好きなアメの味が同じなら友達になれる
「……もしかしたら、どうにかなるかもしれない」
「えっ!?」
イースは驚いて目を丸くしたが、すぐにいつもの調子に戻った。
「……ボクの一族が、千年単位で抱えてきた問題だよ。そんなに簡単に解決するなんて」
「でも、やるだけやってみてもいいだろ」
とりあえず、俺の案を話してみた。
「まず、芯界はエネルギーをある程度、自分の意思で振り分けられるんだよ」
「うん、それくらいは知ってる」
「じゃあ、そのエネルギーを魔王から奪い取って、出力を下げればいいんじゃないか?」
「それが、魔王からエネルギーを取るのは、難しいんだ。それくらいはやってるよ」
一族を軽く見られたと感じたらしく、彼女にしては語気が荒い。
しかし、それくらいは想定内。
俺の提案はここからだ。
「じゃあ、どうしてエネルギーを取るのが難しいと思う?」
「……魔王が強いからじゃないの?」
「多分、違う。イースが不器用過ぎるだけだ。イースは、何のために生きているんだ?」
「一族の問題を解決するため」
「……この問答、即答できるヤツはそうそういないぞ」
「そう?」
「そう。恐らく、生き方が一筋に固まり過ぎているから、エネルギーが振り分けられないと思うんだ」
イースが、口を開けたまま固まった。
とりあえず「それくらいもう試したよ」と言われず、ホッとする。
「なんか、趣味とかないの?」
「……読書かな」
「それ、どうせ芯界に関する本だから、ノーカンね。他は?」
「……」
押し黙って、何も言わなくなった。
器用に何でも上手くやるヤツ、という印象を抱いていたが、ここまで不器用だったとは。
これは、生き方も固まるわ。
俺は立ち上がって、部屋の扉へと近づいた。
「とりあえず、今日はしっかり休め。明日の午後は暇だったよな」
「う、うん」
「それなら、空けといてくれ。俺が人生の先輩として、楽しみ方ってのを教えてやる」
「……ボクの方が、一月くらい誕生日早くなかった?」
「いや、俺の方が二十数年くらい先輩だ」
そう言い残して、部屋の扉を閉めた。
「……どうするつもり?」
外には、壁にもたれて、全てを聞いていたシュヴァリィが問う。
「決まってるだろ。趣味が無いなら、作るんだよ」
したり顔で、広角を上げた。
◎◎◎
翌日。
授業を終えたボクは、ラギナに連れられて、学園内の広場を訪れた。
「何をするの?」
「……時に、イース。友達っている?」
「あんまりいないかな。仲のいい友達を傷つけるのは、辛いから」
「俺とシュヴァリィは?」
「二人は勝っちゃいそうじゃん」
「……まあ、そういう打算無しに、付き合っていける友達が必要だと思うんだよ」
「うん。うん?」
その時、二つの影が、ボク達に近づいてきた。
「ということで、俺がイースと仲良くなれそうと思った二人と、友達になってもらいます」
「ど、どうもジュアール・ホルトンです」
「ラドゥアンヌ・サースモスです。ヨロ~」
一人は、子供の様な体格に、首から小さな笛を下げた、ジュアールさん。
そして、もう一人は、キラキラと輝く陽の雰囲気を纏った、ギャルだった。
金髪、ミニスカ、爪ごとに違うネイル。
ノリだけで生きているみたいな人、ラドゥアンヌさん。
「言いにくいからラドゥでいいよ~」
「よっ、ジュアールにラドゥ。コレが話してたイースね。じゃあ、俺はシュヴァリィと、ドラゴン運用の練習してくるから」
「ちょっと、ラギナ!?」
「大丈夫、多分仲良くなれるから。あ、アメいる?」
「「いる」」
勢いよく返事した二人に、ラギナは水色のアメをあげた。
「ほら、二人ともイースと同じ、ミトン味好きじゃん」
「好きなアメの味が同じなら、仲良くなれると思ってる!?」
「え、違うの?」
真面目な顔で言うラギナに、ポカンとしている内に、ドラゴンに乗って飛び去ってしまった。
残ったのは、ボクと、ラギナが紹介したジュアールさんと、ラドゥさんの三人。
……何も言い出せない。
ラギナやシュヴァリィと初めて会った時は、正直、めちゃくちゃ脳内で練習してきたから、何とかこなせたけれど、こうもいきなり来られると、フリーズしてしまう。
最初に口を開いたのは、ラドゥさんだった。
「とりあえず、アイスでも食べにいかな~い?」
「いいね! 行こう!」
「そうだね!」
すぐそこにあるアイス屋さんに行って、頼んだのは、みんな水色のミトン味。
……ラギナの理論も、全くの的外れではないのかもしれない。
「いいよね~、ミトン!」
「うん、このスースーする感じがクセになるよ」
「分かる!」
「じゃあ、次はかき氷でも食べに行こ~か」
「アイスの次にかき氷?」
「私、いいクッキー屋さん知ってる!」
◎◎◎
「ヨシ、やはり俺の理論に間違いは無かった」
「否定しきれないのが困るわ」
俺とシュヴァリィは、少し離れた所で、イース達の様子を観察していた。
ちゃんとやれているか、不安なのはあるが、彼女ならうまくやるとも思っている。
こうしている理由は、万一あの魔王が出てきた時に、対処するためだ。
「とりあえず、ファーストコンタクトは好調。イースも、多分何もかもを忘れて、楽しめてる」
「こんなので、ディモングの問題が解決するの?」
「それは神のみぞ知る」
「適当ね」
「試し得なことは、さっさと試す質だから。っと、アイツら移動するぞ。付いてこい」
「……アナタ、尾行に慣れてない?」
「尾行も雑用だから……」
騎士団時代に培った技術を使い、イース達一行を尾行していく。
ただ、チョーカーの力か、その後も魔王が暴れることは無く、普通に一日が終わった。
まあ、イースがずっと笑顔だったのは、良かったんだけど――
「……俺達、こんなことしてる暇あるのか」
「仕方ないわ、友達が困っていたんだもの」
「いや、それはそうなんだけど……大会エントリー二日前だぞ」
「それに関しては、秘策があるから大丈夫よ」
まだ三人目すら決まっていないのに、シュヴァリィは大丈夫と断言した。
なんだろう、嫌な予感しかしない。
次回、シュヴァリィの秘策。デュエルスタンバイ!