金属の竜と魔王
????視点
「そこまで! チーム、ロボッターズの勝利」
「やったー!」
私は、喜びからチームメイトのメリータに抱き着いた。
相変わらず表情の変化が少ない子だけど、慣れた今なら喜んでいることが分かる。
「これで三回戦出場だよ! 騎士団のみんなになんて言おう!?」
「普通に報告したらいいんじゃない?」
「いや、そうだけどー!」
「早く帰らないと、記者に囲まれるよ」
「うー。まあ、報告とかは、負けてからでいっかー」
ささっと帰り支度をし、簡単に帽子を被って変装して、控室から出た。
あと二人のチームメイトと共に、王都のホテルまで歩く。
「明日のオーダーはどうする?」
「今日と同じでいいんじゃない?」
「変えた方が……ほら、相手がメタって来るかもよ!?」
「でも、今の順番が一番バランスいいし」
「昨日までの試合を見た感じ、特別不利な相手とかはいなかった。だから、変えなくていい」
「そっかー」
うん、やっぱり私に参謀は無理だ。
クルテンに任せよう。
「それにしても、三回戦まで来れるとは思わなかったよ。これもメリータのお陰だね」
「そうそう」
メリータはうちのエースで、一人だけ実力が飛び抜けている。
彼女の機械土竜で一勝し、それ以外のメンバーでなんとか一勝をもぎ取るというのが、いつものパターンだ。
「本当に、いつもありがとうね」
「それはこっちのセリフ。いつもナスティが引っ張ってくれるから、助かってる」
珍しく、メリータが笑った。
それだけで、私は泣きそうになってしまう。
「それと、ナスティ。さっき『報告は負けてから』とか言ってたよね」
「……声マネうまいねー」
「それだと、報告できないよ」
「え?」
「私たち、負けないから」
「……へへ」
メリータの天然発言に、思わず笑みがこぼれた。
他のメンバーからも笑いが起こり、温かい雰囲気に包まれる。
「そうだね。負けないよ、私たちは!」
ドン
その時、メリータから重いものが衝突したかのような、変な音が聞こえた。
反射的に彼女の方を見ると……胸から、キラキラ光る、小さな玉が飛び出していた。
それは、いつも見ている――
「芯界?」
思わず声が漏れた瞬間、玉は、唐突に消えてしまった。
同時に、メリータが突然倒れた。
「え?」
「ちょっと、メリータ!?」
急いで病院に運んだが、彼女が目覚めることは、無かった。
◎◎◎
「Dream of bandy」
「Demetrular」
「Birade sky」
「Heavengel」
足元に広がるのは、アメの広間。
その隣には、そこそこ荒廃した鉄の世界。
「調子は?」
「大丈夫。暴れ出したりはしないよ」
「オーケー。じゃあ、作戦通りに」
準備を進めながら、相手の芯界を観察する。
俺の正面は、雲しかない空中の世界。
そこに、十匹の大きな怪鳥が飛行していて、最奥の怪鳥に、世界の主は騎乗していた。
(かなり数を絞った大軍系。足場が無いのが面倒だけど、魔王の腕なら射程内だし、アメで足場を作ってもいい)
一旦、一人目の考察を打ち切り、もう一人の考察に入る。
イースの正面の方も、同じく空間の元は空。
ただし、相違点として、こちらは雲の上に建物が立っており、地面のようになっている。
そして、芯界の持ち主は、背中に白い翼を携え、空中を飛行していた。
(多分自己強化。この感じからして、天界の再現?)
まあ、関係ない。
何故なら、魔王のパワーで圧殺するから。
「準備できた、行くぞ!」
「うん」
ザッバーン!
アメが大量に吹き出し、池の様に広間に溜まった。
こういった力押しは、あまり好きでは無いけれど、今回は試運転も含んでいるので、やらせてもらう。
大量のアメが、スライムの様にズリズリと地を這い、デメトルーラーへと近づく。
「合体!」
アメがデメトルーラーを包み、鎧に変形した。
だが、これは強化では無い。
どちらかというと、補助輪だ。
「力を出し過ぎたら、俺が止める。だから、思う存分やれ」
「ありがとう。じゃあ、やろうか、デメトルーラー」
「ギリイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァ!」
デメトルーラーが咆哮を上げ、大気がビリビリと振動する。
その轟音と威圧感に、世界の全生物が怯み――その一瞬で、怪鳥が二匹、巨大な金属の腕で捻り潰された。
「ヒィ!?」
「いいよー。力のセーブを忘れずにね」
「ギリィ!」
心無しか、嬉しそうな声だった。
力のままに、次々と腕を振るい、怪鳥を落していく。
「怪物め……死ね!」
飛行している方が、虚空から取り出した弓を引き、イースに向けて放った。
その矢は一本から二本、二本から四本と、倍々に増えていき、無数となってイースに襲い掛かる。
が、その全てを、巨大なデメトルーラーの腕が叩き落した。
「ええー。なんてね」
「ッ――」
影矢のように、隠れていた矢が、腕を避けてイースに向かう。
両腕を既に使っているデメトルーラーでは防げない。
仕方なく、俺がアメを動かしてガードした。
「危ないな。本体狙いには、気を付けろよ」
「うん、ありがと」
「ギイイイイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアア!」
イースを狙われたことに怒ったのか、不甲斐ない自分に怒ったのか、デメトルーラーがブンブンと腕を振り回す。
しかし、相手両者とも、ハエの様に小賢しく飛び回り、中々捕えられない。
まあ、飛んでいるということは、地上にいるよりも避ける選択肢が数倍あるということだ。
攻撃が当たりにくいのは仕方ない。
「ちょっと助けてやるか」
デメトルーラーの右手に、アメを集中させる。
次に右腕を振るった時、飛行している方が、上に回避した瞬間、その方向にアメを伸ばして相手を捕えた。
「ええ!?」
「それズルくない!?」
「鎖でブン殴られるよりマシだと思え」
もう一人の怪鳥に乗っている方も、同じ方法で捕え、無事に勝利した。
◎◎◎
「勝ってきた」
「見てたわ。お疲れ様」
先鋒戦で勝ったシュヴァリィと合わせて、俺たちチームシュヴァリィの勝利だ。
「体調は悪くない?」
「大丈夫。大げさだよ、シュヴァリィ」
シュヴァリィの心配を笑い飛ばして、イースは首にチョーカーを付けなおした。
大分制御できるようにはなっているけれど、一応まだ付けているらしい。
「それに、コレ結構オシャレだと思うんだ」
「そうね。私もチョーカー付けようかしら」
適当な雑談をしながら、控室から退去の準備をする。
「ボクは午後の授業に出るけど、二人は?」
「私は宮廷工作のため、城に寄って帰るわ」
「俺はその護衛」
「そっか。なら、夜ご飯はボクが作っておいた方が良いかな?」
「いいえ、順番通り私が作るわ。楽しみにしておきなさい」
この中だと、シュヴァリィが一番料理が上手だったりする。
なぜ王族なのに、料理ができるんだ……?
相変わらずのハイスペックに慄いている内に、建物を出た。
「じゃあ、また寮で」
「ええ」
「うん」
……なんかこんな時間になったけど、18時投稿の予定です。
前半のナスティ視点書くの忘れてた。