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乳母転生~デバッガーの俺は姫様の乳母として生きるようです。

作者: 片桐ゆーな

10/11 ご指摘をいただきましてデバッカー→デバッガーに修正させていただきました。

 重い話は苦手かい?

 はっはっは。そりゃーおいらもそうさ。

 てきとーに、どうしよーもないほうがいい。

 時々すげーやつがいたりして、でもそれはいつだって物語の向こう側で。

 そんな話を俺も夢見ていたし、実際おいらだって中二のころにはいろいろ考えたもんだ。

 けれど続きはしねぇ。おいらの考えたかっこいい設定も実はそうたいしたものでもないのだろう。

 それからちゃらんぽらんに過ごして、適度に愉快そうな仕事をしてきた。


 でもさぁ、気づいたんだよ。人が苦しむ話は重苦しい方がいいってな。

 簡単に死んではつまらないだろう。

 絶望を与えても何度でも這い上がるようなやつの精神をぺきんと。

 それこそ、おれつえぇと言わんばかりに、手折るようなそんな話。そんな話を作りたかった。

 

 らしくないと、人はいうだろう。

 これまで五つの乙女ゲームを作ってきたこの身にそんな邪心があるなどとは誰も思うまい。

 おっと。おいらがあまり語りすぎると、それはそれでこの公演場では煙たがられるか。

 ただでさえ、ヒロインたる彼女は、文字をこねくり回すのが大好きな悪友なのだから、きっとあのような素敵空間にぶち込んであげたなら、それこそもう。

 ひたすら文字の羅列が襲うだろう。

 ああ、文字慣れしていない若人。


 私はあなた方に、謝意と同情をお送りいたします。ーおじラブ製作委員会代表 井上たかひさ




 幼い頃の記憶をみんなはどの程度覚えているものなのだろうか。

 とある脳科学者の研究によると、三歳未満の記憶というものは、思い出せないものらしい。

 それは、サラ・エル・フォルツァ。五歳であるこの身も同じであるらしい。

 最初の記憶は豪華な紺のビロード製の絨毯の上で、ぽてっと転んで膝が痛かったというもので、離乳食を食べた記憶だったりその前、母乳の味なんていうものも当然まったくこれっぽっちも覚えていない。

 じゃあ三歳までの経験は不必要なのか、といわれるとそんなことはない。

 三つ子の魂は百までというけれど、そこまでで感情の土台が作られていくそうなので、そのときの周囲の環境もとても大切だ、ということらしいのだ。

 さて。サラにとっての三歳までの時間というのはどういうものだったろうか。

 父母は地方領主という良いところのお嬢様らしく、かなり愛でられたらしい。

 三歳上には姉のリズがいて、五つ上に兄のアスタルトがいる。

 そちらからも疎まれているわけはまったくない。確かに年下の特権というやつで両親からは愛されてはいるけれど、長男長女の余裕とでもいうのか、二人ともいたくサラを可愛がってくれるし。権力争い的なところはまったくない平和な家族である。

 たいていの家は長男が家を継ぐし、良縁は年長者から順に振られるものだから、妹である自分の将来性でいえばちょっと大変になるというのは、侍女達の噂話を聞いていれば嫌でもわかるだろう。

 実際、隣の領主の末の娘は王国の城下で働いているし、忠誠を示すという意味合いでも次男や次女などを王宮に差し出す風習が残されているのを、サラは「知って」いる。

 もちろん誰から聞いたわけでもない。メイド達は将来的にそうなる可能性がある自分の前ではそのような話は一切しないし、そもそも他家の話が食卓で登ることすらそうそうないのである。晩餐の時の会話なんていうのは子供側からの今日のささいな出来事の発表と、領民の話ばかりだ。


 さて。ここフォルツァ領は、王国の西にある一領土に過ぎない。小麦の栽培が盛んで、あとの名産といったらトマトだろうか。つやつやした赤いあの果物は他の土地ではあまり栽培されていないようで特産品として城下町にも並んでいるのだという。トマトはサラの好物でもあって、毎日トマトが食卓の何かに使われているのは嬉しいかぎりだ。これでトマトケチャップがあればなぁと思うものの、さすがに秘伝のレシピはこちらには無いらしい。

 ああ。あとはたしかイチゴが名産に「なる」はずだ。今はまだ面積が狭いイチゴ畑も、あと二十年もすればそれはもう立派に広がってくれるはずである。

 どうしてそんな予言者みたいなことが言えるのか、といわれてしまえば、どうやらここが生前自分がやりこんでいた乙女ゲームの世界にそっくりだからである。

 王国の名前は「ノブリス」。五歳になって初めて家庭教師から世界のことを教わった時には、さすがにその名に愕然とした。もちろん前世の記憶があるというのは三歳から気づいていたけれど、小さな子供にとっての世界なんて手が届く範囲でしかないのはあっちもこっちも同じで、さらにテレビがないここでの情報源はメイドの噂話や家族の話くらいなもので、ここがそんな世界だなんて気づくことなんて出来なかったのだ。

 この、乙女転生とでもいうのか。この現象に思うところはあったけれど、今ある現実はこれなのだ。泣こうがわめこうが現実が変わるわけでもない。そりゃ物心ついたころは、転生=死亡ということにショックは受けた。

 正直、いつどう死んだのか記憶は定かではない。病死なのか事故なのか。気がついたら三歳児だった、というのが実際のところだった。

 けれど数週もしたらもうなるようになれという気になっていた。もともとそういう性格なのである。

 あとは……普通の子供が普通に覚えることを普通に覚えた。

 食事のしかた。衣類の着方。そして入浴法やらトイレの使い方などもだ。

 実はこの、排泄という行為が一番面を食らってしまった。今ではさすがに慣れたけれど。

 まったく現代日本とトイレの様式が違うから、というわけではない。まあ、トイレはトイレだ。どんな文化でも似たようなものになるわけだし、ことさらあの乙女ゲームのシナリオライターがトイレへのこだわりをしていたわけでも無い。

 

 そんな理由は全部生まれ変わる前の自分が、成人男子(、、、、)だったからである。


 あ。今、男のくせに乙女ゲームやってたのかよと総スカンでしたよね?

 こ、これにはちゃんとした理由がある。

 それは、仕事として乙女ゲームをプレイしていたのだ。発売前のテストプレイ。しかもバグの発見から修正までやっていたのでデバッガーと言った方がいいだろうか。

 友人がベンチャーとして立ち上げたゲーム会社の五本目。

 ひたすらテキストを読み続けて、立ち絵と背景とテキストの誤りを直していく。

 それで果たして何回くらい読んだだろうか。

 背景設定から、各ルートその隅々まで裏設定、裏ルートに至るまでそこにあるテキストは全部読み込んでいる。

 いちおうソフトは完成して、最後までプレイをしたところまでの記憶はある。

 けれどもそれが販売されてどういう評価を受けているのかまで知ることが出来なかったのは残念というしかないだろう。

「おじさまにラブあたっく♪」というタイトルのそれは、少しだけとがった作品だ。

 タイトルを見ればわかるよとおっしゃったそこの貴方。その通りです。

 このゲームは、乙女ゲームの中でも少し特殊な「おじさま専門向け」で、攻略対象はみなさま40才過ぎ。

 そりゃ、似たような作品があまたあるこの業界ではなにかしらの売りがないといけないとは思うのだが、最初に聞かされたときは、友人のその無謀に、おま……男に乙女ゲーの企画はやっぱ無理なんじゃね、と思ったものだった。

 けれども企画をした友人は声を大にして言ったものだ。「世間の一流といわれる人々は年の差婚だろう。四十すぎたミドルな魅力に若い娘さんはたじたじになるものだ」と三十過ぎで魔法使いになった友人は力一杯語っていた。本人はもうちょっとで自分もそうなるんだなんていっていたけれど、まあ無理だろう。

 とはいえ、言い分は少なからずわかる。

 というか、シナリオ担当した荻野女史の熱意もプレイをしていてよく伝わってきた。

 あまたある乙女ゲームの中で、とがった作品になりえる感触はやっていてよく伝わってきた。売れるかどうかまではわからないが、それでもそうとうお話を楽しんで書いているというのもよくわかった。

 たとえば、普通に恋愛するなら同年代できらきらした子でいいだろう。乙女ゲームの醍醐味はそういういうものを味わうものなのだという。そこに十年後は必要ない。

 けれども、大人の魅力というものの中には十年後が垣間見える。ようは結婚した後のことまで織り込み済みでの恋愛ができるのだ。もちろんこの手のおじ専は愛人フラグなんてのもあるというし、荻野女史とご飯を食べに行ったときに、さんざんその手の話は聞かされた。大人の魅力最強! って言っていた。

 自分がそういうかっこいい大人になれていたかといわれると、四十までに手が届いていなかったので何とも言えない。まああのまま行ってても無理だったろうな。友人と同じく俺もモテなかったし、三十路を過ぎてもそれらしいつきあいをしたことだってなかったのだから。

 では、登場してくる攻略対象はどうなのかと言えば……年齢を重ねているだけにどれもくせ者ではあるものの、キャラに深みがあるのはおじさまだからこそかもしれない。通常の乙女げーの倍の経験をしている人達と恋愛ができるのは魅力的なのではないだろうか。

 なんだろう。嘘くさくない?

 若いとついやんちゃをしてしまうこともあるものだけれど、そういうこともなく落ち着いていて、しかもそれなりな社会的地位に就いている。見識も広く、新しいことをどんどん教えてくれるし、地位に見合った責任感というものもある。

 かっこいいし、財力も包容力もある。

 設定的に彼らは「王女である主人公」にはとても優しい。ただ攻略対象によってはそれなりに、王女を愛する理由の裏もあって、ドラマチックな仕立てなのだった。

 ま、そこそこ才気もあって、経済力だとか権力もそれなりにあれば、王権を得たいと思うのも自然な流れ。恋愛だけで世界が回ってるわけではないという事実までがシナリオに盛り込まれていて、若さじゃ出せない恋愛感というものも仕込まれているのだった。

 たとえば市井の若者が才気あふれて成り上がった上で王女と知り合いになって権力を得たいと欲してみたり、また別のものは現状を嘆いて王となって成すべきことがあると語ってみたりと、それぞれ、王女を愛する気持ちと王権を愛する気持ちの中で物語が進行するのである。

 王女の選択によってその考え方の比率が変わり、王女>王権であればハッピーエンド。逆ならノーマルエンドか、下手をするとバッドエンドになる。他の攻略対象に暗躍されてひどい目にあってみたり、王権だけを極端に望む場合は、主人公は形だけの、血を残すためだけのバッドエンドというようになる。やっていて男の自分でも胸くそが悪くなるようなひどさだった。

 自分の立場に酔わずにおじさま達ときちんと渡り合ってこそハッピーエンドが訪れるという、一種の社会風刺なんだろう。乙女ゲーにそういうのを求められてもどうかと思うのだが。


 さて。そんな世界観のところに転生をしてしまったようなのだが、サラがやりこんでいた世界とはいろいろと違うところがある。サラ・エル・フォルツァの名前は自分も知っている。おおむね三分の一くらいのテキストに絡んでくる重要人物である。もちろん主人公ではない。

 主人公は先程も言ったように姫様だ。あと十数年で生まれてくるお方で、それはそれは美しい容姿をしていて、サラとてそこそこな美人ではあるもののそれがあっさり霞むほど。キャラデザイナーがこれが理想の姫様ですと赤ちゃんのころから幼少期、そして本編となる15歳あたりのデザインまで気合いをいれて作ったものである。もちろん一番気合いが入っているのは攻略対象だけれど、そこらへんはいうまでもないだろう。

 そう。主人公ではない、というのはちょっとだけ良かったなぁとしみじみ思っている。

 ヒロインとしておじさま達に愛される。想像するだけで寒気がする。おじ専にはうっとりだろうけど、元男にそれをやれといわれたら……ああ、身震いをしてしまいそうだ。まじで勘弁して欲しい。

 そりゃ、今は、この身体に成長過程でなじんでしまっているし、言葉を話す頃から家庭教師の指導を受けているから、それなりにお嬢様言葉が身についているけれど、それと恋愛相手はまったく別物である。

 では、サラはどういう役回りなのか。それは今が、王国歴何年なのか、というのを見ればよくわかる。

 物語のメインになる時代は王国歴531年あたり。ここから二年程度でいろいろなイベントをこなしてそれぞれの攻略対象との絆を深めるわけだ。けれども今はその30年も前である。

 見慣れたすぎた背景よりこのフォルツァ領も足りないものがいくつもあるし、さきほどのイチゴ畑にしたって本格始動するのはあと数年してからだ。

 そしてゲーム本編の舞台となるころにはサラは三十路を過ぎているどころかほとんどアラフォーである。そんな自分の役回り。

 それは三人いる中から選べる乳母の一人だ。

 ゲーム時代の話では、姫さまの護衛兼ガイド役としてプレイ開始に選ぶことができて、攻略対象別に得手不得手がある。トゥルーエンドのためには不得手な乳母で攻略される必要があったりするわけだが、現実のこちらではどうなるのかわからない。ほどよく厳しくお相手を吟味してやればいいのだろう。バッドエンドになる場合はたいてい姫が色ぼけな選択肢をとり続けて、大人と釣り合わない小娘になった時だ。そうならないようにしっかりプリンセスメーカーをしないといけない。

 サラもそうだが他の乳母も、お気に入りの攻略対象に対しては甘すぎるとプレイしていて思っていた。そりゃ青春の一ページに良い感じになった相手なら、甘くなるなというほうが嘘ではあるけれど、その甘さ故のバッドエンドもいくつも見てきているので、そこさえ間違えなければなんとかなるだろう。

「とはいえ、どうやって乳母になれっていうのかしらね」

 とんとんと、部屋にしつらえられた机の前にちょこんと座って、こんこんと万年筆を紙にたたきつける。

 現代日本に比べれば紙は貴重品の部類に入るものの、いちおう地方領主の館である。無駄にはしないけれどないわけでもない。

 文字を教わるようになってから、両親にねだって買ってもらった紙の束は、夜な夜なサラの思考を整理するために使われている。

 あとはそう。机の奥の方にしまってあるのは日本語で書かれたものだ。

 サラの予言書と書かれたそれは、この世界の誰にも読めない暗号文書と化している。

 なにって、そんなの健忘録に決まっている。サラとしてもう五年、実質物心がついてからは二年になるわけだけれど、日常生活を送っていって新しい知識を身につけるたびに、昔の記憶はどんどん希薄になっていく。

 もう前世での十代の頃なんて塵かなんかのようにおぼろげだ。

 おそらく前世の記憶で一番フレッシュなものが、「おじラブ♪」の記憶だろう。

 何日も徹夜してプレイをして、バグを直してという日々は三十を過ぎた身体にはきつかった。内容もきつかった。

 でも、仕事だから手は抜けない。

 その記憶がフレッシュなうちに、どのキャラでどんなシナリオがあったのかを書き留めておく必要があったわけだ。

「サラのエピソードはほんのりフレーバー的に七つ。本来なら姫が選んで下さるので考える必要もないのですが……」

 さて。問題は、どうやって乳母になるのか。

 ゲーム時代は、オープニングで選べた。でももちろん赤子の王女が選べるはずも無いわけで。

 ここのところはずっとそのことを考えていた。

 サラが乳母になった理由はお話が進んでいくとしっかりと明かされている。

 それこそ一国の姫の乳母というのは、教育係としても一流でなければならないわけで、そこらへんのエピソードはきちんと作られていたのだった。脇役なのに。

 恋を知る女として、王女にあれこれ恋愛アドバイスをしていたりすることからもわかるように、残念ながら恋多き女であることが一つ。もちろん子供なんてできてれば乳母にはならないので、どの恋も実りはしない。母乳が出るから乳母なんだよとかいうつっこみは無しだ。それをやっているのは母親が病気で母乳が出ない等のケースだけで、基本ノブリスでは王族であっても母乳で育てる。

 というか、そういう意味での乳母だったら、さすがに。

「ぞっとしないのよね……」

 い、いちおう、シナリオライターの荻野女史とも酒の席でそこらへんの話もしていたし、たぶんあれが現実になってるっていうなら、そうなのだ。大丈夫。サラの妊娠エピソードなんてないから、大丈夫。

「ぞっとしないというと……来年、か」

 サライベントの中で、攻略対象といい仲になるというのが実はある。

 あれは六歳の夏だろうか。五つ年上の相手役とサラが初めて出会うあそこ。

 サラったら、ああ、これはゲームの中でのことだけど、ほっぺたを押さえながら若かりし頃の思い出にうっとりと頬を染めていたりして、いわゆるほのぼのシーンとしてデフォルメキャラが登場していたものだった。

 実際どうなってしまうか、今からすでに戦々恐々というやつだった。

 だって、あのうっすら笑顔のミロードだぞ。わかめ頭の。ああ、もういやだいやだいやだ。

 おじさま状態でも若く見える彼は、なんていうかおおよそおじさまっぽさのないキャラだ。おじ専じゃない人向けだとかいう話で、それが幼少期となるとさらに美形キャラ。貴族では無く騎士なので体格も割といい。

 しかも本人はある程度自分の魅力も知っていて、それでサラは二股かけられてて振られるんだよね。これが。

「他の候補はもうちょっと年上になってからだっていうのに」

 何度でも言おう。俺はこの世界の元になった乙女ゲームを隅々までやっている。

 サラが乳母であるケースはもちろん、他二人の乳母のケースも見てきている。

 そっちの二人のイベントは十五とかそれくらいで起きるのだ。もちろんサラがそれに介入することでサラの乳母ルート固定ができるという点ではありがたいのだけど、純粋な気分ではないこっちとしては、演技であれを乗り切るなんて、しんどいなぁもう。

 とはいえ、きっちりとこなさなければサラは乳母にはなれず、そうなると…… 

 サラの将来がどうなるのか、まったくもって予想が立たない。

 そしてこの国の将来がどうなるのか、まったくもって予想が立たない。

「他の乳母になんて任せていられませんもの」

 なんせおじラブはバッドエンドが多い。しかも国を巻き込んだ大惨事になることも少なくは無い。そうなったら多くの人が困る……かどうかは、別として、自分自身(サラ)が困る。

 そしてなによりも、姫さまはすごく良い子なのだ。キャラデザインも力が入っていて、とっても可愛らしい女の子なのである。

 男の身で乙女ゲーをプレイしていて思ったのは、感情移入というよりはこの娘を幸せにしてあげたいという気持ちのほうだった。娘がいたらもしかしたらこんな感じだったのかもしれない。

 父親の感じというか。まあどうせ三十路で魔法使いになりましたし、実際がどうなのかは永遠にわからないわけなのだけど。

 せっかくこれだけ前情報を持っているのだから、なんとか良い状態に持っていきたいものだと思う。


 最後に攻略対象を「日本語で」記載した用紙をおみせしておこう。


アルフリード(怠惰)

 平和主義者。他者との争いを嫌い、なかなか告白もしてこないキャラ。

 その奥ゆかしさに惹かれた人はどうぞ。

 王様として独り立ちできるだけの成長ができたらトゥルーエンド。

トゥルーエンド:前帝の政治を引き継ぎ不満を持たれながらも国を治める。

バッドエンド:愚王として国力を徐々に減らし、三十年後他国に蹂躙される。


イセリア(暴食)

 美食家。行動基準はどんなものを食べられるか、にある。王女に近づくのもすべては食事のため。

 王女の料理スキルによってルートにはいるかどうかが決まる。

トゥルーエンド:食文化を向上させるために善政を敷く。農業技術が向上し国全体が豊かになる。

バッドエンド:食材を食い散らかし、国力は衰退。餓死者が多発し暴動が起きる。


ミロード(嫉妬)

 甘いマスクのイケメン。長髪わかめ。

 騎士団所属。いちおうサラの幼なじみ。

 負けず嫌いで、騎士団での実力はトップクラスと言われている。

 お忍びで王女が市街にでたときに暴漢から救ったことからつきあいが始まる。

トゥルーエンド:軍事力を拡大させつつ、護るための力として昇華させる。

バッドエンド:侵略欲につぶされて他国へと攻め入る。


サマエル(強欲)

 平民出身。商人としての才覚に溢れ、御用商人として王室に出入りする。

 サラの国出身で、もともとはフォルツァ領でいちごの買い付けなどをしていた。

 買い物の内容などからルートに入る。 

トゥルーエンド:経済がよく回るようになるため豊かな国となる。

バッドエンド:無理な投資をして破綻をして城を追われる。


ニルシェ(傲慢)

 自信満々の俺様キャラ。たしか今の王様の親戚で、皇位継承権は十何位だかにあたる。王女とははとこ同士にあたる間柄。

 継承権が低い関係もあり、女遊びは盛んで若い頃はやんちゃだった。

 しかしながら、王女が生まれた歳にそれはぴたりと止まり、よい王族の見本のような生活を送り始まる。

トゥルーエンド:王女とともにあることを選び、王権を捨てる。結果、女王の側近として、夫として生活を支える。

バッドエンド:王族中心の考え方にとらわれ市民革命。最後の王として王女ともども処刑される。


マリー(色欲)

 女装の紳士。美容にこだわりをみせる。

 四十を過ぎても美中年。王女を優先するかどうかでトゥルーエンド。

 サラとは保養地で一緒になったことがあるが、若い頃は男だなんてこれっぽっちも思っていなかった。

トゥルーエンド:美容と健康を主軸とした政策で、国をまとめ上げる。結婚式は両方ともウェディングドレス。

バッドエンド:美貌のために王権を使い、不老長寿を求める愚王となる。


 我ながら、自分でかくとひどいキャラ設定だとサラも思う。もちろんあのシナリオライターが書いたキャラ説明はもうちょっとこじゃれていたけれど、プレイした感じではサラが書いた通りだ。ちなみにキャラメイクのコンセプトは七つの大罪から持ってきているというのだから、乙女ゲーとしてはいいのかこれはと言わんばかりだ。もちろんトップシークレットである。欲をどう制するのかってところが見せ場っすよと荻野女史は笑っていた。

 この中でサラと知り合いなのが、サマエルとミロードだ。マリーとはニアミスしているけれどサラとしては女同士だと思ってるくらいである。

 ああ、あともう一キャラいたっけ。

 中肉中背のおっさん。ライアンなんちゃら。下の名前はなんだったかな。キャラメイクした本人も、なんちゃらって呼んでたし、ライアンって名前しか覚えてない。

 野心もなにもない、まあ普通のおっさん。キャラメイクの時に会議でかなり揉めたキャラ。

 シナリオ担当の、荻野女史によれば「ゲンジツみせてやんよ」ということだそうで。

 簡単に落とせるのはこのキャラ。でも落としたら自分が頑張らなきゃいけないのは当たり前。

 恋に生きるか仕事に生きるか。どのみちエネルギーを注がなければ、いいめは見れないって言う風刺なんだとひどいことを言っていた。

 だから売れねーんだとか、乙女げーは夢を売ってなんぼだろ、プレイヤーはみんなリアル疲れしてんだぞとか、さんざん周りは忠告した。そもそも企画段階では攻略キャラは六人。

 通常このての作品は、売れたらサブキャラも昇格みたいな流れになるものだけど、タカのやつ、もとからそういうの考えないやつだからな……結局七人目も正式採用になって開発は進んだ。

 このルートがサラとしては一番厄介なので回避したい。そりゃ王女の教育はしっかりするけれど、それが上手く行く保証は無い。なんせこのときの王女は、サポート役に相談を求めないのだ。他のキャラならでるアドバイスがないのは、なにをいっても王女は我が道を進むからに他ならない。

 自らで選び、進む。これが女の生き様ってやつなのよ! と荻野女史は拳を握りしめていたっけな。

 そういや、おっさんの若い頃って、話にでないけど、こっちでは会えたりするんだろうか。おっさんの方を教育してやるのも一つの手段かもしれない。

 

トゥルーエンド:女王として主人公が即位し、国を治める。

バッドエンド:おっさんが王様になって、見事に国政を誤る。そして市民革命。めでたく王政から民主制へ。


 さて。とりあえず乳母になるための策も考えつつ、誰を姫様の相手にしようか。

 五歳の夜は毎晩こうやって頭を悩ませながら過ぎていった。

 どうもっ! 普段女装もの、男の娘ものを書いているものです。

 はやりの乙女転生を私も書いてみようかと思って、とりあえず主人公を冷静にするために乙女化、そしてお助けキャラにしてみました。大混乱のあとには、もう「なんでもこい」の境地に至るものです。

 私としては「女装少年中心作家」だと思ってるので、こういう使い方は滅多にしないのですが、とりあえずしこんでおけば、いつでもネタとして引っ張れるんじゃない? っていう感じデス。

 将来、王女の恋人になる人との関わりとか、良縁を断る理由としても、優秀なのではないかと。


 いわゆるテンプレですが、「作者の直近の人間」が転生するっていうのは珍しいのではと思いまして。やりこんでるってレベルを超えたデバッガーは知識チートってのに入るのではないかと。

 おまけに「死んだ記憶がない」とか、最初の友人の語りとか、いろいろと、伏線的にはりつつです。

 構想自体は、今の所言うほどないです。乙女げーのルートを三個分くらいかかなきゃおわんないよねーとか、本ルート前の前日談が死ぬほど長いのを実感したっ、とか。

 書けばかくほど、エロゲ、乙女ゲ作者さんたいへーんっていうのを実感しましたとも。攻略対象の一覧つくるのが大変すぎでしたもん。

 でも乳母転生で、おじさまが相手、ということで「若い頃のサラと若い攻略対象」の関係性なんかも書けちゃったりするので、一粒で二度おいしいみたいな感じの設定なのではないかなと。

 

 はい。とりあえず発想から構想にもっていって、プロット段階が実は今です。

 ここから続くかっていえば、他の連載が終わったらなので……一年か、二年か……

 とりあえず、反響どうなんだろーとか、女装もの好きな人とか、きてくれないかな! とかそんな感じでアップしてみました。

 実際、書き始めるのは先の話として。 

 いかがなものでしょうか?

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[気になる点] この続きはもうないでしょうか?
[気になる点] × デバッ【カ】ー ○ デバッ【ガ】ー ですね。デバッ【グ】(debug)をする人/ツールのことですから。
[一言] う~ん…片桐ゆーなさんのお話はどれも至極私好みな作風なので感想書くとどうしても贔屓目みたいになっちゃうかもですが、かなりよかったです(苦笑) 乙女ゲーム転生、とかいうとライバルキャラにと…
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