タイトル未定2026/02/25 14:41
傷が治った翌日から、俺は母さんに魔法について尋ねるようになった。
「母さん、さっきの光はどうやって出しているの?」
俺の問いに、母のセリアは目を丸くして笑った。
「まあ、ウィル。もう魔法に興味があるの? 魔法はね、体の中にある『魔力』を感じて、それを言葉(詠唱)やイメージで形にするのよ」
母さんの説明によれば、この世界の人間には多かれ少なかれ魔力が宿っているらしい。
俺は早速、自室でベッドに座り、目を閉じて集中してみる。
前世で読み耽った小説の知識を総動員する。血管の中を流れる熱い何かを、心臓の鼓動に合わせて手足の先まで巡らせるイメージだ。
(……これか?)
腹の底から、じんわりと熱い塊が動く感覚があった。
それを手のひらに集め、ごく小さな「光」をイメージしてみる。
「……灯」
ポッ、と。
指先に、豆電球ほどの小さな光が灯った。
「……できた」
思わず声が漏れる。前世ではどれほど願っても手に入らなかった「本物の奇跡」が、今、俺の指先にある。
だが、その瞬間、急激な立ちくらみが俺を襲った。
「くっ……」
どうやら3歳の体には、魔力を練るだけでも相当な負担らしい。
女神からもらった「時の能力」も、この魔力の総量が足りないから発動が不安定なのだろう。まずはこの「器」を大きくする必要がある。
魔法の基礎を学んだ次は、剣だ。
俺は中庭へ向かい、鍛錬を終えたばかりの父、カイルに声をかけた。
「父さん、僕にも剣を教えて」
カイルは驚いたように眉を上げたが、すぐに豪快に笑って俺の頭を撫でた。
「はっはっは! まだ3歳だぞ? この家の剣術は厳しいんだ。いいか、ウィル。剣はただ振るものじゃない。己の命を預け、誰かの命を守るための鉄の塊だ」
父さんが差し出した木剣を握ろうとしたが、驚くほど重い。両手で持っても、地面を引きずってしまう。
「まずは、その木剣を持って庭を10周してみろ。それができたら、基本の構えを教えてやる」
父さんは冗談めかして言ったが、俺は本気だった。
一歩、また一歩。重い木剣を抱え、泥にまみれながら歩く。
前世の俺なら、1周もせずに投げ出していたはずだ。
だが今は違う。女神から託された未来、そしてこの温かい両親を守る力が欲しい。
(……疲れた。足が動かない)
5周目。心臓が破けそうなほど激しく打つ。
その時、またあの感覚がした。
心臓の奥にある黄金の歯車が、一瞬だけ**「カチリ」**と震える。
(今だ……!)
無意識に、一歩踏み出すその一瞬だけを意識した。
すると、身体が羽のように軽くなり、気づけば数メートル先まで「滑るように」移動していた。
「え……?」
見ていた父さんが、目を見開いて固まっている。
「ウィル、お前……今、どうやって動いた?」
「えっと……必死に歩いただけだよ?」
俺はとぼけたが、父さんの目は鋭かった。
能力はまだ使えないと思っていた。だが、極限まで自分を追い込んだ時、この「時間」の力は勝手に漏れ出すらしい。
その日の夜、泥のように眠りにつきながら、俺は今日の収穫を整理していた。
魔法には「魔力」と「イメージ」が必要。
俺の魔力総量は、まだ赤ん坊に毛が生えた程度。
剣を振る体力が圧倒的に足りない。
「時の能力」は、身体能力を限界まで使うと不意に発動することがある。
(焦る必要はない。時間はたっぷりあるんだ……文字通り、俺が操れるようになる『時間』がな)
俺は暗闇の中で、静かに口角を上げた。
魔法の理論を学び、身体を鍛え、いつかあの「加速」を自在に操れるようになった時。
俺は、この世界で最強の守護者になれるはずだ。
窓から差し込む月光は、前世で見たどの月よりも、青く、美しく輝いていた。




