1話 出向命令とか聞いてない
「ミロー!魔神から呼び出しくらったー!お前もだって!」
広大な虚空に浮かぶ黒曜石の回廊に、俺の声が響いた。
振り向いた銀髪の魔人が、露骨に嫌そうな顔をする。
「え、ゼル今度は何をやらかしたの」
「何もやってないっての!え、なんかやらかした事ある?」
「自覚ないのが一番怖いんだけど」
失礼だな。
俺は胸を張る。
「前回の文明崩壊案件だって、あれは自然淘汰の加速っていうか」
「七割も燃えたよね」
「七割“しか”だろ」
ミロは溜息をついた。
「とりあえず行こうか。待たせると面倒だし」
「だよなぁ……怒られなきゃいいけど」
俺たちは空間を裂き、魔神の領域へと転移した。
⸻
巨大な玉座。
星々を飲み込む闇の中心に、それはあった。
玉座に座るのは、我らが上司。
魔神――
……外見はどう見ても、ふわふわした少女だった。
「来たわねー、ルクシオン級のふたり」
ゆるい声。
しかし背後で銀河が渦巻いている。
「ゼルフィアード=ルクシオン=ガルディアです」
「ミロセフィル=ルクシオン=ラディアスです」
形式上は名乗る。形式上は。
「堅い堅い。ゼルとミロでいいわよ」
魔神は足をぶらぶらさせながら言った。
「今日呼んだのはねー、仕事の依頼をしたかったからなの」
ほっ、怒られるわけじゃなさそうでよかった。
「こないだのお茶会でねー、地球の神のガイアちゃんにお願いされたの」
「……地球?」
「うん。“そろそろうちもファンタジー導入したいから協力して”って」
嫌な予感がする。
「だからあんたたち、地球行ってお手伝いよろ」
「「はあっ!?」」
声が揃った。
「出向!?」
「なんで俺ら!?」
「だってルクシオン級でしょ。創造と観測の実務担当じゃない」
「いやまあ、そうだけど……」
ミロが冷静に聞く。
「期間は?」
「未定」
「規模は?」
「惑星単位」
「責任は?」
「もちろん全部あんたたち」
「「地雷案件!!」」
魔神はにこにこしている。
「ガイアちゃん可愛いのよ?ちゃんと仲良くしてきなさいね」
その瞬間、空間がわずかに軋んだ。
……あ、絶対断れないやつだ、これ。
――――
「あー。着いちゃったね、地球」
「……空気、軽くね?」
「うん、重力が優しいね」
人間の姿に擬態した俺たちは、都市の路地に立っていた。
車が走り、信号が光り、ビルが空に伸びる。
「文明、けっこー成熟してるなぁ」
「魔力はほぼゼロだけどね」
「それを俺らが入れるんだろ?」
「そういう案件なんだよね」
ふたり揃って溜息をはく。
俺はコンビニのガラスに映る自分を見る。
黒髪、黒目、普通の青年。
「似合う?」
「チャラい」
「それ褒め言葉?」
「知らない」
――――
三時間後。
「……これ、うまくない?」
「ラーメンって言うらしいよ」
湯気立つ丼。
俺はスープを飲み干す。
「地球やばいな。これエネルギー源にできるだろ」
「それはやめて」
「“メロい”ってこういうこと?」
「多分違う」
ミロがスマホをいじる。
「言語取得は完了。スラングも入れといた」
「マジ?じゃあ使ってみよ」
俺は腕を組む。
「地球ってさ……エモいよな」
「そうだね」
妙に自然に馴染んでいる、気がする。
「俺らどっちかって言うと侵略者側だよな?」
「出向社員だけどね」
――――
「で、どうする?」
夜景を見下ろしながら、ミロが聞く。
「んー、ダンジョンでも創るか?」
「あぁ、有りかもしれないね」
最近地球では、現実世界にダンジョンが発生する創作物が流行っているようだし、受け入れられやすいだろう。
「ダンジョンって言っても、ただ出すだけじゃ面白くない」
「観測も必要だしね」
「せっかくだからさ」
俺はニヤリと笑う。
「配信しね?」
「……は?」
「だって地球、配信文化すごいぞ?ゲーム実況、雑談、炎上、バズ」
「それとダンジョンがどう繋がるの」
「裏側見せるんだよ。運営視点。あとダンジョン配信させてみたい」
ミロが少し考える。
「ネタバレは?」
「しない。エンタメだろ?」
「観測効率は上がるかもね」
「だろ?」
俺は夜空を見上げた。
「地球ファンタジー化計画。どうせやるなら、最高に盛り上げてやろうぜ」
ミロが小さく笑う。
「……ゼル、楽しんでるでしょ」
「バレた?」
「うん」
「そうと決まったら、まずはシステム構築とダンジョン創造作業だね」
「そーだな、やるかー!楽しくなってきたかも」




