巨大ロボは正義
「いきなり来られても困りますよ。それも壁を壊して」
「ごめんなさいね!」
「うーん、いい元気」
「……今度からはせめてアポイントを取ってくださいね」
もうなんかよく分からないけれど、なんとかノンフット伯と接見することができた。
接客室に通され、対面に配置されているソファに腰掛ける。
ノンフット伯は中年で少し肥満体形の女性。吊り上がった目に、口角の上がった口で、強気な印象を受ける。
挨拶握手を一通り済ませ、早速本題に入った。
「突然ですが、ノンフット伯。あなたに脱税の嫌疑がかかっています」
「本当に突然ですね……どうして税務菅ではなく騎士団がお越しになったのです?」
「……うちには優秀な書記官がおりますので」
その優秀な書記官さん、さっきからずっと本読んでますが。
「ゴホン。単刀直入に聞きます。あなたは辺境の村に重税をかけておりますよね!」
「……どこからそんなホラ話を?」
「そんなことは些細な問題です! いいから、過剰に税を集めようとする理由を吐きなさい!」
「……」
ノンフット伯が従者に何か指示したかとおもうと――いきなりナマモノが出てきた。
目算で、一千万といったところか。
「今回は、これで目をつむってくれませんか?」
「中々潔いですね。分かりました、貰っておきましょう」
「い!?」
出されたお金を、テトレディさんはすぐに受け取り、芯界の中に突っ込んだ。
ベディさんとは違って、そういうことはしない人だと思っていたから、この行動は意外だった。
ノンフット伯はさらに口角を上げ――テトレディさんはダンッと机を叩いて立ち上がった。
「ですが! お金を集める理由はお聞かせ下さい。私が力になれることがあるかもしれません」
「……貴族でいるためには、ある程度金がいるんですよ。特に、私はこの家の位を男爵から子爵に上げようと考えておりますので」
「そうですね。貴族と汚い金がイコール関係で結べることは、私も理解しています。が、」
テトレディさんはマプティルさんに視線をやり……彼女は頷く。
「人が生活できないほどに税を課すのは、度が過ぎている。私は、これが正しいことだと思わない」
テトレディさんは芯界から戻した金をノンフット伯に投げつけた。
彼女は顔面にお金の塊を食らい、背後に倒れ込む。
そんな様子を後目に、テトレディさんは机を蹴り上げて、天井に突き刺し、堂々と宣言する。
「こんな害悪な家、ぶっ潰す! Grandun!」
巨大なロボットが現れ、天井をぶち抜いて蒼然と立った。
「え、やるんスか!?」
『ラギナ君、マプティルをよろしくね!』
「あーもー!」
マプティルの手を引いて、邸宅から避難しようと廊下を走る。
「あの頷きって、どういう意味だったんですか?」
「あいつの言うことが正しいというサイン。いいから走って」
初めての邸宅なので、建物の構造が分からないが、ただグランドゥンから離れるために逃げる。
しばらく走ると、突き当りに外に繋がる窓が見えた。
「破片に気を付けて下さい!」
アメで手をコーティングし、殴って割った。
二階からの落下だが、悲しいことにもう慣れた。
手のアメを流用して、無事に着地する。
マプティルさんも怪我は無かったようなので、もう少し離れてから、屋敷の方を見ていると――
ゴゴゴゴゴゴ!
影。
段々大きくなる巨大な影。
何が起きているのかと、上を見上げると……隕石が、上空から屋敷に迫っていた。
「なんですか、アレ」
「テトレディの芯界から取り出した隕石」
そういえば、あの人の芯界の起点は宇宙だったなぁ。
唖然としながら、その様子を見ていると、従者の方々が慌てて邸宅から脱出してきていた。
「……避難誘導って、雑用に入ると思います?」
「立派な雑用」
数分後、仕方なくしていた避難誘導が終了した頃、邸宅の中央に隕石が着弾。
同時に屋敷が連鎖爆発を引き起こす。
その爆炎の中から、笑顔で歩いてくる、テトレディさん。
右手には何枚かの紙、左手でトランシーバーを耳に当て、どこかと連絡を取っている。
「そう、田舎の村に対しては、法の規制以上に取ってた。他にも――え、廃嫡? なら屋敷壊してもいいよね? もう壊したけど。うん、今芯界に閉じ込めてる。ベディヘロペアと合流するから、帰るまであと四時間はかかるかな。じゃあ、後よろしく!」
テトレディはさんトランシーバーを仕舞い、俺達に話しかけた。
「お疲れ。ベディヘロペア達がこっちに向かってるから、もう少し待ってね」
そう言いながら、芯界に避難させていた人たちを出して、逃がしていく。
本人が中にいない時に、他の人を入れるのはかなりリスキーなのに……やっぱこの人おかしいよ。
「どうする? 観光でもする?」
「そんな空気じゃないですよ」
「めんどい」
「そっか、ならいいや。ラギナ君、アメちょうだい」
「どうぞ」
テトレディさんにアメを渡し、ついでにマプティルさんにもあげる。
「んん、やっぱり美味しいね」
「少し聞きたいことがあるのですけど……」
「うん? 何?」
「まず、どうして隕石を落したんですか?」
「正義の鉄槌」
「ドヤ顔で言われましても……」
「そうするべきだと思ったから。それが正しいことだと思ったから」
……彼女の目から、信念のようなものを感じた。
「もしかして、グランドゥンって――」
「私の正義の体現!」
「巨大ロボは正義だったか」
なんだろう。
まだ、彼女のことを測りかねている気がする。
核心となる部分に、触れられていない気がする。
「どうして――どうして、あなたは自分を正義と言い切れるんですか」
「常に、正しくあろうとしているから」
「ッ!」
「私は騎士団に所属しているけれど、正義を為せないと判断したら、直ぐ抜けるつもり。事情をできるだけ把握するため、マプティルをいつも連れてる」
ハッとマプティルさんの方を見ると、呑気にピースしていた。
本から目を離さず、話始める。
「私の芯界はToughive log books。触れた相手の、人生の一部が書かれた本を所蔵する、書庫」
「本人から話を聞いて、本から裏をとる。そして、自分が正しいと思ったことをする。それが私」
そう言って、テトレディさんは笑った。
これが、彼女の、芯。
「お、来たみたいだよ」
空を見上げると、町のはずれにベディさんの戦艦が飛んでいた。
「行こっか」
「……もしかして、ジェットパックですか?」
「もちろん」
「諦めろ、新人」
右脇にマプティルさん、左脇に俺を抱えて、テトレディさんは飛び立った。
とてつもないGがかかったのは言うまでもない。
アメで飛ぶ手段を模索するのが最優先かなぁ。
何はともあれ、俺達は戦艦の甲板に着いた。
項垂れる俺を置いて、テトレディは戦艦内に入る。
「ただいま!」
「お疲れ様です、団長!」
「うん、みんなもお疲れー」
テトレディさんが、人混みに飲まれて行く。
慕われているんだなぁと、思った。
あの、人の話を聞かない、強引な人がここまで慕われるのは、そのあり方からか。
「常に、正しくあろうとしている」
もう少し、ここにいよう。まだ学べることがありそうだ。
少年編はこれで終わりです。
次から待望の学園編に突入します。
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