ディモング一族
よっしゃ、短い!
日が傾き始めた頃、イースはようやく目を開いた。
即座にあの出来事を思い出し、首のチョーカーに触れて確認して、安心からかフゥと息を漏らした。
自分のベッドに腰掛けながら、声を掛ける。
「おはよう」
「おはよう。迷惑をかけたみたいだね、ごめん」
「それはもういい。それより、事情を説明してくれ」
「分かったよ。同時に説明したいんだけど、シュヴァリィは?」
「なんか、二人の方が良いとか言って、どっか行っちゃった」
「……まあいっか」
イースの意識が無い間に、芯界のボスが動き出し、攻撃を仕掛けてきた。
勿論、普通の人は意識が無い間に、芯界を使うことはできないし、主人の意思に反した行動を取ることも無い。
ドラゴンが俺を振り落としたり、主人のためになることをすることはあるが、友達を攻撃するというのは、ありえない。
ある一族を除いて。
イースは、深呼吸してから、説明を始めた。
「まず、ボクの本当の名前から話すよ。イース、キルーラは偽りの名! 我が真名は……イース・ディモング! イース・ディモングだ!」
「何そのノリ」
「ヤケクソのノリ」
やはりというか、何というか。
イースはディモング一族だった。
ディモング一族。
全員が超強力なボス系の芯界を持つ、という特徴があり、何より厄介なのは、その制御が本人にもできないこと。
本人が寝た時などに、勝手に身体から出て暴れ出し、目に入る物を衝動のままに破壊し尽くす。
芯界に取り込もうとすると、対抗して芯界まで使ってくる、恐ろしい魔物だ。
「魔王」「破壊神」と形容されることもあり、子供に言うことを聞かせる時に「ディモングの魔王が来るよ」と脅すのは、王国共通。
伝説で聞いてはいたが、実在していたとは。
ジロジロとイースを観察してみたが、他の人と変わらない。むしろ俺の方が変わってる……。
「恥ずかしいから、ジロジロ見ないでくれる?」
「ごめん。……いくつか質問があるんだけど」
「答えるよ」
「まず、そのチョーカーは何?」
あの時のイースの言い分的に、芯界の魔王を押さえつけているのは、首の黒いチョーカーの様だった。
俺の質問に、彼女はチョーカーを撫でながら答える。
「オーパーツ、芯界封じの首輪だよ」
「……それが?」
「カモフラージュしてるからね」
失われた先代文明のロストテクノロジーで作られた、オーパーツ、芯界封じの首輪。
読んで字のごとく、付けた者の芯界を使えなくする、謎技術が詰まっている。
現在の技術では作ることができず、世界に数十個ほどしか現存しない貴重品で、普通は、大罪人を確実に拘束するために使われるのだが、それをイースが付けていたとは。
「もしかして、ディモング一族はみんなそれを付けてるのか?」
「違うよ。これはボクが、特別に借りてるものなんだ」
「……?」
「まずは、一族の状態から説明しようか」
ディモング一族は、初代ドゥリター王国の女王と契約を交わし、戦争の時に助力する代わりに、国のどこかにある、隠れ里に住み着いているらしい。
人口数百人程度の、小さな田舎の村。
だが、寂れている、という印象は全くない。
何故なら、暴れた魔王が日夜殴り合っているから。
ディモングの魔王が暴れる問題は解決しておらず……暴れたヤツ同士を殴り合わせることで、どうにか対処しているとか。
「ボクは、一族のみんなが普通に生活できるよう、この怪物を制御できるようにする方法を探しに、この学園に入学したんだ」
「それで、秘蔵の首輪を借りてきたと」
「そういうこと」
「……ディモング一族って、みんなイースみたいな、普通の人なの?」
「全然普通だよ。ちょっと熱中しすぎるクセはあるけどね」
ボス系の芯界を持つ人は、何かに打ち込んでいる人が多い。
それを考えると、ディモング一族に熱中するクセがあるというのは、当然か。
「……もしかしたら、どうにかなるかもしれない」
「え!?」
分かりにくいことがあったら、感想とかで聞いて下さい。