捕まった義賊はただの盗賊
黄金の戦艦が消え、目下に薄い雲と緑の富んだ山。そして、アリのように小さく山賊の影が見える。
「ヨッ」
「一番乗りはアタシだァ!」
別室にいた騎士団百人が、文字通りスカイダイビングで、山賊の群れの中に突っ込んでいく。
……あの勢いと指揮なら、負けることは無いだろう。
問題は、俺が生きて地面に立てるかだ。
「やってやろうじゃねえか、リベンジ!」
前回と同じく、硬度の低いアメを取り出しクッションとして地面に放つ。
さらに、今回は騎士団の方々から着想を得て、アメのパラシュートを展開した。
即時の強度が足りず、二回失敗したが、三回目で減速に成功する。
「ヨシッ」
二つの方法を合わせて、首尾よく着地した。
丁度草むらの中だったので、隠れながら辺りを見回すと、芯界の存在を示す光点が多数輝いていた。
できれば力になりたいが、どう考えても足手まといにしかならないだろう。
まあ、俺の仕事は雑務。戦闘はしなくてもいいだろう。
(これなら、お茶でも入れておいた方が役に立てそうだな)
アメを溶かしてジュース……とかはマズそうだからやめておこう。
配る分アメを用意するくらいでいいか。
そのうち、芯界の点からポツ、ポツと山賊と思われる奴を縄で縛った騎士団員が出てきた。
時に、二対一などで騎士団員が負けたのもあるが、テトレディさんとベディヘロペアさんが代わりに叩く。
ものの数分で、騎士団は盗賊を制圧した。
◎◎◎
「アメが欲しい人はいますか?」
「あ、私欲しい」
「どんな味がいいです?」
「酸っぱいやつ」
「どうぞ」
「ありがとう……雑用の、ラギナ君だっけ?」
「はい、そうです。なにか雑用があったら請け負いますよ」
騎士団の方々に、アメを配っていく。
やっぱりアメは素晴らしいな。
みんなに配り終え、一仕事終えたと汗を拭っていると、急に体を持ち上げられた。
背後を見ると、予想通りベディさんが立っている。
「来い」
「……訓練?」
「違う。いいから来い」
この人なら、「授業料を貰うために、今から殺り合う」とか言いかねないので、安心した。
言われた方へ行ってみると、テトレディさんが山賊の長を尋問していた。
「見ておけ、テトレディのやり方を」
「もしかして、授業料入ります?」
「……いいから見とけ」
入るんだろうなぁ。
まあ、意地汚い部分はあるが、これでも勘定はしっかりする人だ。それなりに役に立つだろう。
さて、テトレディは山賊の長と……拘束を解いて、同じ目線で、話していた。
「言っとくけど、抵抗しても無駄だからね。私の方が五億倍強いから!」
「そうだろうねぇ。で、話って?」
「まずは、互いのことを知りましょう! 私はテトレディ・ジャスフィ。この国の第七騎士団の団長よ」
「……アタシは、スリーズ・スティー」
「よろしくね。じゃあ、質問一。あなたが山賊になった理由は?」
「ハハハッ! 騎士様が、そんなこと聞いて何するって言うんだい?」
スリーズとやらは笑い飛ばしたが、テトレディさんは真面目に聞いていた。
その気迫に気圧されて、スリーズも真面目に話し始める。
「まあ、よくある理由だよ。金が無いから、盗むしか生きる術がなかった」
「色々省略してるね。お金が無いのは、誰?」
「……うちの村のみんな」
彼女は、観念したように全てを話し始めた。
彼女、というかこの山賊のほとんどの人は、ノンフット領の辺境にある、とある小さな集落の出身らしい。
人口百数十人程度の、本当に小さな田舎の村だが、楽しく生きてきたらしい。
だが、十年前、ノンフット子爵家の当主が代替わりしたときに、こういった辺境の村にのみ、重税を課すようになったらしい。
そのせいで、生活すらままならなくなり、その結果、大商会や貴族から盗賊行為をし、その成果物を貧困に喘ぐ人に配るようになった。
「つまり、義賊みたいなもの、ってことですか?」
「捕まった義賊は、ただの盗賊だ」
「なんすかその謎理論」
「そこ、静かに」
ベディさんと話していると、マプティルさんに止められた。
彼女は、また本を読んでいる。
「っていうか、何を読んでいるんです?」
「彼女、スリーズ・スティーの、人生の断片」
「……え?」
パタン
読み終えたのか、マプティルさんは、辞書のように厚いを閉じた。
「どうだった?」
「中々面白かった。特に盗賊編」
「感想じゃなくて、真偽」
「この本の限りは、事実」
「オッケー」
マプティルさんの話を聞いたテトレディさんは、少し考えてから立ち上がった。
縛られている盗賊たちの方へ行き……彼女の判断を話す。
「私はこの騎士団の団長、テトレディ。事情を聞いた結果、あなた達は悪くないと判断したから、逃がすことにするね!」
「は!?」
いや、分からなくもないけど……それでいいの?
しかし、困惑してたのは俺と盗賊だけで、騎士団の方々は「今回はそうなったか」くらいの反応だった。
……もしかして、これが通常運転?
「まあ、無罪放免はできないから、頑張って国外逃亡してね。十日後、東海岸の警備が薄くなるから、自力で海を渡りなさい!」
「……?」
「道中捕まったりしても、助けないから!」
「……」
「じゃあ、後は任せたよ、ベディヘロペア!」
「わーたよ。あ、ラギナの奴はそっちに行かせてくれ」
「……意外と面倒見いいよね、ベディヘロペアって」
「うるさい。さっさと行け」
「はーい!」
あっけに取られていると、テトレディさんに軽く抱えられた。
「……はえ?」
「喋ってると、舌、噛むよ」
振り向いてみると、もう片脇に抱えられたマプティルさんがいた。
干された洗濯物のようにぐったりしており、どこか諦観しているように見える。
まぁ……そういうことだろう。
抵抗しても逃げられる気がしないので、歯を食いしばった。
「よし、行こう!」
テトレディさんの背中にジェットパックが現れ、浮き上がると同時に、もの凄い重力がかかる。
次の瞬間には、俺達は雲の上まで上昇していた。
「あれ、ノンフット邸ってどっちだっけ?」
「ん」
「ありがと!」
死にそうなマプティルさんが指さした方向へ、急発進。
キイイイイイイン!
ジェット機みたいな音がしてきた。
「もうすぐ着陸するから、用意してね!」
「んー(最初から何もできねーよ)」
「ヨッ!」
ダァン!
破壊音がして、知らない建物の中に着地した。
ボロボロになった三半規管を立て直しながら、テトレディさんに質問する。
「こ、ここは?」
「ノンフット女爵の邸宅だ」
答えたのは、テトレディさんの溌剌とした声ではなく、暗く低い声だった。
クラクラしていて気づかなかったが、いつの間にか貴族のお抱え騎士らしき人達に囲まれていた。
槍を突き出し、いつでも殺せるようにしている。
「もうヤダ……ホントこの人なんなの?」
「誰だ貴様!?」
「私はテトレディ! この国の第七騎士団の団長よ!」
「なっ……」
予想外のビッグネームに、囲んでいる人たちに動揺が走る。
「デタラメよ! 騎士が壁を壊して侵入するなんてありえないわ!」
「そうそう!」
「ラギナ君は私が本物って分かってるよね……?」
本物か疑わしい行動ばかりしているからでは?
「新聞で顔くらいみたことあるでしょ! それとも、私の芯界を見たいの?」
「ッ!」
「とりあえず、ノンフット伯に会わせなさい! こっちにはアークエス伯爵のご息女がいるのよ!」
「勝手に人の名前使うな! あと俺ご子息!」
書くことが無い。
あ、十日後の東海岸の巡回は第七騎士団です。