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第七話 「復讐鬼と殺人鬼」


「何とか日が沈みきる前に帰れたな」

「………………」


 俺とミリアは僅かな夕日が照らしている教会の前で歩みを止める。


「ミリア、つらいかもしれないが、もう少し元気を出してくれ。でないと、俺がお前を苛めたみたいになっちまう」

「……わかってるわよぅ……」


 隣に顔を向けると、避けるように顔を逸らされてしまう。眼元は前髪に隠れていてわからないが、とがらせている唇から拗ねているのがわかる。


「……というか、何に対して拗ねてんだ?」


 俺は正直それが不思議だった。さっき、おんぶを要求されたときに断ったことを根に持たれているのだろうか?それとも、手を繋ぎたそうに近づいては離れていく手を無視したのが悪かったのだろうか?

 どちらにせよ、そこまで拗ねるような内容のはずがないのだが……。少なくとも、協会についたのにいまだに顔を合わせてもらえないほどひどいことをした覚えはない。


「拗ねてません。おんぶを拒否して気づいていながら無視したことを拗ねてなんかいません~!そんな子供じゃないです~!」


 その態度を世間一般では拗ねているというのだが。それも、かなり精神年齢の幼い感じで。

 だが、それはミリアにしては珍しい、子どもらしい拗ね方だった。

 前に、ゆりが相手が拗ねるのは一種の甘えのサインだといっていたような気がする。もしかしたら、少しは心を許して甘えてもらえるぐらいには距離が近くなったのかもしれない。

 そのことを指摘するとさらに拗ねそうなので、何も言わずに肩を竦める。


「やれやれ……。そんなに完膚なきまでに喧嘩で負けたのが悔しいのか?」


 ぴくっ!


「……なんですってぇ?」

「いえ、何も言っておりません」


 ぎぎぎぎ、と油の切れたブリキの人形のように固い動きで、笑顔|(目が笑ってない)を見せられ余計なことを言えるほど、俺はチャレンジャーではない。

 俺としては冗談四割、からかい六割のつもりだったのだが、事実十割だったようだ。


「冗談はさておき……」

「本当に冗談だったんでしょうねぇ……?」


 いまだに油と額の血管が切れたままのミリアはがっちりと俺の腕を掴む。かなりの握力だ。


「冗談に決まってんだろ?むしろ、ここまで反応するお前がびっくりだわ」


 俺が呆れた表情で掴まれている腕を見ると、ミリアは少しだけ力を緩める。表情もさっきより少しだけ和らげる。どれもこれも少しだけで怖いが、文句を言ったらどうなることやら……。


「さておき!……なんか、嫌な予感がすんだよな」


 少し強引に話を戻す。決して、このままでは俺の腕が複雑骨折しそうだからとかではない。


「嫌な予感?」


 すっと眼を細めて宿舎の方を見た俺に、ミリアは油の切れたブリキ人形から妹たちの様子を心配する姉の表情になる。


「あぁ。具体的に何が?とはいえないが、それでも確かに嫌な予感がする」


 なんとなく、不穏な空気のようなものが、宿舎の扉の隙間から漏れ出しているような感じがする。今すぐに爆発してしまうような感じではなく、少しずつではあるものの確実に何か負の感情のようなものが這い出てくるような……。

 覇閃家にいた時には感じたことのない空気だ。


「……ミリア、もしかしたら面倒なことが起きそうなのかもしれない」


 ミリアを置いていくように宿舎に向かう。もうすでに夕飯が終わり、就寝準備に入っているはずの宿舎で、玄関に煌々と明かりが灯されているのが余計に不信感を募らせる。


「あ、ちょっと、カキス!」


 慌てて追いついてきたミリアに視線を向けることなく、俺は宿舎の扉を躊躇いなく開ける。


 バン!


 そこまで力を入れてあけたつもりはなかったが、意外と大きな音がした。そのせいか、玄関にいた子ども達の視線を一気に集めることとなった。


「……何だ、この感じ?」


 俺は真後ろのミリアにすら聞こえないほど小さな声で、違和感を漏らす。状況を把握するより先に妙な不快感で眉を顰める。

 玄関にいたのは八人の子ども達。その中に、ミリカ、ラナイルの姿も見える。それと、俺の位置では他の子で顔が見えていないが、服装からルカナとマトララもミリカのそばにいる。ラナイル以外の子たちは三人を囲んでいるように見えなくもない。ラナイルだけが、壁際におり、俺の登場に誰よりも目を大きく見開いている。

 その他の子達、ミリカたちも含め、俺とミリアを見ると、妙な空気を残したまま俺たちを見る。その目から言いにくいことを隠しているように見えた。


「……とりあえず、ただいま」


 俺は眉をひそめたまま帰ったことを改めて伝える。

 ともすれば、場の状況にそぐわないことを言っているのだが、皆一様に気まずさそうに顔を背け小さく、


「……お帰り」


 と力なく返す。


「な……?」


 ミリアもこの空気に何か違和感を感じて心配するように子ども達に寄ろうとするが、俺はそれを腕を出して制す。

 邪魔をした俺をきつく睨むが、俺はかわらず前を向いたままだ。正確には、ミリカ達とラナイルを。


「……皆もう夕飯を食べたんだろう?成長期の子どもが夜更かしをするのは良くないぞ?」


 俺はこの妙な空気の原因を問いただそうとせず、解散しやすいように注意をするフリをして自室に戻ることを促す。

 ミリカとラナイル以外の子達はお互いの顔を見ることもせず、一言も発することなく自室へと帰っていく。


「ミリア、お前も今日は疲れてるだろう。部屋に帰って眠れ。ミリカとラナイルもだ」


 俺は残った三人にも、今日はもう寝てしまうことを勧める。ミリアは反論しようとしたが、踵を返して宿舎から出て行ってしまった俺を見て、何も言えなくなる。

 疲れているのは事実。ただでさえ今日は色々と精神的に来ることが多かった。このまま何があったのか聞いても、ミリアには冷静な思考ができるか自信がなかった。


「……カキスのいう通りよ。夜更かしは良くないわ」


 一瞬、カキスの背中を見て心配そうな眼差しを向けたが、すぐに視線を外しミリカとラナイルの背中を押していく。もう一度だけ振り返るが、もうすでに扉が閉まってしまい、カキスの姿を見ることはできなかった。


           ○            ○           ○


 俺は宿舎を出ると、近くの木の根元に座り、葉や枝の間から除く微かな瞬きを見上げる。

 感傷に浸るためではない。俺なりにさっきの違和感について考えるためだ。


(さっきのはなんだったんだ?覇閃家にいた時には感じたことのない空気だったような気がするが……)


 さっきの違和感を思い出し、また眉をひそめる。

 あの時、妙な不快感を感じた。

 自分に向けられることよりも、他人に向けられることのほうが数倍不快に感じる空気。

 喧嘩、だとは思うが、それにしては変な落ち着き様だった。第一、囲まれていたミリカ達ですら、俺から目をそらしていた。


(それに、ラナイルのあの立ち位置は……?)


 一番不思議なのはラナイルだ。止めに入る側でもなく、加わる側でもなく、あれは……そう、どうしたらいいのか迷っている立ち位置だった。だからミリカ達と一緒に囲まれるわけでもなく、逆に囲う側でもなかったからこそ、壁際にいたのだろう。


(ただ、何故なのかはっきりしない)


 俺とミリアの喧嘩のように罵り合いというわけではなく、お互いに対して不信感のような疑念のようなものを抱いていたような気がする。


(……そもそも、不快に感じるのはその人の個人的視点からくるものであって、俺がどの点に関して不快をだと感じたんだ?)


 俺が扉を開けて一番不快だと感じたのは、ミリカたちを囲んでいるあの感じだ。まるで、徐々にスパイを追い詰めていくような。

 強い負の感情を感じなかったのはそれでも今までの生活が家族としてあるからだろう。あれがもし俺だったら、囲まれるだけで終わっていただろうか?


(……さすがに、関係のない俺が下手に介入しないほうがいいか……)


 子供同士の喧嘩なら、本人たちで解決したほうがいいだろう。


(それに……、まだミリアのことが心配だ。全部が全部解決したとは思えない)


 自分の心さえ理解してないやつが余計な事に気を取られている余裕があるはずがない。

 本気でまずい事態にまで発展したら力づくでどうにかすればいいだろう。俺は慢心とも取れる考えで宿舎に戻る。

 月明かりだけの廊下、そこだけ切り離されて真っ黒になったのかのような階段。それらを通るとき、これからの日々がそうなるような気がした。

 そして、それは錯覚ではなかったことを、俺は後に知ることとなる。


            ○           ○          ○


「ミリカはどうした?」


 昨日に引き続き、纏わり付くような重い空気の中、みんなはバザーの商品を作っている。最近で一番騒がしい時間帯。なのに、妙に沈黙が重い。

 少し寝坊して遅れてきた俺は、入り口から全体を眺めているとミリカがいないことに気付く。それだけではない。ミリカと仲の良いルカナとマトララも見当たらない。

 それ以外は全く人が減っていないということは、俺のように寝坊してまだ宿舎にいるというわけでもなさそうだ。

 放置しているのだ。幼女三人組を。

 昨夜、一人中立とも取れない立ち位置だったラナイルに聞いてみることにした。


「ミリカは……しらない。今頃、どっかで駆けっこでもしてるんじゃないか?」


 ラナイルは俺が横に立つと、作業を止めたくせに俺と顔を合わせようとしない。そわそわと、落ち着きもない。


(解りやすい奴め……)


 どう見たって動揺している。何か知っているに違いない。

 怪しい反応をしたラナイルに俺は目を細める。


「なんで駆けっこしていると思うんだ?」

「そ、それは……、ほら、無邪気さゆえに?」

「そうだな。幼女三人組は無邪気だな。他に何しているのか思いつかないか?」

「う……、えっと、……花摘みとか?」

「ほうほう、花摘み、ねぇ……。この教会で花が咲いているところは宿舎を出てすぐ正面ぐらいなもんだと思うが?そんな、宿舎から誰かが出てきたときに気付く場所にいて、誰も声をかけなかったのか?」

「な、なら……」

「ずいぶんと悩むなぁ、ラナイル。駆けっこはすぐに出たのに」

「あ、う、その……」


 問答を続けていくうちに勢いがなくなっていく。ラナイルはしゃがんだ俺から顔をそらそうとするが、肩をつかんで無理やりこちらを向かせる。


「答えろ。三人は何処だ?協会から出て何処へ行った?」

「……森」


 俺のほうに体を無理やり向けさせられたラナイルは、一瞬俺の目を見て情けなく顔をゆがめると、すぐにうつむいて隠してしまう。そして、ぽつりと一言洩らす。


「……何故森に向かったのかわかるか?」

「喧嘩、いや、もっとひどいことをした。虐めみたいなもんだ」

「……それでこの空気だったのか」


 俺が思っていた以上に事態が進んでいたようだ。自分の浅はかさに強くした唇を噛む。


(昨日あの場を流したのは間違いだったな)


 後悔していても始まらない。俺はラナイルの両肩に手を置き、顔を上げさせる。


「…………ラナイル」


 今日二度目のラナイルの眼からは、俺と同じ強い後悔がにじんでいる。

 俺はその瞳から逃げることなく、真正面から見据えた。

 ラナイルはその場にいながら何もしなかった自分を悔いている。ラナイルはバカだが、正義感が強い。仲間外れにされる、そんな恐怖に負けた自分にも憤りを感じている。


「お前を罵るのは後だ。俺は今からミリカたちを探しに行ってくる。帰ってくるまでに、謝罪の言葉でも考えてろ」


 突き放すようなとげとげしい俺の言葉にびくっとラナイルはおびえて体を震わせながらショックで目を見開く。だが、俺の顔を見ると今度は驚きに目を見開く。

 俺は今どんな顔をしているだろうか?眼を鋭くさせ怒った顔?それとも哀れむような表情をしているだろうか?たぶん、どれも違う。

 今の俺は穏やかな顔をしているはずだ。優しく微笑み、弟の成長を垣間見た兄のような表情をしているはずだ。


(ラナイルはおかしいって気づいてたんだな)


 その表情の理由は、ラナイルの反応にあった。

 ラナイルは昨日の段階で分かっていたのだ。自分が傍観しているのは最低の行為をしている光景なのだと。

 今まで仲が良かったことや、ミリアがそうなる前に沈めていたのかもしれない。だから自分たちの行為が誰に似ているのか理解できていなかった。あの子たちは自分の両親にやられたことを大差ないことをしているのだとは思っていないだろう。

 家族を追い詰め、除け者にする。邪魔物のように扱う。それと何が違う?

 また、被害者である幼女三人組もそのことが解っていなかった。自分たちがそういう扱いを受けているということを正しく認識していなかった。

 だから、昨日は妙な不快感があの場を支配していたのだ。お互いが違和感を消化しきれず、誰もがその違和感を拭えなかった。

 ただ、ラナイルは薄らと気づいていた。だが、同時に自分が”また”あの扱いを受ける。その恐怖に立ち向かえなかった。あのままミリカたちを見捨てて逃げ出すこともできず、助け出すこともできず。相当辛かったのではないだろうか?


(……いや、俺が辛さについて語るのはお門違いか)


 ともかく、……俺はそんなラナイルに少し安心した。結局とめることができなかったが、それでもミリカ達を置いて逃げることはなかったのだから。ましてや、自分が加わることもなかった。

 俺は普通の子と違う。とてもみんなと同じ思考回路だとは思わない。だから予想でしかないが、らナイルはどう伝えたらいいのかわからなかったのだろう。

 ラナイルだって本当ならあそこで兄貴分として、皆にこれは間違っていると教えてやりたかったのではないだろうか?だが、そうは思っても恐怖に足がすくみ、うまく言葉にまとめられるかわからない不安に、最後の一歩を踏み出せないでいた。それを、自分よりも幼い子に押し付けることとなっても。

 だからこそ、俺は帰ったら謝罪をするようにいったのだ。自分がしたことの重さを再確認させ、二度と同じ過ちを起こさないように。


「ラナイル。お前が今感じている後悔を忘れるな。今回はあの場を有耶無耶にしてしまった俺にも責任がある。だから、ミリカ達は俺が連れて帰るから、……謝る役は、よろしくな」


 そういって、俺らしくない、少年のような笑顔で両肩を強く叩く。


「カキス……。……自分だけ良い所を持っていきやがって、その上で謝れとか、お前は最低な奴だな……!」


 ラナイルはゴシゴシと腕で強く目元を擦ると、泣き笑いをしながら親指を立てる。


 ゴツッ。


 俺もまた、親指を立てて拳をラナイルの拳にぶつける。


(まだまだこれからさ。お前らには、まともな未来が待ってるんだからな)


 俺は立ち上がると、表情を引き締めすっと壁の向こうの森の方を向く。


(……嫌な予感は、このせいだったのか……?)


 つい最近、俺でなければ死んでいた事件があった。

 その事件現場の近くに行っていなければいいが……。

 ざらつく胸騒ぎは無視できるようなものではなく、自然と俺を全力で森に向かわせる。教会を飛び出し、柵を一足で飛び越す。

 ちょうど教会から出た瞬間、入れ替わりにミリアが裏口から教会に入る。


「……あれ、カキスは?」

「ミリア……、今、お兄ちゃんが妹たちに謝るために全力で探しに行ったとこだ」


 ラナイルはぼうっとカキスが消えていった入口を見ながら、ミリアに返す。


「??どういうこと?」


            ○            ○          ○


「見つけた!」


 一瞬で目前まで迫る木々を身を捩って避けながら森を疾走していると、四十メートル先に左右に垂れている金色の尻尾を視界に捉えた。幸い、周りに熊だとか不審な人影とかは見当たらない。

 一応は周辺の気配に気を配りながらも速度を緩めることなく駆け抜ける。


「ルカナ!」

「え、って、キャア!?」


 ここまで速度を緩めることなく来たため、ルカナの頭上を跳び越して木の幹に着地する。反射的に『砕氷華さいひょうか』をしかけるが、膝のばねだけで衝撃を吸収する。足の裏がちょっとジンジンする。

 『砕氷華』をすると、木がバラバラになり破片が飛び散るので、ルカナに当たる危険があった。危うく、傷物にするところだった。


「マトララもいたか……。ミリカは?」


 地面に降り立ってルカナを向くと、その隣に口をあんぐりあけてぽかんとしているマトララの姿もあった。が、ミリカがいない。


「ミリカちゃんは少し奥に行っちゃった……。人影が見えたから道を聞いてくるって」

「人影……」


 予想していた最悪の事態だ。その人影とは十中八九奴らだろう。


「俺は教会から出て直線でここまで来た。俺が来た方と逆にいけば教会に帰れる。……何があったのか知らないが、二人だけで教会に戻れるか?」

「「うん!」」


(俺の心配は杞憂だったようだな)


 帰るのを渋るかと思っていたが、素直にうなずいてくれる。

 カキスは気づいていないが、カキスの表情は真剣な顔をしている。その表情に、幼いながらもここで自分達が駄々を捏ねるとカキスが困ることを理解し、二人は素直に従うことにしたのだ。

 二人は顔を見合わせて、仲良く手を繋いで走り出す。

 俺はその背中に、


「走ると転ぶぞ~!!」


 と、割と真剣に叫ぶ。


「さて、と……」


 二人が完全に見えなくなる前に落ち葉を散らして『影身えいしん』をする。全速力で向かうは廃坑。

 一々地面に着地するのが面倒になって、木の幹を足場として『影身』を繰り返していると、黒い点が視界にちらつき始める。近づくにつれ、それが何のかはっきりしてくる。

 おそらくは、見張りだろう。


(三人……)


 俺は速度を緩めることなくそのまま正面から三人に突進する。


「……!!?」

「……ガキ!!?」

「……どうっ!!?」


 地面を這うような低い体勢で三人の前に姿を見せると、瞬時にこちらに気づいてサバイバルナイフを構える。


(……『影身』!)


 残り五メートル、という所で正面の一人が俺に向かってナイフを突く。


「なっ!?消えた!?」


 銀色の軌跡を描いた凶刃は獲物を捕らえることはできず、その勢いにつられ体勢を崩す。

 影身によって残像を残しながら真上に跳んだ俺は真下の男の頭に着地する。それに気づいた残りの二人は上段にナイフで薙ぐ。

 それらを避けるように後ろに跳躍する。その際、踏み場にしていた頭を起こすように蹴る。


「……っ!!」


 無理やり二つのナイフの軌道に侵入させられた男は俺が蹴った勢いを利用してしりから転ぶように倒れてかわす。二つのナイフはさっきまで男の頭部があったところで交差し、お互いに弾き合う。

 その隙を逃すわけがない。

 俺は左の男にスライディングで足を払い、浮いた足を脇に抱え込む。


「このっ!離せ!!」


 片足を封じられた男は自分の足を引き寄せるようにしてもう片方の足で蹴りを放ってくる。抱えている足先が俺の背中をひっかけて避けられないようにしながら。


(甘いな)


 コンマ一秒の判断で抱えていた足を離し、蹴りを放とうとしていた靴の裏に掌底を合わせる。普通なら、子どもの俺が、いくら宙にいて踏ん張りがきかないといっても大人の男の蹴りを受け止めきれないが、


「なっ!?」


 パァンッ!!


 乾いた音と共に男の蹴りは半ばで相殺されてしまう。


「蹴りの速度が遅い。足を延ばし切る前にいくらでも対処できるぞ?」


 男の足は伸びきっておらず、ひざを曲げているような状態だった。完全に伸びきって威力が出る前にかちあわせれば、少しの身体強化でいくらでも受け止められる。

 驚愕で目を見開いて次の行動に移っていない男の股間にひじ打ちを決め、そのままひじを延ばすようにして上から拳をたたきつける。


「…………!!!」


 急所をやられた痛みに男の顔が歪み、その顔面を何の遠慮もなく踏んで『影身』をする。


「ぐぎゃ……!!」


 最初に正面にいた男がすきのないショルダータックルで間合いを詰めてくる。おそらく、受け止めきれない攻撃で俺の体制を崩したところにナイフで一突きする腹積もりだろう。


(なら……)


 『影身』による残像ができるほどの速度で、男の脇腹にひざをめり込ませる。


 メキメキ……!


「あぐっ……!」


 確かに、ショルダータックルは受け止めきれない。だが、何もすべての攻撃を正面から受け止める必要はない。カウンターだって戦闘技術だ。

 ひざから伝わってくる音から、肋骨の数本にひびが入ったのがわかる。

 タックルを仕掛けてきたほうはともかく、俺が尋常ではない速度で突っ込んだせいで膝蹴りを受けた男は逆に後ろに地面を滑る。

 俺も少しだけ後ろに引っ張られながら着地。瞬時に右の男に視線を向ける。

 顔ではなく眼だけ動かして右の男を見ると、飛び上がり、上から俺を叩き潰そうとしている。俺はあえてその場を動かず、体を頭上から襲い掛かる男の方を向かせる。


「遅いんだよぉ!」


(汚い言葉遣いだな)


 涎をまき散らすようにして降ってきた男の手元、ナイフに手を伸ばす。

 それを見て男は、俺がナイフを掴む気だと判断し、ナイフを刺突から振り下ろしに軌道変更する。それが俺の誘導した結果だと知らず。


流連流りゅうれんりゅう流水りゅうすいの型、其の二『滝流したきながし』!」


 振り下ろされるナイフを人差し指と中指で摘み、同じ軌道で振り下ろす。

 直線の突きから振り下ろしに変わり、さらに俺がその力を流しその軌道は完全に俺から逸れ、ナイフを持っている男も回る。

 追撃に、というところで正面男が復活し、ナイフを振りまわしながら近づいてくる。

 一見すると、自棄になって危険な行動をしているように見えるが、幾筋も宙を走る銀線の向こうの眼は確実に獲物を狩ろうとしている狩人の眼だ。

 男がナイフを振り回したのは俺が武器を持っていないからだろう。持っていない以上、この乱撃の先の男を無傷で狙いに行くのは無理に近い。武器を持っていない相手には十分有効的な作戦だ。

 俺は一旦距離を置くために後ろに下がる、と見せかける。


「馬鹿か!?」


 男は一瞬眉をひそめるが、ナイフの乱舞を緩めない。


(上、左、返しで右、切り上げ、上段左、右切り下げ、今!)


 男は隙のなく、かつ不規則になるようにナイフを躍らせているが、俺はそれを全て見切っている。なので、目的の軌道、突きの瞬間に飛び込む。


(流連流流水の型、其の一『斜陽しゃよう』)


 突き出されたナイフの切っ先に、”ナイフ”をあてる。そして、同じ速度で引きながらそっと押し込む。


「うっ!?」


 がくっと下がったナイフにつられて前傾姿勢になった男の眉間にナイフの柄を叩き込む。

 ガッと鈍い音がして男は後ろ向きに倒れる。白目を剥いて両手を投げ出している様はかなり滑稽だ。


「こ、このガキ、調子に乗りやがって……!!」


 動ける最後の一人となった右側の男は、後ずさりしながら俺から距離をとる。


「……ふん、子ども相手に武器を盗られる賊もどうかと思うがな」

「何だとぉ……!」


 目を細めて、後ずさる男を鼻で笑うと、男は憤怒で顔をゆがめる。仲間の二人が幼いガキにやられた上に、鼻で笑われたことにより、プライドがかなり傷ついたようだ。

 俺はナイフを持っていない左手で最初にのした左側の男を指さす。警戒しながらも指さした方を見た男の表情は怒りから驚きに変わる。

 指さした先で、泡を吹いて倒れている男の両手にはあるはずのものがない。気絶した際に手から離れたとしても周りに見当たらない。


「ま、まさか、あの一瞬で……!?」

「そうだ。貴様らの行動はすべて止まって見えていたよ」


 トン。


「あ、へ……」


 『影身』で後ろに回った俺は手刀で首を叩き気絶させる。男の注意が指さした方に向いた時点で、この男は負けが確定していた。


「……しまった。ミリカについて聞くの忘れてたな。……まぁ、良いか。運よく武器を三つも手に入れたし」


 三人の体を引きずりながら俺は苦虫をかみつぶしたような顔をする。

 そして、廃坑の入り口より少し向こうまで引きずると、順番にナイフで喉仏を切り裂いていく。

 こいつらを生かしておくと、気絶から立ち直った時や、ミリカを連れ戻して地上に出るときに面倒になる。入り口で殺さなかったのは、あそこで殺すと、帰りにミリカが死体を目にしてしまう可能性があったからだ。ここも入り口からそこまで距離があるわけではないが、地上に出た瞬間に血だまりに浮かぶ死体を見ないで済むだろう。

 俺は、裂いた首に土を被せて地の広がりを抑える。さすがに入り口まで流れてくることはないだろうが、このままにしておくと臭いが酷い。


「ま、そのうち森の動物たちが美味しく頂くだろうから、それまで待ってるんだな」


 自分が殺した人間を埋める必要性を俺は感じない。もし、目の前で不慮の事故で死んだのであれば土葬ないし、火葬ぐらいしてやるが、自分を殺しに来た相手を殺し返したくせに埋めるなどと、おかしな話だと思うからだ。

 三人からナイフを回収し、内二本は鞘に納めて腰にぶら下げ、一本は逆手持ちで抜刀したままだ。

 これから地形がわからない場所に潜り込む。野盗が何時から入り込んでいるのか知らないが、すでにこの中を拠点のように使っているとしたら、通路を曲がったらごっつんこ、という可能性だってある。もし遭遇しても即座に殺れるように一本は抜刀した状態で持っておく。

 最後にもう一度、自分が奪った命の亡骸を見るが俺の心には何の動きもない。ただ、さっきの戦闘の反省点を振り返るぐらいしか思いつかない。

 俺はすぐさま、影身で廃坑の入り口に戻る。

 改めて入口を見る。暗く下に伸びる通路に壁は見えない。どの程度まで広がっているのか知らないが、街を興すのに使えた位となると相当のはずだ。何が取れていたのかしらないが、その迷路から俺はミリカを見つけて連れ帰らなければならない。


「見つかってないと良いんだが……」


 自分でも一ミリも信じていないことを呟きながら大きく口をあけた暗闇に呑まれていく。


                ○       ○       ○


「うっ、ガガァッ!?…………」

「……」


 曲がり角をまがった男の首を、銀色の物体が貫く。ソリューションの付いたそれは、鉄ではなく人肉を抉り、肉片をまき散らしながら更に深く突きこまれる。

 銀色の物体はナイフだ。気配で曲がってくること察知した俺は壁に背を着け、男が俺を見てたじろいだ瞬間に喉仏を突く。手から伝わってくる感触は、所々固い感触があり、確実に男の喉を破壊しているのが分かる。これでもう永遠に喋ることはない。

 俺は腰に下げているナイフの一本を鞘から抜き、男の衣服を切り裂き、それを首に巻きつける。グルグル巻きにした後、首に刺したままだったナイフを抜くと、布が血を吸い取り血が滴り落ちることはない。

 血の臭いはこの狭い場所で漂ってしまう。それによって、異常に気付かれないように、少しでも血を広げない工夫が必要なのだ。まぁ、本当に血の臭いを出したくないのなら絞殺すればいい話なのだが、子どもの俺が大の大人に筋力で勝てるはずがない。そんなことのために貴重な魔力を消費するぐらいなら、一番手っ取り早いこの方法を俺は選ぶ。

 後から取り出したナイフを鞘に納め、首に刺したナイフは男の服で血と油を拭う。男の死体を少しでも目立たない所に移動させ、男が曲がってきた角を進んでいく。


「まったく、なんであんな面倒な道を用意したんだか……」


 俺は周囲の警戒をおこたわらないようにしながら溜め息を吐く。

 最初、本当に最初は虱潰しに入り口付近の部屋を回っていた。俺よりも幼く、一般人であるミリカが奥に入って見つからないはずがない。そのことをミリカが理解しているとしたら、入り口付近の部屋に隠れているはずだ。そう思い探していたのだが、どの部屋にもいなかった。

 俺が、まさか奥に入って行けたのか?とさらに奥へ行こうと通路を歩いていたとき、足元に小さな子ども一人ぐらいなら潜り込めそうな穴があった。

 それは空気溝で、俺は通れそうにないが、ミリカならホフクで進んでいけるかもしれない。もしそうだとしたら、かなり面倒なことになる。というのも、こういう大きな坑道では魔法を用いて開拓した可能性が高い。自然と、人が道具を使ってできる限界を大きく超えて作業ができる。だから、この空気溝がかなり奥まで延々と続いている可能性もあるということ。

 ミリカがここに逃げ込んで奥へ奥へと進んでいったのなら、今どこにいるのかの予想を立てにくくなってしまう。全部屋、とまでいかなくともある程度いろんなところに枝分かれしているとしたら、かなり手前かもしれないし、もっと奥かもしれない。はたまた、最深部か。

 どちらにせよ、ここ以上奥に進んだのは事実。

 俺は迷った。この空気溝を俺が通れるぐらいに広げながらミリカに追いつくか、先に最深部に到達しそこから逆走するか。俺は一瞬だけ空気溝に視線を落とすが、すぐに顔を上げた。先に最深部に到達する。それが俺の選択だった。

 ミリカが人の目を避けたのだとしたら、途中で出るとも限らない。逃げて逃げて、最終的には一番奥しかない、そんな状況になるはずだ。その他にも理由として、無理に広げて空気溝が崩れ落ちると生き埋めになる可能性がある。また、広げる音を聴き取られた場合、空気溝を調べ始めてミリカが見つかるとまずい。なので、先に最深部に行く。どの程度まで深さがあるのかわからないが、さっさと行ってさっさと逆走すればいいだけの話。

 そして、今はひたすらに通路を進んでいる。

 詳しい道まではわからないが、この廃坑は地下に広がっているので、下って行くようにすれば自然と奥に進める。


「それにしても……本当にここは廃校だったのか?」


 俺は周囲を警戒するのとは別に壁を見る。

 確かに、普通に魔法で補強された土壁だ。ただ、それにしては妙に丈夫に作られているような気がする。崩れないように補強されている以上に強い魔力を感じる。

 魔力は一度体外に放出されると、それは単独で存在できるようになり、術者が気絶したり死んでしまっても霧散して消えてしまうことはない。制御が利かなくなることもあるが、大抵の場合はそのまま残る。なので、建築物などに魔法で補強を行って、補強を行ったものが死んでしまったりしても消えることはない。

 俺が気になったのは壁だけではない。部屋の内装物もだ。

 野盗共が持ってきたにしては随分と年季が入っている代物が多い。それだけでなく、ベッドには血痕や応急処置をした後もある。仕事中に負傷したにしては随分と出血量が多い。第一、その数があまりにも多すぎる。

 鉱夫の仮眠室として用いていたとしても量が多い。多すぎる。

 更に、


「ここは……武器庫、か?」


 壁には無数の剣や斧が掛けられ、槍は無造作に床に積み上げられている。明かりをつけ、さらに奥に入っていくと、この国にはないような武器が多く安置されていた。これもまた、山のように積み上げられて。


「何故廃校に武器が……?」


 初めは、野盗共が用意し、保管していたのかと思ったが、武器の摩耗具合から見るに古いものだ。どう見たってつい最近の物じゃない。もちろん、野盗共が持ち入ったものが古かった可能性もあるが、はたしてこれだけの量を持っているだろうか?また、これだけの量を保持しているだけ無駄なのではないだろうか?


「それに、これだけ壊れた武器があるのはおかしい」


 部屋の一角には、半ばで折れた剣、柄と刃がぽっきりと分かれている斧、先が潰れて丸くなっている槍等々、それだけでもかなりの量だ。


「……今は、ミリカの救出が先だな」


 かなり気になりはするものの、情報が少なすぎる。いや、情報ならある程度あるが、なんなのかを特定するのは無理だ。なら、こんなとこで考えてないで、小さな命を救うことを真っ先に考えなければ。

 すでに消耗している武器の数々は、今持っているナイフと比べたらかなり見劣りする。明かりを消して部屋を出ようとしたとき、色々な武器が置かれている場所に、見覚えのある武器が目に入る。


「……まさか、な……」


 そういいながら、俺は誘われるように目に入った武器を探す。もし、もし俺の見間違いでないなら……。


「…………あった……」


 俺は両方の掌の上にそれを乗せるようにして持つ。

 鞘の上からでもわかるほど細い刀身、少しだけ反りがあり、普通のより短めである。だが、子どもの俺にとってはむしろちょうど良い長さになる。大和にいたときに慣れ親しんでいた武器。


「見間違いじゃなかったか」


 日本刀だった。正確には、小太刀。シュラ……と澄んだ音を出しながら鞘から抜く。光を反射し、俺の瞳を映す刀身は曇り一つなく、刃こぼれをしていない新品同然の物だった。


「……もらっていくか」


 これがあれば、ナイフなんて使わなくていいぐらいだ。もちろん、ナイフを捨てたりなどしないが。

 新品同然なのはおそらく、刀身の細さに不安を感じて使わなかったのだろう。大和では一般的なものだが、他国ではとても考えられないものだと思う。


「俺にとっては、これ以外ありえないんだがな」


 思わぬ発見に口元がにやける。

 実は、大和を出てからまったく刀をみかけず、旅に出てから二番目ぐらいに寂しかったのだ。それをまさか、こんな野盗が入り浸ってしまった廃校で手に入るとは。


「よし、さっさとミリカを迎えに行くか」


 チン、と鞘に納めて腰に差す。左右に差していたナイフは腰の後ろに交差するようにして装備する。

 今度こそ明かりを消して通路に出ると、真下に覚えのある気配を感じる。

 今俺がいる階層の一つ下に、奴がいる。


「死んでいなかったわけか」


 迷いなく進んでいく気配を逃さないようにしながら急いで通路をひた走る。斜面を下り、気配を辿っていくと、開けた円形のホールに出る。大体六百㎡程度だろう。一番奥に格子戸があり、さらにその先に大きな扉がある。

 男は、その扉の前に立っていた。足元には、手足を封じられて地面に転がされているミリカの姿もあった。


(遅かったか……)


 少し前に空気溝があった。そこを出たときに捕まってしまったのだろう。


「……数日前、俺は森でこの廃坑を捜し、部下と捜索していた。入り口を発見した時、草陰から音がした」


 男は大きな扉を見上げながら独り言のように、確実に誰かに聞かせるように、喋りだす。

 俺は無言で男に近づいていく。


「そこを向くと、一人のガキがクマに襲われていた。幸い、クマはそいつを狙っていたので、俺はすぐさま逃亡に移った」


 ミリカは怯えた表情で男を見上げている。まだ、俺には気づいていないようだ。


「だが、そのガキはどうやらただのガキじゃなかった。クマに追われながら俺たちに追いついてきやがった。さらに、俺を巻き込んでの三つ巴の戦いが始まった」


 俺は、男まで残り十メートルというところで立ち止まった。


「ガキは、うまいこと立ち回り、最終的には俺は大きな傷を負った。ガキには逃げられ、何とか熊は殺せたが予想外の事態で部下を数人なくした」


 そこで、初めて男は顔を落とし、ミリカを見た。


「ひっ!!」


 いつものマイペースはなくなり、喉を引き攣らせて悲鳴を上げる。


「俺はそいつが憎い。大きな傷は治療し、ある程度は元通りとなった。だが、疼く。あのガキが憎いと」


 カチカチと歯を打ち鳴らすミリカから視線を外し、ゆっくりと俺を向く。


「お前が、憎いとな。待っていたぞ、クソガキ。只者ではないお前が俺たちのことを放置しておくはずがない。ここで待っていればお前に遭えると」

「そいつは光栄だな。例え、三十代後半のおっさんだとしてもな」


 俺は男から発せられている殺気を全身で受けながら、肩を竦める。この程度の殺気、復讐に駆られただけの殺気如きに怯む俺ではない。


「で、あんたは幼女をお持ち帰りする趣味でもあるのか?それとも、緊縛趣味か?」


 男は俺がまったく動揺していないことに眉を顰めながら会話を続ける。


「フン、だったら随分といい趣味をしている。分かっているんだろう?人質だ」


 ナイフを抜き、ミリカの首に押し当てる。


「ひぃ!い、いやぁ……!!」


 ミリカは目を強く閉じ、体を震わせる。


「……で?」

「は?」


 俺は見下した冷たい眼で男に返すと、間抜けな反応が返ってくる。


「で?って言ってるんだ。人質と言ったからには俺に対して何か取引、要求をしてくるんだろう?」

「……可愛くないガキめ」


 男はまたも動揺しなかった俺に、自らの下唇を噛む。


「……俺と勝負しろ」

「……ほう」


 俺は男の要求に目を細めて感嘆の息を漏らす。


「抵抗できないお前を嬲り殺してもいいが、それではつまらない。真っ向からお前を叩き潰す。その後、瀕死のお前の目の前でこのガキの首を刎ねる」

「……良いだろう、相手してやる。ちょうど良いことに、ここは広いからな」


 俺は男に背を向け、ホールの中央に移る。背中越しに、「本当に可愛くない奴め」という悪態が聞こえたが、すぐに後をついてくる。

 俺は男に向き直り、抜身のナイフを投げて壁に突き立てる。


「……それで俺を挑発したつもりか?」


 男は俺の行動を挑発と受け取り、憐れんだ眼差しを向けてくる。


「まさか、自意識過剰なんじゃねえの?……俺の武器はコレさ」


 俺は腰を沈め、右手で左の腰に差している脇差しの柄を握る。いつでも抜刀できる状態だ。


「俺は久しぶりにこいつに出会えてテンションが上がってるんだ。この興奮を満足させるには死の淵では生ぬるい。……死の淵の先まで付き合ってもらうぞ?」


 ヒュオォ……。


 ホールに突然冷気が立ち込めた。そう錯覚させるほどの殺気を放ち始める俺。

 思考はクリアで、今はただ瞳から入ってくる視界を眺めているだけ。曇りのなかったこの刀のように俺の頭は雑念のすべてが飛んでいく。

 男はこの時、少しばかり後悔していた。自分はあまりにも無謀な要求をしたのではないだろうか?体の芯まで冷え切ってしまうような殺気を放つガキ、いや、化け物に勝てるのだろうか?

 震えて一歩下がりそうになる。だが、男は殺気で凍えた脚を復讐の炎で無理やりに溶かし、温める。


「死の淵の先に行くのは、お前だけだ……!」


「……もう、語る必要などないはずだ。さっさとかかってこい」


 語ることはもう何もない。後は、刃を交えた先で。

 そうして、復讐に駆られた野盗と子どもの容姿をした殺人鬼の戦いが始まる

 ようやく夏休み!でも、7月中は忙しい!かきすです。

 いや、もう、ね。部活……色々と決まらないんです。


 さて、今回は久しぶりに一万二千字以上書きました。でも、内容はそれほどでもないかもしれません。まぁ、重要な場所なんですけどね、廃坑。

 一年目は廃坑を中心として物語が進んでいきます。とりあえず、男と決着をつけて、ミリカを連れ帰ってちょいちょいちょめちょめしたら、日常的な話がいくつか続きます。

 それで時間を進めます。その間は話の本筋は時間経過だけとなりますね。あ~、そろそろ本編も短編を考えないと……。


 二週間の内、後半の一週間は午前中授業だったのですが、部活で執筆できる時間が確保できませんでした。ついでに言えば家で下書きすらしてませんでした。なので、ほとんど書き溜められていません。

 本編なんか、もはや原本に追いてしまいました。たぶん、夏休み中は原本に書かずそのままテキスト化すると思います。

 とりあえず、この後書きを書いている時点では、本編の四話の途中、一年目の七話後半、三年目の一話(文字数かなり少ない)、を終えています。予定では一年目は八話、三年目は三話ぐらいまで進めたかったのですが……。

 まぁ、これからですね。


 それでは今回はこの辺で。次回、男との戦いですが、……あまり期待しないでください。筆がうまく乗らなかった。それだけです。

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