シュヴァリィ・ドゥリター・ユートロン
口にアメを含んだ二人が、入学式の会場に入った。
自由席だったので、適当な場所に二人で座る。
「思ったより人間関係ができているね」
「この学園、学生の七割は貴族だからな。家の繋がりでグループができる」
まあ、俺はパーティなどにほとんど出ていないので、その辺りの繋がりは無いのだが。
友達を作るためにも、関係が良好険悪極端な貴族の名前くらいは、父から聞いておいた方がいいかもしれない。
「始まるみたいだよ」
「ん、本当だ」
少し思考に傾倒していると、いつの間にか式が始まろうとしていた。
年配の学園長が登壇に立ち、美辞麗句を並べている。
多分いいことを言っていると思うのだが、婉曲な上に難しい言葉を使うせいで、よく分からない。
脳が理解することを拒み、右から左に通り抜けていく。
「……なんて言ってるか分かるか?」
「何とかね」
「やっぱ頭いいな」
諦めてアメ細工でもしようかと、真面目に検討し出した時、ようやく学園長の答辞が終わり、続いて新入生代表の答辞の段となった。
壇上に上がったのは、赫。
深く恐ろしい、炎のような紅蓮の赤。
靴、服、爪、瞳、髪。全てが赤く、吊り上がった口や鋭い目から、酷く攻撃的な印象を受ける。
この子も、格式ばった素晴らしいことを言うのかと思いきや、彼女は台からマイクを剝ぎ取り、台に足を乗せて、高らかに宣言した。
『私はこの国の第二王女、シュヴァリィ・ドゥリター・ユートロン! この国の第二王女よ!』
その大きな声が、会場内に反響する。
「そういえば、王女が同学年にいるって噂があったなぁ」と思い出しつつ、単刀直入な言葉を聞く。
『今は第二王女だけれど、その立場に甘んじるつもりは無いわ。いずれは姉様を追い抜いて、この国の王女になるつもりよ! この学園で主席になったことから、私の優秀さが分かるでしょう!』
「やめなさい! ここは政治の場ではありません!」
「誰か、芯界に取り込め!」
体面上、政治とは切り離されている学園で、思い切り次期王の話を始めたことで、教師陣に連れて行かれそうになっていた。
ただ、相手が王女なので無理はできないのか、どこか手を抜かれており、その隙を突いて発言を続ける。
『私に取り入りたい貴族、自分は絶対に役に立つという自信があるなら、平民でもいいわ! 私の陣営に加わりなさ――』
「もう許さん、Chesst mapp!」
結局、言い切る前に、キレた教師の芯界に捕まっていた。
一瞬可哀そうだと思ったけど、まあ順当だろう。
「あの人、軍学専攻らしいから、ラギナは授業で会うかもね」
「王になりたいなら、政治学行けよ……」
「第二王女は戦争を重視してるらしいから」
「へぇ……っていうか、イース詳しくない?」
「これくらい常識だよ。ラギナが知らなすぎるだけ」
……流石にこの無知は不味いかもしれない。
せめて、実家に迷惑がかからないくらいにはしないと。
その後、何故か大学なのにいる生徒会長の挨拶や、来賓の紹介などの末、ようやく入学式が終わった。
「これからどうする?」
「学園内を見て回りたいな。初手は学食からでどうだろう?」
「いいね。行こう」
「あなたが、ラギナ・アークエス?」
立ち上がろうとした時、聞き覚えがある声がしてきて、見上げると……第二王女、シュヴァリィ・ドゥリター・ユートロンが、俺達を見下ろしていた。
「……そうですけど、何か?」
「来なさい。事情は歩きながら説明してあげるわ」
……行きたくなかったが、有無を言わさぬ目に負け、付いていくことにした。
「ちょっと用事ができた。イースは好きにしといてくれ」
「僕も行くよ。役に立てるかは、分からないけど」
「ありがとう。心強いよ」
立ち上がって、シュヴァリィを先頭に、俺とイース、それにシュヴァリィの付き人一人を連れて、学園内を進んでいく。
どこにいくかは、まだ検討もつかない。
歩きながら、彼女は事情を説明し始めた。
「さっき宣言した通り、私はこの国の王になりたいの」
「……それで、うちの家を勧誘したいと?」
「違うわ。いえ、勿論うちの陣営に入ってくれても良いのだけれど、今回は別件よ」
「……?」
「私は、王女になるために沢山勉強してきたわ。そのお陰で、試験では一科目を除いてトップの点だったのよ」
「その一科目とは?」
「実戦」
まぁ、俺が呼ばれたということは、そういうことだろう。
軍学科の入試科目には実戦という、試験管と戦って、その出来を点数にする科目があった。
俺は座学に自信が無く、合格するために全力で実戦に取り組んだ結果、なんと実戦でトップの成績を取っていたのだー。
「試験の順位は、本人にしか通達されないハズでは?」
「そこは、権の力よ」
「……聞かなかったことにしておこう。それで?」
「アナタをぶっ飛ばして、全科目トップと新入生最強を名乗るわ」
「そっかぁ」
話を聞き終わる頃に付いた場所は、学園の戦闘訓練場だった。
といっても、芯界のバトルに広い空間は必要ないので、あるのは医療設備だ。
医療関係は国際技術警察の基準が緩いのか、地球よりも遥かに発展している。
技術で魔法のポーションのようなものを作ってしまうから、驚きだ。
というか、即効性や一滴あたりの効果は、ファンタジーの世界を超えているように見える。
「じゃあディーシュ、意識不明の重体になったら、回復させてね」
「お任せください」
「イース、頼んでいいか?」
「うん、分かった。……ちょっと使い方分からないから、説明書読んでおくね」
一般人のイースは使い方が分からないようだったが、まあ大丈夫だろう。
負けないから。
対面に立ち、双方、自身の胸に手を置く。
「ルールは殺害禁止だけとして、痛覚止めは打たなくていいのかしら?」
「師匠から禁止されてるから。それより、このままだと俺が勝った時、メリットが無いだろ?」
「……そうね。失念してたわ」
「だから、俺が勝ったら――友達になってくれ」
「フフッ!」
シュヴァリィは心底おかしそうに笑い、側近のディーシュという人が俺を睨む。
「そんなに王家に取り入りたい?」
「いや、純粋にあなたと友達になりたい」
ひとしきり笑った後、彼女はスンっと真顔になり、
「いいわ。やってみなさい!Firester Dragavolc!」
「Dream of bandy!」
平民の入学制限があるとかではないです。
ちょっと試験が難し過ぎるのと、小学校みたいなのが無いので、ある程度財力が無いといけないのです。