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貨幣相場のお勉強

「アイオライト・ビーの眼球合計二十個ですね。状態も悪くないようですし、これは高値で買い取らないといけませんね。……そうですね、一個あたりヴィクトルス金貨一枚で如何でしょう?」

 ギルド会館の買い取りカウンターで、受付のお姉さんが買い取り金額を提示してくれました。

 しかしそれが妥当な金額かどうか、桐羽達には判断がつきません。

「どうする?」

「っつっても相場が分かんねえし、金貨ならそれなりに高いんじゃねえの?」

「まあ最初だしね~。交渉するのはこっちの貨幣価値をそれなりに勉強してからでいいと思うよ~」

「だな」

 それが高いのか安いのか判断がつかないというのが難儀ですが、それはおいおい勉強していけばいいことです。

「じゃあそれでいいや。お願いします」

「かしこまりました。ではこちらの用紙にサインをお願いいたします」

「う……」

 差し出された用紙を見て桐羽がちょっと怯みました。

「どうかしましたか?」

「あ、いえ。えっとですね、読むことはなんとか出来るんですけど、まだ書けるほどにこっちの文字を覚えてないんですよ。キリハ・ミナヅキってサインしたいんですけど、ちょっとメモ用紙に書いてもらえませんかね? それを真似しますんで」

「分かりました。では少々お待ち下さい」

 お姉さんは気を悪くすることなく、メモ用紙にサラサラと書いてくれました。

 見たこともない文字が並んでいます。でも書いてあることは分かります。ただ書けないだけです。

 それを見ながら桐羽は慎重に真似をしていきます。

 サインが終わって紙を差し出すと、ようやくほっとした表情になりました。

「遠方から来たんですか?」

「ええ。こっちにはまだ来たばかりで。言葉は何とか分かりますし、読むこともそこまで不自由はないんですが、まだ書くことはあんまりできなくて。こっちの貨幣価値もよく分かりませんし」

「そうなんですか。では簡単に説明しますね」

「ありがとうございます」

 お姉さんは快く説明を引き受けてくれました。

「まずはこのヴィクトルス金貨。この金貨は国内で使われている貨幣の中でも最も大きな価値を持ちます。この金貨一枚で冒険者が普通のホテルに寝泊まりして、およそ一か月は生活することが出来ます」

「すご……」

 ホテルが一泊当たり五千円ぐらいとして、冒険者ならば外食がメインという予想で食費が一か月当たり五万円ぐらいと見積もって……およそ金貨一枚当たり二十万円の価値があるようです。

「そしてこちらがレヴァン銀貨。この銀貨二十枚でヴィクトルス金貨一枚の価値を持ちます」

「ふむふむ。日本円にするとおよそ一万円ってところか」

「にほんえん?」

「いや、こっちの話っす。続けて続けて」

「はい。続いてこちらがグラース銅貨。この銅貨百枚でレヴァン銀貨一枚の価値を持ちます」

「……うわ。一気に小銭化した。千円単位はないんだな」

「?」

「いやいや。こっちの話っす」

「はあ……。他にも細かい貨幣は存在しますが、この大陸で使用されているメインどころはこの三つです。当面はこれだけ覚えていればあまり不自由はないと思いますよ」

「はい。ありがとうございます」

 しかしおおよそのところは理解できました。

 つまり金貨が二十万円。

 銀貨が一万円。

 銅貨が百円。

 千円が存在しないのが微妙なところですが、日本円換算の大ざっぱな相場が分かっただけでもありがたいところです。

 つまりアイオライト・ビーの眼球二十個でヴィクトルス金貨二十枚。四百万円の稼ぎということになります。

「まあまあかな」

「まあ出会い頭をぶっ飛ばしただけだしな」

「当面はこれでいいと思うよ~」

 みんなそれなりにお金持ちだったので金銭感覚は麻痺しています。

 四百万円の大金を手に入れたと聞かされても、反応はとても薄い感じです。

 可愛げがないとも言いますが。

 可愛げはロリ幼女で十分ですか?

 それはそうでしょう。

「ではこちらがヴィクトルス金貨二十枚になります」

 そう言ってトレイの上に金貨に十枚を乗せてから桐羽に差し出してきます。キラキラと輝くヴィクトルス金貨は、貨幣価値よりも観賞価値の高い代物のようです。

 思わず見とれてしまいます。

「あ、とりあえず一枚はレヴァン銀貨で貰っていいですか? これから食事に行きたいんで、金貨で出されると店員さんも困るんじゃないかと思って」

「そうですね。分かりました。ではヴィクトルス金貨十九枚とレヴァン銀貨二十枚での引渡しになります」

「ありがとうございます」

 桐羽は金貨と銀貨を受け取ってからリュックの中に放り込みます。雑な扱いですが、紙幣ならともかく貨幣をここまで大量に収納することの出来る財布など持ってきていないので仕方がありません。

「………………」

 そのぞんざいな扱いにお姉さんが目をまん丸にしていますが、気にせずに放り込んでしまいました。

「さてと。んじゃ飯でも食いにいくか」

 桐羽がその場から立ち去ろうとします。

「あ、お待ち下さい」

 それを慌ててお姉さんが引き留めました。

「?」

「折角ですからギルド登録をしていきませんか? アイオライト・ビーを一度に十体相手取ることが出来るパーティーでしたら依頼にも事欠かないと思いますし、当ギルドとしても強力な戦力を得られることになりますし」

 どうやらスカウトのようです。

「んー。当面の金は手に入れたし、しばらくはこっちの地理とか色々勉強したりしながら観光しようと思ってるんですけど」

「もちろん依頼を受けるかどうかは任意で構いません。それにエントランスホールに張り出されている依頼書を受付に持ってきてくだされば依頼を受けることが出来ますので、そのタイミングは自由に決めることが出来ますよ」

「そうなんですか。でもギルド登録って僕たち名前とかまだ書けないし」

「そちらは私がフォローしますから」

「うーん。でもギルドって登録してしまうと厄介事を押しつけられそうな予感がひしひしと……」

「そんな事はありませんよ。冒険者ギルドは冒険者の成長と発展を促す組織ですから。こちらから強制的に仕事を押しつけることはありません」

「なるほど。じゃあ国から招集令状とか来た場合はどうなります?」

 異世界ライトノベルの展開だと、ギルドに登録している冒険者は有事の際に国から戦力として駆り出され、メンバーはそれに応じる義務がある、というパターンがあるのを思い出します。さすがにそれは遠慮したいところです。

「免税システムを利用しなければ大丈夫ですよ。冒険者ギルドは国の招集に応じる義務がありますが、それは免税特権が与えられているからです。きちんと税金を納めていれば、任意で拒否することは出来ます」

「なるほどなるほど。でも僕たちはこの街に定住するとまだ決めていないから税金を払う義務はないと思うんですけど」

「ああ、そちらは成功報酬のほうからしっかりと控除させていただきますのでご安心を」

「そっちは強制なんですね……」

 微妙に嫌な顔をする桐羽でした。

「それにギルド登録をしますと、様々なアイテムショップやお食事どころでの割引が適用されたり、立入禁止区域もランク次第で立入可能になったりして、冒険者としては色々と便利な面もあるんですよ」

 そしてセールストークに入ります。

 お姉さんは是非とも桐羽達を勧誘したいようです。

「宿屋の割引とかも可能ですか?」

「もちろんですよ。長期滞在割引に加えてギルド会員割引が適用されますから、一般宿泊者のおよそ六十パーセントで利用することが可能になります」

「六十パーセントは素晴らしいですね」

 半額ちょいです。節約精神はありませんが、高いよりは安い方がいいと考えるのは当然の心理だったりします。

「どうする?」

 桐羽は二人を振り返ります。冒険者としての戦力はこの二人がメインなのですから、桐羽の意見よりも芽久琉と正宗の意見を尊重するべきだと考えたからです。

「宿の部屋を一室にしてくれるなら登録してもいいよ~」

「ベッドももちろん一つだからな」

「んじゃ登録決定っと」

「………………」

 幼女二人の発言内容が非常に気になるところですが、賢明にもお姉さんは突っ込みを入れませんでした。

 幼女二人と一つのベッドで一体何をするつもりなのでしょう……と考えてしまうことはやめられませんでしたが。


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