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芯界  作者: カレーアイス
第一章 少年編
6/72

捕まった義賊はただの盗賊

  黄金の戦艦が消え、目下に薄い雲と緑の富んだ山。そして、アリのように小さく山賊の影が見える。


「ヨッ」

「一番乗りはアタシだァ!」


 別室にいた騎士団百人が、文字通りスカイダイビングで、山賊の群れの中に突っ込んでいく。

 ……あの勢いと指揮なら、負けることは無いだろう。

 問題は、俺が生きて地面に立てるかだ。


「やってやろうじゃねえか、リベンジ!」


 前回と同じく、硬度の低いアメを取り出しクッションとして地面に放つ。

 さらに、今回は騎士団の方々から着想を得て、アメのパラシュートを展開した。

 即時の強度が足りず、二回失敗したが、三回目で減速に成功する。


「ヨシッ」

 

 二つの方法を合わせて、首尾よく着地した。

 丁度草むらの中だったので、隠れながら辺りを見回すと、芯界の存在を示す光点が多数輝いていた。


 できれば力になりたいが、どう考えても足手まといにしかならないだろう。

 まあ、俺の仕事は雑務。戦闘はしなくてもいいだろう。


(これなら、お茶でも入れておいた方が役に立てそうだな)


 アメを溶かしてジュース……とかはマズそうだからやめておこう。

 配る分アメを用意するくらいでいいか。


 そのうち、芯界の点からポツ、ポツと山賊と思われる奴を縄で縛った騎士団員が出てきた。

 時に、二対一などで騎士団員が負けたのもあるが、テトレディさんとベディヘロペアさんが代わりに叩く。

 ものの数分で、騎士団は盗賊を制圧した。



◎◎◎



「アメが欲しい人はいますか?」

「あ、私欲しい」

「どんな味がいいです?」

「酸っぱいやつ」

「どうぞ」

「ありがとう……雑用の、ラギナ君だっけ?」

「はい、そうです。なにか雑用があったら請け負いますよ」


 騎士団の方々に、アメを配っていく。

 やっぱりアメは素晴らしいな。


 みんなに配り終え、一仕事終えたと汗を拭っていると、急に体を持ち上げられた。

 背後を見ると、予想通りベディさんが立っている。


「来い」

「……訓練?」

「違う。いいから来い」


 この人なら、「授業料を貰うために、今から殺り合う」とか言いかねないので、安心した。

 言われた方へ行ってみると、テトレディさんが山賊の長を尋問していた。


「見ておけ、テトレディのやり方を」

「もしかして、授業料入ります?」

「……いいから見とけ」


 入るんだろうなぁ。

 まあ、意地汚い部分はあるが、これでも勘定はしっかりする人だ。それなりに役に立つだろう。



 さて、テトレディは山賊の長と……拘束を解いて、同じ目線で、話していた。


「言っとくけど、抵抗しても無駄だからね。私の方が五億倍強いから!」

「そうだろうねぇ。で、話って?」

「まずは、互いのことを知りましょう! 私はテトレディ・ジャスフィ。この国の第七騎士団の団長よ」

「……アタシは、スリーズ・スティー」

「よろしくね。じゃあ、質問一。あなたが山賊になった理由は?」

「ハハハッ! 騎士様が、そんなこと聞いて何するって言うんだい?」


 スリーズとやらは笑い飛ばしたが、テトレディさんは真面目に聞いていた。

 その気迫に気圧されて、スリーズも真面目に話し始める。


「まあ、よくある理由だよ。金が無いから、盗むしか生きる(すべ)がなかった」

「色々省略してるね。お金が無いのは、誰?」

「……うちの村のみんな」


 彼女は、観念したように全てを話し始めた。

 彼女、というかこの山賊のほとんどの人は、ノンフット領の辺境にある、とある小さな集落の出身らしい。

 人口百数十人程度の、本当に小さな田舎の村だが、楽しく生きてきたらしい。

 だが、十年前、ノンフット子爵家の当主が代替わりしたときに、こういった辺境の村にのみ、重税を課すようになったらしい。

 そのせいで、生活すらままならなくなり、その結果、大商会や貴族から盗賊行為をし、その成果物を貧困に(あえ)ぐ人に配るようになった。


「つまり、義賊みたいなもの、ってことですか?」

「捕まった義賊は、ただの盗賊だ」

「なんすかその謎理論」

「そこ、静かに」


 ベディさんと話していると、マプティルさんに止められた。

 彼女は、また本を読んでいる。


「っていうか、何を読んでいるんです?」

「彼女、スリーズ・スティーの、人生の断片」

「……え?」


パタン


 読み終えたのか、マプティルさんは、辞書のように厚いを閉じた。


「どうだった?」

「中々面白かった。特に盗賊編」

「感想じゃなくて、真偽」

「この本の限りは、事実」

「オッケー」


 マプティルさんの話を聞いたテトレディさんは、少し考えてから立ち上がった。

 縛られている盗賊たちの方へ行き……彼女の判断を話す。


「私はこの騎士団の団長、テトレディ。事情を聞いた結果、あなた達は悪くないと判断したから、逃がすことにするね!」

「は!?」


 いや、分からなくもないけど……それでいいの?

 しかし、困惑してたのは俺と盗賊だけで、騎士団の方々は「今回はそうなったか」くらいの反応だった。

 ……もしかして、これが通常運転?


「まあ、無罪放免はできないから、頑張って国外逃亡してね。十日後、東海岸の警備が薄くなるから、自力で海を渡りなさい!」

「……?」

「道中捕まったりしても、助けないから!」

「……」

「じゃあ、後は任せたよ、ベディヘロペア!」

「わーたよ。あ、ラギナの奴はそっちに行かせてくれ」

「……意外と面倒見いいよね、ベディヘロペアって」

「うるさい。さっさと行け」

「はーい!」


 あっけに取られていると、テトレディさんに軽く抱えられた。


「……はえ?」

「喋ってると、舌、噛むよ」


 振り向いてみると、もう片脇に抱えられたマプティルさんがいた。

 干された洗濯物のようにぐったりしており、どこか諦観しているように見える。

 まぁ……そういうことだろう。

 抵抗しても逃げられる気がしないので、歯を食いしばった。


「よし、行こう!」


 テトレディさんの背中にジェットパックが現れ、浮き上がると同時に、もの凄い重力がかかる。

 次の瞬間には、俺達は雲の上まで上昇していた。


「あれ、ノンフット邸ってどっちだっけ?」

「ん」

「ありがと!」


 死にそうなマプティルさんが指さした方向へ、急発進。


キイイイイイイン!


 ジェット機みたいな音がしてきた。


「もうすぐ着陸するから、用意してね!」

「んー(最初から何もできねーよ)」

「ヨッ!」


ダァン!


 破壊音がして、知らない建物の中に着地した。

 ボロボロになった三半規管を立て直しながら、テトレディさんに質問する。


「こ、ここは?」

「ノンフット女爵の邸宅だ」


 答えたのは、テトレディさんの溌剌(はつらつ)とした声ではなく、暗く低い声だった。

 クラクラしていて気づかなかったが、いつの間にか貴族のお抱え騎士らしき人達に囲まれていた。

 槍を突き出し、いつでも殺せるようにしている。


「もうヤダ……ホントこの人なんなの?」

「誰だ貴様!?」

「私はテトレディ! この国の第七騎士団の団長よ!」

「なっ……」


 予想外のビッグネームに、囲んでいる人たちに動揺が走る。


「デタラメよ! 騎士が壁を壊して侵入するなんてありえないわ!」

「そうそう!」

「ラギナ君は私が本物って分かってるよね……?」


 本物か疑わしい行動ばかりしているからでは?


「新聞で顔くらいみたことあるでしょ! それとも、私の芯界を見たいの?」

「ッ!」

「とりあえず、ノンフット伯に会わせなさい! こっちにはアークエス伯爵のご息女がいるのよ!」

「勝手に人の名前使うな! あと俺ご子息!」


 書くことが無い。


 あ、十日後の東海岸の巡回は第七騎士団です。

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