表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

第一話 「少女の悩み」

 掃除。

 世界中の約半数の男は、いや女もかもしれないが、できることならしたくないことの一つだろう。かくいう俺も、掃除が苦手で嫌いだった。

 だが、ここ最近はそんな考えが一変した。教会の生活(ここに関してのみかもしれないが)で、掃除することが多くなり、効率の良いやり方がわかってくる効率の良いやり方がわかると、短時間で目に見えて綺麗になるので、更に楽しくなる。

 そうして、気が付くと家事全般が得意になっていたのだ。得意になったどころか、好きになったぐらだ。


「こんなもんかな……」


 昼夜逆転の生活をしている俺は、明け方まで全く眠くならない。教会に帰ってきたのが午後3時。そこから3時間の間、やることもなかったので、一人で礼拝堂を掃除していた。

 粗方終わると、気が抜けたのか一気に疲れの波が押し寄せて眠くなる。


「ふぁぁ~あ……、寝るか」


 掃除道具を片付け、教会堂を出て宿舎に向かう。

 と宿舎の玄関の前で腕組みをして立っていた少女が、こちらに気づき走ってくる。朝早くから元気なことだ。


「ちょっとカキス!あんた今までどこ行ってたのよ!」

「おはよう、そしてお休み」


 片手をあげて朝のあいさつ。お休みのあいさつも忘れずに。うん、いい夢が見られそうだ。


「こらこらこらーーーーーー!さわやかに無視するな!」


 さすがにそうはいかず、ローブのフードを掴まれる。


「街の酒場。以上」

「あんた昨日、消灯時間にはいなかったわよね?……9時間以上も酒場に居座ってたの?」


 眉を潜め、目が「嘘を吐くな」と言外に語っている。


「そんななわけないだろ。3時間しか居座ってないし、さっきまで礼拝堂の掃除をしてたんだよ。他の子達じゃ、届かない場所とか危ない場所とを。大変だって前に言ってたろ?」


 さすがに俺でも9時間以上居座るのは無理だ。


「もういいか?一仕事して疲れたんだよ。寝させてくれ」


 返事も聞かずに宿舎に入る。いつもだったらもっと相手をしてやるが、眠気と疲れで相手をする気が起きない。


「あ、ちょっと!」


 呼び止める声は閉じた扉によって邪魔される。

 一人残された少女は邪魔された扉に口を尖らせる。


「……お礼くらい言わせなさいよ、バカキス」


            ○          ○           ○


 俺に宛がわれた部屋は三階の一番奥で、さっきの気の強い少女の部屋の隣だ。

 少女の名前は「ミリア・トーン」で、14才ながら子ども達の中で一番の年長者だ。9才の時にシスターに拾われ、ずっとここに住んでいる。

 年長者らしくきちんとお姉さんをしていて、他の子供たちの世話をよく見ている。子ども達の信頼も厚い。

 子ども達によると、とっても優しいお姉ちゃん。らしいが……。


「ま、俺は余所者だしな」


 寝間着に着替え、ベッドに潜り込むとすぐに深い眠りにつく。

 次に目が覚めたのは夕方で、日も沈む時だ。ベッドから上半身だけ起こしそのまま少し、ぼ~とする。


 コンコン。


「カキス~、いい加減起きなさい。晩御飯にするわよ」

「あぁ、分かった」


 正直、二度寝をしたかったが、用意された物を無下にするのももったいないので、仕方なくベッドから降りる。

 いつものローブを着てドアを開ける。


「ひゃっ!」


 まだ俺の部屋の前にいたミリアが、ずいぶん可愛らしい声を上げて驚く。地味にこっちも驚く。

 軽く握られた手は、再度ノックをしようとしていたらしく不自然な位置にある。


「おはよう、ミリア」

「コ、コホン!お、おはよう、カキス。もうこんばんはだけどね」


 すぐにいつもの調子に戻り、腰に手を当てて怒る余裕ができる。


「そうみたいだな。それより今日の夕飯の献立は?」

「あんたはご飯のことしか頭にないの?」

「だってミリアの作る飯はうまいんだもん」


 シスターだけでは人数分の食事を作るのは大変なのでミリアも手伝っている。


「そ、そりゃどうも……」


 ミリアは赤くなった顔を隠すように、そっぽ向く。本人的には隠しているつもりなのだろうが、バレバレである。


「……いつもこうなら可愛げがあるんだけどな」


 はぁ、と溜め息をしながらミリアの背中を押し、階段を二人で降りる。


「ちょっ、ちょっと押さないでよ!」


 宿舎の内部構造は、一回が食堂や風呂などの共有フロア。二~三階は各自の部屋となっている。

 そのため、仲良く俺を含めた二十四人の子ども達で食卓を囲む。居候の俺は下座を希望したが、家族に上座も下座もない、というこの国的にはおかしい理論のもと、ど真ん中に座ることになった。何故ど真ん中なのかはいまだに不明だ。


「端っこが好きなんだけどな……」

「もう諦めなさい。決まったことなんだから」


 まぁ、別にどこでも良いが。


「みんな集まりましたか?……それではいただきます」

「「「「いただきます!」」」」


 シスターが全員集まったことを確認すると合掌をして晩餐が始まる。

 食卓の上には、シチューが入った三つの寸胴と、サラダが盛られた大皿が六つある。もちろん各自の取り皿も。

 人数が多いので、一回の食事に使う食器がどうしても増えてしまう。そういうわけで食卓の上は色々な物でいっぱいいっぱいである。


「ほら、袖に気を付けて。こら!そこ二人、ケンカしないの。いっぱいあるんだから」


 ミリアは、子ども達を注意したり、叱ったりで、いつもなかなか食べ始めることができない。もちろん、シスターも子供たちを見てはいるが、なにぶんシスターが全体的に半テンポ遅いのでミリアが先に対処してしまう。

 ふと、左を見ると、9才の少女「ミリカ・トーン」の服の袖が、シチューにつきそうになる。


「ミリカ、両手を出して」


 ミリカは、?マークを出しながらも、


「ん」


 と素直に両手を出してくれる。

 両方の袖を肘のあたりに輪ゴムを使って縛る。


「これで良し、と」

「ありがとう、おにぃ」


 頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細める。


「いっぱい食べて大きく……ならない方が俺の好みかもしれないな」

「姉の前で何言ってんのよ、ロリコン」


 隣にいる実施のミリアが冷たい目で見てくる。


「別に、ミリカにそうなれなんて言ってないだろ。俺個人の好みを言っただけだ」


 地味な豆知識、其の一。世の中には『ペドフィリア』と呼ばれる更なる上級者がいる。


「教育的に悪いでしょうが。……そ、その、そんなに小さい子が好きなの?」


(何故、髪を弄りながらチラチラ俺を見る……)


 チラリと左を見る。

 ミリカは、自分が話題に上がっていることに気づかずに食器をまとめている。


「ん~、……比較的そうなのかもしれないな。というか、この年でロリコンもくそもないと思うのは俺だけか?」


 答えながら、俺もシチューを自分の取り皿に持って食べ始める。

 正直な話、そこまで好みにこだわりがないので、「ふ、幼女以外に選択肢があると思っているのか!?」とか、豪語できるほどの猛者ではない。


「何その微妙な返答……もぐもぐ」

「つったってなぁ。……もぐ、仕草が可愛い女の子が好きかな」


 シチューの野菜類がごろごろでかくて話づらい。俺たちがまだ子供で口が小さいだけだが。


「ふ~ん。男の子は大体そういう子が好きなの?」

「もぐもぐ……ゴクン。……さぁな。とりあえず付き合いの長い女の子を基準に考えただけだからな。実際のとこどうなんだか俺にもわからない」


 ミリアも14才。異性が気になり始めてきたらしい。思春期というやつなのだろう。

 いつもそうだが、ここでの食事は食べ始めるのは一緒だが、終わるタイミングは同じではない。他の皆はもう食べ終わっていても俺とミリアはまだ食べている。


「ま、ミリアは可愛いとこあるからそこまで心配しなくても大丈夫だろ。ごちそうさま」


 ミリアはまだ食べ終わっていないが、俺は自分の使った食器を持って席を立つ。自分が使った食器は自分で片づけるのがここのルールだ。


「ふ、ふぇぇ!!?」


 ミリアは顔を真っ赤にして素っ頓狂な声を上げる。


「えと、その、えとえと、そんなことないわよ……」


 ぷしゅ~、と頭から湯気が出てくるほど顔を赤くしてうつむく。もはや、首すらゆでタコの様になっている。

 見ていると、なんか、苛めたくなってきた。


「そんなことってどんなこと?」

「え、えと……その……私が……」


 もちろん、どんなことか分かっている。だが、あえて自分で言わせることで羞恥心を刺激させる。


「聞こえない」

「私が、か、可愛い……」

「聞・こ・え・な・い」


 さっきよりも強めに一音ごとに区切りながら言う。


「~~!!……わ、私が可愛いって言ったこと!」

「よく言えたね。偉い偉い」

「あ、……う、うん」


 顔は赤いままだが、頭を撫でると頬が緩む。

 鞭と鞭と飴、もちろん次は止めの鞭。

 すっと、耳元に一言。


「今、だらしなくていやらしい顔、してるよ。……無理やり言わされたのに気持ち良くなったんだ。淫乱だな」

「え、え!ち、違う!違うもん!淫乱じゃないもん!か、感じてなんか……」


 ミリアの言うとおり、別に無理やり言わされて感じたわけではないだろう。単に、恥ずかしい思いをした後に褒められて顔がだらしなくなったことを薄らと感じていたのでそういった勘違いが生まれる。

 だが、動揺するミリアの体と心は本当に無理やりされて感じてしまったのだと勘違いする。

 その結果、顔、というか体は正直で、どう見てもそうとしか見えない。

 目はトロンとし、目尻には涙を溜め、頬は上気して首筋まで赤く、口は締まりなく開き、唇の端には少し涎が垂れている。

 目尻に溜まった羞恥の涙を見ると、背筋にゾクゾクとくるモノがある。だが、その感覚を表に出さないでいる。


「このトロンとした瞳は?」


 親指で下目蓋をなぞる。そのまま目尻の涙を拭う。


「このだらしなく空いてる口は?」


 親指で唇全体をなぞる。プルプルフニフニした感触を楽しみながら、唇の端に少し垂れていた涎を拭う。

 今度はそれをミリアに見せる。


「ほら、ね?」

「あぁぁ……、ご、ごめんなさい。ごめんなさいぃ……」


 ついにミリアは勘違いを事実と認め、従順で淫乱なメスへと堕ちる。

 それでも俺は止まらない。やめるなんて思いつきもしない。


「さて、コレ、どうしようか」


 親指と人差し指で、にちゃにちゃと音を立てながら玩ぶ、ミリアの、涎。


「ミリアはどうしたい、コレ?」

「……私が責任とって舐め取る」


 ミリアは目を閉じて、舌を出す。その仕草は俺に全てを委ねるようだ。もしかしたら俺に蹂躙してほしい気持ちの表れかもしれない。たった数分でそちらの道に堕としたという事実すらも俺を興奮させる。

 本当なら今すぐでもあけられた口内を荒々しく蹂躙したいところだが、ミリアは一つミスをしている。


「舐め取る?……『舐め取らせてください』だろ」


 ミスを犯したメスに優しくしてやる道理はない。俺は低い声音で言いかえらせる。

 自分のミスに気付いたミリアはすぐに訂正する。


「お願いします。舐め取らせてくださいぃ……!私のいやらしい唾液を、私に舐め取らせてください……!」

「……ほら、口を開けろ。俺が入れてやる」

「ありがとうございますぅ……。はむ……」


 「堕ちた」ミリアは完全に従順になっている。

 俺は、たとえ口調が荒くなっても、やることは絶対に荒々しくしない。そっと口内に入れて、あとは全てミリアに任せる。いや、好きに舐め取らせてやる。


「……くちゅっ、はむ、ちゅぱ、あむ。……はぁ、これでどうですか?」

「ありがとう、ミリア。よくできたね」

「えへへ……」


                ○        ○       ○


「やってしまったぁぁぁ…………………!」


 現在、酒場『ダンディ』のいつも座っている、カウンターの左端の席で、今俺は、夕食の後のアレを大後悔中である。

 あの後、夕食後の散歩と称して、まだ開店時間でもない『ダンディ』に逃げ込んだ。

 マスターは開店前なのに、俺がいつも頼むレモンサワー(ハチミツ入り)を出してくれた。

 しばらく、頭を抱えたり悶えたりしたのち、ゴンッとカウンターに頭をぶつける。


「……マスター」

「…なんだ?」

「女子を辱めたときって、どうしたらいいと思う?」

「…………………知らん」

「だよなぁ~~、はぁ……」


 さすがに大人のマスターでも、辱めてしまった時の良いアドバイスは残念ながら持ち合わせていないようだ。というか、11才の少年相手にこんなことを相談される方も困るだろう。

 しばらく、男二人で無言でいると、ふと、外から人の、それも『面倒な』気配がする。


 カランカラン。


「ちょいとしつ……子ども?」


 扉にはciosed(閉店)の文字が立てかけてあるはずだが、男は中に入ってきた。

 男の服装はだらしなく、所々に何かにひっかけたような穴がある。この町に住んでいる人間の服装としては珍しくない。だが、靴だけは上等なブーツで、泥がついてはいるが、服の様に穴はない。

 男は俺を見たとき首をかしげたが、「まぁ、いいか」と呟き、カウンターのど真ん中に座った。

 俺を店の中に入れている手前、開店前だから出ていけとは強く言えないマスターがかすかに眉を寄せる。


「ちょっと聞きたいことがあるんだが……」

「…何か?」


 マスターはちらっと俺を見たが、何の反応もしないのを確認すると、男に応じる。


「この辺に廃坑みたいなのがないかい?」

「…一応、ここからちょっとした南に行ったところに。……何故そんなことを?」


 この街も今では荒廃し衰退しているが、『街』というからには昔は栄えていたということ。昔、街を栄えさせたのが、マスターの言った廃坑なのだろう。


「いや~、ちょっと、ねぇ……くくく」


 わざととらしく含み笑いをすると男は立ち上がる。


「あんがと、マスター」


 聞くだけ聞くと、男は店から出ていく。

 男の気配が消えると、俺は数枚の銅貨を置いて席を立つ。


「マスター、……南って、言ったよな」


 南の方向、それは教会がある方向でもある。


「…ああ、教会の近くの森の奥まったとこにある」

「方向だけじゃなく近くときたか」

「…まぁまて、カキス。…これから夜だ。…さっきの奴が廃坑で何かするにしても、廃坑を探すにしても明日の日中だろう。……だから落ち着け」


 そう、今はまだ7時半。教会の子供たちが幼い分、夕食を食べる時間が速い。いつもはもう少し教会でゆっくりしているのだが、あんなことがあったせいでいつもより速い時間からいる。


「だったらだったで明日に備えるさ」

「…そうか。…悩んでたことも自己解決したんだな」

「あ……。……マスター、前言撤回してもいい?」

「…もうさっさと帰って寝ろ」


 容赦のないマスターだった。


「でもさぁ~……、ん?」


 また外から人の気配がする。でも今度は、躊躇ってる感じで……。


 カランカラン。


「え、えっと……こ、こんばんはぁ……」


 見ると、そこに立っていたのはなんと、ミリアだった。


「ミリア……!どうしてここに?」

「あ、カキス!」


 ミリアは俺を確認すると、ほっ、都内胸をなでおろす。だがすぐに、いつものお姉さんモードに戻る。


「もぅ!ダメでしょ、カキス。開店前からお邪魔して……!だいたい、あなたはまだお酒を飲んでもいい年じゃないでしょう?」


 プリプリと怒る様子からは、夕食のときのことなど、何事も無かったかのようだ。

 とりあえず、俺も、いつも通りを装う。


「開店前に入れてくれたのはマスターだし、酒は飲んでねぇよ。俺が飲んでるのはレモンサワーだよ」


 さっきまで使っていたコップを揺らすが、氷の澄んだ音しかしない。我ながら説得力のないことをしてしまった。

 俺が酒を飲んでいる疑惑についてマスターに対して何も言わないのはひとえに、マスターの顔が怖いからだろう。かなりの強面だから。


「それでもよ。酒場は子どもが来るとこじゃないわ」

「とか言いながら、隣に座るのな……。俺を連れて帰りに来たんじゃないのか?」

 嘆息気味に言っているが、内心、安心したりしている。少なくとも、隣に座ってくれることを。


「……話したいことがあるの」


 ミリアは、正面を見たまま真剣な表情を作る。


「…奥に引っ込もうか?」

「あ、大丈夫です」


 マスターが気を利かしてくれたが、ミリアに帰した様子はない。


「……こんな街でどうしてシスターは私たちを育てることができると思う?」

「それは、治安の悪い中で、ということか?それとも経済的にか?」

「治安も悪いけれど、それよりお金のことね」


 ふむ、と腕を組む。この街に、あの教会に寝泊まりするようになって二週間。礼拝に来た信者は数えるほどしかおらず、その信者全員から一人当たり、いくら寄付金をもらえばあの人数の子供たちを最低限養えるのだろうか?


「そうだな……、貯金、か?」

「うん、そう。この街がきれいだったころは、街や信者さんたちからのお金で裕福な生活ができないこともなかったらしいの」

「だったとしたらかなりの額だったんだな。少なくとも、シスター・アマリーが教会を任された時からは」


 いつ交代したのか詳しいことは不明だが、それでも五年は経っているだろう。元から質素な節約生活を送っていたからこそ、五年も貯金が持ったはずだ。


「急になんでその話をする気になったんだ?それも、その……アレの後で」

「……アレの後に、シスターが話してくれて初めて私も知ったの」


 マスターが目線で、アレってなんだ、と語っている。が、ミリアの前で何も言えないので見なかったことにする。


「でも、貯金で生活してたのは薄々気づいていたんだろ?何かあるから俺なんかに相談しようと思ったんじゃないのか?」

「うん。……貯金が切れそうだって言ってたの。だからシスターが、『私は働きに出るかもしれない』って……」

「…シスター一人が働いて何とかなる人数ではなさそうだが?」

「俺もそう思う。今現在どのくらい残っているのか知らないが、残り少ないのだろうな。それに、シスターは子ども達の世話で手一杯だからな。働く時間をとれるかどうか」


 今現在ですらシスターとミリアがほぼ一日中子どもたちの相手をしているのに、もしシスターが働きに出てしまうと教会が『回らなく』なる。


「それで……、カキスにお願いがあるの」

「分かった。良いよ」


 言葉通り二つ返事でOKした俺に、ミリアは何故か慌てだす。


「ほ、本当にいいの!?ていうか、私が頼みたいことがわかっていってるの?」

「うん、まぁ。要するに、俺にも教会のこととかを手伝ってほしんだろ?そんなこと程度だったらいくらでも手伝うさ」


 若干ミリアの勢いに押される。

 覇閃家にいた時も、孤児の世話をしていた(同時にされてもいた)ので大変さは分かっている。正直、覇閃家と比べたら、全然子供たちの数が少ない。


「で、でも……」

「何を遠慮してるんだ?俺は居候なんだから好きに使えば良い。なんなら、今から俺が金を作っても良いぞ?」

「え、どうやって?」

「むろん、ギャンブルにきまってるだろ」


 幼い俺でも、確実に大金を稼げる方法と言ったらギャンブルしかない。


「だ、だめよ!そんなの!」

「まぁ、そういうだろうと思って、子供たちの世話を手伝うって言ってるんだ」


 さすがに、協会のために使う金の出所が、ギャンブルなどというのは俺でもどうかと思っている。だからこそなのだが……。


「……うん。ありがとう、カキス」


 快く、というほどではないが、それでも頷いてくれた。


「なんでそんなに、遠慮しているんだ?」

「……その、シスターに頼るのは慣れているんだけど、年下に頼るのはお姉さんとしてどうなのかなって思って……」


(そういうことか)


 ミリアは、ずっと年下の子を相手にしていた。頼るのも慣れておらず、面倒を見るべき年頃の少年に頼っているのことに気が引けているらしい。


「……なぁ、ミリア」

「なに?」

「お前は確かに他の子の面倒を見る立場いる。だけど、いつまでもその立場にいるわけじゃないだろ?あの子たちも成長する。そうすれば、お前とシスターだけで教会を支えることはなくなる」


 今はまだ、俺より幼い子が多い。だが、いずれは大きくなる。


「そうなった時に年下の子に頼る練習だとでも思えばいいんじゃないか?」

「……そう、ね。シスターがいない間、いろいろと手伝ってくれる?」


 ようやく、ミリアは年下に頼る自分を認めることができたようだ。

 もしかしたら、あまり年下を頼ろうとしないのはミリカの存在があるからかもしれない。

 本当に血の繋がりのある家族が自分しかおらず、ミリカに心配をかけないようするため、必要以上に自分を戒めていたのかもしれない。


(……ミリカは逆に、そんな姉を手助けしたいと思ってるんだろうな)


 すれ違っていないようですれ違っている姉妹。それが、この姉妹を見て思う俺の率直な感想だ。


「それで、シスターはいつから働きに出るって?」


 さっきの男たちが何かする前に潰す気でいるので、できれば二、三週間後だと嬉しいというか、やりやすい。


「明日から」

「早!?」


 最速だった。いや、本当に最速だったら今日からのほうが正しいな。……って、そうじゃなくて!


「そんなに今の状況がやばいのか?まったくそうは思えなかったぞ?」


 すぐに働きに出なければいけないような財政状況だとは、さすがに思っていなかった。

 だが、ミリアは苦笑しながら首を横に振る。


「ううん。でもシスターが、『できることはできるだけ早くするようにしているんです』って。……いつもは半テンポ遅いのに、こういう時だけ……もう」


 ミリアも若干困っているようだ。きっと、ミリアも俺と同じ反応をしたから苦笑しているのだろう。


「じゃあ、今日はもう帰って寝るとするか。でないと、明日起きてられなさそうだからな」


 もう少し年齢を積めば、多少の夜更かしをしても大丈夫になってくるのだろうが、今の年齢ではさすがの俺も眠気には耐えられない。


「…おう。…それじゃあしばらくはここに来ないんだな?」


 一切表情も声も変えないで言われると、どうでも良いと思われているように感じる。たぶん、本人にそのつもりはないだろうが。


「そうなるかな。とはいっても、教会の子達はかなりの早寝率だからな。余裕があったらまた来るよ」


「…そうか。…無理するなよ」


 マスターの大きな握りこぶしに、俺の小さな子どもの握りこぶしを軽くぶつける。


「……えっと、ごめんなさい」


 その様子を、ぽ~っと見ていたミリアが突然謝りだす。


「私、マスターのことを勘違いしてました。幼い子どもを夜の酒場に誘い込んで、悪い方向に人生を進ませようとしている人かと思ってました。だから、ごめんなさい」

「…気にするな。…俺も自分でそう思うからな」


 マスターは、慣れた様子で言葉を返す。

 マスターの過去は、まったくの謎である。過去に何かなければ、こんなスラム街でしがない酒場のマスターをしていることはなかったはずだ。


(……ま、今のところはどうでも良いか)


 どうせ、俺はこの街に一年と滞在しないはずだから。


「さて、それじゃあ帰るか。ちょうど、開店直前の時間になったしな」

「…またな」

「はい、それでは。あ、ちょっと、カキス待ちなさいよ!」


 カウンターに再度、銅貨を置くと、さっさと店を出る。ミリアは律儀にマスターに返事をしてから店を出る。

 入れ違いに、いつもの常連客が入ってくる。


「マスター、あの男の子って、女の子連れたったのかい?」

「…今日はたまたまだ。…それと、しばらくは来ないとさ」


 カキスも常連客の一人なので、顔を知られている。中のいい常連客とは同じテーブルで杯を交わすこともある。

 なので、


「ちぇ。しばらくは一人酒か……」


 常連客は飲み仲間がいなくなり、少し寂しそうに席に着く。


「…ふっ。…どちらが子どもなんだかな」


 どうも、かきすです。自称ドS変態紳士をめざしております。

 大事なのは、変態、ではなく、変態紳士、です。ダンディズムは重要ですからね。


 読んでくださってありがとうございます。

 第一話どうだったでしょうか? 本編の方のカキスと違いが出るように意識して書いてはいるつもりなんですが、あくまでもつもりなので見直すとそんなに違いを感じられないです……。文を書くって難しい。

 この時のカキスは11歳、つまり小学五年生ですが、全くそういう感じではないですね。ミリアもそこそこ大人びた少女ではあるものの、同年代のように接しているカキスは相当精神年齢が老けています。

 正確には、そういう教育を受けてしまったから、なんですけどね。

 本編がまだまだ一生も終わっていないので、カキスが幼少、ゆりと出会う前の話が出てきていないので、話せることが少ないです。


 カキスの感情云々に関して、少しネタバレ気味に言うことがあるとすれば、カキスは感情をまともに作れたのはゆりと出会ってからです。それまでは、殺人人形の様に育ってきました。その教育をほどこしたのが……、といったぐらいですね。

 まぁ、こういった話もいつかしたいものです。


 次話投稿はさらに間が空くと思われます。原本がない上、本編を進めないと書けないようなエピソードも考えているので、ご容赦を。


 2015/5/24現在の話ですが、私が通っている学校でも、チャレンジカップという全国レベルでやられているものに参加します。

 チャレンジカップというのは(私も詳しく把握しているわけではないですが)、7Jと呼ばれている、「七つの習慣」に関連するもので、チャレンジを決め、そのゴールを設定し、その内容や記録をプレゼンするものです。(大事なことなのでもう一回言いますが、私も詳しく把握しいません)

 それは全国規模で開催されており、最優秀賞も学生を対象にしているとは思えないほど豪華です。(注:作者個人の視点です)

 で、そのチャレンジの内容として、私は、

「「小説家になろう」で投稿した作品の閲覧回数を増やす」

 というものに設定しました。

 それが達成されたという証になるゴールは、

「投稿した作品の総レビュー数が十人以上」

 というものにしております。

 一応、今現在のゴール設定であり、これは一学期内でのチャレンジ内容です。

 自分自身、このゴールが達成できるとは全く思っておりません。学校の友人に頼んでも達成できるかどうかです。

 まぁそんなわけで、できればレビューをつけていただけると非常にありがたいです。 正直なレビューで全くかまいません。酷評なら酷評で、精進する目標の一つにもなるので。

 宜しければ、よろしくお願いします。


 それでは、また次回。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ