キメクロプス
「試合開始!」
「Demetrular!」
「Iskace on the music!」
「Cyclobeeps!」
「Chiramera!」
画面左側に広がるのは、鉄くずの世界と氷海の世界。
始まった瞬間に、デメトルーラーは鉄くずを一握り口に入れて、左腕を変形させ――腕の平な部分にディスクができた。
まるで、DJのように、右手でディスクを構えた。
「準備完了!」
「オーケー、ミュージック、スタート!」
それと同時に芯界内に音楽が鳴り響いた。
今回も、オペラ座の怪物。
合わせてラミリも踊りはじめ、デメトルーラーもディスクで音楽に乗る。
一見ふざけているように見えるが、大真面目。
足が無いデメトルーラーにとって、音楽に乗るには、これが一番だったのだ。
「ギィ!」
「いいよ~」
ラミリのルールによって、デメトルーラーのスピードが上がる。
こうして、味方の能力を上げるのも、ルール型の強味だ。
「よし!」
ここ一週間の練習が上手くいっているのを確認してから、相手の芯界を確認した。
まず、眼帯の少女は、まっ平な地平線が広がる世界の中央に、単眼の大怪物、サイクロプスが立っていた。
大きさは、四十メートルくらい。
デメトルーラーで感覚が麻痺しているが、かなり大きいボス型だ。
そして、蛇を巻いていた子は、蛇の軍団かボスだと予想していたが、大外れだった。
外観は、ところどころに水晶がある、綺麗な洞窟のような場所。
その広間に、ライオンの頭、ヤギの胴、ヘビの尾を持つ怪獣、キメラがいた。
「グイアアアアアアアアアアアアアア!」
「ギメアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
二体の巨大怪物の咆哮が、モニター越しでもビリビリと響いてくる。
さらに、二体が向かい合ったかと思うと、急に走り出して激突し――融合。
キメラの能力か。サイクロプスとキメラが混じり合い、一体の巨大な化物になった。
ライオンの頭、ヤギの胴、ヘビの尾があるのは変わらず、胴からサイクロプスの目と腕が生えた、文字通りのキメラが完成した。
「「いけ、キメプロクス!」」
「名前ダサ!」
「ヴウウウウウウウウウウウウウアアアアアアアアアアアアア!」
サイクロプスの頭の角にしがみついた二人が指示を出し、五十メートル級の化物が駆けだした。
狙いは、デメトルーラー。
本来なら、怪物二体の合体は、並みのボス型を蹂躙するパワーがあるのだろう。
しかし、相手が悪い。
「デメトルーラー!」
「ギィ!」
デメトルーラーがディスクで音楽に乗るのを止め、ボクサーのように身体を左右に振り……右腕が、消えた。
音楽で加速した魔王の一撃。
渾身の右ストレートが、ライオンの顔面にヒットした。
まともに食らった怪物は、突き飛ばされ、数十メートル引き下がる。
「ハァ!?」
「チッ、邪眼ビーム!」
「ヴヴィ!」
ライオンとサイクロプスの目が光り、レーザーが照射される。
特に、サイクロプスの目からは、極太のビームが出た。
「ギリイィ」
「ッツ――!」
咄嗟に腕をクロスさせて、ガードの体勢を取る。
しかし、その威力から押され気味。かつ、ビームは超高熱であり、デメトルーラーの腕が溶けていく。
「行け、スネイクヘッド!」
「ジャアアアアア!」
伸びたヘビの尾が、デメトルーラーの腕に食らいついた。
その口から、紫の液体がポタポタと垂れる。
おそらく毒だが、金属には効かなかったらしい。
「チッ」
「オレっちを忘れてんじゃねE!」
その時、天から足を付き出して落ちてきたラミリが、ライオンの頭に刺さった。
大したダメージでは無さそうだが、怯んでビームが止まる。
(サングラスのせいで、技のキレがねえ)
「やれ、強制合体!」
「ヴウ!」
「ウワッ!?」
ラミリが、ライオンの頭に足をうずめたまま、もがいている。
どうやら、抜けないらしい。
いや、それどころか、段々引き込まれている。
「何だ、こRE!? 引き込まれRU!?」
「ラミリ!」
「ギリィ!」
デメトルーラーのアッパーが顎下に刺さり、打ち上げられた拍子に、ラミリが取れた。
「危ねE。サンキュー」
「うん。足は大丈夫?」
「あ、あA。違和感はあるが、問題ねえZE!」
ラミリが、取り込まれそうになった足をブンブン振り回した。
どうやら、生物は強制的に取り込んでしまう力があるらしい。
デメトルーラーも、金属の塊でなければ吸収されていただろう。
「オレっちは近づけねぇNA」
「ラミリは境界に行って、相手の出力を削いで」
「それだと、あの化物を一人で相手することになるけDO」
「……やるよ」
「そっKA。頼んだZE!」
ラミリは、また音楽に乗って加速しながら、境界の方へと向かった。
これで氷海の面積が増し、洞窟と平地が削れれば、あの合成獣も弱体化して、少しはイースも楽になるだろう。
「……そうなる前に、金属野郎を叩く。キメクロプス!」
「ヴヴゥ!」
また怪物の目という目が光り出し、ビームが照射される、直前。
「デメトルーラー!」
「ギィ!」
デメトルーラーが腕を振るうと同時に変形し、細長い槍になった。
射程が一気に変わり、相手の虚を突く。
ヤギの胴体に生えている、サイクロプスの大きな目に刺さり、ビームが止る。
「ヴウウウウウウウウウウアアアアアアアアアア!」
「ギリィ!」
次の瞬間、もう片方の腕も槍になり、ライオンの頭に刺さった。
釘刺しになり、合成獣の動きが止まる。
というか、もう息していない。
「クッ、ヘビ!」
「ジャア!」
「やらせないZE!」
最後の抵抗として、ヘビがイース本体を狙おうとしたが、横からすっ飛んできたラミリが両断。
残った本体の二人はあえなく降参し、俺達は一回戦を突破した。
さて――本命はここからだ。