不審者(サングラス&シャボン玉ストロー&黒グラサン)
すみません寝てました
イースと分かれて、シュヴァリィと二人で、王城の方へと歩みを進める。
「で、どうだった? イース君は」
「戦力としては十分。だけど、戦闘慣れしてないから、イース本人を狙われると厳しいな」
「基本は、フォローができるタッグマッチ運用ね。私のドラゴンとは相性が悪いから、相方はアナタに任せるわ」
食べ終わったアメの棒を携帯ゴミ袋に入れ、新しいのを咥える。
シュヴァリィが物欲しそうに見ていたので、同じものをあげた。
「ん――で、イース君の芯界は、コピーできた?」
「ああ。でも、俺が使うとメッチャパワーが低下する……」
「意志薄弱なせいよ」
「言うと思ったよ! まあ、鉄を食っての形態変化が面白いから、そっちメインで運用しようと思う」
鎖以外にも、腕を巨大化させたり、帯電させたりと、中々興味深い。
イースよりも変形が簡単らしいので、俺の性質が出ているのだと思う。
「なるほど、いいんじゃない? で、どれくらいシたの?」
「……最近時間が無いから、まだあんまり練習できてない」
「そういうことじゃ無いのだけれど……まあ、その答えで許してあげるわ」
シュヴァリィが殺気を放ち始めたので、話題を変える。
「宮廷工作の方は、どれくらい進んでいるんだ?」
「もう大体終わったわ。主犯格は爵位の没収、それ以外に加担していた方々には、幾つかの利権の剥奪と罰金が下った。今は味方を増やしている段階ね」
「なるほど。味方はどれくらい」
「想定以上に集まってきてるわ。大きいところだけ言うと、ラームン家、フィズム家、バルトニック家といった所かしら」
「……結構名門だな」
世間知らずの俺でも、よく聞く名前だ。
家の方針的には、派閥に入ってもおかしくないが、それらは――
「第一王女派閥じゃなかったっけ?」
「方針が似てるから、流れて来てくれたわ。第一王女――姉さんは、その地位に胡坐をかいて、城の中で豪遊しているから、名門の学園に入学した私の方が評判はいいの」
「方針百八十度転換とかしたのに?」
「そこは私の説得術の見せどころよ。あと、姉さんには、外国と繋がっているという噂もあるから。それより――気づいてる?」
「当然。香水変えたでしょ」
「……」
「冗談だって。気づいてるよ」
後方十メートル、俺達を付けているヤツが二人。
おそらく、シュヴァリィを狙う暗殺者だ。
「久しぶりだな。最初の頃はよく来てたけど」
「勝てそう?」
「余裕。一般人を巻き込むとマズいし、次の路地を右に曲がろう」
「分かったわ」
路地を右へ、襲いやすいように、人気のない方を行く。
少しずつ、距離が詰まる。
十メートル、九メートル、八メートル……。
「大会の練習にもなるし、二人でやりましょう」
「自分たちを襲う暗殺者相手に? ……まあいいけど」
「じゃあ――」
……もう慣れてきた、シュヴァリィの唐突なキス。
絶好の暗殺チャンスだろうに、驚いたのか、足を止めている。
ジックリ数秒してから、ゆっくり口を離した。
「一応聞いておこう。何でキスした?」
「インクの補充よ。一度やってみたかったのよね、ドラゴン二百体運用」
「えぇ……絶対違うヤツ使ったほうがいいって」
「もしかしたら、信じられない強さを発揮するかもしれないじゃない」
不服だが、暗殺者にバレないよう、スッと胸に手を置いて、芯界をアメから火山に塗り替えた。
「じゃあ、三、二、一で振り返って、同時に二人を巻き込もう」
「了解」
「じゃあ、三、二――」
カー カー
その時、後方から――謎の音がしてきた。
聞き覚えがあるような、無いような、地面を滑走する音。
「……ちょっと待って」
カウントダウンを打ち切り、振り返ると……ローラースケートで、歩道を爆走する少女がいた。
黒いサングラスに、口はシャボン玉を吹くストローを加えている。
その外見に呆気に取られていると、タッと大きくジャンプし、綺麗に回転を決めながら暗殺者を飛び越え、俺たちの間に入った。
「「「「何この人」」」」
「Iskace on the music!」
芯界の宣言。
気づくと、ローラースケートの変人と、暗殺者二人が消え、場には小さな芯界の光のみが残っていた。
「……どう思う? 敵か、味方か」
「私たちの敵だけを、芯界に閉じ込めたのだから、味方ではあるとおもうわよ」
「確かに」
「まあ、本人から聞けばいいだけの話よ」
カッ
話している内に、スケートの人が、気を失った黒ずくめの暗殺者二人の首を、持って出てきた。
改めて不審者と対面し、微妙に緊張する。
だが、それは俺だけだったようだ。
「YO。おたくら不審者に狙われてたZE。気を付けNA」
不審者は変なイントネーションでそう言った。
謎言語で、またもや怯む。
先に立ち直ったのは、シュヴァリィの方だった。
「……まずは、ありがとう。不審者を撃退してくれて」
「気にすんNA」
「こういうことはたまにあるから、後処理は任せて頂戴」
「そうかI? じゃ、頼んだZE」
気を失った暗殺者二人を俺たちに任せて、ローラースケートの不審者は、地平線の彼方に消えた。
ローラースケートは、かなり速かった。
「……名前くらい聞いとけばよかったな」
「いらないでしょ、あんな不審者の」
「どうする、コレ」
「処理はいつも通りよ。誰の指示か聞き出して、然るべき場所につき出すわ」
「はーい」
二人を縛ってから抱え、シュヴァリィの先導に従って歩いていく。
……ローラースケートの彼女とは、また会える気がした。
……ルビ入れる必要あります?