん、おっさんぽいよソレ」と、
リビングのソファに寝転がりながら携帯ゲーム機を弄ぶ妹が言った。
座るときに『どっこいせ』とか言うようなお前には言われたくない。と思いながら、もう一杯牛乳をカップに注いでいく。
その直後のことだった。
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」と、
耳を通り抜けるような甲高い悲鳴がリビングの方から響く。
後ろを振り返ると、そこには居候がいた。
「なん、ばっ……な、なん、なななんで………!!なんでそんな格好でうろちょろしてるのさバカぁ!!」
「別にいいだろ休みなんだし」
「休みだろうと平日だろうと関係ないでしょ!!少しは配慮とかしてよもう!!みくちゃんだってもう高校生なんだし、私だっているんだし!!!」
「……ったくうるさい居候だなぁ、自分ちなんだから楽な格好したっていいだろ……」
不貞腐れるようにそう言いながら、視線を落とす。
そこには自分の胸板があり、腹があり、その少し下からは湿り気を帯びた白い布があった。
「………なぁ?」と、妹のみくにも『自分ちなんだから布一枚で牛乳飲みにくるくらいいいじゃん?』という感じの言葉を投げる。
「お兄ちゃんちょっと太った?」
「太ったとか太らないとかじゃないでしょ!さっさと服着てきて!!脱衣所行って!!!布が解けてポロリみたいなハプニングとかはいらないから早く行って!!!!」
「朝シャン後の一杯くらい落ち着いて飲ませろよなぁ。珍しく起きるのが遅いからと思ってたらこれだよ」
あれこれ言われるのも面倒くさいので、さっさと脱衣所に戻って服を着てくることにした。
「………あっそうだ、パンツ忘れたんだった」
「だからその格好でうろちょろすんなァ!!」
すぺぇん!!と、勢いよくパンツが投げられた。
1年も経つと遠慮がなくなるんだなーと、少しばかりの悲観を感じながら脱衣所へと歩を進める。
「牛乳は置いてけぇ!!!」
注文の多い居候である。
リビングの戸をちゃんと閉めて、
手元に残ったパンツを眺めて、ふと思った。
「なぁ、これ親父のパンツ─────」
今度こそ、自分のパンツが飛んできた。
彼女の名前は有沢奈穂。
彼女は、わが家の居候さんである。
がんばって続けますので、暖かい目で見守ってください。