初めての鍛冶仕事は
幼女と旅する異世界道中あらため幼女との異世界生活、とタイトルを改めるべき展開にまで進んでしまいましたが、今更タイトルを変えるのもどうかと思うのでこのままいきましょう。
頭に幼女を冠していればそれでもーまんたいです。
ノープロブレムなのです。
細かいツッコミは自動スルーとなりますのでよろしくお願いいたします。
日本家屋で幼女とスイート生活をスタートした水無月桐羽ですが、いざ始めてみるとなかなか難しいものだと悟ってしまいました。
まずは家事仕事。
幼女ツインズはその能力が戦闘に特化してしまっているため、ベタ設定として家事能力は全滅だったりします。
卵焼きとかを炭素の塊に生まれ変わらせるのは得意そうです。
桐羽も一人暮らしが長いので最低限の家事はこなせますが、文化も食料も微妙に違っている異世界の食事をどうやって調理するかという難関に差し掛かってしまいました。
いえ、調理は出来ます。
出来ますが、調味料が単調なため、出来上がったものもやはり単調になってしまうのです。
塩、塩、塩。
塩味にはそろそろ飽きてきました。
醤油、酒、みりん、味噌などという調味料が欲しいところです。
「まあゲートでちょっくら戻ってくれば調達は簡単なんだけどさ」
異世界に本格移住を決めた立場としては、それもはばかられます。
「どうして~?」
「こっちの世界に慣れないといけないだろう? つまりこっちの食事にも慣れないといけないというわけだ」
「なるほど~」
桐羽の膝の上にちょこんと腰かけた正宗はご機嫌です。
ちなみに芽久琉は単身でセキバの国までお出かけです。
この家の元持ち主がセキバの国出身の貴族ということで、取り扱っている食料や調味料の調査を頼んだのです。
もちろん三人で行けばよかったのですが、まずは自分が様子を見に行ってくると芽久琉が言ってくれたのです。
この中で一番戦闘能力が高いのは芽久琉ですから、人選としては間違っていないでしょう。
戦闘能力が高いということは生存能力が高いということですから、単独行動に向いているのです。
芽久琉としては未知の土地に行くにあたって桐羽という足手まといを抱えるよりは、まずは自分が先行して安全確認をした方が安心できるという考えなのでしょう。
桐羽としてもセキバの情報収集をそこまで焦っている訳ではないので、芽久琉の意見に賛成しました。
「まあ芽久琉の持ち帰る情報次第で改善されるかもしれないけどな」
「そうだね~。めぐちゃんのことだからきっとうまくやってくれるだろうし~」
「しかしこの家も広いし、一人ぐらいはお手伝いさんを雇入れるべきかもしれない」
「確かにわたしたちは家事を手伝えないからそれには賛成だけど~」
「やっぱりメイドだな」
「やっぱり執事でしょ~」
「………………」
「………………」
二人の間で火花が散りました。
「正宗」
「なに? お兄ちゃん」
「お手伝いさんは基本的に女の仕事だぞ。少なくとも僕はそういうイメージだ」
「そうだね。わたしのイメージもそうだよ。じゃあ執事は諦めようか。捨てがたいけど。で、お手伝いさんっていうと恰幅のいい中年のおばちゃんがいいかもね~」
「なぜ?」
「だって仕事を任せる以上、有能な人の方がいいでしょ~? 若手よりもおばちゃんの方が絶対に使えるよ~」
「む……」
家事を任せる必要性を考慮してお手伝いさんを雇おうというのが表向きの目的であり、それを優先して考えるなら確かにおばちゃんが適任です。
しかし桐羽としてはおばちゃんのメイド服姿など見たくありません。
目の保養どころか目の猛毒です。
メイド服がメタボでぴちぴちになっている様などを目撃した日には、しばらく立ち直れそうにありません。
「しかし若くてきれいなメイドさんにも仕事ができる人はいるだろう?」
桐羽としては若くてきれいなメイドさんにあんなことやこんなこと、掃除洗濯食事など、あわよくば夜のお世話までお願いしようと思っていたところなのでもうちょっと食い下がります。
幼女ツインズに関しても自分たちが本命ならば多少の浮気は許容するという妥協をさせているので、ここで美人メイドを雇うことに文句を言われる筋合いはありません。
桐羽だって健全な成人男子ですから下半身欲求も人並みにあります。
というか、そろそろ欲求不満だったりもします。
幼女に手を出すわけにもいかないという常識的行動を守っている以上、どこかで発散しなければ本気で幼女に手を出してしまいそうです。
それならそれで幼女ツインズとしては大歓迎なのでしょうが、桐羽としてはまだ踏み越えたくない一線なのでしょう。
「まあいるかもしれないけど~。でもめぐちゃんのいない間にそんなことしたらどうなるかは目に見えてるでしょ~?」
「うぅ……」
そうだった、と呻きたくなる桐羽でした。
ハートレスをぱっきゅんぱっきゅんしながら暴れまわる芽久琉の姿が浮かんでしまいます。
お手伝いさんのお話はとりあえず棚上げにして、桐羽は自分の仕事に取り掛かる事にしました。
自分の仕事。
つまり鍛冶仕事です。
「というか異世界なだけあって鍛冶仕事も魔法的要素が強いんだよなぁ……」
エアハンマーやトランスファープレスも存在しない原始的な鍛冶工程……の割には魔法要素というなんちゃって便利機能が働いて、ご都合主義な感じで完成品が出来上がったりします。
この世界の鍛冶工程とはつまり……
「炎をガンガンに焚いた窯のなかに鉱石やその他材料をぶち込んで、一定時間待機……」
ぼんやりと待機します。
待ち時間はとても暇です。
この間、通常の鍛冶師は完成品のイメージを固めているようですが、桐羽にとってはどんな能力が付加されるか分からないのが今までの仕事なので、形状以外は何も考えていません。
一時間ほど経過すると、窯のなかで一つの塊が出来上がります。
アイテム風に言うとインゴットですね。
それを取り出してから専用の台に置きます。
「インゴットが熱い内にハンマーで加工する……と」
鍛冶師のハンマーを構えた桐羽はそれを大きく振りかぶって、インゴットへと打ち付けます。
カン、カン、カン!
と叩く度にインゴットが光を帯びて形状を変化していきます。
ちなみに鍛冶のハンマーは市販品です。
ハンマーには鍛冶師の好みによって色々あるようですが、完成品への影響があるわけではないので、桐羽は普通のハンマーを使用しています。
ごく稀に、神様が鍛えたとても貴重なハンマーが存在するようですが、桐羽はそこまで高価なアイテムを求めたりはしません。
鍛冶仕事はあくまでも自分の腕で行うものであり、チートアイテムに頼るようなものではないという自負があるからです。
百回ほど叩いたところでインゴットが一際強い光を放って、完成品が姿を現します。
叩いている間に鍛冶師のイメージがハンマーからインゴットへと伝わり、その通りの完成品が出来上がるのです。
つまりこの世界における鍛冶仕事とは、あらゆる工程を省き、魔法的要素によって完成するイメージ仕事ということになります。
色々な工程を経て完成する匠の技とか全く必要ありません。
必要なのは強固なイメージのみです。
なんだか今までの自分を否定されている気分になりますが、そこは世界の壁ということで桐羽も割り切ってしまいました。
今はイメージによる鍛冶仕事に少しでも慣れることを目標にしています。
「うっし。完成」
出来上がったのは『ミスリル鋼のロングソード』でした。
取りあえず剣っぽいものを創ってみようと思ったので、成功と言ってもいいでしょう。
手に取ってアイテムスペックを読み取ります。
鍛冶師の固有スキルとして、自らが完成させたアイテムのスペックを数値的に読み取ることが出来る、というものがあります。
ゲームみたいなスキルですが、まあ異世界ということで納得しておきましょう。
「おおう……」
まずは初仕事ということでスタンダードなロングソードを創ったつもりなのですが、やはり桐羽が手掛けると一味違ったものが出来上がるそうです。
耐久度や切れ味は通常のロングソードと変わりませんが……
「これはやっぱり、アレだよなぁ」
読み取ったスペックの中に、『装備者の筋力を二十パーセントアップ』というものがありました。
二十パーセントって………
筋力自慢の人が装備したらとんでもない威力になりますよね、これ。
完成品に対して何らかの特殊能力を付与することができる能力付与鍛冶師としての本領は、作業工程が大きく異なる異世界においても十二分に発揮されているようです。
「ま、いいか」
桐羽は完成させた『ミスリル鋼のロングソード』を鞘に収めてから一息つきます。
作業工程は違いますが、イメージが形状を決めるという新しい鍛冶方法にはちょっとした充実感がありました。
設備が充実していないこの環境でも、もしかしたら芽久琉の扱う銃なども再現できるかもしれません。
ハートレスの製作者である桐羽には、拳銃の構造は理解できていますので、あとはイメージをしっかりすればこの世界に銃を普及させることも可能かもしれません。
「うーん。しかし魔法要素の強い世界に銃を普及させるのってちょっと危険すぎるかもなー。やっぱり芽久琉の専用装備ってことにしとくか」
そこらじゅうでぱっきゅんぱっきゅんやられてはたまりません。
しかも新兵器ということで、あんまり目立つとどこかの国の軍部に目を付けられかねないという可能性もあります。
異世界に移住してまでやばげな組織には関わりたくありません。
平穏無事に美人のおっぱいを堪能しながら暮らしていきたいものです。
もちろん幼女のぺったんも素敵ですが。
「お兄ちゃ~ん。ごはん食べに行こうよ~」
正宗の声が聞こえてきたので桐羽は立ち上がりました。
「今行く」
水無月桐羽の鍛冶師ライフも順調に進んでいます。




