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芯界  作者: カレーアイス
第三章 鉄の意思と魂の魔王
27/72

やっぱアメは甘くないと

 ギリギリセーフ!

 今回は、使い慣れたアメの芯界。

 二人の違う能力使い相手に、ドラゴンの軍団を運用できないというのもある。

 面積は、最大時の四割少々といったところ。

 二人相手にしてはいい方だろう。


 さて、相手の方の芯界は――まず、大きい方……面倒だから、大きい方を姉、小さい方を妹と呼称しよう。

 まず、姉の方の芯界は、海。

 強い風が吹いており、少し荒れている。


(多分、海水を操るエレメント……スタンダードなタイプだな)


 妹の方は、幾重にも分かれた川が流れ、コケが地面を満たす、湿地帯。

 川の水は濁っており、その渓流の中、小さな魚が、川から飛び跳ねた。


(川水を操る? いや、にしては川の形状が不自然だ)


 その時、川から一匹の魚が飛び出した。

 さっきと同じ、(てのひら)サイズの小さな魚。

 しかし、その口には鋭い牙が付いていた。


「コイツ、ピラニアかよ!?」

「ビィ!」


 噛みついてきたピラニアの口にアメを突っ込み、床に叩き落した。

 コイツ、大軍系のピラニアを指揮するヤツか。


「厄介な」

「ここからですよ。ラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!」


 姉の方が歌い出したかと思うと、海が、手足の様に動き出した。


「ラララ、海螺旋(シードリル)!」

「何だその歌!? 飴壁(いへき)


 鋭く尖った水のドリルが三つ迫り、それを飴の壁で防いだ。

 壁が少し削れるが、その程度。そこまで威力は高くない――と、気を抜いた瞬間。


「ビィ!」

「ッ!?」


 水のドリルから、ピラニアの群れが飛び出した。

 咄嗟に床からアメを生み出して呑みこんだが、一匹逃してしまい、腕に噛みつく。


「ビビビ!」

「ってえなあ!」


 直ぐに殴って剝ぎ取ったが、口の形の肉が剝ぎ取られた。

 すぐにアメで止血したが、これが繰り返されるとまずい。


 次々と繰り出される、水のドリルを回避しながら、思考に意識を裂いた。


(なるほど、海の水を操って、そこに魚を隠して接近させ、二段攻撃をする。これが主戦術か)


 ピラニアは野生でもこれくらいする生き物だ、強化率は低い。

 数百匹は覚悟しておいた方がいいだろう。

 そうなると、本体を叩くのが早いか。


(ただ、突っ込むには出力が心もとない。芯界の面積を増やすのが、最優先だな)


 噛みつかれてもいいように、アメの鎧を着て、境界の方へ打って出た。

 それと同時に、押す力が強まり、面積が増える。

 俺の動きに、応じて歌の語気が強まり、海がさらに荒ぶった。


「ララ、スプラッシュウウラララアアア!」

「だから何だよその歌!?」


 無意識にツッコんでいる間に、海から大きな水玉が飛び出し――破裂して、四方八方に散らばった。

 それだけなら、脅威では無いが、勿論中にはピラニアが詰まっている。


「ビィ!」

「鬱陶しい!」


 出力が上がったアメで全方位を囲い、ピラニアを捕えた。

 しかし、量を優先し過ぎて、固まりが甘かったのか、ピラニアはアメを食いながら泳ぎ、アメを(くぐ)り抜けてきた。


「チッ、間飴泉(かんいせん)!」


 足元から噴水の様にアメを噴出させ、それに乗って空中に飛び出すことで、包囲網を抜けた。

 一匹だけ首に食いついたピラニアを剥がし、上から、相手の本体を見据える。

 ピラニアが潜むエレメント型に、突っ込みたくはないな。


「と、いうことで、先に倒すのはお前の方だ」


 アメの波を動かし、ピラニアが群れる川を突っ切る。

 川の水は動かせないのか、右側にある海から、ウネウネと動く海水の触手が飛び出したが、アメで作った棒を回転させ、孫悟空の様にして突破した。

 川から無数のピラニアが跳ね上がったが、高速で動くアメを捕えられず、ただ川に落ちていく。

 妹の所まで、あと二十メートル、十二、五!


「とお!」


 アメの棒を思い切り振りかぶり……直撃する直前に、柔らかくした。


「イテッ」


ピイイイイイイイイイイイ


 どこからか笛の音がして、審判の人の声が続いた。


『ミスレイ選手、死亡判定。速やかに芯界を引っ込め、退場して下さい』

「……ごめん、アクリス」

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。私たちの、勝ちだから」


 ……小さいほうが姉だったのかと、地味に衝撃を受けつつ、退場する人に、外に出る許可を出した。

 相手側も出したらしく、死亡判定が出た小さな姉が、芯界から消え、同時に湿地帯の世界も崩壊する。

 ピラニアも消え去り後は、一対一。


「で、勝てるって?」

「ええ。エレメント型にしては、攻撃の手が緩いと思わなかった?」

「……」

「これの用意をしてたからよォ! ラアアアアアアアアア!」


ザザザザザッ!


 ひと際大きな歌声が響き……芯界の奥から、巨大な津波が迫って来た。

 その高さ、目算で三十メートル。

 圧倒的自然の暴力に、蒼然とする。


 なるほど、序盤、中盤は海の操作は補助程度にして、ピラニアで攻める。

 終盤で、地震と同じ要領で作った津波で、盤面を一掃するのか。

 こういうチームプレイが、二対二の醍醐味。

 今度俺も真似しよう。


「現実逃避イイイィ!? もう降参したらアアアアァ!?」

「いや、まだワンチャンある」


 一番確実な回避方法は、広間の天井からアメを垂らして、ぶら下がることだが、それだと追撃を避けられないので、アメで即席の潜水艦のような物を作り、中に閉じこもった。

 多分、あの海には余計な砂利とかは入っていない。

 姉の川が顕在なら、いくらでもピラニアを突っ込めただろうが、彼女はもう退場した。

 つまり、流れが早いだけなら、呼吸さえなんとかすれば、いくらでも生存できる……ハズ!


「ザッブーン!」


 数十メートルの津波が、アメの広間に到着し――自然の暴威が、全てを破壊する。

 俺を乗せたアメ玉も当然呑みこまれ、メッチャクチャな水流に、現在地どころか、上下の感覚すら曖昧になる。


「……ウウェ、酔って吐きそう」

「ラアアアアア!」

「ッ!」


 海の中でも、しっかりと響く声。

 アメを貫通して、俺の耳にも入り――水圧が、増す。


「降参しなさ~い♪ 圧死す~るよ~♪」

「問題ない!」


 ここは俺の世界。

 支配権は俺にある。


 飴玉から右手だけを出し、海水に触れた。

 この、広場に入った水を全て、アメに変えてやる!


 芯界の出力を全開に。

 壁に近い海水から、アメに変えていく。


(塩じゃま! 砂糖にでもなれ!)


 原子構成は全然違うが、似ている印象だけで、海の塩を砂糖に置換した。

 ここからは、砂糖水をアメに変えるだけの、ただの製造工程。


「全部、アメになっちまえ!」


 濁った海が、桃色に色づいたアメに一変した。

 もう、支配権は俺にある。

 自由に操って、アメ面に出た。


「フゥ」

「……ズルくない?」

「どうした? 歌えよ」


 今度は、俺が圧倒的質量を操る番になり――アメが妹を食べようとした刹那、降参して試合が終わった。



「……楽勝だった」

「首の肉、(えぐ)れてるわよ」

「やっべ」


 腕の傷は治したけれど、首を治すのを忘れていた。

 シュヴァリィは溜息をつき、俺を医療室に連れて行って、再生薬を塗る。


「やっぱり、私が二人相手にした方が――」

「今日の相手、海のエレメントだったぞ」

「……どうやって勝ったの?」

「海水をアメに変えた。やっぱ、芯界が二つある俺の方が対応力高いよ」

「……」

「申し訳なく思うなら、早く他のメンバーを探してくれ。次の試合っていつだっけ」

「二日後。今日の勝敗を加味して、相手が選ばれるわ」

「……いつメンバー集まるかなぁ」


 塩NaOH

 佐藤C12H22O11


 よく見たら三分の二は同じだから、実質塩=砂糖だね。

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