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芯界  作者: カレーアイス
第一章 少年編
3/72

ベディヘロペア・バルトニック

 次の日、俺は父から彼女の仕事部屋に呼び出された。

 コンコンとノックし、返事は無いが、どうせ面倒臭がってるだけなので、中に入る。


 部屋では、一応伯爵のムラザーが、机に突っ伏しながら書類を処理していた。


「なに? 仕事場に呼び出すなんて、珍しい」

「昨日言っただろー。攫われても自分で対処できるように、強くなってもらうって」

「そこまでは言われてない」


 その時、窓から差し込む光が遮られ、どこからかプロペラの音がしてきた。

 何事かと外を覗こうとすると――


パリーン


 窓を蹴破って金色の何かかが入って来た。

 なんかこの屋敷の窓よく割れるな。


「窓を割るな、ベディ。請求するぞ」

「待って! それだけは勘弁!」


 入って来た金の塊は、一人の女性だった。

 高身長に金の装束、全ての指に金の指輪、そして、金の麦わら帽子。

 盗賊かと見間違えるような風貌だった。


「コイツはベディヘロペア、私の後輩だ。コイツから戦いのイロハを学べ」

「先輩、知っているだろうが、私のギャラは高いぞ」

「時給万、その他成果報酬」

「喜んで請け負おう! さあ来い少年」

「ねえこの人なんかヤバい感じがするんだけどおおおおおおお!」


 問答無用で首根っこを掴まれ、窓から連れ出された。



◎◎◎



 行先は、ただのうちの屋敷の庭だった。

 ベディヘロペアと言われた女性は、そこに俺を降ろし、高慢な態度で言い放った。


「改めて自己紹介といこう。私はベディヘロペア・バルトニック。長いからベディでいいぞ。一応この国の第七騎士団の副長だ」

「……僕はラギナ・アークエスです。よろしくおねがいします」


 ペコリと頭を下げて、気合を入れるため、新しいアメを取り出した。


「アメ、いります?」

「いらん」


 少しがっかりしながらアメを口に入れる。


「さて、まずはお前の現状把握としよう。もう芯界は出せるのか?」

「いえ、まだです」


 芯界は人のあり方、性質。不安定な幼少期には無く、五、六歳くらいに生成される。

 前世までの分も考えたら、そろそろ使えてもいい頃ではあるのだが……。


「じゃあ、芯界を出すところから始めるか。目をつぶって、胸に手を当ててみろ」

「はい!」


 自分もついに芯界を出せるのかと、胸を高鳴らせながら、言われた通り両手を胸に置き、目をつぶった。


「心臓の鼓動を感じるか?」

「はい」

「なら、その胸の奥。中心の方へ意識を向けろ」


 頭の中に心臓を思い描きながら、その内へ、内へと意識を向けていく。

 すると――中心に小さな球があった。


「ありました……芯界!」


 自分とベディさんを、小さな玉に引き込み、世界を革変する。

 が――


「ダメみたいです」


 できたのは、ただ真っ白なだけの不気味な世界。

 地平線上には何もなく、ただ白く殺風景な景色だけが広がっている。


「ここまでは行けるんですけど、自分の色がのっていないというか……何もないんです」

「なるほど? ……こんなフェーズあったっけ」

「おい」


 ベディさんは顔にはてなマークを浮かべ、首をかしげる。

 何でこの人、俺の師匠役になったんだろう。


「お前の母が面倒くさがったからだ」

「唐突に心を読まないで下さい。あと、あの人父です」

「まあ、これでも騎士団副団長で、色々教える立場だ。この症状なら、なんとかできる」


 ベディさんは麦わら帽をかぶり直し、上から言い放つ。


「芯界が発現しないのは、お前の存在基底がハッキリしないからだ! 何も考えずフワフワ生きてるからだ!」

「そんなに言います!?」

「考えろ、お前は何のために生きているか!」


 そこまで言うと、ベディさんはそっぽを向いて金の指輪を弄り始めた。

 これ以上言うことは無い、ということか。


「ハァ」


 ベディさんに聞こえるように溜息をついて、一旦芯界から出た。

 そのまま、庭に座り込んで、思考に(ふけ)る。


 自分の生き方。

 何が好きか、何がしたいか、何をするべきか。

 折角二度目の生を得たのだから、前回できなかったことをやりたい。

 前世での悔いは、何かあっただろうか。

 ……前世のことを思い出そうとすると、酷い頭痛がしてくるので、よく思い出せないが――友達が、仲間が欲しかった気がする。

 記憶の断片から、前世はバイト三昧(ざんまい)で人とあまり関わってこなかった。

 その悔いが、今でも心のどこかに残ってる。


「ッ!」


 その時、自分が何かと繋がった感じがした。

 今なら、出来る!


「行きます!」


 胸に手を当て、世界を開く。


「芯界……Dream(ドリーム) of(オブ) bandy(バンディ)!」


 天変地異。

 平和な庭は消え、高貴な城の広間のような空間が出来上がった。

 形は正十二角柱で、至る所にカラフルなステンドグラスが飾られている。


「これが、俺の、芯界?」

「できたか」


 暇そうにしていたベディさんが立ち上がり、コンコンと足を鳴らしたり、壁を叩いてみたりして、空間の特性を把握しようとする。

 その内、何かに気付いたのか、壁の破片を口に入れた。


「これはまた、ずいぶんと趣味に走った世界だな」

「そうですね」


 俺も壁の破片を口にし、現状を把握した。

 この壁、アメでできている。

 おそらく、床も、ステンドグラスも。

 そして、試しに手のひらを床に向け、ゆっくりと上に上げると、床から粘体のアメがせり上がって来た。


 アメを生成し、操る芯界。


「……まあ、戦えないことはないだろう。水を操る強者もいるしな」

「はい」


 試しに、出たアメを刀の形にして固定する。

 形が(いびつ)な上に、軽すぎて使いにくそうだが、練習すればいい武器になりそうだ。

 その様子を見て、ベディさんは何かに納得したように頷き……胸に手を当てる。


「この能力なら、鍛えるのは瞬発力からだな。Goldarseap(ゴルダーシープ)


 広間の半分が消え、黄金の海が誕生した。

 空は黄昏。そして、その中央に浮かぶ一隻の巨大黄金戦艦。

 ベディさんはその甲板に、腕を組んで立っていた。


「そちらこそ趣味が分かりやすい」

「うるさい。防御が遅いと死ぬぞ」


ドォン!


 轟音が響き、アメの床が割れる。

 煙が上がる跡を見ると、戦艦から撃たれたゴールデンボールが刺さっていた。

 威力からして……当たれば、死ぬ。


「うわッ!」

「ガンガン行くぞ!」


ドンッ、ドンッ、ドォン!


 連続して戦艦の大砲から煙が上がり、砲弾の群れが迫る。


「ッ!?」


 何とか床からアメを生成して、操り、壁を作る。

 しかし、その壁は一瞬で粉砕され、俺は吹き飛ばされた。


「死ぬ! 死ぬ!」

「押してくぞ」

「ッ!」


 俺の世界が、アメの建造物が、黄金の海によって浸食される。

 ゆっくりと、俺の空間が狭くなっていく。


「これは……」

「芯界の押し合いだ。これも平行して鍛えてくぞ」


 芯界が衝突すると、世界は真っ二つに別かれる。

 その境界は不定であり、操作し押すことで、自分の芯界を広げ、相手の芯界を狭めることができる。

 芯界は面積が大きいほど出力が上がり、小さいほど出力は下がる。

 実際、芯界が狭まった結果、アメの操作が難しくなった。

 境界の近くの方が、押す力が入りやすく……最後まで押し切られ、芯界が消えると、持ち主は死ぬ。


「クッ!」


 ベディさんは手加減してくれているので、押し返すこともできるが、アメの操作と同時にするのは難しい。


「無理無理無理!」

「どーん!」


 さらに、別角度から砲弾。

 見ると、子機が戦艦から離れて砲撃していた。

 射角が広がり、対応力が足りなくなる。


「ま、初めてにしてはよく耐えた方だ。主砲用意!」


 今までは沈黙を決め込んでいた、戦艦の中央にある、一際大きな大砲が火を吹いた。

 アメの壁を作ったが、足りない。

 威力を殺しきれず、床に着弾し、俺はふっとばされて、気を失った。




「初日だからな。今日はコレをあと三回でいいぞ」

「はーい(絶望)」


 芯界についてまとめ

・自分が有利になる空間

・二つ以上がぶつかると、綺麗に分かれる

・ぶつかっている時「押す」ことで、自分の芯界を広げることがきる

・押す力は、芯界の分かれ目に近いほど強くなる

・芯界が広いほど、出力が上がる

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