表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/14

第十四話 帰還、評価アルゴリズム

 午後のイシュトリアは、いつもより煙が多かった。

 蒸気塔から立ち上る白い霧が街全体を包み、

 真鍮と油の匂いが混じり合って鼻をつく。


 ロゼックと葵は《ハンターズギルド》の重い扉を押し開けた。


 中は喧噪と熱気の渦。

 受付カウンターの前には、任務帰りの探索者たちが列をなし、

 背中から伸びるパイプや銅製ボイラーが蒸気を吐いていた。


 壁には依頼書がずらりと貼られ、

 「魔獣討伐」「遺物回収」「輸送護衛」――どれも命懸けの仕事ばかりだ。


▪ 遺物の提出


「任務報告。《第七圧力炉跡》から遺物を回収。」

 ロゼックが金属製のケースをカウンターに置いた。

 ギルドの受付係――黒衣をまとった壮年の男が顔を上げる。


「ほう、《第七圧力炉》ねぇ。……また危ねぇ場所へ行ったな。」

 男はケースを開け、内部の黒い金属板を取り出す。


 焼け焦げた表面に、かすかな光を放つ文字列。

 今の時代の魔導構文にはない――**“コード”**の刻印だった。


「これは……古代層の構文板アーカ・コードか。珍しい。」

「動作は停止済みだ。分析には魔力封印を掛けてある。」

「上出来だ。……お前ら、本気でランク上げ狙ってるな。」


▪ ランクシステム


 受付の後ろには、ギルドのランク表が掲げられていた。


 FからSまで、七段階。

 遺物の価値、依頼の難度、成果、信頼度――

 全てをポイント換算してランクが決まる。


 ロゼックは現在、Cランク探索者。

 葵は、仮登録のFランク新人。


「遺物一件でCクラス相当。葵、お前の分は半分だから……銀貨八十枚。」

 男が金属製のケースに硬貨を落とす。

 小さな音が心地よく響いた。


 葵は硬貨を一つ手に取り、じっと見つめる。


「……金属片が、価値を持つのね。」

「そりゃそうだろ。これで飯も装備も買える。

 それに、ランクが上がれば依頼報酬も倍になる。」


「合理的ね。人間社会の“評価アルゴリズム”ってところか。」

「そう言われると嫌な響きだな……。」


▪ ギルドのざわめき


 背後の酒場では、他の探索者たちが騒いでいた。

 「また南の遺跡が落ちた」「帝都から新しい査察官が来る」――

 蒸気と酒の匂いの中で、笑い声と怒鳴り声が交じり合う。


 その中の一人が、葵を見て声を上げた。


「おいロゼック、その嬢ちゃん、新入りか? ずいぶん整ってんな。」

「お前のタイプじゃねぇよ。口説いたら死ぬぞ。」

「ははっ、冗談だ冗談!」


 軽口が飛び交う中、葵は表情を変えなかった。

 ただ静かに周囲を観察していた。


 銅管から噴き出す蒸気。

 腕に刻まれた魔導符。

 義手に仕込まれた圧力弁――。


 その全てを、解析の対象として見ていた。


[ANALYSIS MODULE: ACTIVE]

[COMPOSITE STRUCTURE: COPPER 64%, MANA SEAL 12%, CARBONIZED FIBER 24%]


「……この世界の技術体系、思ったよりも進んでる。」

 小さく呟いた声は、誰にも聞こえなかった。


▪ ギルドマスターとの会話


 作業を終えた葵とロゼックのもとに、

 ギルドの奥から一人の男が現れた。


 白髪混じりの大柄な男――ギルドマスター・グレン。

 片目には黒い義眼が埋め込まれ、

 そのレンズが葵をまっすぐ見据えていた。


「お前が噂の新人か。“魔力ゼロの探索者”ってやつ。」

「……そう呼ばれてるの?」

「ああ。魔導測定で“ゼロ”を叩き出した奴なんて、前代未聞だ。」


 グレンは笑いながら、報告書を受け取る。

「だが実績は本物だ。《第七圧力炉跡》から遺物を持ち帰ったのは十年ぶりだ。」

「次の依頼、受けてもいい?」

「お前らならBランク昇格も視野だ。だが焦るな。――今はまだ、“この世界”を知れ。」


 その言葉に、葵はわずかに目を細めた。

 まるで、記憶の奥に“別の世界”があることを思い出すように。


▪ 帰路 ― 蒸気の街にて


 ギルドを出ると、外は夕焼けだった。

 赤い光が蒸気の雲に溶け、街全体が橙に染まっている。


 葵は歩きながら、手の中の銀貨を見つめていた。

 蒸気の反射で、硬貨の表面が淡く光る。


「ロゼック。」

「ん?」

「人間は、“価値”を作るのが上手だな。」

「どういう意味だ?」

「ただの金属片を、努力の証に変える。

 ……それって、魔法よりすごいと思う。」


 ロゼックは少し笑って、肩をすくめた。

「だったら、俺たちも稼がなきゃな。

 次は遺物だけじゃなく――“生きて帰る”報酬を貰うんだ。」


 夕陽の中で、葵の銀髪が金色に染まった。

 蒸気の街に響く足音は、どこか確かなリズムを刻んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ