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12話 九死一生か


 視聴者数が十万を超えた画面の中で、悠太は次のゴブリンと向き合っていた。


 さっきの二匹組の後遺症で、脇腹がじんじんと痛んでいる。それでも構えは崩れない。足は止まらない。


 ゴブリンが飛びかかる。

 悠太は横に流れ、短剣を叩き込んだ。

 一撃。二撃。


【ゴブリンを倒しました】


「だいぶ安定してきたな」


 ゼルがポテチを摘む。


「うん。無駄な動きが減ってる。さっきの二匹組のあと、視野が変わった。壁も天井も、全部見てる」

「やられながら学んでんだな」

「それが一番早いんだよね、人間は」


《安定してきた》

《HP68か》

《ポーション飲まないのか》

《名前まだわからんの》


 悠太が魔石を拾い、立ち上がる。その動作が、最初の頃とは全然違う。恐る恐るではなく、当たり前のように。


「慣れてきてるな」

「うん。でも——」


 ミロが通路の奥に視線を向ける。


「次が来るよ」

「ん?」


 ゼルが画面を覗き込む。


 松明の光が届かない、深い影の中。

 影が動いた。

 人の形をしている。でも、立ち方が違う。剣の持ち方が、様になっている。


「……おい」

「うん」

「あれ、普通のゴブリンじゃないな」


 ミロがステータスを展開する。


――――

【ゴブリン・古参兵】

 HP:95

 STR:16

 DEX:15

 AGI:14

 スキル:短剣術Lv1、連撃Lv1

――――


「古参兵か。こいつ、どこで設計したっけ」

「フロア1の隠し配置枠。ランダムで一体だけ出現する個体だよ。めったに出ない」

「LUKが引いたか」

「うん」


 ゼルは画面を見つめる。


「悠太のSTRは10。向こうは16。火力差があるな」

「スキルも持ってる。連撃Lv1は厄介だよ。一度踏み込まれたら手数が増える」

「勝てるか?」


 ミロは少し考えてから答えた。


「LUK次第だね」


《なんか雰囲気違うゴブリンじゃん》

《強そう》

《HP大丈夫か》

《頑張れ》


 画面の中。

 悠太は足を止めていた。


 今日倒してきたゴブリンたちとは、何かが違う。

 立ち方が違う。剣の持ち方が、様になっている。

 赤い目が、悠太を見る。


 そいつは急がなかった。

 じりじりと、間合いを測るように近づいてくる。


 悠太も動かない。先に動いた方が不利な気がした。


 ゴブリンが剣を構えた。

 そして、踏み込んできた。


 速い。


 反射的に後ろへ跳ぶ。刃が、目の前の空気を薙ぐ。風圧が頬を叩いた。


【現在HP 68→68】


 当たっていない。

 でもあと十センチ前にいたら、腹を真横に斬られていた。


 心臓が跳ねる。


 ゴブリンが追ってくる。間を置かない。


 二撃目。横に跳んで躱す。刃が肩口を掠める。


【HP 68→61】


 七削られた。掠めただけでこれか。

 直撃したら、一撃でかなり持っていかれる。


 踏み込む隙がない。リーチが長い。懐に入る前に斬られる。

 どうする。


――――


 ゼルが前のめりになる。


「反応は悪くない。でも手が出せてないな」

「リーチ差を意識してる。慎重なのは正解だよ」

「でも守ってるだけじゃ削られ続ける」


《避けてる避けてる》

《毎回ギリギリすぎる》

《LUK働いてる?》

《踏み込めないのか》


「視聴者も気づき始めたな」

「うん。さっきから毎回、致命傷になりかねない軌道がわずかにずれてる」


 ミロがデータを拡大する。


「本人は気づいてないだろうけど、斬撃が当たる瞬間に不自然な回避が入ってる。LUKの補正だね」

「意識してないのに体が動いてるのか」

「そういうもんだよ、LUKって」


 ゼルはコーラを置く。


「でもHPが削られ続けてる。どこかで攻めないと——」

「踏み込むよ、たぶんもうすぐ」

「何で分かるんだ」

「ずっと観てたから」


――――


 ゴブリンが三撃目を振りかぶる。


 俺は壁に背をつけた。

 振り下ろし。左に跳ぶ。刃が、俺の右腕の袖を裂いた。


【HP 61→55】


 また掠めた。


 毎回、あと少しのところで致命傷にならない。

 でも削られ続けている。


 攻めなきゃいけない。


 ゴブリンの動きを思い返す。

 踏み込みが速い。でも、踏み込む前に必ず重心が前に移る。


 そこだ。

 重心が移った瞬間、斜めに躱しながら懐に入る。


 ゴブリンが動いた。

 重心が前へ。

 今だ。


 正面ではなく、斜め。刃が空を切る。懐に入った。

 短剣を脇腹へ叩き込む。


 ゴブリンの呻き声。


 だが終わらない。

 ゴブリンの肘が俺の顔面に叩き込まれた。


「ぐっ……!」


【HP 55→34】


 二十一削られた。視界が揺れる。


 でも足は動く。後ろへ跳んで距離を取る。


 鼻から血が出ている。

 ゴブリンも傷ついている。動きが少し鈍くなった。


 もう一回、同じことをやる。


――――


「顔面もらったな」


 ゼルが呻く。


「でも懐に入った。ダメージは通ってる」

「HP34か。最大の四分の一を切ってる」


《顔面!!》

《大丈夫か》

《HP34!?》

《でも当てた!》

《ポーション!!飲んで!!》


「視聴者がポーションで騒いでる」

「飲まないね、まだ」

「なんで言い切れるんだよ」

「だって悠太だから」


 ゼルは苦笑した。


「お前、いつからそんなにこいつのこと分かるようになったんだ」

「ずっと観てたから」


 同じ答えが返ってきた。


――――


 ゴブリンが踏み込んでくる。

 重心が前へ移る瞬間。


 斜めに踏み込む。刃が袖を裂く。


【HP 34→27】


 また掠めた。でも悠太の短剣が深く入った。


 ゴブリンの膝が折れる。倒れかけている。


 悠太は体重を乗せて、短剣を叩き込んだ。

 最後の一撃。


 だがその瞬間、ゴブリンが最後の力を振り絞った。

 剣が閃く。


 避けられない、と思った。


 でも体が、勝手に半歩だけ後ろへ引いた。


 刃が、腹を薄く裂く。


【現在HP 27→19】

【ゴブリンを倒しました】


 ゴブリンが光の粒になった。


 悠太はその場に両膝をついた。

 荒い呼吸が、石の壁に響く。


 HP19。最大133。

 十四パーセント。


 ポーションを取り出す。今度は迷わなかった。


 栓を抜いて、一気に飲み干す。

 温かいものが喉を通る。


【HP回復 +50】

【HP 19→69】


 息を吐く。


 そのとき。

 視界の端に、ウィンドウが二つ同時に浮かんだ。


【称号を獲得しました】

【称号:九死一生の体現者】


【レベルアップ 3→4】

【上昇ステータス】

 VIT +1

 AGI +1

 LUK +1

【最大HP】133→151


 ……さっきの最後の一撃。あれで称号が手に入ったのか?


 アパートの廊下。路地裏。二匹組。そして今。

 毎回、もう少しズレていたら死んでいた。


 LUK29のおかげなのか、わからない。


 でもこの称号が証明している。

 俺はここまで、ずっとギリギリで生き延びてきた。


 立ち上がり、魔石を拾う。

 ポーションの空き瓶が、ポケットの中で軽くなっていた。


 前を向く。


 通路の先に、扉があった。

 石造りの重い扉。縁に沿って、青白い光が走っている。


 扉に手をかける。押す。軋む音がして、扉が開いた。


 その先は、広い空間だった。


 中央に、大きな影。

 さっきの古参兵とは、比べ物にならない威圧感。

 赤い目が、俺を見た。


――――


「称号とレベルアップ、同時に出たな」


 ゼルが身を乗り出す。


「最後の半歩、見たか」

「見てた」


 ミロが静かに言う。


「短時間に複数回、致命的危機を回避した者に贈られる称号だったか?たしか......効果はHP15%以下で回避+20%だよな」

「うん。HP15%を切った瞬間に称号が付与されて、回避補正が入った。ぴったりのタイミングだったね」

「LUK29が、最後の最後で働いたか」

「うん」


《称号!!》

《レベルアップも!》

《九死一生の体現者かっこいい》

《ボス前で取るのずるい》

《名前教えてくれたのむ》

《ポーション美味しかった?》


「みんな名前気になってるな」


 ゼルがコメントを見て笑う。


「ゼル、ボスのステータス確認しておく?」

「出して」


――――

【ゴブリンリーダー】

 HP:180

 STR:20

 DEX:16

 AGI:17

 スキル:短剣術Lv2、威圧Lv1

――――


「日本のフロア1ボスにしては少し強めにしてあるんだっけか?」

「うん。初期に設定した個体だから」


 ゼルは画面を見つめる。


 扉の向こうで、悠太がボスと向き合っている。

 

「STR20か。悠太の倍だな」

「称号の回避補正がどこまで機能するか、だね」

「HP15%以下、つまり22以下になったら回避+20%か」

「そこまで追い詰められたら、の話だけど」


 ゼルが立ち上がる。


「なあミロ」

「なに」

「そこまで追い詰められると思う?」


 ミロは少し考えてから、静かに答えた。


「うん」


 ゼルは笑った。


「だよな」


《ボスじゃん》

《HP180!?》

《勝てるの?》

《名前教えてくれたのむ》


 視聴者数が二十万を超えていた。


「さあ」


 ゼルがソファに腰を落とす。


「ボス戦だ」


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