表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/14

第六話 この世界について

▪ ロゼックの部屋


 葵が発掘されてから三日が経った。

 ギルドでの測定以来、彼女の正体を知る者はロゼックとラストの二人だけ。

 今、葵はロゼックの住む古いアパートの二階に身を寄せていた。


 狭い部屋だが整理は行き届いている。

 壁には地図と遺跡のスケッチ、そして錆びた歯車の標本。

 窓の外では、遠くの工房から蒸気の音が聞こえる。


「部屋、狭いけど我慢しろよ。ベッドは一つしかないが、俺は床で寝る。」


「問題ない。眠る必要は……あまり感じない。」


「……あまり、ってなんだよ。」

 ロゼックは呆れたように笑い、椅子に腰を下ろした。

 葵は部屋の隅に置かれた古い機械時計をじっと見つめている。


▪ 世界の説明


「ロゼック。」

「ん?」

「この世界について、教えてくれ。」


 ロゼックは煙草に火を点け、しばらく黙っていた。

 葵が初めて自分から質問したのだ。


「……そうだな。お前が本当に“外の人間”なら、知らねぇのも当然か。」


 彼は立ち上がり、壁の地図を指差した。

 それは複数の国と海を描いた古い紙――だが地形のほとんどは灰色で塗りつぶされている。


「まず、ここは《イシュトリア王国》。

 魔導技術と蒸気工学で成り立ってる国だ。

 魔力を扱える奴は“魔導士”、扱えねぇ奴は労働階級。

 俺は探索者――魔導士でも貴族でもねぇ、遺跡を掘って食ってる連中だ。」


「魔力が社会階層を分けているのか。」


「そういうこった。

 魔力は生まれつき決まる。血筋で強さも変わる。

 だから貴族は“魔力の濃い血”を守るために近親婚も多い。」


「遺伝的特性……まるで旧時代の“超能力研究”みたいだな。」

 葵の目がわずかに光る。


「他には?」


「国の外は荒野だ。

 戦争の跡、崩れた都市、魔物の巣。

 昔は《連合都市圏》って呼ばれる文明があったらしいが、

 千年前の“大崩壊”で全部消えた。

 ……あんたが見つかった《アーク・ドーム》は、その時代の遺構だ。」


「千年前……。」

 葵は低く呟く。

 その声には、データでは処理できない“実感”の揺らぎがあった。


▪ 魔導文明


 ロゼックは机の上に置かれた魔導灯を指で弾いた。

 青い光が柔らかく灯る。


「魔導機構ってのは、こうやって魔力を流して動かす。

 エネルギーは“魔晶石”って鉱石から抽出される。

 街の灯も、飛空艇も、全部この仕組みだ。」


「なるほど。

 つまり、魔力は物理的エネルギーと情報の両方を兼ねる媒体……」


「おい、難しく言うな。

 とにかく、“魔力がなきゃ何も動かねぇ”ってこった。」


 葵は頷き、机の上の魔導灯を興味深そうに観察する。

 指先でそっと触れると、灯の光が一瞬だけ明滅した。


「……魔導回路の構造が、旧時代の量子制御基盤に似てる。」

「なに?」

「いや、独り言。」


▪ 一夜の静寂


 夜。

 ロゼックはソファに毛布をかけ、横になっていた。

 隣のベッドでは葵が静かに座っている。


「寝ねぇのか?」

「眠る行為の必要性が理解できない。」


「はは、理屈っぽい女だな。」


 ロゼックは笑いながら天井を見上げた。

 葵は窓の外の灯を眺めたまま、静かに口を開く。


「……ロゼック。」

「ん?」

「この世界、ずいぶん長く続いてるように見えるけど……

 “魔法”が存在するのに、なぜ科学が発展していない?」


 ロゼックは少し考え、呟く。

「便利すぎるんだよ、魔法ってやつは。

 問題を考える前に“唱えれば済む”。

 だから学ぶより信じる方が早い。

 ……人間の頭が、止まっちまったんだ。」


 葵は静かに頷いた。

 それは彼女の中に眠る“旧時代の記憶”――

 文明の終焉を思い出させる言葉だった。


▪ ロゼックの独白


……この女は、ただの遺物じゃない。

 過去の残骸でも、未来の亡霊でもない。

 理屈の奥で、まだ人間を信じてる。


 たぶん、

 この世界を変えるのは、魔導士でも貴族でもない。

 “ことわり”を信じる人間だ。


 俺はその夜、

 久しぶりに夢を見た。


 *


 葵はギルドから借りた魔導書を机の上に広げた。

 分厚い羊皮紙に、びっしりと魔導構文が書き連ねてある。

 彼女は指先で一行をなぞり、眉を寄せた。


「……これはひどい。」


「どうした?」

「構文の意味を理解せずに暗記してる。

 しかも同じ命令を無駄に繰り返してる。

 まるで、初学者がコピペでコードを書いたみたいだ。」


 ページの隅には、“第七系統火術式”と書かれている。

 葵はわずかに呟く。


「Ignis.Execute();……クラス呼び出し構文そのまま。

 でも、エラーハンドリングもメモリ制御もない。

 ――この時代の魔法理論、未熟にもほどがある。」


 ロゼックは呆れたように肩をすくめた。

「難しいこと言うなよ。こっちは“動けばいい”で生きてんだ。」


 葵は本を閉じ、静かに言った。


「千年経っているのに、構文体系は学生レベル。

 クラス(魔法陣)の中身もブラックボックス化していて、

 誰もそのアルゴリズムを理解していない。

 ……これは、学問じゃない。模倣だ。」


▪ 葵の推察


「じゃあ、お前から見て、この世界はどう見える?」

 ロゼックの問いに、葵はしばらく沈黙したあと答えた。


「魔導文明は、かつて“旧時代”の科学技術が形を変えたものだと思う。」


「は?」


「千年前の崩壊で、科学は滅んだ。

 けど、“現象を操作する仕組み”だけは残った。

 それが魔法として再構築された。

 人々は“便利なもの”として使い続け、理論は失われた。

 ――だから、今の魔導理論は“忘れられた技術の残響”。」


 ロゼックは黙って聞いていた。

 葵の声には静かな怒りがあった。


「この千年で、文明は発展したんじゃない。

 ただ、滅び方を変えただけ。」


 部屋の窓の外で、蒸気車の音が遠く響く。

 その音は、かつて人類が築き、そして壊した機械文明の亡霊のように聞こえた。


▪ 一夜の静寂


 夜。

 ロゼックはソファに寝転び、葵は机の前に座っていた。

 彼女は黙々と魔導書の構文を分解し、

 ノートに数式のようなアルゴリズムを書き込んでいく。


 ロゼックがぼそりと呟く。

「……なあ、そんなもんに意味あるのか?」


「ある。

 “動かすこと”しか考えない文明は、また同じ滅び方をする。」


 彼女の言葉は静かだが、確固たる信念があった。


▪ ロゼックの独白


……千年前に滅びたはずの文明が、

 また同じ道を歩んでる。

 それを最初に気づいたのが、皮肉にも“古代人”だなんてな。


 だが――もし彼女が言う通り、

 魔法が“再構築された科学”なら、

 葵はその“根源”をもう一度見つけようとしている。


 この街の歯車の音が、

 ゆっくりと、まるで何かが再起動するように響いていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

しばらくは毎日投稿しようと考えているので是非評価とブックマーク登録をお願いします。

モチベーションにもなりますので是非よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ