表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

招待状

 


 深夜に開かれる奇妙な晩餐。晩餐の参加者は、この世に存在する事の無い人間。いわゆる、『死者』である。晩餐は明け方まで、続いて行く。

 この奇妙な晩餐を、人々は『死者の晩餐』と言う。しかし、この晩餐の様子を知る者は、誰一人としていない。もっとも、『この世に存在する者の中』での話であるが。

 そして死者達は、共に晩餐が出来る仲間を探し、人々に招待状を送り続ける――……


 四角い白縁の窓から、朝日は容赦無く私の部屋を照りつける。光は、鏡台の上に仰向けで置かれている、黒い手鏡に反射し、天井に丸い模様を描いていた。

 鏡台の隣にある、ベッドに横たわっている私は、そんな光の眩しさに目を細めながら、体を起こす。

 相変わらず、ショートヘアーの私の髪には、頑固な寝グセがいていた。

最早、直す気にもなれない私は、小さくため息をつき、立ち上がる。床の冷たさが、素足を通して私に伝わってきた。 私はこの冷たさが、たまらなく好きである。寝ぼけた私に、刺激を与え、すっきりとした気分にさせてくれるからだ。そんなことを思いながら、私は家族の待つリビングへと、足を運んで行った。

 「おはよう、菜々美」

 降りていくと、母親が、私に語りかけてくれる。私はいつものように『おはよう』と笑顔で返した。いつもと変わらない日常に、私は幸せを感じる。そのため自然と、顔には笑みが浮かんできた。

 リビングにあるテーブルには、いつものように目玉焼きと、トーストが乗っている。オレンジ色のカーテンは、まだ開けられておらず、カーテンの隙間から光が漏れていた。

 そのため、今この部屋は、電気で照らされている。きっと、朝日が眩しかったのだろう。

 「今日も、学校でしょ? もう高2なんだから、そろそろ勉強も頑張りなさいよ?」

 母は、大きくため息をつき、前回のテストで、赤点をとってきた私に強く言う。私は苦笑いをして、その場を誤魔化した。 

 「全く……それより、あんたに手紙が来てたわよ? 誰からかしら?」

 そう言って、母は、真っ白い封筒に『横山 菜々美様』とだけ書かれている手紙を私に渡した。シンプルすぎるこの手紙には、住所も、切手も、何も書かれていない。ただ、私の名前だけが、記入されていたのだ。

 「何? これ」

 「ラブレターだったりしてね」

 眉を顰める私に、母はからかう様に、こんな言葉を吐いた。

 私は、『そんな訳ないでしょ?』と、母を怒鳴りつけながらも、内心、少しは期待していたのか、胸が高鳴る。少しの不安と、興味の中、私は白い封筒の封を開けた。

 『横山菜々美様、今週の火曜日に開催される、晩餐会に参加しては頂けないでしょうか? 場所は、ブリネットです。では、お待ちしております。晩餐会にお越し下さる際は、必ず、お帽子を被って来てください。帽子が無い場合は、あなたが危険にさらされます』


 「何……これ」

 私は、手紙を睨みつけながら、母親に問う。

 「完璧なイタズラね。童話じゃあるまいし」


 母は飽きれた様にため息をつき、ラブレターでなかったのが、相当ショックだったのか、暗い雰囲気を感じさせながら、キッチンへと足を運んだ。

 「童話? それより、お父さんはどうしたの?」

 私は、キッチンに届くよう、大声で母親に喋り掛ける。 

 「昔、母さんが小さかった頃『死者の晩餐』って絵本があったの。その話と似てたのよ。それとお父さんは、昨日から出張よ」

 母もまた、大声で返答してくれた。

 私は小さく『なんだ』と呟き、寝グセを直すため、洗面所へと向かい、手紙をゴミ箱の中へと押し込んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ