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芯界  作者: カレーアイス
第四章 芯界強奪事件
42/72

睡眠は二日に一時間

 それから数日後。

 今日は、世界大会予選の最終戦だ。

 これまでの戦績は、九戦九勝。

 相当運が悪くなければ、もう突破できている。


「とはいえ、天の巡りが悪いこともあるし、予選の戦績は公開される。一敗した世界大会の代表なんて、頼りないでしょう?」

「つまり、今日も絶対勝とう、と」

「頑張ろう!」

「イエー!」


 イースとラミリのテンションが高い。

 最初の頃は緊張していたみたいだけど、慣れてきたようだ。


「オーダーはいつもと同じよ。私が先鋒、次鋒にラギナ君とイース君、大将にラミリさん」

「異議なし」


 イースはまだペアがいなければ不安定だし、ラミリの姿はできるだけ見せたくない。

 そうなると、自動的にこの編成になる。


「じゃあ、行ってくるわ」

「ああ」

「頑張って!」


 先鋒のシュヴァリィが、控室を出て試合会場に向かった。

 アメを食べながら、部屋に備え付けられたモニターを見て、試合観戦の準備をする。


「いつも思うけど、どうやって試合の様子を撮ってるんだろう?」

「知らないのか? 透明なドローンを複数台入れてるんだ」

「ドローン?」

「……機械の虫みたいな奴だよ」


 イースの質問に答えている間に、選手が入場した。

 片方は当然シュヴァリィ。

 そして、もう片方は……とてもゴツかった。

 ガタイが良く、筋肉ムキムキという言葉が似合う、レスラーのような少女。


「大丈夫かな、シュヴァリィ」

「いや、筋肉は試合と関係――あるか」

「そういうことじゃなくて」

「始まるZE(ゼィ)


 審判が勢いよく手を振り降ろし、選手が芯界を宣言する。


「始め!」

Firester(ファイアスター) Dragavolc(ドラガボルク)

Gualouc(ガーロウク)


 俺たちから見て、左側が火山の世界になった。

 シュヴァリィのドラゴンが飛び出し、瞬時に陣形を組む。

 だが、見慣れた俺からすると、その動きはやや精彩を欠いているように見えた。


 そして、右側。相手の芯界は――中央に大きな岩がある、砂漠。

 その様子を見て、俺の頭が一番に思い浮かべたのは、オーストラリアにある世界一大きな岩、エアーズロック。

 雄大な光景に、ちょっと感動していると、その岩が動き出し……人型の巨大岩石、ゴーレムになった。

 相手の本体は、岩の内部に隠れているのか、姿が見えない。


「ボス系、岩のゴーレム。……火がほぼ効かない分、割と不利だな」

「頑張れ、シュヴァリィ」


 固唾を飲んで見守る中、先に動いたのは、シュヴァリィ。

 対ボス型の基本通り、部隊を幾つかに分け、ゴーレムを取り囲む形で散開した。

 そこから、遠距離からのブレスで陽動。隙を見て、岩の割れ目に打撃を繰り返す。

 

 見たところ、ゴーレムはかなり硬そうだが、動きはとても遅い。

 いつものシュヴァリィなら、華麗にドラゴンで掻きまわし、パーフェクトゲームで終わらせてもおかしくないのだが――


「あっ!」


ダァン!


 シュヴァリィの指示ミスによって、一部隊がノロい腕の振り降ろしに捕まり、死んだ。

 彼女は俺よりずっと器用に軍団を指揮するので、百体のドラゴンを十の部隊に分けている。

 なので、一部隊がやられてもまだ余裕はあるのだが――どうにも、らしくない。

 そうしているうちに、また一部隊が落とされた。


「どうしたんだ、シュヴァリィは」

「……過労だよ」

HA(ハァ)!? そんなミスをするヤツじゃねーだRO()!」


 ……事件の調査に精を出していることは知っていたが、過労で体調を崩すほどとは。

 そういえば、最近彼女が寝ているのを見ていない気がする。


「シュヴァリィの、最近の睡眠時間は?」

「……三十分」

「「ハァ!?」」

「正確には、二日に一時間だよ」


 ショートスリーパーの体質なのか、元から一日に四時間程度しか寝ないせいで、気づかなかった。

 どうして言わなかったのかと、イースを問い詰めようとしたが、彼女の顔を見てやめた。

 シュヴァリィのことだから、念入りに口止めしていたのだろう。


 試合では、もうドラゴンが数えられる程度にしか残っておらず……何より、芯界が(かす)れて消えかけていた。

 意識が薄れている証拠だ。


「それまで!」


 危険だと判断した、審判さんのストップが掛かかる。

 初めて、チームシュヴァリィが敗北した瞬間だった。


「ッ!」


 控室から飛び出し、会場に向かって走った。

 一瞬で辿り着き、崩れ落ちるシュヴァリィを受け止める。


「ラギナ君……ごめんなさい」

「ごめんじゃねえよ、このバカ」


 珍しく塩らしいシュヴァリィに、こちらも珍しく声を荒げた。

 驚いたのか、閉じかけていた目が開く。


「今、何に対して謝ったんだ?」

「当然、負けたことに対して」

「俺は、倒れるまで無理をしたことに怒ってるんだ!」

「……」

「体調管理もできない奴が、王になれると思うなよ」

「ごめん、なさい」

「……もういい、寝てろ」


 シュヴァリィは、俺の腕の中で眠ってしまった。


「シュヴァリィ!」

「大丈夫KA()!?」


 遅れて、イースとラミリもやってきた。

 就寝したシュヴァリィを見せて、状況を説明する。


「……辛い時に説教しちまった。後で謝らないと」

「仕方ねーよ、このアホにHA()

「ラミリ、任せてもいいか?」

「オーケー」


 シュヴァリィを抱えたラミリは、ローラースケートで控室に戻っていった。

 ……あ、体調回復にアメをあげるのを忘れてた。

 試合が終わったらあげよう。


「えっと、そちらの二人が次の試合の出場者ということでいいですか?」

「あ、はい」


 審判さんの質問に、イースが答えた。

 照合を終え、オーダー通りの順番であることが確認される。

 その時、相手の姿が見えた。


 俺の正面に立った方が、小学生くらいの背丈に、麦わら帽子を被った、野原を走っていそうな少女。

 その手には雑草――が握られており、彼女は無表情にそれを口に入れた。


 「きっと俺が知らない野菜なんだ」と自分を納得させ、イースの正面に立つ人に注意を移した。

 信じがたいが、変わっている度でいうと、こっちの方が高い。

 なにせ、足を使わずに、手で。

 逆立ちの状態で歩いているのだから。


(草食に逆立ちって、キャラが濃いなぁ)


 俺の勘だと、キャラが濃いほど強くなる傾向にある。

 気を引き締めて掛かろう。


 そこまで考えた時、審判の人が前に出て、俺達の間に立った。


「準備はよろしいでしょうか」

「「「「はい」」」」

「では、開始」

Dream(ドリーム) of(オブ) bandy(バンディ)!」

Demetrular(デメトルーラー)!」

Graserct (グラサークト) howing(ホーウィング)!」

Don’t(ドント) like(ライク) footurn(フッターン)!」


(……芯界の宣言で話を切れるの楽でいいなぁ)

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