表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

真夜中にキーボードを叩いてみた

シグナル

作者: ドーナツ

※お題「信号機」「#深夜の真剣文字書き60分一本勝負」で書きました。

 日が暮れると病室の窓から信号機のランプが見える。続いて汽笛と車輪の音が響いてきた。列車の窓が明るく光っている。たくさんの人が揺られているのだろうか。人影までは確かめられなかった。

 ランプの灯りが上下する度に列車が走り抜けていく。以前は、よく踏切に阻まれながら列車を眺めた。あの時は、何とも思わなかったが、今は到底できない経験である。

 日に一度、病院の庭を散歩するだけでも疲弊し、息が切れた。怠け癖よと彼女は、ぼくを詰る。しかし、本当に思うように動けなかった。

「弱虫! さあ歩いて、ここまで!」

 できない。信号機のランプが眩しかった。点滅する光は追いきれず、幾重にも広がって増殖していく。


「面会時間は終了です」

 看護師の声に可奈子は顔を上げた。携帯用のLEDライトの電源を切る。

「熱心ですね。いったい何をされてるんですか?」

 可奈子は問われ、決まり悪そうに口を開いた。

「モールス信号です」

 看護師は訝しげに首を傾げる。

「弟は、船舶技師なんです。ほんのたまにですけど反応があるものですから」

 可奈子の弟、藤田登は昏睡状態にあった。

「……そうですか」

 原因は、列車の衝突事故によるものである。

「私は諦めていません。根気良くやろうって決めてるんです。弟は、何をやるのも手が遅くて、鈍くさい子でした。たぶん今もボーっとしてるんですよ」

 看護師は、沈んだ顔をしていたことに気付き、慌てて頭を下げた。

「すみません!」

「気にしないでください。弟がご面倒をおかけしていると思いますが、よろしくお願いします」

 可奈子は看護師に礼をし、病室を出る。

「覚悟しなさい。明日は『走れメロス』の朗読だからね」

 リノリウムの床をハイヒールの踵が叩いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 自由ではなくなってしまったからだ、普通に思いを馳せる彼女、モールス信号、のう脳裏に映像が浮かびました。
2014/10/13 17:12 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ