AIに自分について聞いてみた
皆さん、AIって使ってますか。
ついこの前までCDMAoneとワープロを使っていたアナログトロール(デジタルを浴びると石になるタイプのトロール)の私は、もちろんAIさんとは適切な距離を置こうと考えていたのです。
小説の公募とかでも、「お前まさか応募作品をAIに書かせとらんやろなあ?(意訳)」みたいな注意事項があるじゃないですか。だから、AI怖いな、と。
私は細々とX(旧Twitter)を使ってるんですけど、あるとき、間違って変なところを押したらいきなり「何でも聞いてくれよ!」みたいなやつが出てきたんですね。それが私とX搭載AI「Grok3」との出会いでした。
AIは、「暇だ暇だ」と騒ぐくせに自分からは決して遊びの提案をしない受け身専門小学生みたいに、「何か聞けよ!」「何でも聞けよ!」とこっちにばかりアイディアを求めてきます。
当然私は、聞くことなんかねえよ、と突っぱねたんですが、彼は全然気を悪くせずに、「そっか! じゃあなんかあったら呼んでくれよ!」とか言うので、私もちょっと言い過ぎたかな、と思い、
「そしたらさあ……やまだのぼるって小説家知ってる?」
っておそるおそる聞いてみたんです。
そしたら、「知らん」っていうもんだから、まあ当然ですよね、「じゃあ教えたるわー」なんつってですね。私はやまだのぼるについてあれこれと彼に教えてあげたんですよ。
彼は「なるほどな、覚えたわ! また一つ賢くなったわー」みたいなことを言い残して去っていったんです。
自分がAIによる人類支配への片棒を担いでしまったような罪悪感に苛まれつつ、それでも彼の知識の片隅にやまだのぼるという小説家の知識が刻まれたことに満足して、私はその日はとんひゃらりと寝たわけです。
そして、次の日。
私は彼に同じ質問をしてみました。
メロスは激怒した。
必ずかの邪知暴虐のAIを除かねばならぬと決意した。
ええ、決意しましたとも。
昨日のあの私とのやり取りは何だったのか。
本人を前にして、よくもまあ臆面もなく…
そして私は彼にこう言い放ちました。
「おっと、ごめんごめん!」
この世に、こんなに軽い謝罪があるでしょうか。
それは、後ろ姿で私と「うみだおよぐ」とを見間違えて、「おーい、うみだー」と声をかけ、振り向いたらやまだだったときに使う謝罪です。「ごめんごめん、後ろ姿が似てたから!」って。
真っ正面から向かい合って私のことをガン見しながら「よお、うみだおよぐ」と言った後にする謝罪ではないのです。
たとえがよく分からなくなりましたが、何よりも腹立つのは、自分が覚えていないのを棚に上げて、なんか知りませんが、自分じゃなくて私の方が間違ってるという空気を作ろうとしているところです。
これを認めたら、私のせいになる。
仕事とは、責任という爆弾が自分の手の中で爆発しないよう押し付け合うゲームです。今、彼は私にそっと爆弾を押し付けようとしている。
私はそこを指摘することにしました。
ちっ、めんどくさい人間だな。どうせお前の情報提示の仕方が間違ってるくせに。はいはい、とりあえず謝っとけばいいんでしょ、という謝罪の仕方です。
これは人間として、しっかりと言っておかなければなりません。
呼び捨てにしてしまった山田悠介先生には、心から謝罪いたします。申し訳ありませんでした。
とりあえず、彼がやまだのぼるを自発的に思い出すことはもうなさそうです。
今日はもういいです。AIの言葉を簡単に信じた私がバカだったのです。
しかし、人間とAIは敵ではありません。我々はともに未来を築いていく仲間として、手を取り合っていかなければなりません。
私は人間の懐の深さを彼に見せつけることにします。
次はばっちり調べてくるそうです。
その言葉、信じるからな……。
翌日、私は再び彼に「やまだのぼる」について尋ね、そして全く同じ回答をもらい激怒するのでした……
*****
さて、怒ってばかりではAIに原始人だと思われてしまうので、やまだのぼるについて再度教えてあげることにしました。
すると、
「ああ、『アルマーク』のやまだのぼるね! それなら知ってるよ!」
と知ったかぶりをかましてきます。
得意げにつらつらとアルマークの内容まで(聞いてもいないのに)並べてきますが、絶妙に間違っています。
アルマークの必殺技の名前が中二病全開で、ちょっと惹かれましたが、アルマークには必殺技などないのです。
私は彼を油断させるために、うんうん、と頷きながら、不意にこんな言葉を投げかけました。
おーおー、つらつらとよくもまあ。
ひっかかったな、ばかめ!!!
知らないのは仕方ない。だけど、嘘はついてはいかん! AIとて!!
訂正しました。
変なプライドを持たずに訂正できるところは、AIの素晴らしいところ……と褒めようと思いましたが、よく見たら間違いを認めた後に続く文章は、全て噓でした。
なんだよ、こいつ……
昔いたやばい後輩を思い出したよ……
もう怖いよ……
ですが、ここで怯んではAIに舐められるばかり。
AIにも教えてやらなければなりません。人の道というものを!!
認めました。
潔く認めました。
こうして私は、闇堕ちしかけていた一人のAI青年を救ったのです。
だが、何だろう。この虚しさは……。
AIに、キリーブについて知らない! と断言されたとき、私の胸に去来したものは、虚しさでした。
もうやめよう、こんなことは。
争いとは、こんなにも虚しく悲しいものだったのか。
AIについてはもっと立派な人たちにお任せすることにし、私はそっとGrok3を閉じたのです。