同居者の足し算
「ごめん、いつの間にかシュヴァリィの専属騎士になってた」
『もう知ってる。面倒臭えことしてくれたなぁ』
「面倒ついでに、第二王女派閥に入ってくれない?」
『選択肢ねえだろ。入るよ、入ればいいんだろ。まあ、戦争なんてダリィことやってられないしな』
「ありがとう」
ムラザーの了承を得て、無事にアークエス家ごと新生第二王女派閥になった。
現在の、派閥戦力は伯爵一家。
シュヴァリィ曰く、王になるなら、地位は無視しても二十家は欲しいらしい。
……俺たちの戦いはこれからだ。
『まあ、そんなどうでもいいことは置いといて、ラギナァ』
「なに?」
『専属騎士になったからには、しっかり守れよ』
「……ああ」
父が言ったことを胸に留め、電話を切った。
「どうだった?」
「派閥に入るって」
「懸命ね。私が王になった暁には、公爵に上げてあげるわ」
「……あの人、面倒臭がって固辞しそう」
食べ終わったアメの棒を携帯ゴミ箱に入れ、新しいのをポケットから取り出し、咥えた。
うん、おいしい。
「さて、これからの方針について話しましょう」
「はいよ」
学園の電話室から出て、並んで廊下を歩きながら話す。
「まずは、出来るだけ敵を減らすために、私の暗殺を企んだ家をぶっ潰すわ」
「物騒だなぁ。脅して派閥に引き込むとかじゃダメなのか?」
「そんな奴等、いつ裏切るか分からないでしょう。それに、暗殺を企んだ家は、戦争過激派ばかり。そんな家を引き込んだら、平和主義の方針が懐疑的になるわ」
俺の提案はシュヴァリィに一瞬で否定された。
……やっぱ権力争いって難しいわ。
「宮廷工作のため、これから一月ほど、城と学園を行き来するから、道中の護衛はよろしくね」
「城の中はいいの?」
「さすがに、城の中で仕掛けるバカはいないわ。それから……これに出場しようと思うの」
シュヴァリィが取り出したのは、一枚のチラシ。
その内容は……十五から十八歳の、芯界戦闘の青少女世界大会を告知するものだった。
「芯界戦闘は世界一有名な競技よ。それの世界王者になれば、一般人目線には最も有名な女王候補になれる」
「なるほど」
世間知らずの俺でも、競技の様子は観戦場で、何度も見たことがある。
前の世界で言うところの、甲子園かオリンピックといったところか。
「特に、十六歳以下の優勝者は、まだ数人しか出てないわ。もし今年優勝できれば、その名前は世界に広がり、歴史に残る」
「でも、さすがに優勝は難しいんじゃないか?」
中継を見た感じ、年によってはテトレディさんレベルの人がいることもある。
そんな中で優勝できるかと問われると、まあ無理だろう。
シュヴァリィもそれは理解しているらしく、頷きながら――
「でも、やるわ」
「……そっかぁ」
「それくらいしないと成れないくらい、女王への道は険しいのよ。差し当たって、まずはメンバー集めね」
芯界戦闘の世界大会は、年によって形式がガラっと変わる。
一対一のガチタイマンもあれば、四人チームのサバイバル形式もあり、かなり振れ幅が大きい。
今年のルールは、団体戦。
順番に、一対一、二対二、一対一をして、二回勝ったら勝ち進める。
なので、メンバーは最低四人必要、プラスアルファで補欠が一人だけ入れられる。
「俺とシュヴァリィは出るとして、残り二人のあては?」
「無い」
「……このプラン大丈夫か?」
「それくらい、女王への道は険しいのよ」
「とりあえずそれ言っとけばいいと思ってない?」
「うるさい。とにかく、私は数少ない心当たりを当たるから、あなたも探しておきなさい」
「はーい」
シュヴァリィと別れて、帰路につく。
十五歳から十八歳の知り合い……世界大会に出れるほど強いヤツはいない。
騎士団でも、十八歳以下は見習いみたいなものだったし……テトレディさんなら伝手くらいあるだろうか。
「でもあの人連絡取れないしなー」
うーん、どうしようか。
頭を痛めながら、寮の自室の扉を開けた。
「お帰りー」
「ただいま……俺の癒しはイースだけだよ」
夜ご飯を用意していたイースが、鍋を持ちながら出迎えてくれた。
「疲れた顔してるよ。どうしたの?」
「ちょっと悩みがあって」
「作りながらだけど、聞こうか?」
荷物を置いて、リビングのソファアでうつ伏せになりながら、イースに事情を話した。
「で、何があったの?」
「えっと……世界大会に出ることになったんだよ」
シュヴァリィのことと、大会のメンバーのこと。一通りの背景と事情を説明した。
「もしかして、強い人知ってたり……」
「アハハ、しないかなぁ」
「だよなあ。というか、今日ちょっと遅くない? そっちこそ何かあった?」
いつもなら食べ終わっているくらいの時間だが、今日はできてすらいない。
心配になって、調理場を覗き込むと……沢山のハンバーグが焼かれていた。
「これって二人前?」
「ううん、三人前だよ」
「……三人?」
ピーンポーン
その時、チャイムの音がリビングに響いた。
もしかして、この来訪者が幻の三人目か?
「ラギナ、開けて来てくれない?」
「分かった」
少し緊張しながら、ドアを開けると……
「どうも」
「……まあそんな気はしてた」
外には、荷物を持ったシュヴァリィがいた。
「何してんの?」
「とりあえず入れてちょうだい」
「いらっしゃい、シュヴァリィさん」
イースはさらっとシュヴァリィを受け入れつつ、三人分の皿を用意していた。
もしかして、事情を知らないの俺だけ?
「荷物は置いて、先にご飯でいいかな?」
「いいわよ」
「事情説明は?」
「食べながらするわ」
手を洗い、三人で席に座って挨拶し、食べ始める。
ナイフでハンバーグを切り、ソースを付け、口に入れた。
「美味しいわね」
「王女様に褒められるなんて、光栄だよ」
「で、何があったの?」
「ディーシュ……私のルームメイトが殺人未遂で捕まったでしょ。寮の方針で、一部屋二人以上でないといけないのだけれど、王女を下手な人と組ませられず――」
「専属騎士の部屋に入れられたと」
「そういうこと。お代わりある?」
「ありますよ」
「敬語じゃなくていいわよ。イース君、だったかしら?」
「でも、シュヴァリィさんは丁寧な言葉遣いだよ?」
「私はこれが素だからいいのよ」
「そっか」
今日の当番のイースがご飯を注ぎ、シュヴァリィに渡した。
……寮は一部屋四人までは入るらしいし、イースがいいなら、俺もシュヴァリィと同室になるのは、色々とやりやすくなって、ありがたいのだが――
「じゃあ、裸の付き合いってことで、一緒にお風呂に入ろっか」
「お二人でどうぞ」
「アナタも一緒に入るのよ。一回見てみたかったのよね、あなたのチ――」
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!」
こうして、三人での共同生活がスタートした。