君の面影、思い出の味
しいなここみさまの華麗なる短編料理企画参加の一品です!
「晩御飯はカレーね」
その言葉に、感情はなかった。
それはそうだろう、君はアンドロイドなのだから。
目の前に出されたカレーは、彩りも栄養も盛り付けも、完璧。
すべてが君の中で計算しつくされている。
きっと、味もいいのだろう。
いつも通り、スプーンを口に運ぶ。
今ではもう無意識でも手が動くようになった。
口の中で、野菜がとろける。
――でも、これじゃない。
◇ ◇ ◇
君が僕の家に来たのは、ずっと前のことだ。
その日、君は少しぎこちない動きでメンテナンスに必要な道具とともに僕の家にやってきた。
僕は要望通りの君の外見や性格に、満足していた。
数日後に君が作ったカレーは、お世辞にも上手とは言えなかった。
包丁の扱いはまだうまくいかず、火加減の調節にも失敗した。
それでも出来上がったカレーはそれなりに形になっていて、僕は涙した。
僕はカレーが好きで、それを君もわかっていたんだろう、それからよく作ってくれるようになった。
日々作るうちに、君のカレーは改善されていった。
包丁や火を扱うアップデートが入り、僕好みの味を検証していった。
今では、君の作るカレー以上に僕の舌に合うカレーはないだろう。
――完璧すぎるんだ。
すべてが考えられたカレー。
すべてを脳内で済ませる君。
――君はだんだん、僕の知っている君じゃなくなっていく。
◇ ◇ ◇
「アップデートのお知らせ」
ついに、届いた。
通算何度目のアップデートだろうか。
「ご主人様、晩御飯何がいい?」
そんなことを思っていたら、君が後ろから声をかけた。
このアップデートが終われば、君はさらに完璧になり、僕の中の君とはかけ離れていくだろう。
ならば。
「――カレーがいいな」
明日、君はまた変わるだろう。
でも、今夜だけは――君のままでいてほしかった。