悪魔と龍のファーストコンタクト
僕の名前は時峰山 次梨。
突然だが僕は悪魔だ。
ちょっと待ってくれ、その携帯電話はしまってくれ
別に中二病なわけじゃない。
本当に悪魔なのだ。
だから携帯電話はしまってくれ。
いや、悪魔というとそうでもないかもしれない。悪魔の力をもつ人間、悪魔に取りつかれた人間、そんな風に思ってくれたらいい。
おい、待て、だから携帯電話を取り出すんじゃい。
大丈夫、僕はいたって普通だ、どこもおかしくはない。
取り合えず聞いてくれ。
悪魔と言ってもアニメや漫画のように超能力をつかえるわけではない。
いや、使えるには使えるのだが派手なものではない。
人間に見えるはずのないもの、例えは幽霊なんかが見えたり、そういった類いのものにだったら発動する超能力があったり不老なだけだ。
不老といってもこの力は200年しか続かないらしいから実質人間より倍生きる程度のものだ。
さらに言うと不死ではないので病気や交通事故で死ぬこともある。
というか普通に死ぬ。
不老であって不死ではない。
そういった類いのものにだったら発動する超能力も派手なものではない。
ただ、身体能力があがり再生力があがるだけである。
再生力にいたっては吸血鬼やゾンビにくらべたら遅すぎるぐらいだ。
だから、携帯電話を取り出すなぁあああああ!
ゴホンッ
で、僕は現在18歳だ。
高校三年生で受験生だったりする。
でもまぁ学年が上がったばかりなので少し遠いかもしれない。
そして現在僕は一人公園で黄昏ていた。
「おい、そこの女、携帯電話を取り出すな!」
「あら、何でかしら?私は社会のために汚物を処理しようとしただけなのよ?いけない?い・け・な・い?」
訂正、二人だった。
ブランコに揺られながら視線をあげるとそこには僕の天敵がいた。
異ノ刃乃 霧民、その人だ。
彼女は僕の通っている学校の二年生で後輩にあたる人物であり人間でありながら僕が悪魔、いや、人間でないことを知っている。
悪魔だとはわかっていないらしい。
彼女は何だったかな……“思い込み”だとか“異能”を使えるらしく言葉で僕に命令してくる。
それに逆らうことが出来ず何回か無理矢理動かされたことも何回かある。
何でも“異能”は人間にはそこまで強制力はないのだが僕のような人間ではないものには効果覿面らしい。
まぁ…その“異能”対策として僕も必死で調べて覚えたけど。
「何のようだ異ノ刃乃」
ブランコから飛び降り異ノ刃乃に近づきブランコを囲う鉄の棒に腰をおろした。
異ノ刃乃はそれに対して三歩後ろに下がるとサラサラの長い髪を撫でてから滑るように上着のポケットに手を突っ込み
「だから携帯電話を取り出すなぁあああああ!」
携帯電話を取り出したのだった。
僕の悲痛な叫びをBGMに異ノ刃乃は笑みを浮かべ携帯電話を操作した。
ま、まさか…
僕の頬に冷や汗がたらりと流れる。
それは止まることなく僕の服に垂れ落ちた。
それと同時にポケットが震えた。
「『何で僕に電話をかけているんだ!』」
そして僕は立ち上がり自分の携帯電話をとりだし、通話相手、というか目の前の女に怒鳴った。
「『あら?間違えたわ、ごめんなさい、かけようと思った場所と時峰山先輩の名前が似てたから…………ところで時峰山先輩、時峰山次梨って卑猥な店みたいな名前だと思わない?』」
「『それは言うてことかいて卑猥な店に電話しようとしたのを暴露しているぞ!というか僕の名前は別に卑猥な店ぽい名前でもない!この妄想変態やろう!』」
「『やろうだなんて酷いわ時峰山先輩、私はただのつるつるの処女よ』」
「『何で下の状況を暴露する!?普通についてないわよ?程度で良いんだよ!詳しく言わなくて良いんだよ!』」
「『あら、こんな初な美少女後輩をつかまえて下ネタを言うなんて……破廉恥だわ』」
異ノ刃乃はそう言い携帯電話をとじるとポケットになおした。
そして異ノ刃乃は「あら、奇訪坂 巛里君だわ……良い機会だから引きずりこもうかしら」と言って公園のそばを歩いていた少年の上着のポケットから財布をスリしていた。
「何だったんだ…いったい…」
僕は携帯電話をしまうと再びブランコに座り直した。
そして目を閉じてこれからのことを考えた。
大学までならまだ誤魔化せるだろうが年を取るたびに誤魔化しは効かなくなるだろう。
なんせ不老だ。
年を取らないのだ、否、見た目が変わらないのだ。
それだけのことだがそれだけではすまないだろう。
はふーと肺から名一杯の息を吐き出し空を見上げた。
空はまるで僕の心を表したように雲が太よ……ない、だと。
拍子抜けだ。
いや、そこは覆い隠しておけよ、というか隠れていてくれ、恥ずかしいではないか。
それは置いといて
「携帯電話は取り出さなくて良いとさっきから言ってるだろうが!」
「?」
そこには異ノ刃乃の姿はなくただ首をかしげている白猫一匹がいるばかりであった。
いや、確かに誰もいるだなんて言ってないけどさ…
ノリ的にそろそろ挟まなきゃ…
あ、いや、現実にそれ求めても意味ないか
もう一度ため息をつくと僕は立ち上がった。
そして僕の腕が吹き飛んだ。
「ぐっ」
瞬間的に能力が発動して吹き飛んだ右腕を左手で掴んだ。それと同時にブランコの裏側を、能力によって模様が刻まれた黄金に輝く目で睨んだ。
中二だから能力は使いたくなかったし、使わざるおえない事態にも出来るだけ出会したくなかったんだがな…
というか使う使わない使える使えない関係なくゲームで言うパッシブスキルにあたるため、操作できない。
右腕を肩につけながら声をあげた。
「何のようだ」
すると一陣の風が巻き起こり一人の青年がたっていた。
「どうも、オレ、鎌鼬です」
「…残座座か」
残座座 田羅。
俺と同じ類いの元人間でかなり珍しい戦闘に特化されているもの、ということで有名だ。
有名と言ってもこちらの事情を知っているものの間でだけどな。
ていうか、僕は何回もあってたりした。
僕が悪魔なら彼は鎌鼬だ。
風を操ることが出来る能力。
しかしそれはさきほどの風を起こすようなことは出来ない。
何故できるか?
それは“思い込み”“異能”によって可能にしていた。
そしてこいつは出会うたびに腕を切り落としたり足を切り落としたりする悪趣味なやつである。
しかしまぁそれ以外はしてこないので良しとしよう、いや、よくない。
まぁそれは置いておこう。
「ところで、残座座」
「ん?何だ?」
「誘拐は良くないぞ……………………………………突っ込めよ!」
せっかく携帯電話を取り出したと言うのに!
なんてことだ!
「まー聞けや、こいつはオレ達と同じ類いのもんだ。名前は切逹 柚零」
「この子、が?」
残座座の隣には小学生低学年ぐらいのマスクをつけた金髪蒼眼の少女がいたのだ。
はっきり言うともはやロリの極めである。
しかしフードから覗く金色の髪は薄汚れていた。
きゅっと残座座の服の袖を握りしめ不安そうに僕を眺めていた。
「あぁ、龍だ」
「龍って…あの龍か?」
「そ、所詮ドラゴンと呼ばれるものだ。そこでテララギくん」
「名前がカスッていない上にそれは吸血鬼につかうネタだ!」
「失礼、噛みました」
「やめろ!何がとはあえて言わないが即刻にやめろぉ!」
「カニカマボコ」
「やるなら最後まで言えよ!カニカマボコって何だよ!確かに響きは似て……似てないよ!もう正直にカミマミタとか言えよ!何がとは言わないが!」
「ザララギくん、パクりは良くないよ?」
「また名前が違うし!というか、そもそも、お前が言うなぁあああああああ!」
ハァ…ハァ…ホントこいつは疲れる。
僕は残座座の方へ向かいブランコの囲いに腰をおろした。
さりげなくさきほどやっと引っ付いた右手で携帯電話を開き時間を確認しつつ言った
「で、何でその龍を残座座がつれてるんだよ?やっぱ誘拐か?」
「酷いなオレはそんなことしないよ、ごみ捨て場に捨てられていたのさ」
「ごみ捨て場……だって?」
僕は偽善を貫くきはないがこれは……偽善うんぬんではなくなんというか……無性に虚しくなった。
今は残座座に与えられたであろう全身が隠れるようなフード付の服を着ているが髪や肌は薄汚れたままだった。
フードとマスクで良くみえないがうっすらと赤い鱗の模様のようなもの首から頬にかけて刻まれていた。
龍の鱗だろう。
「ということでこの子預かってくれるかい?」
「どういうことでだよ!」
「え?時峰山くんロリコンじゃなかったっけ?」
「ちげーよ!そして理由になってない!ちゃんの説明しろ!」
「おっと、悪いね時峰山くん、オレは忙しいから行くね」
残座座は上着から判子と手帳のようなものというか通帳を僕に投げ渡した。
「生活費はそこに振り込んであるから。大丈夫、毎月振り込むよ。それじゃ時峰山くんまたね」
残座座はそれだけ言うと少女を僕の方に風で誘導し消えた。
取り残された少女は残座座の消えた場所へ走っていきそこをじっと眺めていた。
そしてその小さな目に涙をためた
「……すて…ない、で…………」
心が傷んだ。
でも僕はこんなときの対処法を知らない。
僕は何も出来ずただその場で彼女を見守ることしか出来なかった。
「って言うのはどうでしょう?」
「知るかぁ!」
捕捉だが「……すて…ない、で…………」からこの少女の一人言である。
いきなり僕の方へやってきて長々と一人言を言った後「って言うのはどうでしょう?」だ。
意味がわからん。
捨てられたと言っていたので心配したが大丈夫みたいだ。
もしかしたら演技かも知れないがそれはないだろう。
なんとなくそう思う。
これが時峰山次梨と切逹柚零のファーストコンタクトである。




