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ご都合主義ばっかりです

 保存食や装備品、回復薬などを買い込んでから桐羽達はさっそく混沌荒野へと出向くことになりました。

 メイドINNの宿泊日数はまだ残っていますが、ここは涙を呑んで諦めましょう。六割は返金されるので、丸損というわけでもないですし。

 どのみち混沌荒野へ出向くのなら帰ってくる余裕もありませんし。

「あう~。メイドさ~ん」

 桐羽は未練がましくメイドINNを振り返ります。

『ご主人様』と呼ばれる快感に目覚めてしまったかもしれません。

「そんなにメイドさんがよかったの~?」

 正宗が不満そうに言います。

「そんなにメイドさんがよかったんだ。ご主人様って呼ばれたい……メイド服をひらひらさせてほしい」

「……ビョーキだな」

 芽久琉が容赦ない物言いで一刀両断してくれました。


 そんな未練を抱えつつも桐羽達は混沌荒野の入り口へと辿り着きました。

 そこは入り口と言える場所ではなく、どちらかというと出口と表現するべきかもしれません。

 何故ならミッシル王国南端にあるサイハテの街、その南門を抜けた場所こそがそのまま混沌荒野になっているからです。

 サイハテの街は混沌荒野を開拓するべく作られた拠点なのだと改めて理解できたところです。

 まあ開拓そのものは失敗したわけですが。

 場所の割には大きな街であり、冒険者ギルドも大規模な依頼を抱えていたりします。

 それは混沌荒野が傍にあるからこそと言えるかもしれません。

「ギルドのお姉さんに聞いたんだけど、素材アイテムの採取依頼は大体この街に集まるんだってさ」

「ほほう。ところでどうして『ギルドのお姉さん』なのか、そこを詳しく知りたいな。あそこには男性職員もたくさんいたと思うんだが」

 自分の知らないところで女性と仲良くされたという事実が芽久琉には面白くないようです。

「男に話しかけるよりは女に話しかける方が気分いいからに決まってるじゃないか」

「決まってるのかよ」

「ギルド職員の制服って胸元がエロくていいんだよな」

「………………」

 おっぱいの大きいお姉さんを思い出しているらしく、桐羽の顔が緩んでしまいます。

「めぐちゃん。この程度のことにいちいち目くじらを立てていたらお兄ちゃんとは付き合えないよ。どうどう~」

「分かってるけど。でも面白くない」

「わたしも面白くはないけどね~。でもある意味お兄ちゃんらしいとも思うし~」

「それもそうか……」

 混沌荒野の入り口には門番が立っていて、そこを抜けるには彼らの許可が必要になります。

 危険地帯ということでギルド登録を行った人間しか入ることが出来ません。

 お姉さんの勧めに従って登録したギルドカードを提示します。

「ふむ。三人とも冒険者か。チーム『つるぺた同盟』……?」

 芽久琉と正宗の年齢もそうですが、何より驚いたのはそのチーム名でした。

 桐羽命名ですが、やはり一般的には変態的な命名に感じてしまうようです。

 当然ですが。

「……まあいいか。通って良し」

 こいつら……とくにリーダーである桐羽のことを正真正銘の変態だと認識した上で、職業軍人としての理性を総動員してそれを言葉にすることなく、混沌荒野へと通してくれました。

「じゃあ行こうか幼女諸君」

「おう」

「れっつらご~」

 幼女ツインズと桐羽は混沌荒野へと突入するのでした。

 それを見送った門番は、

「………………」

 複雑な気分で色々と考え込んでしまいました。


 混沌荒野を歩く桐羽達はさっそくモンスターに遭遇していました。

 バジリスク三体です。

 調べたところによると、この一帯は竜属性のモンスターが生息しているようです。

 ドラゴンをそのまま小さくしたようなバジリスクは空中から襲いかかってきました。

「石化の魔眼が厄介だな。こっちは飛び道具があるから空を飛び回るのはそこまで問題じゃないけど」

「解毒アイテムは持ってきてるよな?」

「持ってきてるけど、まさかわざと受けるつもり?」

 石化解除のマジックアイテムはすでに購入済みです。

 万が一魔眼を受けてしまってもすぐに戻すことが出来ます。

「死ぬようなものじゃなきゃ一度ぐらいは受けておいた方がいい。それにあたしならアイテム要らずかもしれないだろ?」

「そりゃそうだけど」

 芽久琉は人間離れした戦闘能力の他に、もう一つの特殊能力があります。

「んじゃ正宗は牽制を頼むわ」

「りょーかい~。まっかせて~」

 まずは正宗が前に出ました。

 手裏剣やくないを使用するのではなく、今度は忍法です。

「忍法かまいたち~」

 両手で印を組んでから気の抜けた声で言います。

 すると風の刃が空を駆けるバジリスクの翼を容赦なく切り裂いていきました。

 種も仕掛けもありません。

 正真正銘の忍法です。

 別名にすると魔法とか超能力とかになるかもしれませんが。

 とにかくこれが正宗の特殊能力です。

「おっしゃ! おらおらおらー!」

 そしてトドメとばかりに芽久琉がぱっきゅんぱっきゅんハートレスを撃ちまくります。弾丸一発あたりのダメージはそこまで大きくありませんが、そこは数で補います。乱れ撃ちでダメージ蓄積ばっちりです。

「ギィヤアァァァァァッ!!」

 バジリスクは悲鳴を上げながら両目を光らせます。

 石化の魔眼が発動しました。

「くっ!」

 芽久琉は避けそうになるのを咄嗟に堪えてその光を受けました。

「うわっ! これは……きつい……」

 実際に身体そのものが石になるわけではなく、石のように動けなくなる、というものでした。

バジリスクはそんな芽久琉に襲いかかろうとします。重傷を負ったバジリスクは、芽久琉の血肉を喰らうことで回復を図ろうとしています。

「だがこれなら……!」

 バキンッという効果音と共に、芽久琉がその呪縛から解かれました。

 動けるようになった芽久琉はそのままバジリスクの心臓めがけてハートレスを撃ち込みます。

 バジリスクは驚きを隠せないまま絶命してしまいました。

 三体ともピンポイントで心臓を撃ち抜かれています。

「さっすがめぐちゃん!」

 芽久琉が心配でいつでも攻撃できるようにしていた正宗も、嬉しそうに抱きついてきました。

「わははは! あたしにかかればこんなもんよ!」

「すげえ回復力だな……」

 九世芽久琉が持つもう一つの特殊能力は『超回復』でした。

 どんな傷も基本的には治療を必要とせず、時間の経過と共に回復していきます。

 人間が持つ自然治癒能力を何倍にも高めた驚異的な賦活能力を持っているのです。

 人外の能力とも言えるこの力は、ご都合主義のごとくノーリスクハイリターンスキルです。

 代謝機能を高めることにより細胞の劣化を早送りにして急激に老けていくとかいう萎え萎えな設定はもちろんありません。

 どちらかというと吸血鬼のような能力に近いですね。

 でも太陽の光とかもばっちり浴びられます。

 今までは切り傷や銃創に対して強力なアドバンテージを誇っていましたが、石化の魔法にも同じように対処できることが判明しました。

 これは混沌荒野でモンスター討伐を続けていくにあたって非常に便利な能力と言えるでしょう。

 元の世界ではそんな芽久琉の能力を解析しようと、彼女を拉致しようとする組織が山ほど存在しました。

 まあ異世界に旅行中とは誰も思わないでしょうけど。

「まあどっかで人間じゃないものの血を引いていることは確かだろうなぁ」

 芽久琉はバジリスクを解体しながらそんなことを言います。

「両親は普通だったの~?」

 解体作業を手伝いながら正宗が問いかけてきました。

 バジリスクは眼球と鱗が素材アイテムとして利用できます。

「さあなぁ。あたしは哀れな捨て子だったから両親のことはよく知らないんだ」

「そうなんだ~」

「うん。気が付いたらなんか暗殺者っぽい組織にいて射撃訓練とかしてた」

「うわあ。さりげに重い過去だね。その組織はどうなったの~?」

「そこそこ腕に自信がついたあたりでぶっ潰した。回復能力がバレて解剖実験に回されそうだったからな」

「重い重い重い~」

 重過ぎます。

 といか酷すぎます。

「そこからはフリーランスであっちこっちから雇われたり狙われたりの繰り返しだな。キリともその過程で巡り会った」

「ロマンチックだね~」

「あたしの体格だとどうしても相性のいい銃っていうのが存在しないからな。オーダーメイドで腕のいいガンスミスを捜していたらキリにぶちあたったってわけだ」

「それでハートレスを創ってもらったんだね~」

「その通り。こいつは最高だ。威力も能力も申し分なし」

「だね~」

 雑談は続きます。

 その間にもバジリスクが解体されていき、傍目にはとってもえげつない光景になっています。

「うーん……」

 解体作業を見守る桐羽が頭を悩ませます。

「どうしたのお兄ちゃん~」

「いや、一つ失念していたことが……」

「うん?」

「素材アイテムを集めるのはいいけど、持ち運びをどうしようかなって……」

「あ~」

「う」

 依頼で討伐を行う場合は必要な分だけを採取して持ち帰ればそれでオッケーでした。しかし今回のように長期活動と大量採取を目的とした場合、持ち運びの問題が生じてしまいます。

 幼女二人はそれなりに力持ちさんですが、大荷物を持ったままだと行動に制限がかかってしまい、やはり調査がはかどりません。

 桐羽はもとより体力面は当てになりませんから論外です。

 となると素材アイテムの持ち運びの問題がどうしても浮き上がってくるのでした。

「馬車とか借りてくるべきだったかな」

「でも馬さんまで守るのはちょっとしんどいよ~。お兄ちゃんっていう足手まといもいるのに~」

「だよな~。お守りはキリだけで手一杯だ」

「言いたい放題だな」

 といっても自分が一番の足手まといであることは自覚しているので強くは言えない桐羽でした。

「あ、そうだ。あれは?」

「あれ?」

 芽久琉が桐羽の持っている『旅の鍵トラベルコード』を指さします。

「いつでもどこでも地球に戻れるご都合アイテム。そいつを使ってアイテムだけキリのマンションに移動させるってのはどうだ?」

「なるほど~。めぐちゃん頭いい~」

「言われてみれば確かに。マンションをアイテム倉庫にするっていうのはなかなかの名案だ」

「えっへん」

 ぺったん胸を張る芽久琉の胸をなでなでしながら桐羽はさっそく『旅の鍵トラベルコード』を発動させました。

「お兄ちゃん。そういう時は頭をなでようよ~」

「え? だって胸を突き出してくるからつい……」

「つい、じゃないから~」

 目の前で胸を張られたら通りすがりの美女の胸すら撫でてしまいそうな発言に危うさを感じてしまう正宗でした。

 そんな変態なところも大好きだと思うのですからこの幼女も大概病んでいますけどね。


 座標指定と空間固定を済ませて、一時的にこの場所と桐羽のマンションの部屋を繋げるゲートを作り出しました。

 芽久琉と正宗がひょいひょいと眼球と鱗を放り込んでいきます。

 バジリスクの眼球はアイオライト・ビーと同じく死亡時に石化しているので生ものとして腐敗する心配はありません。

 琥珀の瞳は先ほどまで凶悪な石化魔眼を放っていたとは思えないほど綺麗な色合いをしています。

 全ての素材アイテムを放り込んだことを確認して、桐羽はゲートを閉じます。

「しかしかなりご都合主義な異世界旅行になってるな。その気になれば野宿とかじゃなくてキリのマンションで毎日寝泊まり出来るんじゃねえ?」

 芽久琉が呆れながらぼやきます。

「出来るだろうけどそれじゃあ異世界に来た醍醐味がゼロだぞ」

「だな。野宿も慣れてるからあたしはそれでもいいけどさ」

「寝袋も三人一緒に寝られるようにおっきなものにしておいたしね~」

「そこは拘るよな……」

「そりゃもちろん」

「お兄ちゃんと一緒に寝るのはわたしたちの特権だからね~」

「いつの間にそんな特権が……」

 知らないうちに謎の特権が生まれたようです。

 とにかくそんな感じで荷物の心配が無くなった三人は観光気分で混沌荒野を巡るのでした。


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