イース・
ブックマークが一個ついてたので更新します。
騎士団の雑用になってから、九年が経ち、俺は十五歳になった。
テトレディさんが騎士団を卒業し、第七騎士団が再編されるこのタイミングで、俺も騎士団を抜けることにした。
今は、そのお別れ会の最中だ。
「本当に行っちゃうの? ラギナ君」
「もう私たちの中でも上位の実力なんだから、このまま正式な団員になればいいのに」
「上位は言い過ぎですよ。まあ、実家からの要請ですので」
「アークエス家か……なら仕方ないね」
「学園でも頑張ってね!」
「はい」
世話になった人に、次々に挨拶していき……最後に、ベディさんとテトレディさんの二大師匠に挨拶する。
「ベディさん、テトレディさん、今までありがとうございました」
「大げさだよ。生涯の決別じゃあるまいし!」
「やだ、残ってよ! 私の金のなる木!」
「講師契約、解約されてましたよね?」
「いい副業だったのに……」
どうでもいいことで泣くベディさんを置いて、テトレディさんと話す。
「新天地でも頑張ってください。って、俺が言うまでもないか」
「うん、やることは変わらない。私の正義を為すだけだよ。ラギナ君こそ、頑張ってよ。今まで会って来た中で、君が一番私に近いから」
「……憧れでしたので」
まあ……最も深い部分で、相反しているのだが。
テトレディさんもそれを理解しながら、深い笑みを浮かべた。
「君とは遠くないうちに会える気がするよ」
「味方として?」
「さあ、どうだろう?」
「……」
「最後にキスでもしとく? ストック少ないでしょ」
「いらないですよ」
「フフッ、じゃあね!」
最後は、彼女らしい満点の笑顔だった。
◎◎◎
俺は、今世は沢山の友達を作ると決めた。
騎士団のみんなとは、仲良くできてはいたが、大抵年齢が離れており、対等な友にはどうしてもなれなかった。
だから俺は、同年代の少女が集まる、王都のドゥリター学園に通うことを決めた。
ドゥリター学園は国の名前を冠するだけあって、かなりの名門で、貴族社会でも憧れの場となっている。
うちの両親はどちらも学園の卒業生――というか、学園で付き合い始めたらしく、学園への入学は強く勧められた。
入学年齢は違うが、システムとしては大学に近く、専攻する学問は自分で決める。
俺が合格したのは、唯一ある科目の試験がある、軍学専攻だ。
(地球よりも文明が進んでるからなぁ。そこの名門となると――うん)
掛け算で褒められるくらいの世界に行きたかった……。
苦い記憶に頭を痛めながら、歩いていくと……学園の門が見えてきた。
低い建物が並ぶ外に対して、学園内は巨大な豆腐型の直方体ビルが並んでいる。
よく覚えていないが無いが、本当に日本の大学みたいな感じだ。
「慣れるまでは絶対に迷う」
さて、最初は寮に荷物を置くところからか。
王都にアークエス家の別荘はあるが、寮に入ったほうが友達ができそうなので、入る。
幸い、今日は入学式があるので、入寮者のために矢印付きの看板が設置されていた。
眠い目を擦りながら、学園内を進む。
ああ、勿論俺以外に男はいないので、男子寮なんてものは存在しない。
何なら男が危ないとかいう概念も無いので、普通に二人一部屋にぶち込まれた。
まあ、変なことをするつもりなど毛頭無いので、いいのだが。
「ルームメイトは、付き合いやすい奴だといいな」
そんなことを考えているうちに、自分のネームプレートが付いた部屋に着いた。
中から物音がして、同室者の気配がしてくる。
深呼吸し、軽くノックしてから、部屋に入った。
扉を開くと、さすが名門校というべきか、机にベッドから、風呂にキッチンまである。
そして、リビングの端には、荷ほどきをしている少女がいた。
「こんにちは……いや、時間的におはようかな?」
鉄の様に鈍く光を反射する、灰色の瞳とショートカットにおさげのワンポイントが輝く髪。首に巻いたチョーカー。
童顔と比較的しっかりした身体から、男性的な印象を受ける。
その柔和な笑みと、落ち着いた声は、どこか安心するものだった。
「ボクはイース。イース、キルーラ。よろしくね」
「あ、ああ。俺はラギナ・アークエスだ。よろしく」
うん、これは多分大アタリだ。
「アークエスって、伯爵家の? 僕は普通の家だから、失礼が無いといいけど――」
「気にしなくていいぞ。学園内では家のことは関係無いし、気にかけるつもりも無いから」
「そう? ならよかった」
彼女は、ホッ胸をなでおろし、「ところで――」と言葉を紡ぐ。
「軍学専攻って聞いたけど、君は強いの?」
「まあ、学園内では中々やる方だと思うぞ」
「そっか、安心した」
「安心?」
「ほ、ほら、強盗とかが来た時に心強いじゃん」
「……」
「ボクは芯界学科だから、いざという時は守ってね」
「オウ」
芯界学科。
確か、未だ不明な点が多い芯界について、探求したり、技術利用したりする学科だったか。
面白そうだなぁ……今度豆知識でも聞こう。
「ん、もうそろそろ時間だよ。荷ほどきは後にして、一緒に入学式に行かない?」
「そうだな。行くか」
荷物だけ置いて、二人で入学式の会場へと向かった。
寮に来た時と同じく、看板の誘導に従って進んで行く。
「アメ食べるけど、いる?」
「え? うん」
「甘いのでいい?」
「甘いのは……落ち着く感じの、ある?」
「はい」
「ありがとう」
ポケットから取り出した、薄いながらも、しっかりとした味がする青色の飴玉を渡した。
イースは、少しアメを観察してから、口の中に入れ、気に入ったように頷いた。
「うん、いいね。勉強する時に食べてもよさそう」
「常備してるから、いつでも言ってくれ」
「そっか」
俺を見る目が、一気に変わった人を見る目になった気がするが、気のせいだろう。
やっぱりアメは最高のコミュニケーション手段だな。
普通の学園モノとの一番の違い:クラスが無い。