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芯界  作者: カレーアイス
第三章 鉄の意思と魂の魔王
18/72

同居者の足し算


「ごめん、いつの間にかシュヴァリィの専属騎士になってた」

『もう知ってる。面倒臭えことしてくれたなぁ』

「面倒ついでに、第二王女派閥に入ってくれない?」

『選択肢ねえだろ。入るよ、入ればいいんだろ。まあ、戦争なんてダリィことやってられないしな』

「ありがとう」


 ムラザーの了承を得て、無事にアークエス家ごと新生第二王女派閥になった。

 現在の、派閥戦力は伯爵一家。

 シュヴァリィ曰く、王になるなら、地位は無視しても二十家は欲しいらしい。

 ……俺たちの戦いはこれからだ。


『まあ、そんなどうでもいいことは置いといて、ラギナァ』

「なに?」

『専属騎士になったからには、しっかり守れよ』

「……ああ」


 父が言ったことを胸に留め、電話を切った。


「どうだった?」

「派閥に入るって」

「懸命ね。私が王になった暁には、公爵に上げてあげるわ」

「……あの人、面倒臭がって固辞しそう」


 食べ終わったアメの棒を携帯ゴミ箱に入れ、新しいのをポケットから取り出し、咥えた。

 うん、おいしい。


「さて、これからの方針について話しましょう」

「はいよ」


 学園の電話室から出て、並んで廊下を歩きながら話す。


「まずは、出来るだけ敵を減らすために、私の暗殺を企んだ家をぶっ潰すわ」

「物騒だなぁ。脅して派閥に引き込むとかじゃダメなのか?」

「そんな奴等、いつ裏切るか分からないでしょう。それに、暗殺を企んだ家は、戦争過激派ばかり。そんな家を引き込んだら、平和主義の方針が懐疑的になるわ」


 俺の提案はシュヴァリィに一瞬で否定された。

 ……やっぱ権力争いって難しいわ。


「宮廷工作のため、これから一月(ひとつき)ほど、城と学園を行き来するから、道中の護衛はよろしくね」

「城の中はいいの?」

「さすがに、城の中で仕掛けるバカはいないわ。それから……これに出場しようと思うの」


 シュヴァリィが取り出したのは、一枚のチラシ。

 その内容は……十五から十八歳の、芯界戦闘の青少女世界大会を告知するものだった。


「芯界戦闘は世界一有名な競技よ。それの世界王者になれば、一般人目線には最も有名な女王候補になれる」

「なるほど」


 世間知らずの俺でも、競技の様子は観戦場で、何度も見たことがある。

 前の世界で言うところの、甲子園かオリンピックといったところか。


「特に、十六歳以下の優勝者は、まだ数人しか出てないわ。もし今年優勝できれば、その名前は世界に広がり、歴史に残る」

「でも、さすがに優勝は難しいんじゃないか?」


 中継を見た感じ、年によってはテトレディさんレベルの人がいることもある。

 そんな中で優勝できるかと問われると、まあ無理だろう。

 シュヴァリィもそれは理解しているらしく、頷きながら――


「でも、やるわ」

「……そっかぁ」

「それくらいしないと成れないくらい、女王への道は(けわ)しいのよ。差し当たって、まずはメンバー集めね」


 芯界戦闘の世界大会は、年によって形式がガラっと変わる。

 一対一のガチタイマンもあれば、四人チームのサバイバル形式もあり、かなり振れ幅が大きい。

 今年のルールは、団体戦。

 順番に、一対一、二対二、一対一をして、二回勝ったら勝ち進める。

 なので、メンバーは最低四人必要、プラスアルファで補欠が一人だけ入れられる。


「俺とシュヴァリィは出るとして、残り二人のあては?」

「無い」

「……このプラン大丈夫か?」

「それくらい、女王への道は険しいのよ」

「とりあえずそれ言っとけばいいと思ってない?」

「うるさい。とにかく、私は数少ない心当たりを当たるから、あなたも探しておきなさい」

「はーい」


 シュヴァリィと別れて、帰路につく。

 十五歳から十八歳の知り合い……世界大会に出れるほど強いヤツはいない。

 騎士団でも、十八歳以下は見習いみたいなものだったし……テトレディさんなら伝手くらいあるだろうか。


「でもあの人連絡取れないしなー」


 うーん、どうしようか。

 頭を痛めながら、寮の自室の扉を開けた。


「お帰りー」

「ただいま……俺の癒しはイースだけだよ」


 夜ご飯を用意していたイースが、鍋を持ちながら出迎えてくれた。


「疲れた顔してるよ。どうしたの?」

「ちょっと悩みがあって」

「作りながらだけど、聞こうか?」



 荷物を置いて、リビングのソファアでうつ伏せになりながら、イースに事情を話した。


「で、何があったの?」

「えっと……世界大会に出ることになったんだよ」


 シュヴァリィのことと、大会のメンバーのこと。一通りの背景と事情を説明した。


「もしかして、強い人知ってたり……」

「アハハ、しないかなぁ」

「だよなあ。というか、今日ちょっと遅くない? そっちこそ何かあった?」


 いつもなら食べ終わっているくらいの時間だが、今日はできてすらいない。

 心配になって、調理場を覗き込むと……沢山のハンバーグが焼かれていた。


「これって二人前?」

「ううん、三人前だよ」

「……三人?」


ピーンポーン


 その時、チャイムの音がリビングに響いた。

 もしかして、この来訪者が幻の三人目か?


「ラギナ、開けて来てくれない?」

「分かった」


 少し緊張しながら、ドアを開けると……


「どうも」

「……まあそんな気はしてた」


 外には、荷物を持ったシュヴァリィがいた。


「何してんの?」

「とりあえず入れてちょうだい」

「いらっしゃい、シュヴァリィさん」


 イースはさらっとシュヴァリィを受け入れつつ、三人分の皿を用意していた。

 もしかして、事情を知らないの俺だけ?


「荷物は置いて、先にご飯でいいかな?」

「いいわよ」

「事情説明は?」

「食べながらするわ」


 手を洗い、三人で席に座って挨拶し、食べ始める。

 ナイフでハンバーグを切り、ソースを付け、口に入れた。


「美味しいわね」

「王女様に褒められるなんて、光栄だよ」

「で、何があったの?」

「ディーシュ……私のルームメイトが殺人未遂で捕まったでしょ。寮の方針で、一部屋二人以上でないといけないのだけれど、王女を下手な人と組ませられず――」

「専属騎士の部屋に入れられたと」

「そういうこと。お代わりある?」

「ありますよ」

「敬語じゃなくていいわよ。イース君、だったかしら?」

「でも、シュヴァリィさんは丁寧な言葉遣いだよ?」

「私はこれが素だからいいのよ」

「そっか」


 今日の当番のイースがご飯を注ぎ、シュヴァリィに渡した。

 ……寮は一部屋四人までは入るらしいし、イースがいいなら、俺もシュヴァリィと同室になるのは、色々とやりやすくなって、ありがたいのだが――


「じゃあ、裸の付き合いってことで、一緒にお風呂に入ろっか」

「お二人でどうぞ」

「アナタも一緒に入るのよ。一回見てみたかったのよね、あなたのチ――」

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 こうして、三人での共同生活がスタートした。


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