エピローグ
「ここは――」
「学院内の病院」
ベッドで寝ていたシュヴァリィが目を覚ました。
傍らで読んでいた本を閉じ、彼女に容体を聞く。
「調子はどうだ?」
「問題ないわ」
「なら良かった。病院の先生が『どうしてこの傷で、意識を保っていられたんだ』って驚いてたぞ」
「……命が掛かってるのよ。そりゃあ粘るわ」
手を差し出してきたので、アメを乗せた。
「それで、ディーシュは?」
「気を失わせて、警察に引き渡した。……もしかして、警察だと、権力でねじ伏せられたりする?」
「私が、更なる権力で捻り潰すから、大丈夫よ」
さらっと笑顔で怖いことを言った。
やっぱり、俺に権力闘争は無理だな。家は姉に任せよう。
そんなことを考えていると、いつの間にか俺の眼前にシュヴァリィの顔があった。
「そんなことより、あの芯界は何?」
「うちの師匠のヤツ」
「誰のかじゃなくて、どうしてできるのか聞いてるのだけど」
言うまでも無く、普通芯界は一人一つ。
たまに二重人格でなくとも、人格の仮面の振れ幅が大きすぎて、存在基底が分離する人はいるが、俺はそれにも当てはまらない。
では、どうしてできるのかと言うと――
「俺にも分かんなーい」
「……アナタそんなのばっかね」
「だってマジで分かんねぇんだもん。一番聞きたいのは俺だよ……」
男の特性かとも思ったが、古い文献にそんな記述は一切ない。
そうすると、転生関係なのかもしれないが、関連性が全く分からない。
分かっているのは、能力の概要だけ。
「ある行為をした相手の芯界を、三回くらいコピーして使える。と言っても、他人の存在基底だし、かなり練習しないと、まともに使えない」
「なるほど。で、ある行為って?」
「……接吻」
シュヴァリィは、時間が停止したかのごとく身体を固め、俺は気まずくなって目を逸らした
「要はキッスよね?」
「そうだよ! 口くっ付けて唾液を交換するアレだよ……。言わせんな恥ずかしい!」
「にしてもキスって……」
この世界では女同士で遺伝子を混ぜる方法がキスのため、前世での性交までとは言わないが、それなりに重要な立ち位置になっている。
まあ、装置を使ってキスしなければ、子どもはできないが、それでも倫理的に……。
「いや、ロボットをそれなりに乗りこなしてたのは、テトレディさんが酔ったらキス魔になるせいだから!」
「……もういいわ」
「なんか誤解してない?」
「今日はありがとう。お礼はまた今度するから、もう帰っていいわよ」
「待って、絶対誤解して――」
俺が喚こうとした時、シュヴァリィはボウっと病室の天井を見上げていた。
彼女にしては珍しく、不安が感じ取れた。
「……これからどうすんだ?」
「さあ。どうするんでしょうね」
「そんな、他人事みたいに……」
「第二王女派閥は実質解体、裏切ったから敵は多いし、平和主義の思想は第一王女派閥と被る。ゼロから所か、マイナスからのスタートよ。終わってるわ」
「それでも、やるんだろ」
ベッドの傍に備えられた椅子から立ち上がり、シュヴァリィに近寄る。
そのまま、頬に両手を添え、顔を近づけた。
「自分の行動の責任は取る。シュヴァリィを変えたのは俺だ。協力するぜ」
「……珍しく積極的ね。悪くないわ」
彼女の手が俺の首元に回された。
……自分からやったこととはいえ、赤面する。
窓から差し込む夕日が眩しい。
おちょくってやろうと思ったのに、コイツ受けも強いのかよ。
そんな俺の内面を知ってか知らずか、彼女は目を合わせたまま微笑み、手を、俺の胸に置いた。
「ラギナ・アークエス。ドゥリター王国第二王女、シュヴァリィ・ドゥリター・ユートロンの名において、アナタを私の専属騎士に任命します」
「喜んで就任させていただきます、未来の女王様」
「フッ」
二人の距離が近づき……口と口が触れあった。
「……これキスする必要あった?」
「剣を持ち合わせていなかったから、私のドラゴンを贈呈したのよ。コピーできなかった?」
「できたけど……俺に大軍系の指揮できるかなぁ」
「なら、出来るようになるまで、練習するだけよ」
「それ、滅茶苦茶キスすることになるんですけど」
「すればいいじゃない」
「ヤダよ主人とキスしまくる騎士とか」
「フフッ……ああ、あと、専属騎士は主人と騎士、どちらかが死ぬまで解任できないから」
「――本当に俺で良かったの?」
「いいのよ、私が惚れたアナタで」
「それってどういうっ――」
三章のプロット練り直すので、明日投稿無いです。