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第参話 花姫たち、研を競う

 一方、当事者の精霊帝はというと……


 臆する事なく名乗り出た妙蓮を約束通り唯一無二の妻として迎え入れようとしていた。


 いい加減、側近たちからは「そろそろお世継ぎを」だ事の、顔を見れば「陛下、我が娘は妻に似て美しく育ちまして。見かけだけではなくなかなかに才能もにも恵まれまして……」等など、ほとほと辟易していた。


 元来、()()()()()()()()なのか恋愛ごと、まして結婚という()()にさほど興味は湧かなかった。しかし、何時の頃から周りが精霊帝の誕生祭と同時にお后選びを開催するようになってしまった。その上、『精霊帝のお后選び』と称して七十二候の花姫たちを中心に火や風、水や大地、植物など全ての精霊から適齢期の乙女たちを集い、舞を披露させる。更には、取り分け美しいと言われる花姫の中から一人、『最有力』な花嫁候補として選出さた姫との対話まで強要される始末、それも誕生祭の度にだ。


 適当にあしらってのらりくらりと躱していたところ、誰がどのような経緯でどう考察したのかは不明だが、何故だか義姉との秘密の恋が……などという噂話が広がってしまった。全くもって有り得ない話だ。それはさておき、そのような噂はさすがに、神界へ嫁いだ義姉本人や夫である四季神に伝わったら非常に拙いのではないか、と感じたがそう心配するほどの事でも無さそうだ。だから噂が広まっていくのをそのまま放置しておいた。自らの娘を薦めてくる臣下たちや、妙齢の娘が不必要に近づいて来るのを抑制出来たからだ。ほんの少しだけ気が咎めるが、その噂を利用してしまおうという狡賢い自分に嫌気が差しつつもそう思っていた。


 要するに、色々と面倒だったのだ。何もかもが……。


 とは言うものの、このままでは宜しくない。それは理解していた。それに、今回の誕生祭でかれこれ二十五回目となる。更に、まるで機会を狙っていたかの如く、つい先だって義兄から()について少しだけつつかれてしまった。


 以上の事から、此度のお后選びでは()()()()が無い限りその時ご縁が繋がった乙女を娶ろうと決めてはいた。


 ではあるのだが……


 (とはいうものの、どうにもこうにも気が進まないんだが。どの姫も裏の顔と表の顔の差が真逆なくらい差が激し過ぎて消去法でも選び難い……)

  

 と、内心では頭を抱えていた。


(今回、二十五回目も見送りだな。一時なら耐えられるだおるが、生涯を共にするには許容範囲を超えている……はて、どうしたものか。角が立たずにきっぱりと断れる方法は無いものか……)


 そんな時、閃いたのだ。


「我の妃となりたいと言うなら、我が義姉上よりも容姿及び人柄、才能が同等もしくはそれらを凌駕すると思う者は名乗り出よ。その者を妻としよう、未来永劫唯一の伴侶としてここに宣言する!」


 秘かな恋人(?)らしい義姉を例に出せば、誰もが口をつぐむに違いない、と。結果は、案の定だ。心の中でほくそえんだその時、


 「この妙蓮、是非とも陛下の未来永劫唯一の妻になりとうございまする!!」


 誰もが予想し得ない出来事が起きた。気が満ちたよく通る声が響いたのだ。場が騒つくが、声の主が勢いよく立ち上がったのを見るなり、皆一斉に失笑と嘲笑を隠すようにして扇を駆使する。


 その場違いな発言の主は、通称『妙ちくりん姫』と揶揄される変わり者だった。


……あぁ、あの鳩羽色の髪と神秘的な青い瞳の……


 人間界での非常に気の毒な生涯の後、生と死を司る女神の懇願によっ成立した異例の転生。それも、赤子や幼女からの転生ではなく最初から花姫という稀有な存在。精霊帝という立場上、この妙蓮という稀有な存在を気に掛けてはいた。神の手が掛かっている以上、何かあったら精霊界側の責任問題に発展する危険性を孕んでいるからだ。


 だが、思いの外彼女は自由気ままに振舞っているようで安堵していたところだった。


 気付けば



 「妙蓮とな? そなた、七十二候の……確か『小暑』()の三十三番目の花姫(かき)蓮花姫(はすはなひめ)だったな?」


 と、自分でも驚くほど甘い声が唇からまろび出ており、知らず知らずのうちに笑みすら浮かべていた。


 とは言え、果たしてこのまま何の問題も起こらずに妙蓮を娶る事は出来るかどうかは疑わしい。その場では何も無くとも、公の場を離れた途端に妙蓮を蹴落とそうとする動きがありそうだと感じていた。宣言した以上、約束は守るべきだ。


 故に、穀雨()十八番、牡丹姫からの「お待ち下さい! 納得行きませんわ!」という声と、妙蓮の妹君の、「立秋()三十九番睡蓮姫(すいれんひめ)の方が相応しいと思います!」と、二人の姫の抗議に


 (そーら、来た!)


と特に驚きはしなかったし、むしろその場で言動を露わにする二人を意外にすら感じた。


 ふと気になって、己の指示に従ってこちらの方へと軽やかに歩を進めようとした妙蓮を見つめる。意外な事に、彼女は二人からの抗議を意に介する事なく、堂々と彼女たちの目を見据え不敵な笑みを浮かべているではないか!


 精霊帝は、心の奥が暖かさと同時にむず痒さを覚えた。久々に感じる高揚感だ。ワクワクするような感情の拍動が迸るままに、どうすれば角が立たずに妙蓮を守る事が出来るか妙案が閃く。それはそのまま台詞として流れ出た。


 「なるほど、これまで花嫁候補として名乗りを上げて来た花姫(かひ)たちからすれば納得行かない事もあろう。けれども私は、妙蓮を唯一無二の妻にすると決めたのだ。だからこうしようと思う。皆の者よく聞け! それでは納得行かず我こそは!! と思う者は()()()()()()()()()()()()()!! 妙蓮自らが納得して妻の座を諦め、その者を私の妻にと()()()()()()()()のであれば、改めてその者を唯一無二の私の妻として迎え入れようぞ。猶予期間は本日を入れて二十五日後までだ。それ以降は如何なる事情があろうと、妙蓮以外の妻を認めない。これは『精霊帝史上命令』である! 心して参れ!」


 と。


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