着地は任せた、アーメー!
修行を開始してから数週間。
大分食らいつけるようになってきた。
「撃て!」
「飴壁!」
砲撃の群れが訪れるが、アメの壁で受け止める。
完全に固めず、粘性を保つことで、安全に衝撃を殺しきった。
「今度は、こっちから行きます!」
壁からせり出した砲身から、アメの弾を放った。
火薬を使っていないので、スピードは無く、大砲に撃墜されてしまうが、想定どおり。
ポォン!
腑抜けた音が鳴り、アメの弾が弾けて、アメの雨が降る。
威力は保持していないが、大砲に憑りつき、無力化させた。
これで、大分楽になる、ハズ。
ベディさんは嬉しそうに頷き、
「考えたな。なら、これはどうする?」
主砲が、熱を帯びる。
アメを溶かし、黄金がさらに鮮烈に輝いた。
「ウソだろオイ!」
「ゴールデン・レーザー!」
ジュッ
分厚い、列車の様な壁を築いたが、瞬時に溶解。
アメを使い、カタパルト方式で自分を打ち出すことで回避した、が――それを完璧に予測した砲弾に被弾し、失神した。
冷水を被り、俺は目を覚ました。
「中々良かったが、熱に弱いのは課題だな。あと、そろそろ近接戦闘も訓練した方がいいかもしれん」
「……ですね」
気分治しに、新しいアメを口に入れ、立ち上がった。
「もう一度お願いします」
「今日はこれだけだ」
「え、マジで!?」
おっと、いきなりのことで敬語が崩れてしまった。
まあ、修行が始まってから、一日中ボコボコにされる日々だったし……喜んじゃうのもしょうがないよね。
ベディさんは俺の様子に溜息をついてから、話を続けた。
「実は騎士団の方の仕事が入ってな。ここを離れなきゃいけなくなった」
「ええ!?」
「目を光らせるな」
ジト目で見られたが、なんとか笑顔で誤魔化した。
しかし、ベディさんはすぐに俺以上に笑顔になり、
「だから、先輩に、仕事に同行させていいか聞いたら、余裕で許可された」
「え?」
「あと、団長に頼んだら、見習いにしてくれた」
「えっ?」
「行くぞ、王都へ!」
「ええええええええええええええぇぇぇ!?」
芯界から、ベディさんの戦艦が出て来て、空を飛んだ。
「アレって空も飛べたのか」と驚愕しつつ、逃げようとしたが、もう手遅れ。
首を掴んで無理やり戦艦に乗せられ、結局行くことになった。
◎◎◎
「見えてきたぞ」
「うえぇ」
戦艦は、最初の方はノロノロとしていたが、次第に加速し、最後の方は凄まじい速度になっていた。
車で一日半かかる所を、三時間で踏破したと言えば、そのスピードが分かるだろう。
やっぱこの人ヤバい。
さて、話には聞いていたが、ドゥリター王国の王都は想像よりずっと混沌としていた。
中央の城は普通(?)だが、所々高層ビルが立っているうえ、飛行船が飛び交っている。
かとおもいきや、普通に木造の建築物群があり、ほとんどの道は舗装されていないと、チグハグさを伺わせる。
「意味わからん」
「そういうもんだろ」
現地人からすると、そんなものなのかもしれない。
「さて、これ以上町に近づくと撃墜される。ここからは歩いてくぞ」
「え、撃墜されるんですか?」
「……いや? 余裕で突っ切れるが?」
「撃墜されるとこ見たかったのに」
「そうか、突っ切って欲しかったか」
「いえ、そこまでは言ってません。……言ってない言ってない言ってない!」
一時停止ていた戦艦が、進行を再開した。
王都の防壁を越え、中央の城を目指す。
その時、城壁から砲撃が放たれ、船底に穴を開けた。
俺、この船傷つけられたこと無いんだけど。
「ヤバいっスよ! ヤバいっスよ!」
「いやぁ、私は降りていきたかったけど、アークエス伯爵家のお嬢さんに頼まれたらなぁ。仕方ないなぁ」
「俺のせいにする気だァ!」
ガッ、ガァン!
さらに攻撃を受けて、戦艦が揺れる。
「速く、速く行きましょう!」
「流石私の弟子、もう覚悟を決めたか」
戦艦は速度を上げ、王都の上空を突き進む。
そして、遂に城の上空に到着したかと思うと、ベディさんは唐突に戦艦を消した。
当然、俺達は落下する。
「……着地する手段ありますよね?」
「無い」
「何やってるんですか!」
「お前が対処しろ。強度調整したアメをクッションにしてな」
「……」
「こういう時でも鍛錬を忘れない師匠の鏡」
「ウオオオオオオオ!」
本気でやる気が無いと見え、胸に手を置き、芯界からアメを取り出す。
まだ高度があるので、量を優先。
ある程度の粘度にして、城の天井にぶつけた。
ヌン
ファーストタッチは良好。アメが硬すぎて、死因が「飴に衝突した」になることはなかった。
後は、着地までに勢いを殺し切れるか。
「ッ!」
かなりのアメを突っ切ったが、止まらない。
水性を高め過ぎた! このままじゃ――
「まあ、八十点ってところか」
最後の最後は、ベディさんが黄金の水を出して止めた。
「……着地する手段、無いって言いましたよね?」
「使う気は、無い、と言ったんだ。気が変わった。あと、お前を巻き込みたかった」
「……」
「これでお前も共犯者だ」
「あああああああああああああ!」
何から何まで、この人の掌の上だった。
王都の無断飛行。国防にも関係することだし、割と重罪だったような……。
俺が後悔していると、何者かが城の天井に現れた
綺麗な銀髪。
スラっとした体格と、パッチリとした意思が強そうな目、「これぞ騎士!」というような、銀の鎧を纏っている。
何より目を引くのは、彼女が背負う、旗の様なマントだった。
「またやっているの!? ベディヘロペア!」
「ヤッベ、一番ヤベェ奴に見つかった」
新たに現れた人を見て、ベディさんは珍しく焦りを見せた。
俺を雑に置いて、背を向けて逃げようとしたが、背中に飛び蹴りを食らって倒れ込む。
さらに、うつ伏せになった所に、畳みかけるように踵落とし。
ベディさんは「ヴッ」と断末魔を上げた後、動かなくなった。
「もう、今回はこれくらいにするけど、次やったら罰金だからね!」
「待って、金だけは……」
「ならやらないこと!」
一連の説教を終えた後、白銀の彼女はボウっと立ち尽くしていた俺に向き直った。
「あ、あのー」
「気にしなくていいよ。どうせベディヘロペアが勝手にやったんでしょ」
「……!(コクコクコク)」
話が分かるで良かった。
「あなたがラギナ君?」
「はい。そうです」
「私はテトレディ・ジャスフィ。第七騎士団の団長だから、ベディヘロペアの上司にあたるわ! よろしくね!」
「よろしくお願いします」
銀の籠手を外して、差し出された手を握り、握手した。
……ハイテンションな人だなぁ。
「さて、あなたは第七騎士団の見習いってことになってるから、私の指揮下に入ってもらうね。大丈夫、主な仕事は雑用だから」
「分かりました」
「あと、近接戦闘の講師は私がするから」
「……え?」
……急に笑顔が怖く見えてきた。
「とりあえず一回やっとく?」
「い、いえ、長旅で疲れてるので」
「そっか……」
テトレディさんは、残念そうに顔を俯け、胸に手を当てた。
「じゃあ、今日は一回だけね」
「そういえばこの人、ベディさんの上司だったなぁ!」
「いくよ! Grandun!」
「Dream of bandy!」
テトレディって名前良くない?
芯界の物は取り出せます。
取り出し過ぎると、存在基底がすり減って、自分の存在が薄くなり、体調が悪くなる。
戦艦とか出てるのは、ベディヘロペアがおかしいだけ。
これからは12時台と18時台の一日二話投稿でいくつもりです。
忘れてたら一時間くらい遅れることもあるかもしれません。
感想や高評価があったら、作者のモチベが上がって更新が早くなる。言い切ろう、なる。