芯界強奪事件
「イエーイ、オレっちの勝利だZE!」
「ごめん、負けた」
芯界を解除して、現実の世界に戻った。
一部始終を見ていたシュヴァリィが、呆れたように正座した俺を見下ろす。
「正座なんてしなくていいのよ」
「そう?」
「主として情けないと思うけど」
「すみませんでした」
負けたこと自体は別にいいのだが、問題はその内容だ。
そんなに実力が離れている訳では無いのに、ワンサイドゲームに終わった。
その原因は――
「攻めるのが遅すぎる」
「おっしゃる通りです」
「アメを作るのに集中し過ぎて、徐々にスピードが上がっていることに気づかなかった」
「耳が痛いです」
アメが増えていくのを見るのが、楽しくて、つい魅入ってしまった。
悪い癖なのは自覚しているが、中々治らない。
「ま、まあ反省会は置いといて、まずはラミリだ」
「……」
不服そうなシュヴァリィを置いて、ラミリと向き合う。
「付き合ってくれてありがとう。スケート上手いね」
「そうでしょう。学園に入る前は選手で、世界大会で優勝しましたから」
「……何ですか、その喋り方」
「淑女だからNE!」
お嬢様なのかチャラ娘なのか分からない。
スケート関係になると、お嬢様になるのだろうか。
まあ、いいや。本題はそれじゃない。
「ラミリ、その実力を見込んで、頼みがある」
「なんだI?」
「俺達と、芯界戦闘の世界大会に出てくれないか?」
ラミリがシャボン玉を吹かし、シュヴァリィが俺をキッと睨む。
吹いたシャボン玉を割ってから、話し出した。
「もう閉め切られてなかったっKE? 来年の話?」
「いや、今年の話だ」
「まだ言ってなかったわね、私はシュヴァリィ・ドゥリター・ユートロン。王族だから、ある程度融通が効くのよ」
「……なるほどNA。噂の第二王女様だったKA」
「私は反対よ。だって――」
「もうラミリしかいないよ。さすがに本戦になったら、エントリーシートを書き換えるとかできないだろうし」
本戦のリーグが始まるまで、あと二週間。
その間に、ラミリ以上に強い人が現れる可能性は、ほぼ無い。
「うーん、出場すること自体は、やぶさかではないんだけDO――一つ条件を付けさせてもらうZE」
「……その条件とは?」
「安心しな、オレっちを仲間にするなら、前提条件みたいなもんDA」
再度シャボン玉を吹かし、サングラスを外してから、ラミリは口を開いた。
「私の冤罪事件の、真犯人を捕まえて下さい」
「……冤罪事件?」
「そうだZE。オレっちが十七歳であることはいったよNA? 同学年なのに、どうしてラギナより二つも年上だと思U?」
「そりゃ、浪人とかじゃ……」
「捕まって、牢の中にいたんだYO。……芯界強奪事件って、知ってるかI」
「聞いたことくらいは」
「私が解説するわ」
成り行きを見守っていた、シュヴァリィが一歩前に出た。
頭の中の本を読み上げるように、事件の概要を説明する。
まず、事件について知るためには、ある予備知識が必要になる。
芯界は、人から取り出すことができる、ということ。
取り出すと、芯界はキラキラ光るビー玉のような小さな玉になり、自由に持ち運べる。
そして、芯界を失った人は、死にはしないが、植物状態になってしまう。
目を覚ますには、芯界を戻すしかない。
まあ、そんなに簡単にできることではない。
芯界を取り出すためには、先代文明のオーパーツ『芯獲りの槍』が必要になる。
世界に数本しか残っていない、超貴重な槍だ。
その槍で、心臓の辺りを一突きすれば、芯界が取り出せる。
「とりあえず『芯界を奪われるとヤバい』と把握できてればいいわ」
「はーい」
「じゃあ、次に事件の話といきましょうか」
二年前、王都で次々と市民の芯界が奪われ、植物状態になる、という事件が起きた。
半年で、約二百人が被害に遭い、警察が全力を注いで犯人を追ったが、捕まえることはできなかった。
芯界の探偵能力や、常時は禁止されているオーバーテクノロジーを使ったが、それでも犯人を暴くことはできず。
全ての人がお手上げ状態になった時、一つの匿名通報があった。
学園のとある学生が、取り出された芯界を持っていると。
デマではないかと訝しみながらも、その学生の部屋を捜索してみた結果、芯界のビー玉が見つかった。
その他にも、禁止されている光学迷彩なども発見され、アリバイにも矛盾が無く、何より、ラミリを拘束した途端に、事件が怒らなくなったので、犯人と断定された。
「その学生というのが、オレっちってワKE」
「……なるほど?」
「けど、この事件には、未解決の部分がいくつもあるわ。犯人……ラミリさんは、肝心の芯獲りの槍と、芯界のビー玉の半数を所持していなかった。だから、共犯者がいると見られているわ」
「実際は、オレっち何もやってないけどNA」
確かに、物的証拠ばかり、それも押し付けられるものだし、おそらく、警察も本当にラミリが犯人だとは思っていないだろう。
どうしようもない事件に対して、市民の溜飲を下げるために、逮捕しておいた、といったところか。
「でも、そんな大事件を起こしたことにされてるのに、よく二年で出てこれたな」
「一般にはまだ知られていないけど、最近、植物状態になる人が増えているのよ」
「それって――」
「十中八九、芯界を抜かれてるわ。二年前の事件が再発してる」
「どうせ普通に探しても見つからないから、オレっちを逃がして、共犯者が接触しないか見張ってるのSA」
なるほど。
よーく気配を探ってみると、こちらを探っている者がいる……気がする。
「つまり、警察が全力で捜索しても見つからなかった犯人を、捕まえろと。……無理じゃね?」
「なら諦めるこっTA。言っとくが、事件を解決しないと、チームに大犯罪者がいる』ということになRU。第二王女がに悪評が立つだけだZE」
……さすがに、王座を狙って世界大会に出ようとしていることくらいは、見抜いているか。
依頼は冤罪を晴らすことだが、真犯人を捕まえなければ、世間が納得することは無いだろう。
未来の超オーバーテクノロジーでも捕まえられない相手を、捕まえると。
食べ終わったアメを取り替えてから、答えを伝えた。
「……いいぜ、やってやろうじゃねえか」
当ては無いが、やってやる。
どちらにしろ、ラミリ以上の人材が見つかる事など無いのだ。
……なんだか、ゲームのクエストを思い出した。
その時、後頭部をデコピンで叩かれた。
「主人兼チームリーダーに黙って、安請け合いしないでちょうだい」
「テヘッ」
「……まあいいわ。上手くいけば、私の評判を上げることにも繋がるでしょうし」
「未だ植物状態の百人を助けたいらしいです」
「黙りなさい」
「ギブギブ!」
背後から首を絞められ、必死に抵抗する。
割とある胸が当たっているのが、気まずかった。
「クク――フフフ」
その様子に、ラミリが笑いを漏らし、シュヴァリィの力が緩む。
ラミリは、ひとしきり笑った後、サングラスを取り、片手を差し出した。
氷のような、儚い水色の瞳が輝く。
「では、協力してもらいましょうか。今世紀最悪の犯罪者の確保を」
「……任せとけ」
俺は、差し出された手を握った。
分かりにくい……分からない部分があったら、質問してください。
芯界⇒心臓にしたら分かりやすいかも?
街を歩いてたら、心臓を抜かれる事件が多発。
警察が能力を駆使しても見つからない。
ラミリが被害者の心臓を持ってた。
けど、ラミリは心臓を抜く道具を持ってない。
警察「不可解な点は多いけど、とりあえず逮捕しとくか」
マプティルの「過去を見る芯界」とかもありますが、見れるということは改竄もできるということなので、決定的な証拠にはなりません。