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ご主人様と猫。

ご主人様と猫。‐猫とティータイム‐

作者: 鍵屋

※ 王道でべたなため、似たような話があるかもです。その際はこっそり教えてくださると幸いです。

 吾輩は猫である、名前はまだない。


 おそらく日本で一番有名な猫といえば、夏目漱石のこの猫だと思われます。

 それともテレビで話題なアイドル猫でしょうか。駅長猫までいるというし、活字を読まない人が増えてるって話だし。


 どうしてそんなことを考えてるかというと、一応は猫であるアタシとしましては、ほんのちょっぴし気になるのです。

 現実逃避ではないと、念のため申し上げておきます。

 信じてはもらえないとわかってますし、自分でも無理があるなと思いますが。一応。



「みー、こっちに来い」



 ご主人様の仕事部屋に置かれたふかっふかのソファー。そこがアタシの定位置なのですが、呼ばれれば仕方なくご主人様のところにアタシは行くのです。

 一宿一飯の恩義というやつです。

 ……既に一週間は世話になってるだろというツッコミは不要です。



 近くまで来たアタシの不満だだ漏れな顔を見て満足そうに素晴らしい笑みを浮かべられたご主人様は、ぽんぽんと自らの膝を叩かれます。

 これはアタシに、ここに乗れと、そうおっしゃりたいのでございますね。

 丁重に辞退申し上げたいところですが、拒否したなら無理矢理に路線変更することが分かってるので、素直にそれに従います。

 屈辱です。



「猫は寝子から転じたともいうが、お前は本当に良く寝るな。俺が呼ばなきゃずっと寝ている」



 膝の上に乗せたアタシの頭を撫でながら、ご主人様は愉快そうに言われます。


 それにアタシはぷいとそっぽを向きます。ヒトをからかうようなこのご主人様の視線は嫌いなのです。

 だって、眠いものは仕方ないのです。それをどうこう言われても困るのです。



「若様、失礼いたします」



 そこにドアをノックする音が響いて、ご主人様の返事の後、いつものように音もなく男の人が入ってきます。

 スーツではない黒の上下に身を包んだ、綺麗に髪を撫でつけた銀縁眼鏡のおにーさんです。確か、乾さんとおっしゃる執事さん……いえ、家令さんだそうです。

 執事と思ったとたん、考えが筒抜けだったかのように睨まれました。

 恐ろしいです。

 きっと超能力か何かお持ちなんですよ。

 ご主人様の欲しいものをどこからともなく差し出したり、気配もさせずに移動されてたりしますから。



「本日はダージリンの良い葉が手に入りましたのでそちらと、シェリテのフルーツタルト。お嬢様にはご指示通りミルクをお持ちしました」



 部屋には立派な応接セットがある(もちろんアタシの寝床となっているソファーとは別!)にもかかわらず、乾さんはそれらを執務机に並べていきます。

 あっという間に紙で埋め尽くされていた机には十分なスペースが作られ、そこに並べられていきます。

 これもきっと、超能力のなせる技ですね。


 それを感嘆することにして、アタシに向けられたらしい憐れみの視線は無視します。スルーです。

 これから行われるだろうお茶の光景は、一週間経っても慣れないくらい、アタシの精神衛生上とてもよろしくないのです。



「さあ、みー。ミルクを飲ませてあげよう」



 にやりと笑ったご主人様は、ミルクの入った平皿をアタシの前に突き出します。

 ううっ、ミルクは大好きなのです。

 なのですが、これはいかがなものかと思うのです!


 羞恥にプライド、恩義におしおき。心の天秤がぐらぐら揺れます。


 せめてお皿を机に置いて欲しいと、上目うわめでご主人様を見上げます。

 が、ご主人様はにこやかに微笑まれたまま。



「どうした、みー?」



 初日のおしおきが脳裏に浮かびます。

 ……も一度アレをやられると思えば、この程度っ! 女は度胸、なのです!


 アタシは意を決してお皿に顔を寄せ、ミルクに舌をのばします。



 ぴちゃ、ぴちゃ。



 アタシがミルクを舐める音が、やけに耳に障ります。

 顔は真っ赤になってることでしょうか。

 それでも農場から特別に運ばせているというミルクはとってもおいしいのです。スーパーのパック牛乳とは訳が違うのです。この状況でも味の違いがわかるほどに。


 うーうーうー。


 色々なものと格闘しながら、それでもこの時間を一分一秒でも短くしようと、ミルクと格闘します。

 最後のひと舐めをし、文句あるかとばかりにご主人様を睨みつけます。



「……こんなに顔を汚して」



 仕方ない子だ。


 ご主人様はそう言われたかと思うと、何をとち狂ったのか、アタシの唇を! 乙女の汚れなき神聖な場所を! その無駄に形のよい唇で吸いやがったのです!


 思わず後ろに下がったせいで、後転するような格好で椅子から落ちたのは、今は問題にするところじゃありません!

 それよりも問題にするところがあるのです!



「みー、裾がめくれて脚が丸見えだ。

 もしかして誘ってる?」


「誰が誘うかっ! この変態っ!」



 アタシの空のように広い心でも、無理矢理ファーストキスを奪われた恨みは晴れることはないのです。更にこんな形でキスまでされれば!

 怒鳴って、寝床であるソファーに向かいます。


 くつくつと、ご主人様の笑い声が聞こえます。

 振り返る気力すらありません。にやにやと、変態な笑みを浮かべているに違いないんですから!



「みー、シェリテのフルーツタルトは?」



 ……む、無視です、無視!

 食べたいなどと考えてはいけないのです!



「乾、みーの分は夕食のデザートに出してあげて」


「かしこまりまして」



 さっきちらりと見た美味しそうなフルーツタルトを思い浮かべながら、アタシは眠りにつくのです。

 聞こえたご主人様と乾さんの会話が、ほんのちょっと嬉しかったのは……内緒です。

思い立って勢いで書いたので色々アレかと思いますが、いかがでしょうか?

みー目線のため糖度低めですが、きっと甘ったるい雰囲気満載なはずです。



以下、作品に関する補足。


猫ちゃんの本名は、金子美衣かねこ みい。小柄でちょっとつり目な女子高生です。友人からは「ネコ」や「みー」と呼ばれてます。

一見すると無口で大人しく見えますが、その実は心の中で罵倒しまくりという。


因みに御主人様は、名無し。予定では高校生か大学生という、金持ちの坊ちゃん。お屋敷(もしくは、マンション)に家令(自称)と、家政婦のおばちゃん料理人のおじちゃん夫妻と暮らしている。


……王道ですね。

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