男の友情・幼女のじぇらしぃ
サイハテの街に戻ってきた我らがつるぺた同盟は、門番のお兄さんにすごく驚かれてしまいました。
まずは全く荷物を持っていないこと。
一体何のために荒野へ出向いたのかと突っ込まれそうです。
もちろん荷物の大半はゲートを通して桐羽のマンションに移動してあるのですが、そんなことを門番が知るはずもありませんしね。
次にまったくの無傷であること。
凶暴なモンスターが闊歩する荒野へ一週間も入っていたのだから、怪我の一つや二つはしているのが当然です。
しかし幼女ツインズもただ守られていただけの桐羽もかすり傷一つありません。
桐羽はただの見物であり、芽久琉は回復力があり、正宗は基本戦術がアウトレンジからの忍術や手裏剣だったから、というのが主な理由です。
「収穫は無かったみたいですね」
門番が慰めるように言ってくれますが、それこそ余計な心配です。
三人は収穫なしどころか大漁大漁~な気分ですから。
ギルドに行く前に宿をとろうということになったのですが、そこでまた一悶着ありました。
「いやだーっ! メイドがいい! メイドINNがいいんだーっ!」
前回と同じくメイドINNにチェックインしようとした桐羽と、
「ふざけんなー! あんな女だらけのところに泊まらせてたまるか!」
「そうだよそうだよ! メイドさんに浮気したら許さないんだからね~!」
そうはさせるかという幼女ツインズが真剣勝負で睨み合っています。
三者とも譲る気配は一切ありません。
浮気を許せない幼女ツインズと、手を出せない幼女ツインズよりも気軽に手を出せる女が恋しい桐羽お兄ちゃん。
どちらもしょうもない理由で対立しています。
ばちばちと火花が散っています。
暴力沙汰になったら間違いなく桐羽が不利ですが、桐羽を守る立場である芽久琉たちがこの程度の理由で護衛対象に暴力を振るうこともまあ有り得ませんし。
「あれ? 君達は前に露天風呂で会った……」
そんな拮抗状態をぶち壊してくれたありがたいKYキャラが登場しました。
「あ。あの時の」
「メイドマニアなお兄ちゃんだ~」
「その通りですけどね……」
その通りではあるのですが幼女にドストレートに言われるとちょっとダメージがあるのでした。
銀髪の美青年であり、メイドINN常連であり、メイドをこよなく愛するメイドマニア、アレクセイ・ミリアディナでした。
ちょうど今からお出かけのようです。
「アレクセイは今から出かけるのか?」
「ええ。ちょっと手持ちが厳しくなってきましたから。ギルドの依頼を受けに行ってきます。三日ほど混沌荒野で暴れて来るとしましょう」
そう言って腰に差した剣を軽く叩きました。
どうやらアレクセイは剣士のようです。
「そうなのか。僕たちはついさっき戻って来たところだ」
「そのメンバーで混沌荒野に出たんですか!?」
どう見ても戦闘タイプではない桐羽と、華奢な幼女ツインズを見ればそう言いたくなるのも分かります。
「うん。結構色々ゲットできた」
「じゃあ冒険者登録もしてるんだな。チームだろ?」
「うん。最近登録したんだよ~」
「……まさか『つるぺた同盟』?」
チーム名と三人の姿があまりにも一致するため、最近登録された残念なチーム名を思い出すアレクセイでした。
あれはしばらくギルドの話題になったようです。
いくらなんでもネーミングセンスが酷すぎる、と。
受付のお姉さんがお喋りタイプだったのであっという間に広がってしまいました。
「って、やっぱり嫌な感じで話題になってんじゃねえかよぉぉぉ!!」
「ある意味では名前が売れていいじゃんかがががが……」
残念な意味で広がっていると悟った芽久琉が、発端である桐羽の胸ぐらに飛びついてがくがくと揺らします。
いい感じに首が絞まっていてヘヴンまであと五秒、みたいな。
「ストップストップ。キリハさんが死んでしまうよ、お嬢さん」
「む」
桐羽の顔が青白くなってきたところでようやく芽久琉はその手を離してくれました。
「それにね、いい女は男の浮気に目くじらを立ててはいけない」
アレクセイが二人の幼女に諭すように言います。
丸め込もうとしています。
「どうしてさ?」
「浮気はやっぱり許せないよ~」
不満そうにアレクセイを見上げる幼女ツインズですが、アレクセイは幼女萌えではなくメイド萌えなのでびくともしません。
メイドさんから同じように睨まれたら土下座して謝ってしまうかもしれませんが。
「なるべくたくさんの女性と関係を持ちたいと思うのは男の本能だからさ。種付け然り。側室然り。この世界に一夫多妻制が推奨されているのも、その本能を神様が理解しているからさ。大人の女性はそのあたりを弁えているから浮気に対して目くじらを立てたりはしない。むしろ後ろ盾の大きな女性相手なら関係を持つことを勧めるぐらいだ。自分たちの力が増すからね」
「大人の世界は理解したくねー」
「一夫多妻制も初めて聞いたけどね。ジェネレーションギャップじゃなくてワールドギャップにここまでショックを受けるとは思わなかったよ~」
そっち関係の書物は読んでいなかったので認識の隔たりに愕然としてしまう二人でした。
「そう。本能なんだ! 男は一人の女に縛られるべきじゃない! よく言ってくれたアレクセイ!」
「なんの! 俺もよりどりみどりなメイドさんを見ていると誰に手を出そうか迷ってしまいますからね! キリハさんの気持ちは良く分かります!」
がしっと肩を組んで理解を深める男二人組は、きっとこれから熱い友情を育んでくれることでしょう。
「とまあそんな訳でいちいち浮気に目くじらを立てていたらこの先色々と困ることになるよ。それよりも浮気程度は許容してやって、自分達こそが本命! という意識を植え付けるのが大事じゃないかな? 少なくとも俺はそれこそがいい女の条件だと思っている」
「………………」
「………………」
不満そうに黙り込む幼女ツインズでした。
しかしこの世界に移住を考えている以上、この世界のルールには従わなければいけません。
つまり一夫多妻制を許容すること。
その上で自分たちを本命だと理解させること。
「というわけで今回も遠慮なくメイドINNを利用してください。そこの小さなレディ達も、メイドサービスぐらいは大目に見てやることだ。男にはたゆたゆおっぱいの癒しが必要なときがあるのだ!」
「あるのだ!」
力説するアレクセイに便乗して桐羽は拳を振り上げます。
振り上げた拳がもみもみハンドに変わっていたりもします。
揉む気満々ですね。
幼女二人にらぶらぶされてる癖に最低野郎です。
と言うわけで今回もメイドINNを利用することになりました。
アレクセイの助言に従ってメイドサービスを受けてデレデレする桐羽と、
「が、我慢……我慢……?」
「お兄ちゃんにBL的な復讐をしたい気分~……」
歯軋りしてそれに耐える幼女ツインズの姿があるのでした。




