暴走のD
「お疲れ、二人とも」
「うん」
「イェー!……それで、奴は来ると思いますか?」
「ああ。十中八九、来る」
事件の犯人にとって、少女の部の初日は狙い目だろう。
そこで、二体のボス系が合体した正真正銘の化物を、ほぼ一人で相手したイースは、間違いなくターゲットになる。
実際は、ラミリの強化もかなり大きいのだが、傍目には分からないだろう。
「疲れただろ、少し休んでから行こう。アメいるか?」
「うん。いつもの」
「ワタクシも」
二人の好みのアメを渡し、俺自身もアメを口に入れた。
今までの芯界強奪は、全て外で行われていた。建物の中にいる限りは安全だ。
数分後、アメを食べ終わったイースは立ち上がった。
「よし、行こう」
「もう大丈夫なのか?」
「あまり遅いと、標的を変えられちゃうかもしれないからね」
「じゃ、行こうZE!」
ほぼ無い荷物を持って、控室の扉を開けると、外に人がいた。
一瞬身構えてしまうが、「もしこの人が犯人でも、姿は見せないか」と思い直し、警戒を解いた。
「どうしました?」
「最近物騒ですから、選手は家の近くまで警護することになりました」
……さすがに、警察側も無対策では無いか。
囮でもない人には、警護を付けて襲われないようにする。
とてもありがたいことだが、今の俺達にとっては邪魔だ。
「あなた方は国立学園の寮生でしたよね? では、学園の門までお送りします」
「……あー」
「ソーリー、まだやる事があるから、ちょっと待っててくRE」
「分かりました」
ラミリが適当にごまかして、扉を閉じた。
「……どうしよっか?」
「コッソリ三人で抜け出すしかねーだRO」
「つっても、この部屋から出るには、あの扉を通るしか――」
「フッ!」
ラミリの靴がスケート靴に変化したかと思うと、消えた。
キレイな太刀筋で壁がくりぬかれ、隣の通路に繋がった。
「よし、二人とも捕まRE」
「何も良くないよね?」
「ロックに行くZE!」
俺とイースと両手に、通路にエッジの跡を付けながら、ラミリは滑り抜けていった。
部屋の前で待っていた人に捕まりそうになったが、スピードで置いてけぼりにし、三人だけで建物を出た。
「損害請求されたらどうすんだよ」
「きっとシュヴァリィが払ってくれるRU!」
「……もういいや。作戦に戻るぞ」
多少のトラブルはあったが、作戦に戻る。
町の大通りから、商店街に入った。
まだ来ない。
何回かトラップを掛けられて警戒したのか、奴は最近、一人になった所を襲うようになっている。
平静を装いながら、小声でイースに話しかけた。
「準備は?」
「できてる。いつでもいいよ」
「よし」
作戦実行。
「おなか空いたな。フルーツでも買っていかない?」
「オレっちも食べてE」
「ボクはいいかな、ここで待ってるよ」
「そっか。じゃ、すぐ戻るからなー」
内心はイースのことを心配しながら、ラミリと共にフルーツ屋の方に駆けていった。
「シュヴァリィにドラゴンフルーツでも買って行くか」
「食べれねえけどNA」
「もうすぐ食べれるようになるから」
バタン
背後から嫌な音がして、振り返ると、イースが倒れていた。
服にはひし形の穴が空いており、芯界が取られていることが分かる。
戦いはここからだ。
「頼んだぞ、ラミリ!」
「イエーッサー!」
俺はイースを近くの交番に預けに行き、ラミリは芯界から取り出したスケート靴で地面を滑り、犯人が行ったであろう方向へ向かう。
多分、もうそろそろ。
「ギリィ!」
『ウワッ!』
何もない空間から、金属の腕が現れた。
デメトルーラーが、暴れている。
『何ですか、これ!?』
「逃がさないZE! Iskace on the music!」
『チッUncapeleon』
デメトルーラーの腕をターゲットにして、犯人ごと氷海の世界に取り込んだ。
これで、もう逃げられない。
「この子をお願いします! あと応援呼んで!」
「え、ちょっと、君!」
常駐している警察官にイースを預け、俺も芯界の中に入った。
「Dream of bandy!」
広がっていたのは、ラミリ氷海の世界と、緑に満たされたジャングルの世界。
広大なジャングルの中、一匹の巨大なカメレオンが姿を現し――口を、開いた。
第一印象は、変な人。
顔の半分を、鬼のお面で隠しており、その下の表情は一切変化しない。
代わりに、お面が表情豊かに変化する。
『いやー、まさか自分の生徒に捕まるとは思いませんでしたよ』
「……そういえば、全然自分の芯界を見せようとしませんでしたよね。……ヒルトレイヴ先生』