ラミリ・ローグレシル
次の日、軍学科の授業。
「……あ、昨日はどうも」
「YO!」
いつもの席にシュヴァリィと座っていると、ローラースケートの昨日の少女が教室に来ていた。
昨日はドタバタしていたので、しっかりと容姿を観察し直す。
一番目立つのは、シャープな黒のサングラス。
普通は怖い印象になるのだが、童顔のお陰か、どちらかというと可愛らしい印象を受ける。
そして、シャボン玉のストロー。
昨日はただ咥えているだけだったが、今日はしっかり(?)ポコポコとシャボン玉が出ていた。
「……目に入ったら危なくない?」
「特殊な器具を使ってるから、大丈夫だZE」
薄い水色のロングツーサイドの髪型に、ローラースケートで分かりにくいが、かなり身長が高く、特に足が長い。
サングラスとシャボン玉でふざけていなければ、綺麗なお姉さん枠になっていたと思う。
問題は、どう考えても、授業でこの人を見たことが無いことだ。
(今はもう六月に入る頃。……この人単位大丈夫か?)
「隣いいかI?」
「どうぞ……名前聞いていい? 俺はラギナ・アークエス。こっちはシュヴァリィだ」
「よろしく」
「オレっちラミリ・ローグレシルってんDA! 17だけど、タメ語でいいZE。よろしくNA!」
17……一年目にしては高いな。
学園の入学年齢は15から17。
上の方の年齢制限がある理由は、勉強で一生を終える悲しいモンスターを生み出さないためだ。
この人は二年浪人したのか、思い立ったのが16の時だったのか。
考えていると、俺を挟んで隣の、シュヴァリィが身を乗り出した。
「ローグレシルって、子爵家の?」
「その通りだZE。ま、縁切りされてっけどNA」
「ラミリ・ローグレシルって……まさか!」
……縁切りって、何をやらかしたんだ?
少し怖くなって、シュヴァリィの方に身を寄せた時、丁度ヒルトレイヴ先生が教壇に立った。
『はーい、席についてー。みんなのアイドル、ヒルトレイヴ先生ですよー』
「無表情なんだよなぁ……」
『今日は、言っていた通り、系統ごとの運用法の話の、続きといきましょうか。前回配った資料を出して下さい』
先生は資料を片手に、ホワイトボードに何か書き始めた。
話が始まる前に、鞄から資料を取り出して、机の上に置いておく。
「センセー、前回いなかったんで、資料持ってねえっSU」
『隣の人に見せてもらって下さい』
「ラギナー、見せてくRE」
「どうぞ……アメもいる? 色々味あるけど」
「渋いやTU」
「ほい」
緑色のアメを渡すと、一旦ストローを離して、アメを咥えた。
背中から視線を感じるので、シュヴァリィにもいつものをあげ、前を向く。
『まず、戦争の大半は遠距離武器の打ち合いです。芯界戦闘が起こるまで接近することは、ほぼありません』
今回の内容は、あまり聞かなくてもよさそうだ。
現地に行ったことがある俺は、肌感覚で大体分かる。
なので、もっと重要なことをすることにした。
「ラミリに、頼みたいことがあるんだけど」
「なんだI?」
「これがこれが終わったら、ちょっと手合わせしてくれない?」
一瞬、彼女の手が止まったが、またスラスラと動き出す。
俺と目を合わせないまま、返答した。
「まあいいけどYO。どうしTE?」
「不審者二人を、数秒で片づける、あなたの実力が気になって」
「不意打ちしただけだZE」
「だとしても、立ち振る舞いから、ただ者でないことが分かるんだよ」
ずっとローラースケートでいても、全くバランスを崩さない所とか。
渋いアメが好きな所とか。
心の中で理由を唱えていると、アメを食べ終わったラミリが、ストローを咥え、シャボン玉を吹いた。
キラキラと輝くシャボンが、天井に登っていく。
それを見送ってから、彼女はこちらを向いて、サングラスを光らせた。
「やろうじゃねえKA。オレっちも、久しぶりにガチンコやりたかったんだYO」
「ノリがよくて助か――イテッ」
その時、硬い物が頭に直撃した。
当たったのは、プラスチックのペン。
投げられた方を向くと、赤鬼のお面で顔を半分隠した、ヒルトレイヴ先生が立っていた。
相変わらず表情は変わらないが、赤鬼の面は怒っている時だ。
『ラギナ君、話聞いてましたか!?』
「当然っすよ!」
頭には入ってないけど。
『じゃあ質問! 行軍中に一番意識することは!?』
「芯界を使った緊急避難。危険に気が付いた人が、他の人も巻き込んで、自分の芯界に避難させます」
『……そういえば、元軍関係者でしたね。では次!』
その後の授業は、先生の質問に、俺が答えるだけで終わった。
雑談していた俺が悪いので、申し訳なかった。
だが、答えられることは答える。
◎◎◎
「じゃあ、やろうか」
「かかってこI」
訓練場に移動した俺とラミリは、シュヴァリィに見守られながら、両者とも胸に手を置き、世界を開く。
「Dream of bandy!」
「Iskace on the music!♪」
ラギナ君はよくツッコむので、授業では愛すべきアホ枠になってます。
友達が欲しいから、実はそういうポジションを狙ってたり。