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マッドサイエンティストの野望

作者: さきら天悟

「ついに完成した!」


彼は天を見上げた。


「俺は天才だッ」


天に向かって叫んだ。

彼は何かを思いつくと、天才だと叫ぶのが癖だった。

その癖は自分でも自覚している。

だが、思わず叫んでしまうのだ。

だから、照れ隠しで、マッドサイエンティストを自称している。

それに気づき、俯き気味に苦笑いした。


その視線の先、彼のデスクの上にはA4サイズの黒い物体があった。

厚さは1センチ程度、十分な重量を感じさせる。

これが今回彼が作り上げた物だった。


「これで原価、200円」


彼は笑みを溢した。

この質感を出すのに苦労したからだった。


彼が上部の面をスライドさせ、斜めに立てた。

立てられた面にはアプリケーションのアイコンが現れ、

下の面にはキーボードが現れた。


「完璧だッ」


彼はキーボードに指をはわせる。

各キーの凹凸を感じ、また笑みを溢した。


そう彼が完成させたものはパソコンだった。

あの人気機種「BAIO」と同じロゴがあった。



その時、チャイムが鳴った。


「また何か発明したのか?」

男が彼に会うなり、言った。

男は彼に呼び出されていたのだ。


「ようこそ名探偵」

彼は男に言った。

男は藤崎と言い、これも名探偵を自称していた。


「これか?」

藤崎はあざとく、机の上のパソコンを指差した。


「ああ、原価100円だ」

彼は、藤崎に小さなウソをついた。

よりコストパフォーマンスの高い物を完成させたと見栄をはった。


「凄いな~

パソコンか~

これで原価100円?」

藤崎はパソコンのモニタ面をスライドさせ、畳んだ。


「凄いな~これ!」


藤崎は何度もモニタをスライドさせた。

スライドする度にモニタが黒くなったり、アイコンが表示される。

電源スイッチを入れずにだ。


「こうなっているのか」


藤崎は感心して、一つ大きく頷き、続けた。


「モニタをスライドする時に、黒いシートが引っ張られて、

その下から画面が出てくるのか」


藤崎は畳んだA4サイズの黒い物体を片手で振った。


「軽いな~

何に使うんだ。

こんなもん紙で作って。

インテリアとして売るのか?」

藤崎は怪訝な顔をして彼を見つめた。

そのパソコン風の物体は紙製品だったのだ。


「これで腹いっぱいメシが食える」


自称してマッドサイエンティストの彼はビンボーだった。


「どこかに売れたのか?」


藤崎の問いに彼はニヤリとした。


「これを持ってファミレスに行くんだ」


「ファミレス?」

藤崎は小首を傾げた。


「そして、たらふく食う」


「食ってどうする?」


「これをおいて、トイレに行く」


「トイレにいく?」


「それでそのまま逃げる」


「食い逃げ?」


藤崎はハッとした。

彼の意図を一瞬で理解した。

席にパソコンが置いておけば、

店員は客がそのまま逃げたとは思わないだろう、と。

どんなに食べても、パソコンの方が高価だからだ。

そのパソコンを置いて店を出ることはない、

その油断をついて食い逃げをするつもりなのだ。


ふっ、藤崎は鼻で笑った。

そのパソコンやアイデアにではない。

彼はマッドサイエンティストと自称しているが、

そんな犯罪めいたことができるはずがないのだ。


彼が大事そうにそのパソコンを胸に掲げた。


「これで一生腹を減らさずにすむ」


藤崎はまた鼻で笑った。

そして、胸に手を当ててこう言った。


「名探偵にお任せあれ」


藤崎は深く頭を下げた。


「そんなことをしなくても、葬儀屋に売ればいい。

いい値で買ってくれる。

これなら2000円はいけるかもしれない」


「2000円?

葬儀屋?」

彼はキョトンとした。


「棺の中に入れるんだ。

今の時代、パソコンが命より大事だと思っている人が多い。

たばことか一緒だ。

棺に入れて一緒に燃やすんだ」


「供養のためか~。

えッ?そんなことできない」

彼は険しい顔をした。


「どうしてだ?」

藤崎は訊いた。


「俺の作品を燃やすのは許せない」

彼はまじめな顔で答えた。


ファミレスに置いていくのはいいのか、と問いただしたかったが、

藤崎は面倒なのでやめた。


彼はパソコンもどきを手に取った。

「どこのファミレス行こうかな。

やっぱり、チーズインハンバーグは外せないな~」



藤崎は心の中で呟いた。

このマッドサイエンティストめ、と。





後日、藤崎は彼の許可を取らず、勝手に大手葬儀屋と話をまとめた。

葬儀屋の役員は、藤崎が勝手に持ち出したパソコンもどきを手に取り言った。

「これはいいね。

まずは500個頼んでみるか」

役員は即答だった。

「この品質なら、客に5000円でも売れる」


こうして彼のパソコンは食い逃げ用として使わずに済んだのだった。

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